[プロレス観戦記] 『GAMSHARA The Unit Scramble』~群雄割拠~ 2017年2月26(日)門司赤煉瓦プレイス観戦記

『GAMSHARA The Unit Scramble』~群雄割拠~ 2017年2月26(日)門司赤煉瓦プレイス

イントロダクション

ユニットが4つに分裂したということで結構タイトな大会になりそうな予感を抱いていたものの、試合数を6試合に絞ったことで、ポイントが明確になった。やはりなんでもかんでも詰め込みすぎるのはよくない。ほどよい濃さで、でも内容の密度は今まで以上にという方向性が感じられた。これはなかなかポイントが高い。今まではユニット間でもシングル抗争が中心になりがちだったがむしゃらプロレスがタッグ路線にシフトチェンジし始めているのも興味深い。

オープニング

オープニングでは久々登場のKAG大塚がダイナマイト九州と共にトークショーに登場。アニスピガールズのドン・タッカーを呼び込むコールでなぜかでてきたのは、LCR(LOSS OF CONTROL THE RECKLESS)。もとgWoの鉄生がかつてのチームメイトやチーム凱を挑発すると、ここに野本一輝のナスティアウトサイダーズ(NO)も登場。ALLマイティ井上を呼び出すとまんまと勧誘に成功。しかしリング上は大混乱。収拾が突かない中おっとり刀でドン・タッカーが登場し、やっと大会はスタートした。ここらへんのスキットも以前は下手したら30分以上やっていたけど、比較的コンパクトにまとまっていたのは進化した証かもしれない。

▼オープニングタッグマッチ(20分1本勝負)

①隠岐しゅうぞう & ×竹ちゃんマン vs ○タシロショウスケ & TA-KI
(8分59秒)

カードを見た時点では、何と言っても松江だんだんプロレスから初参戦の隠岐しゅうぞうがポイントになると踏んでいた。

パンチくんがすっかりやらなくなった酔っ払いキャラ。しかしパンチくんのクオリティは未だに皆の記憶に焼き付いている。そのがむしゃらオーディエンスの前で、どれだけ己のキャラクターを貫き通せるか?

結果からいうと隠岐しゅうぞうは、こうしたキャラクタープロレスの難しさを露呈する形になってしまった。中の人のけがが治り切っていないものと仮定しても、である。プロレスの奥深いところは練習も満足にできない大仁田が、練習できない代わりにアイテムとして電流爆破を生み出したように、アイディア勝負でコンディションをカバーできるところにある。あそこまで大がかりでなくてもいいのだけど、ちょっとしたアイディアで、パンチくんに対抗する手段を、隠岐しゅうぞうはまだまだ生み出せる可能性を秘めていると思う。

さて、一方のがむしゃら側だが、高速の進化を遂げている後輩をしり目に黙々と第一試合を定位置にしていたタシロが遅咲きながら開花し始めているのは明るい材料。久々登場のTA-KIも隠岐しゅうぞうや竹ちゃんマンの自由さにやや手を焼きながらもコンディションが上向いていることを知らしめたと思う。

▼KING OF TAG TEAM決定戦!!というタイトルにしろとD・九州から要求があったタッグマッチ(30分1本勝負)

②パンチくん & ×ダイナマイト九州 vs MIKIHISA & ○豪右衛門
(9分21秒)

一見ふざけた試合のような感じがするけれど、実際もとタッグ王者でもある九州&パンチくんはタッグベルトが移動した後、一度もリベンジマッチに挑んでいない。こうしてタッグベルトが北九州に戻ってきたタイミングで狙いすましたように、喧嘩をふっかけてきたのは、正直不気味ですらある。

一方、年末に無事防衛を果たし、名実ともにタッグの顔になった豪右衛門&MIKIHISAにとっては変化球をばしばし放り込んでくる難敵相手に、ノンタイトルとはいえ取りこぼすわけにはいかない。

だが、序盤はgWoのお株をうばうかのような九州組の奇襲からスタートした試合は、しばらく現王者が押される展開になった。真面目な試合をする九州&パンチくんというのはがむしゃらプロレスでもレアケースになるし、そもそも九州組が戴冠した時も九割九分「いつも通り」だったんだから始末に負えない。

それでも現王者には前王者の様子見をする余裕が感じられた。特に豪右衛門が変化球に動じないため、MIKIHISAも相方を信頼して自分のペースに立て直せるのが、このチームの強みでもある。いつの間にかgWoに加入していたMIKIHISAはいつの間にかタッグ王者としての貫禄も身につけていた。

多分、短期間で即席タッグからここまでの成長を遂げていたのは、九州組にしてみたら誤算だったのだろう。珍しく真面目にマイクアピールした九州はタッグ王者への刺客として「メキシコの友だち」を送り込むという。果たしてタッグ戦線に新たな流れを作り出すのだろうか?

