[プロレス観戦記復刻版] 97.12.10CMLLルチャウォーズ開幕戦(博多スターレーン)

イントロダクション

この日は本格的な冬の訪れを告げるかのような猛吹雪。下関を出る際は、車のフロントガラスが真っ白になるくらいの豪雪だったため、新幹線がまともに動かない危惧さえ抱いていたのだが、博多は幸いみぞれどまりだったらしく、列車も無事動いて博多入り。

会場で博多のプロレス仲間と落ち合うと、私を含めた全員が一列目の席を買っていた。聖地に本格的なルチャが久々に来るとあっては、いてもたってもいらなれないというのが、本音だろう。私だってそうだ。

ほかの団体なら後列に必ず座る連中が全員一列目を確保している時点で、この大会に対する全員の期待度がわかろうというもの。

とはいえ、寒波のせいか往年のユニバーサルと比較すると寂しい入りなのは否めない。ルチャの聖地といっても、近年は全日本プロレスの聖地というイメージが強いスターレーンで、ルチャだからと言って集客が見込めるかといえばそうではない。厳しい現実である。

オープニング

パンフを売店で購入している際に、どこかで見たような人とすれ違う。よくみたら結婚してJWPを退団した「元・矢樹広弓」さんと、ご主人(97年当時)だった。ついこの間までリングに上がっていた人が観客として会場にいるという体験は、東京以外ではなかなか体験できないので、ついつい二度見してしまった。

時間があったので一旦ロビーにでてみたら、何人かのルチャドール達がでてきていた。試合開始前にファンの前に姿をみせないというポリシーをもつ団体もあるけど、こういう垣根の低さもまたルチャらしい。私も記念撮影とサインをしてもらった。通常カメラは持たない主義だし、自分からサインを求めにいくこともしないんだが、この日ばかりはすれっからしのマニアも単なるミーハーになっていたのだ。

お目当ては、やはり初来日となるリンゴ・メンドーサ。しばらく待ったが出てくる気配がないので、自分の席に戻ろうとしたら、友人が「リンゴ、きましたよ!」と呼ばれて引き返した。

偉大なるチャンプは本当に気さくで優しいリンピオだった。あまりに気さくすぎて、メキシコから来たスタッフかレフェリーかと思うくらい親しみやすい人だった。

オープニングマッチ

トゥトゥルガー(IWA JAPAN)&佐々木貴(DDT)対月岡明則(IWA JAPAN)&野沢一茂(DDT)

ルチャの大会と言いつつ、オープニングは関東のインディ団体の若手日本人選手によるタッグマッチ。当然四人とも名前は知っているがはじめてみる選手。関東の友人経由であたかも屋台村プロレスを見て来たかのような知識はあるから、初めてのような気がしないだけ。

当たり前だが、この試合は通常のプロレスルールによるもの。しかし四人とも場数をこなしているからか、皆基本が出来ていて、そつなく試合をこなす。

しかし、裁くレフェリーがメキシコ人で通常のプロレスに慣れてないせいか、試合がなんとなく始まったし、ゴングがならなかったし(ルチャの場合、ゴングのかわりにホイッスルが使われるけれど)、ほかにもスタッフの進行上の不手際が目立ち、熱戦に水をさす格好になったのは残念。特に月岡は噂通りよい選手だっただけに実にもったいない!まあ、メインスタッフがほぼメキシコ人だという点でこの辺のクオリティは仕方ないか。

試合は月岡のカンクーントルネードで、憧れのSHINOBIの前で意気込むトゥトゥルガーをマットに沈めた。

*入場式*

オープニングマッチの後は、スペイン語による全選手入場式。ところがスターレーン特有の最悪な音響のせいで音声が割れてしまい、ただですら外国語なのに、聞き取れもしないという事態に!

それでもルチャドール達は、観客の声援に応え、思いの丈をアピールしていた。中でも、選手のサインが入ったメキシコ国旗を持っていたファンをみつけた、エミリオ・チャレスJr.が、それを奪ってリング上に掲げて、嬉しそうに「ビバ、メヒコ!」を連呼していた。

もっとも旗の持ち主は「返してくれるのかな」となぜか弱気だったんだけど。気持ちはわからないではない。

なぜかルード系の選手に人気が集中していたが、しかしそれでもリンゴ・メンドーサと、ミステル・アギラの人気は別格。待望の来日だったこともあるが、入場式を終えたアギラにはサインを求めるファンもいた。もちろんアギラは嫌な顔一つしない。その姿には当時10代とは思えない風格まで感じられた。

第1試合

アルカンヘル&ビオレンシア 対 ティグレ・ブランコ&SHINOBI

決めポーズが絵になるティグレ。空中殺法が魅力的なSHINOBI。彼らリンピオの特性や動きを熟知したルードチームの巧みさに目を奪われた試合。

特にビオレンシアの受けのうまさにはひたすら驚嘆するしかなかった。試合をリードしていたのは間違いなくルード軍。相手のいいところを引き出しつつ、自分の見せ場も作っていく有様はまさに職人芸。

派手めな印象があるルチャだけど、相手のよさを引き出してその上で自分のアピールもしていくやりとりは、基本どこの国も変わらない。生の感情がみえた方が面白いプロレスもあるけど、それはそれ。こういうお祭りのような大会にはふさわしい華やかさもあった内容に、序盤から魅了されっぱなしだった。

