がむしゃらプロレスGAMSHARA Dead or Alive~力こそ正義~(2019年4月21日 日:門司赤煉瓦プレイス)
2019年は平成が終わる節目にあるせいか、いつもなら開催されるジュニアとタッグのトーナメントがない。かわりに4月大会は、2月の大会で火がついたLCRとgWoの解散をかけたユニット対抗戦が行われることに。プロレスでは離合集散が当たり前で「一連托生」を掲げて団結していたはずの昭和維新軍→ジャパンプロレスが、あっけなく崩壊したように、形あるものはいつか壊れるし、また逆に覆水盆に返るケースもないわけではない。
昭和維新軍はオリジナルメンバーでの再結成こそしていないが、マサ斎藤さんの葬儀で、長州と確執があった佐々木健介やキラーカーンら一堂に会するという奇跡も起きた。先ではどうなるのか、は誰にもわからない。そういうケースを長年多々見てきた私としては、このユニット抗争にも特に大きな感慨があるわけではない。なくなる喪失感よりは、新時代に新しいものがはじまる期待感しかない・・・・
とはいってもgWoにもLCRにも思い入れがないわけでもないので、ここで一区切りといっても格別な感情もある。あまり煩雑にユニットが組み替えられるのも困るけど、経年劣化で名チームが質を落とすのもみていてつらい。そういう意味ではいい潮時だったのだ、と考えることにした。
この日は岩国プロレスが真裏にあって、行きたかったけど仕方ない。まさか地方でこんなに興業がかぶる時代がこようとは思いもしなかったが、都会並みに贅沢な悩みを抱けるのもある意味幸せなことだと思う。
そもそも腸閉塞や喘息になったときは「意地でも復活してやる」という気持ちもあったけど、実際そこで終わりになってもおかしくなかった。だから今ここにあるものを楽しむということで観にいかないと、死んでも悔いだけが残ってしまう。
プロレスは点ではなく線である。よくいわれることだが、この瞬間で断ち切られたものが、のちに大きな形になってかえってくることもある。何十年単位でダイナミックな動きがみられるのもプロレスならではのだいご味だし。
前説はユニット対抗戦からははずれいているスミスと九州がなんとリング下からスタート。続いてリングインしたSHIGEKICHI&K.K両リングアナが、綱引きマッチの要綱を説明しようとしたら、そこにドン・タッカーが登場。結局ドンを交えてLCRとgWo双方のメンバーが登場。綱引きをして、試合順を抽選した結果・・・・
鉄生対土屋クレイジー
豪右衛門対KENTA
YASU対TOSSHI
陽樹対X
というカード並びに試合順が決定した。正直鉄生対陽樹はもういいかなという気分だったし、私の近くに座っているメンバーも同意見だったので、意外と新鮮なカードが見られたことに気分は一気に高まった!
第一試合▼オープニングタッグマッチ(20分1本勝負)
①力雷汰 & ×パンチくん vs GWO 2号 & ○BIG-T
(10分48秒)
門司港レトロで「汰」をはく奪された「リキライタ」はどうなったかというとこれといって変化なし。ただ、この試合は試合開始前にリキに挑発されたBIG-Tが、リキをぼこぼこにしてしまわないといけない・・・はずだったのだが、主にリキとBIG-Tが絡んだのは最初の場外乱闘だけ。
あとはGWO二号対リキ、パンチくん対BIG-Tという絡みが延々と続いてしまった。しょっぱなで因縁をつけられた以上、「先輩」のBIG-Tが、力の差を見せつけてリキをボコボコにし、そこからリキが「なにくそ!」と立ち上がってくるところを観たかったのだけど、残念ながら試合内容が焦点ボケしてしまった。
リキもBIG-Tも絡みやすい人と絡んだだけ・・・というのがこの試合のすべて。これでは序盤のアピールはなんだったのか。テーマがぼやけると試合もぼやけてしまう。本大会は非常に盛り上がって、どの試合も白熱していたのだが、この試合だけ淡々と進んで淡々と終わってしまった。
第2試合▼スペシャル6人タッグマッチ(30分1本勝負)
②MIKIHISA & ○尾原毅 & ドラゴン・ウォーリアー vs ×ダイナマイト九州 & 乱魔 & SMITH
(11分26秒)
2月のOPG岡山武道館大会で突如出現したTHE C-LOTEなるユニットが、北九州にも勢力拡大?を図ってきたこの試合!オリジナルメンバーのスミス&乱魔は、ダイナマイト九州を抱き込み、一大勢力にする気まんまん。