▼山陰vs北九州 タッグマッチ(30分1本勝負)

③バルドル & ○ALLマイティ井上 vs ×ジェロニモ & トゥルエノ・ゲレーロ
(15分46秒)

ジュニア王座を戴冠したものの、対山陰では黒星先行しているゲレーロと、その松江勢にベルトをとられたことで、ある意味社会人サミットの口火を切る形になった張本人のジェロニモというタッグ。当初はゲレーロがジェロニモ風の羽をつけたコスチュームで入場し、チーム感をアピールしていた。その勢いをそのままに初参戦の鳥取だらずのバルドルを標的にしているうちはよかったのだが、いざ井上がでてくると流れが変わってしまう。

特に頭の回る巨漢ということではタイプは違うが、マツエデラックスに痛い目にあっているジェロニモがどういう風に攻めていくのか、注目していたのだが、勝利から遠ざかりスランプになってしまったジェロニモは、たびたび自分を失速に追い込んでいく。一番やっちゃいけないと思ったのは、井上相手に早い段階でジェロバスターをしかけようとしたことである。単なる巨漢ならまだしも、もとラガーマンでもある井上の足腰は巨漢とは思えないくらいガッチリしている。足攻めで下半身に十分なダメージを与えた上であるのならばまだしも、それもなしでいきなりジェロバスターが決まるわけがない。

通常ならたっぷり相手にダメージをあたえ、スタミナを奪ってはじめて必殺技にもっていくものだが、勝利から遠ざかると、焦りが生まれてしまうのだろうか。見ている側に伝わっているくらいだから、対戦相手がジェロニモの焦りを察知しないわけがない。瞬く間に攻守入れ替わり、バルドルを相手にしていた時がウソのようにALLマイティ井上の前に、ジェロニモ&ゲレーロは見事に失速。特に井上のセントーンからの監獄固めで、青息吐息になったジェロニモは、バルドルを抑えたゲレーロの目の前でセカンドロープからのダイビングセントーンでフィニッシュを奪われてしまった。

試合後、覇気のないジェロニモにゲレーロが「あんた、いつから勝ってないんだ?いつも酒ばかり飲んで!3月の門司港でジュニアのベルトの挑戦者としてジェロニモ、あんたを指名する!」と大先輩へ檄を飛ばした。しかしながら、凱側のミスとしては巨漢殺しに実績があるゲレーロが井上と、ジェロニモがバルドルをターゲットにしていたら、ここまで無残な結果にはならなかっただろう。さて、過ぎたことは仕方ない。ジェロニモの復活なるか?それとも地の底に落ちていくのか?全ては3月の門司港で明らかになる!

▼スペシャル男女ミクスドタッグマッチ(30分1本勝負)

④日向小陽 & ×つぼ原人 vs 真琴 & ○阿蘇山
(16分17秒)

東京だけでなく、全国から声がかかる女子レスラーの筆頭が日向小春であり、真琴である。特に華☆激のいじめ撲滅プロレスでは、ダークサイドFTOと組んでヒールもこなしている日向小春は子どもにもお年寄りにも人気がある選手である。身長こそないものの、会場全体の空気をコントロールできる能力に関しては、一日の長がある。一方久々の登場になった真琴は、以前よりずいぶんたくましくなっていた。アイスリボン在籍時にやっていた「19時女子プロレス」ではまだどことなく実力を発揮できていない感じがみてとれたが、手足の長さを有効に生かした試合運びに、頼りなさげな影は消え去っていた。

やはり東京だけでなく色んな地方で、いろいろなお客さんを相手にしてこそのプロレスラーなんで、東京や大都市近郊だけで試合をしている選手と、地方に呼ばれる選手とでは実力に差がついていくのだろうなと思う。

つぼ原人は相変わらずだし、今はどちらかというとお笑い路線を封印している阿蘇山は、日向小春にも容赦ないファイトで大ブーイングをあびる。要は時にこういうことすらやる阿蘇山先生を見習ってLCRにも厳しい攻めでブーイングをもらってほしいんだけど、そういう意味ではまだ師匠の牙城はなかなか崩せないだろうなあ。