第2試合

アポロ・ダンデス&スコルピオjr.&ラガルテjr. 対 ラ・フィエラ&リンゴ・メンドーサ&トニー・リベラ

前回来日時にブレイクしたというアポロ・ダンデス。日本の観客を前にいいところを見せたかったのか?やたらルードを意識し過ぎた感じがした。

今回はカメラに向かってやたら毒づく場面が多々見られたし、他会場では消化器をぶちまけたり、やりたい放題。

この試合は第1試合とは対照的に経験豊富なリンピオが試合をリードしていたように、私にはみえた。派手な飛び技を使うでなく、それでいて立ち振る舞いだけで銭がとれるリンゴ・メンドーサやラ・フィエラの一挙手一投足に虜にされてしまう。

この中ではスコルピオJr.がやや動きが悪いように感じられた。時差や気圧の差も関係しているのだろうが、本調子には見えなかった。必殺技も出して、結果的にサソリ固めで、リンゴから勝ちだけは収めていたけど、ルードの中ではコンディションの悪さが目立っていたように私にはみえた試合だった。

第3試合

ラヨ・デ・ハリスコjr.&アトランティス 対 シエン・カラス&エミリオ・チャレスjr.

本場の抗争を輸入したという謳い文句の割には、明るく楽しいルチャに終始。80年代のCMLLテクニコの頂点に君臨したラヨ・デ・ハリスコJr.と、CMLLルードの頂点であったシエン・カラスとの抗争は、CMLLのドル箱カードでもある。

今までの試合と決定的に違うのは、この中にルチャドールとしては大型のラヨとシエンがいたことで、迫力の面で段違いに差があったところ。

大型ファイターの空中戦にプラス、ライバル同士の意地の張り合いは抗争というよりは競争に近い感じがした。より感情が前面に出たという意味でも異質な試合だったし、この二人に引っ張られるように、他のルチャドールたちも感情のみえる試合展開を見せてくれた。

とはいえ、ルチャの華麗な部分も忘れてはいない。第2試合でも見られた「エストレージャ」はこの試合でも見られた。今では日本人でも普通にやる技けど、本場のルチャドールが披露すると、形は同じなのに違ってみえるから不思議だ。

最後はライバルに負けたくないラヨの意地が、シエンを上回る形で勝利を収めたが、こういう意地の張り合いというのは、やはり国を問わず燃えるものがある。最後に行きつくのは、やはり感情と感情のぶつかり合いであり、そこがなかったら、ただの運動神経のいい人たちの発表会になってしまう。そういう意味では、「闘い」をみせることにおいて、この4人は非常に能力の高いエストレージャだったということになるだろう。

試合後にユニバーサルでは恒例だった「おひねり」が飛んだのは、ある意味当然といえる内容だった。この光景もルチャならでは。本当に来てよかったと思った瞬間だった。

第4試合

 ミステル・二エブラ&ミステル・アギラ 対 ブラック・ウォリアー&レイ・ブカネロ

この試合はとにかくフルスロットルで四人が四人ともすごかった!ミステル・アギラは言うに及ばず、パートナーのニエブラ、ブラック・ウォリアー、ブカネロがクオリティの高い空中戦を展開。常人離れしすぎた技の数々に、惜しみない歓声が試合中終始途切れなかった。

あまりに熱戦すぎて、なんとハプニングまでおきてしまった。あろうことかブカネロのタイツが破れて半ケツ状態になってしまったのだ。これはハプニング。めったに試合がとまることがないプロレスで、おそらくかなり珍しい試合中断。それでもブカネロはカタコトの日本語で「チョットマッテクダサ~イ」といって、タイムサインを出す。セコンド陣が急遽借りてきたアルカンヘルのタイツを借りて試合再開。意外と似合っていた。

ただ、ハプニングはハプニングで再び熱戦でその余韻を帳消しにしたのはさすが一流のルチャドールたち。セミ同様試合後にはおひねりが飛びかう熱戦となったので、まあめでたし、めでたしといたっところだろう。お互いの健闘を称えあって試合後はノーサイド。ハプニングに食われない内容を残したのはさすがだった。

大会終了後、かなり長い間ファンとルチャドールとの交歓が行われていた。アルカンヘルはなぜかTシャツのセールスをしていたが、今思えば買ってもよかったかな?私も結局バスで選手が去っていくまで残ってしまった。こういうのも珍しい。

帰りに電車の中でいっぱいもらった選手のサイン入りパンフをみてはにやにやしてしまった。そのくらい楽しい空間だったのだ。やはりルチャは最高だった。こうして今年最後の観戦は幕を閉じたのだった。

[追伸]

この観戦記を復刻していた2018年6月14日朝にアルカンヘル・デ・ラ・ムエルテ(Arkangel de la Muerte)選手の訃報が飛び込んできました。私も寝ぼけ頭でTwitterをいじって知ったもので、最初は嘘かと思いましたが、事実でした。

アルカンヘルは多くのファンやルチャドールに愛された選手でした。まだ51歳・・・早すぎる死に、呆然としつつ予定を早めて、観戦記をリライトしました。サイン色紙はこの大会より以前にいただいたものですが、いまだに大事にしています。アルカンヘルとの思い出は数々ありますが、この観戦記をもって哀悼の意をささげたいと思います。

アルカンヘル。楽しい試合をいっぱいみせてくれてありがとう。どうか安らかに。

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