しかもOPGのいきさつを知らないがむしゃらのお客さんに対しても我関せず好き放題、勝手し放題にやりたいことだけしていくTHE C-LOTEトリオ。ナスティはどうも自分のペースがつかめない。
九州も門司港でみせたシリアスモードを封印していつも以上に自由気ままに戦っているので、こちらもなかなか尻尾をつかませてはくれない。
最初こそスミスを捉えて、なんとか自軍のペースに持ち込んでいこうとするが、百戦錬磨の乱魔にかき乱されてなかなか自分のペースに持ち込めない。そうこうしているうちに、尾原が九州につかまり、例の九州フルコースにいく流れに。
必死で抵抗する尾原に、スミス&乱魔まで介入し、なんとトリオで「1.3.5.7九州、九州…うー、ダイナマイト!」を3D仕様で決めてしまった。だが、THE C-LOTEの勢いもここまで。ドラゴンとMIKIHISAに場外に追い出されたスミスと乱魔。残った九州を尾原がキックの連射からのSTOで仕留めて万事休す。試合後、勝ち誇ってマイクをもったドラゴンが、アピールするつもりですべてしまったところを、乱魔がきっちり回収した点まで含めて、THE C-LOTEのカラーで染まりぬいた試合だった。果たしてこの団体の垣根をこえたユニットは、どこまで増殖していくのだろうか?
第3試合 ▼GWA無差別級タッグ選手権試合(45分1本勝負)
③【挑戦者】○HIROYA & トゥルエノ・ゲレーロ vs ×スコヴィル & 上原智也【王者】
(17分43秒)
門司港ではフィニッシュにややもたついていたHIROYAだったが、さすがにチャンピオン相手に同じ手は通用しない。そしてドリームチューバ―サイドには序盤で早くも暗雲が垂れ込める。先発していたゲレーロが以前から痛めていた足首を、この試合で再び痛めてしまったのだ。
そこをすかさず狙い撃ちする上原とスコヴィルはさすがに目ざとい。上原のアキレス腱固めに、終盤で勝負に出たキルスイッチの前に、ゲレーロに対して執拗に繰り出したSTF・・・バリエーションの豊富な足首攻撃には、ゲレーロも悶絶寸前。
だが、チャンピオンサイドの誤算はHIROYAに十分な攻撃を加えなかったことと、スコヴィル自身のスタミナ切れにあった。全身を覆ったツナギと口元や目元も隠したマスクは、そもそも呼吸がしにくいし、スタミナも奪っていく。この日の気温は初夏の陽気で、その辺も誤算だったように思える。
攻めているはずのスコヴィルの息がだんだん荒くなっていたのは、みていてわかったし、そこは結果的にHIROYAやゲレーロに付け入るスキを作ってしまった。結果的にはHIROYAとゲレーロに十分なダメージを与えられなかったのが誤算といえば誤算だったと思う。
最後はHIROYAこだわりのファルコンアローで、スコヴィルからピンフォールを奪い、見事至宝奪還に成功!ゲレーロにとっては、松江までいって返り討ちにされたタイトルでもあったし、地元で取り返せたのは本当に万感の思いがあったのではないだろうか?
第四試合▼4vs4解散マッチ第1戦
④○土屋クレイジー vs ×鉄生
(8分19秒)
なんだかんだでがむしゃらに上がり出して長い土屋クレイジーだが、いろんな都合でGAM1には未出場。そのせいもあって実はシングルマッチ自体が希少。という事で散々タッグでは火花を散らしあってきた鉄生とはシングル初対決になる。
綱引きに挑んだ際にこのカードが決まった瞬間、土屋が舌なめずりしたのを私は見逃さなかった。試合する側がワクワクしているなら、見る側もワクワクしないわけがない。
体格もよくオールラウンダーの土屋にとって鉄生というのはやり甲斐のある相手ではないか、と思う。もちろん直接バチバチやりあうだけでなく、鉄生のウィークポイントである足首などに関節技でダメージも与えられる。
試合序盤は、まさに土屋クレイジーショー。素早くグラウンドに入ると、硬い鉄生の身体を各種関節技で締め上げる。前半の攻撃が効いたおかげか、鉄生が反撃に出ても、踏ん張りがきいていないため、いつも以上の力が入っていない。スタンドで主導権を握れない鉄生は、再びグラウンドで土屋マジックにからめとられてしまった。
実は鉄生がジュニアヘビーに負けるパターンというのが、ほとんど丸め込みを返せなかったり、関節技から逃げ出せずにダメージを重ねてしまうケース。ジュニアなみに身軽で関節技が得意な土屋は、実を言うと非常に厄介な相手だったのだ。これでまずgWoがワンポイント先取!
