新日本プロレス | カンタン酢™ Presents | Road to DESTRUCTION | 第8戦
(2023年9月20日 | 水 | 海峡メッセ下関展示見本市市場:観衆778人)
イントロダクション
今年はレスリングどんたくにも行かず、9月17日のアイランドシティ大会も行ってないため、新日本プロレス観戦は2022年の福岡ドーム以来となる。
下関大会となれば実に4年ぶり。コロナ禍が原因なのかは定かではないけど、スターダムが5月に来た以上、同系列の新日もいずれ来るとは思っていた。
なぜなら、4年前はフルスペース使った海峡メッセが満員になっていたからだ。あれから色々迷走気味ではあるが、地方で見られる新日本のブランド力はまだ落ちてはいないだろう。
まあ、ビッグマッチの前振りシリーズには違いないけれど、今回はどうなるだろうか?
自宅→海峡メッセ
この日は時折晴れ間が覗くものの、基本曇り。
天気は芳しくないが家事を済ませて、夕方には自宅を出た。海峡メッセまでは車で30分。市内とはいえ、結構な距離があるのだ。
会場に到着するとロビーにはすごい人がいる。やはり新日本が4年ぶりに来るというのは、下関にとっては一大事件なのだろう。
先に来ていた友人とそのお連れさんと合流して、開場までしばらくプロレス談義に花を咲かせた。
その後、友人が外に出てみると、待機列がかなり長い状態で、階段の上まで人が上がっている感じだった。
そりゃ満員にもなるよね。
中に入る前に、「アントニオ猪木を探して」という映画のために、猪木さんの等身大パネルがあったので、そこで記念撮影をしてもらった。
ただし 記念撮影をしていたのは我々だけで、他の人たちは素通りしていた。ここは新日本の会場のはずなんだけれど、今のファンの人たちにはアントニオ猪木という存在は関心の外にあるのかもしれない。そう思うとちょっと寂しくなった。
オープニング
中に入ってみると 以前は6階に別スペースとして作られていた売店が、1F会場内にあり、座席後方には入場ゲートが作られていた。
その分、席数は減っているはずだが、蓋を開けてみれば満員。ただ当日券は出ていたので完売ではなかったようだ。
声出しOKということもあって、皆新日本プロレスを待ち焦がれていたのだろう。第1試合が始まる前からすごい盛り上がりで、空気が完全に出来上がっていた。
第1試合:20分1本勝負
○真壁刀義(7分26秒 逆片エビ固め)×中島祐斗
後輩の藤田と大岩が先にヤングライオンを卒業し、ボルチンやオスカーが上で試合が組まれる中、黙々と第一試合をこなす中島。
昔とは第一試合の意味合いが違うとはいえ、ヤングライオンという枠組みの中にいるのは事実。
先を越され内心では忸怩たる思いを抱えた中島が真壁相手にどういう試合をみせるだろうか?
始まってみると、いかにもベテランがヤングライオンを相手に基本ムーブだけで試合するという、新日本の第一試合らしい内容になっていた。
考えてみたら、真壁だってヤングライオン時代に、このような展開の試合を何千、何万回とやり続けてきて、現在がある。
それは既にベテランの域になろうとも身体から決して抜けることのないものなんだろう。
この試合では先輩が後輩にプロレスの基礎を伝承していく「儀式」なんだろう。
そういう意味ではだいぶ形は変われど新日本の第一試合は、変わっていないなあと思えた。
いつの日か中島もこの日の真壁の立ち位置になる時が来るだろう。その時に中島はこの日の事を思い出しながら「伝承の儀式」をしているのかもしれない。
第2試合:20分1本勝負
○YOH&小島聡(9分30秒トラースキック→体固め)×タイガーマスク&本間朋晃
2023年王道トーナメント優勝の小島が、新日に戻れば第二試合。このあたりファンも色々思うところはあるんだろう。
新日がベテランを冷遇するのは今に始まった話ではないし、その流れに逆らうところも実は見てみたかったりもする。
レスラーが現状を受け入れて諦めるのは、ファンとしては一番みたくない。それは本間やタイガーにしても同じなのだ。
面白いもんで、知名度がある選手が四人揃うと会場がパッと華やぐから不思議である。
この空気感に包まれて試合ができるんなら、やはりプロレスはやめられないとなるのもわかる気がする。
しかし、やっぱり新日本にはこうした華やかさより、何処かにドロドロした感情をみせてほしい。
そういう意味では4代目タイガーが、普段のタイガームーブより、やや格闘技寄りの展開でYOHを追い込んでいったあたりには、ベテランなりの意地を感じられた。
考えてみたら、かつて同じ海峡メッセで若手の旗頭として橋本真也とスコット・ノートンにこてんぱんにされていた小島聡が、全盛期を経てゆるやかにキャリアの終盤を迎えつつある。
時代はこうして移り変わりつつある。結局、あれだけ蹴りを繰り出していたタイガーもYOHのトラースキック一発で轟沈。第一試合とはまた別な感慨を抱いた試合だった。
第3試合:20分1本勝負
マスター・ワト&永田裕志&○海野翔太(9分50秒デスライダー→片エビ固め)×オスカー・ロイベ&エル・デスペラード&成田蓮
このシリーズでは七番勝負が組まれている海野と成田だが、当初下関では七番勝負は組まれず。
対角線上に同じストロングスタイルのデスペラードがいるけど、こっちはむしろワトが獲物として、見ている方は認識しているような気がする。
・・・と思っていたら、会場でパンフ見てびっくり。当初いなかった永田と成田がカードに加わっていた。
こうして急遽決まった7番勝負の「番外編」だったが、意外にも成田と海野がバチバチにやり合うシーンは少なめ。
むしろ2人は手が合いすぎていて、プロレスとしては完成度が高い分、ライバル闘争としてはあまりにきれいすぎたように思えた。
かつて長州対藤波をこれでもか、というくらいに組んで「名勝負数え唄」をヒットさせた歴史がある新日本が、海野対成田をなぜユニット対抗の7番勝負にしたのだろうか?