ただ、今回はミックスドタッグでありがちなセクハラ場面はほとんどなく、つぼ原人も笑いはやや抑えめというかなり珍しい展開が見られた。その分、日向と真琴の絡みはまるでシングルマッチのような様相を見せていたし、お互いの持ち味を存分に生かしあっていた。やはり女子の華を男子選手がたてたからこそできた試合だったのかもしれない。

プロの試合として唯一組まれた試合で、4選手がプロらしさを存分に発揮したという意味では、非常に見応えがあったと思う。

▼ダブルメインイベント ユニット全面対決‼︎8人タッグマッチ(60分1本勝負)

⑤野本一輝 & ドラゴンウォリアー & ×モミチャンチン & 久保希望 vs SMITH & YASU & 土屋クレイジー & ○ジャンボ原
(18分35秒)

この試合とこの後の試合では、裏切ったものと裏切られたものとの抗争がひとつの柱になると思われたが、実際ふたを開けると、土屋対EGOISTというより土屋対野本の絡みが結構多かった。確かな技術をベースにした二人の攻防はそれは見応えがあったし、この絡みは正直悪くはない。

gWoについていうならジャンボ原の加入は思ったより大きな力になっていた。実際鉄生が抜けた穴は決して小さくないはずなのに、それを感じさせない。師弟関係でもあるYASUも、ベルトを取られたのがウソのような活躍ぶり。特に近年レベルを上げてきた受けの面でYASUは攻撃以上に素晴らしい働きぶりをみせていた。このYASU&ジャンボというのは今後gWoの核になりそうな予感さえした。4月に予定されているタッグリーグにエントリーしても面白いかもしれないが、現タッグ王者は同門のMIKIHISA&豪右衛門というのはgWo的にはやや悩ましい出来事になったかな?

一方、寄せ集め集団の域をでていないナスティアウトサイダーズ(NO)は、この試合に関していると理想に現実が追い付いていない感じがした。とはいえ、ALLマイティ井上を加入させた勢力は侮りがたいものはある。うまく回れば他ユニットにとって戦力的にはかなり脅威になりうる可能性がある。とはいえ、かなり前からターゲットとしてつけ狙っていることを公言している野本が、その対象であるスミスに思ったより絡んでいかなかったのはやや物足らない感じがした。

また「裏切者」といいつつも、土屋とドラゴン、あるいは土屋とモミチャンチンが思ったほど積極的に絡むシーンもなかったように私にはみえた。gWo第二章は好発進だったものの、対するナスティは今一つカラーが示せず、ターゲットであるスミスを追い切れなかった点で言うとNOの方に宿題ができた試合だったのかもしれない。

もっともスミスの方にしてみたら今のNOに絡むメリットがどこにもないので、いい迷惑なんだろうけど。さてがむしゃら一の策士がどうでるか?注目したいところである。

▼ダブルメインイベント ユニット全面対決‼︎ イリミネーション8人タッグマッチ(60分1本勝負)

⑥×陽樹 & 尾原毅 & 美原輔 & サムソン澤田 vs 鉄生 & Barong & ○KENTA & C4
(23分16秒)
※敗退(失格)順/C4-美原輔-サムソン澤田-Barong-尾原毅-陽樹

この試合は結局LCRが勢いの差を見せつけて、チーム凱を破り去った形になった。ある意味では予測可能な結末になったが、課題は両方に見えた。まず破れた凱だが、ヘビー級ふたりにタッグのスキルが乏しい。特に尾原は自ら「タッグは苦手」と公言しているように、タッグ含めたチーム戦は不得意。さりとて陽樹に尾原のフォローができるスキルはない。古い例えだが、猪木・吉村組でいうところの吉村道明役ができる人材が凱にはいない。スター選手でありながら、全体を見渡せてチームのフォローができる人材。これを美原と澤田に求めるにはまだスキルが足らなすぎる。いや、適任者がいないことはないのだが、その張本人が極度のスランプになっている点が事態を深刻にしている。従って、この日のチーム凱は陽樹+尾原+美原&澤田組で試合しているようなものだったので、これでは勝てる要素も見いだせない。

試合後、凱のファンが話していたのは「プロレス見ていてこんなに腹が立ったことはない」ということだった。しかしその怒りは勢いに乗るLCRよりも不甲斐ない凱のメンバーに向けられていたことも事実だった。