第五試合 ▼4vs4解散マッチ第2戦
⑤×KENTA vs ○豪右衛門
(2分34秒)
鉄生対土屋の結果を受けて二勝目が欲しいgWoと、なんとか白星がほしいLCRの対決は序盤から丸め込み合戦に。こうしたテクニカルな攻防になると、豪右衛門の方が不利なように感じられるが、この丸め込み合戦を互角に渡り合えるのが、今の豪右衛門である。このあたり、豪右衛門が長らくインターコンチベルトを巻いていた実績が、伊達ではない事を物語るのではないか、と私は思っている。
KENTA対豪右衛門とくれば、昨年末のインターコンチ戦でのグラウンドの攻防が思い起こされるが、そのインターコンチのベルトをKENTAが巻いたことで、結果的にLCRが内紛状態になってしまったのだから、皮肉な話である。
そんなKENTAの焦りを見透かしたかのように、冷静な試合運びをみせる豪右衛門は、自らも得意とするグラウンドにはあえていかず、必要以上に打ち合うこともしなかった。クレバーな豪右衛門というのは実に厄介で、丸め込まれたという結果以前に、KENTAが豪右衛門を慌てさせられなかったという時点で、勝敗は決していたかもしれない。
最後は矢野通よろしくデニーロポーズで勝ち誇る豪右衛門に、主力二人が破れて呆然とするLCR。これでgWo二勝に、LCRが〇勝という結果になってしまった!
第六試合 ▼4vs4解散マッチ第3戦
⑥○TOSSHI vs ×YASU
(12分17秒)
これは往年のがむしゃらジュニアを牽引したライバル対決。しかし長らくブランクがあったTOSSHIはなかなか全盛期のカンが取り戻せずにいた。そんなライバルに昨年ジュニアの至宝を奪回したYASUは、リング上から檄を飛ばした。
まさか、こんな形でかつての名勝負数え歌が蘇るとは思わなかったが、後がないLCRが勝ちにこだわればあまり勝ち目はなかっただろう。しかしTOSSHIは実に落ち着いていた。序盤の間接攻撃もそうだが、攻守目まぐるしく入れ替わる展開の中でも常に冷静だった。
逆にセコンドについていた鉄生やKENTAの方が明らかに慌てていて、特に鉄生などは試合に介入して、何とか一勝をもぎ取ろうと必死になっていた。
が、見る限り受けるYASUに、攻めるTOSSHIという展開は試合終盤まで続いた。YASUはおそらくTOSSHIの攻め疲れを待っていたと思われるが、受けの強さが結果的に仇になってしまったと言わざるを得ない。
たしかにTOSSHIの攻め疲れは見ていても明らかだったが、限界の先まで攻め続けたTOSSHIは、難攻不落で堅守のYASUを切り崩した。最後のトラースキックは、YASUの側頭部にクリーンヒット。長らく先行を許していたライバルをついに引きずり下ろした瞬間だった。
これでgWo二勝に、LCR一勝。gWoの負けはないが、決着は陽樹対Xに持ち越された。
第七試合 ▼4vs4解散マッチ第4戦
⑦○サムソン澤田 vs ×陽樹
(11分27秒)
リングインしてきたXはまず入場してきた陽樹を奇襲。強烈なスピアで陽樹を場外に叩き出すと、自らマスクに手をかけた。その正体はサムソン澤田だった!
が、実を言うと、美原輔の欠場で、澤田の立ち位置が宙ぶらりんになっていたことに加えて、Xの体型が綱引きの時と違いすぎていたこと。前半で普通に澤田がドリームチューバーサイドのセコンドについていたことで、ある程度正体はバレていた。
KENTAの時もそうだったが、なぜかLCRの新メンバーはすぐにわかってしまうのは、なぜなんだろう?
しかし、単なる出落ちで終わらなかったのが、新生サムソン澤田の怖いところだった。とにかく要所要所で繰り出すスピアが強烈すぎる。前回インターコンチに挑戦した時とは別人のような切れ味に、先制された陽樹もタジタジ。
加えて以前からキレのあった関節地獄が陽樹をじわじわと蝕んでいく。おそらく陽樹は、スタンドになり、打撃に持ち込めば勝てると踏んだのだろうが、それにしては関節技を食らいすぎた。
昨年のGAM1で陽樹は、尾原毅にグラウンドで散々痛い目に遭っていたはずなんだが、負けがなくなった状態で、まだ若手だと思い込んでいたサムソン澤田にここまで追い込まれるとは予想もしなかったのかもしれない。
しかもフィニッシャーとして澤田が繰り出したキドクラッチは、言い訳できないくらい完璧な形で決まってしまった。これによってgWo二勝、LCR二勝となり決着は4対4のタッグマッチで決することになった!
第八試合 ▼【特別試合】解散マッチ決定戦
⑧○鉄生 & KENTA & TOSSHI & サムソン澤田 vs 陽樹 & 豪右衛門 & YASU & ×土屋クレイジー
(7分47秒)
※GWO vs L.C.Rの解散マッチは2勝2敗でタイとなったため、両ユニット全員で決定戦を開催。これによってGWOは解散。
後がない両軍は試合開始と同時に乱戦となり、そこかしこで火花を散らしあう。中でもgWo総帥・大向美智子の介入は凄まじく、イス攻撃でLCRに大打撃を与える。
しかし、会場のお客さんはこの乱闘に気を取られていて、リング上でバチバチやりあっている陽樹と鉄生の方は殆ど見てないようだった。長年見慣れた光景ではあるし、どれだけファンが望んで組ませても分裂してしまう。昨年のファン感謝デーで露呈してしまった二人の絡み。正直なことを言うと、この二人の因縁はどこまで行っても決着がつかないのだ。それよりは、ありそうでなかった対決に目が奪われるのは自然な成り行きだろう。
大乱戦の中では、TOSSHI対豪右衛門やKENTA対YASUなど、シングルでも見たかった組み合わせも実現。セコンドも含めて数で優位なgWoが押し切るかに見えたが、再び場外に落ちた双方のメンバーをしり目に、鉄生が土屋を鋼鉄ロケットランチャーでピン。
試合後、号泣する土屋に呆然とするgWoの面々。しかし、鉄生がマイクを持って「複雑な思い」を吐露すると、返す刀で先ほどの試合中に誤爆したKENTAに矛先をかえて口撃。KENTAにしろ鉄生にしろ、2人とも勝ち抜き戦では負けているので、人のことは言えないはずだが、サムソンを引っ張ってきたKENTAは一歩も譲らない。かくして勝ったはずのLCRは鉄生派(鉄生&TOSSHI)とKENTA派(KENTA&サムソン)に分裂!
誰もいなくなったリング上。誰が締めるんだよという空気の中、澤田に去られていつの間にかメンバーが3人に減ってしまったドリームチューバ―のゲレーロとhIROYAが再登場。結果的に新チャンピオンチームの機転で、無事大熱狂した大会は絞められたのであった。
後記
さて、SNSでも問題になっていたヤジについても触れておこう。社会人だけでなく、プロ団体もその扱いには頭を悩ませているのが実情だけど、これは逐一イベント開始前にお客さんに周知徹底するほかあるまい。
知り合いがいるから言うわけではないが、プロレスリング華☆激のいじめ撲滅シリーズでは、アステカ自らが「汚いヤジのかわりにブーイングを」というお願いを毎回行っているし、メジャーの新日本プロレスは、毎シリーズごとに観戦マナーのお願いと題した映像を流している。
言葉というのは、発した本人が思う以上に、会場の空気を良くも悪くもする諸刃の剣なのだ。しかし、試合で気持ちが動くのは人間だから仕方ない。だから汚いヤジのかわりにブーイングが存在するわけで、ここは「わかっているからいいよね」ではなく、毎回噛んで含めるように徹底する方がいいと思う。守らない場合は退場という処置もありうるが、それは最後の最後でいいだろう。
新日本の場合は泥酔客の入場を禁止しているが、がむしゃらはそうではない。いずれこうした問題が拡大化していくと、会場でお酒が飲めなくなる可能性もキモに銘じておく必要がある。なんでも規制する方向ではなく、ブーイングという妥協案で、みんなが楽しく観戦できるように、関係各氏にお願いしたいと私は思っている。