一方のLCRには一見すると何も問題がないように見える。一見すると、である。ではLCRというのはどういうチームなのか?ユニットができたいきさつを考えてみよう。「仲良しこよしでプロレスをやりたくない。自分たちの好きなようにプロレスをする」ことで発足したのがLCRだったはずだ。しかし、彼らには追い風が吹いてしまった。それもベビーフェイス的な人気という追い風である。実際私の隣にいた幼稚園から小学生くらいの女の子たちが声をからしてLCR(特にBarong)の応援をしていた。普通に考えれば微笑ましい光景ではある。でも子どもに応援されるのが果たしてヒールユニットとして正しい姿なのだろうか?

LCRのネタもとになった内藤哲也のユニット、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(Los Ingobernables de Japón、略称 : L・I・J)を見てみよう。彼らは時に自分たちに声援を送るファンの神経を逆なでするようにして、極悪なこともしてみせる。ヒールでもベビーでもないという立ち位置にいながら、決して中途半端にならず、時にはヒールサイドに大きく舵をとって、ファンが離れることも決して厭わない。事実、L・I・Cがラフプレーで会場中を敵に回すことが決して少なくはないのだ。

では、LCRが先ほどの声援を送っていた女の子たちを時にドン引きさせていることまでしているのか?といったら少なくともこの日はそこまでしてはいなかったと私は思う。

Barongはしゃべらない選手なので、真意は測りかねるが、鉄生を除くKENTA、C4にはヒールとしての貯金がまだまだ足りないのではないだろうか?鉄生にはヒール一筋でやってきただけに、自分がベビー的人気を博すことへの危機感はもっているだろう。でも特に「自分がやりたいことをするため」に凱を裏切ったKENTAのヒール度が裏切った時点をMAXにしていては、何のために凱を抜けたのかがわからなくなる。勢いのある今だからこそ、あえて自分の気持ちの中でヒールをやっていく強いモチベーションをもたないと、単なる人気者で終わったのでは、凱にいてもLCRにいても同じということになる。

LCRが勢いをそのままに、オリジナルのL.I.Cを超えるチームになるには、子どもがドン引きするくらいの悪いことをしてみせてほしい。少しでもファンの声援を気にするようなことがあったら、その時点でチームの勢いは失速していくのではないだろうか?最悪観客の声援により制御されたチームに成り下がると、もはや制御不能をウリにすることも叶わなくなる。

そういう意味で言うと、メインには相応しい内容の試合ではあったのだけど、結果的にはチームの勢いがそのまま試合結果に反映されたという点では物足らなかったとも言える。

試合後、なにわ愚連隊が乱入し、もとチームメイトの陽樹を罵倒し、NO入りを表明したが、野本一輝がなにわ風のペイントをして再登場したため、なんだかNOがなにわ入りしたかのように見えてしまった。そしてなにわは、ひとしきりしゃべると後をLCRに任せてかえってしまった。この辺もLCRがなにわの出方を待っているよりは、なにわを蹴散らかしてほしかった。陽樹に肩入れするということではなく、よそものに自分の試合へ介入された時点で、ただ待っているだけというのはどうも釈然としない。

それでも人気と勢いがある分、ないわの空気を消すことができたLCRはいつも通りの締めで会場をひとつにしてフィナーレを飾った。

後記

凱には厳しめのことを書いたけど、明るい兆しがないわけではない。尾原の切れのあるキックとサブミッションには鉄生も嫌な顔をしていたし、ベルト奪還以前にスミス打倒という目標に向かいだした陽樹のモチベーションも消して下がっていない。美原と澤田の成長は頼もしいし、タシロも近々その輪に加わりそう。ということは個々の力は図抜けていて、決して他ユニットに引けをとっているわけではないのだ。

この力を束ねてチームとして機能させるには、どうしてもジェロニモにはスランプから脱出してもらわねばならない。ことがもはや個人の問題ではすまなくなっている以上、このベテランにはもう一花も二花も咲かせてもらわないと困るのだ。LCRにBarongというキーマンがいる以上、そこに対抗するにはジェロニモが凱のキーマンにならねばならないのだ。今こそジェロニモの豊富なキャリアと経験が大いにものをいうタイミングである。つまり一見ピンチのようでいて、実は今最大のチャンスが訪れているのだ。

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