おそらくその答えは現時点で、海野と成田に明確な差がつけられていないからだろう。
長州対藤波のケースは、オリンピックエリートとして入団しながら、スポーツ経験がない藤波の後塵を拝した長州が、牙をむいた時、プロレスファンは熱狂的に支持をした。
エリート対雑草(本当は逆だけど)という図式が、お客さんにも共感しやすかったのだ。
ただ、辻を含めた海野&成田は令和闘魂三銃士という横一線でひとまとめにされている。
これだと二人に明確な差はうまれにくい。そのせいか、試合の中心は永田やオスカーたちになっていたようにみえた。
明らかにお客さんは海野と成田のライバル闘争に期待しているのだが、本人たちの気持ちがまだ空回りしているような感じさえした。
プロレスはやはり一筋縄ではいかないものだなあ、と思わされた一戦だった。今が旬でも必ずしも期待通りの答えが返ってくるとは限らないのだから。
第4試合:30分1本勝負
○矢野通&棚橋弘至(8分25秒裏霞)ボルチン・オレッグ&×田口隆佑
WORLD TAGでおなじみになったトオルとヒロシだが、次第に棚橋もタッグ路線に追いやられていくのだろうか?
タッグはプロレスの花形でむしろ悪いことではないが、シングル至上主義の新日本では、どうしても閑職扱いされやすい。まあ、今シリーズはCMにも起用されているので、一概に閑職とは言いがたいが。
一方ボルチンにしてみたら、これはビッグチャンスでなんとか爪痕は残したいだろう。
試合前に流れていた「カンタン酢」のCMキャラクターになっていたトオルとヒロシ。
まさに最初から最後までトオルとヒロシのワンマンショーだった。そういえばCM内でトオルとヒロシのやられ役で出ていたのが、覆面姿の田口監督だった。
だからかもしれないが、こうなってしまうのも仕方ないのだろう。
しかし、目を見張るのはヤングライオンのボルチン・オレッグ。その巨体から繰り出される技の数々は基本技であっても迫力満点。
これで海外修行→バレットクラブに行かなければ、面白い存在になるのは間違いないだろう。
試合後マイクを握った棚橋は「自分たちと同じくヤングライオン時代を過ごした人」として、下関在住の竹村豪氏市議会議員をリングに呼び込む。
さすがに現役レスラーとしての顔は見せなかったが、政治色より「新日本プロレス最高!プロレス最高!」とよどみないマイクで、最後はトオルとヒロシと共にリング上で記念撮影に収まっていた。
第5試合:30分1本勝負
○オカダ・カズチカ&後藤洋央紀&YOSHI-HASHI&石井智宏(13分28秒レインメーカー→片エビ固め)ザック・セイバーJr.&マイキー・ニコルス&シェイン・ヘイスト&×バッド・デュード・ティト
今シリーズのユニット抗争はメインのJUST 5GUYS対H.o.Tと、CHAOS対TMDKが二本柱。オカダと石井はNEVERのベルトを持っているし、既にマイキーとシェインはタッグ王座に挑戦が決まっているため、ユニット抗争と言うより、タッグ選手権へ向けての前哨戦という解釈でいいのだろう。
CHAOSの入場順はオカダ&石井が先で、毘沙門が後。まあIWGP>NEVERという格の差を考えれば当然なんだが、毘沙門出世したなあ、という感じがした。
確かに試合は毘沙門がリードしていたのだが、オカダが出てくるとやっぱり華が違う。こればかりは致し方ない。
一方、TMDK側で目立っていたのは、バッド・デュード・ティト。2022年のG1ではジョナのセコンドというイメージだったが、デカくて動けてスピードもあるというものすごさ!
ジョナのWWEでの扱いを見ていると、ギャラはともかくプロレスラーとしてのやりがいはどうなんだろう?と思うけど、ティトも後を追うのだろうか?
まあ、WWEが身売りされた関係からか?縮小路線に入るというニュースもあるので、ティトが新日で頭角を現したいというモチベーションは高いように思えた。
実際石井とはバチバチにやり合っていたし、マイキー&シェインといっしょにNEVER6人にもチャレンジしてほしい。
ところがそんなティトを攻めさせるだけ攻めさせておいて、レインメーカー一発で仕留めてしまうオカダも大概なバケモノである。
終わってみれば、毘沙門対TMDKの前哨戦すらオカダの露払いになってしまっていた。
あのガウンさえなければ、オカダに文句はつけようがないんだけど、新日本はIWGPにオカダ以外の色をつけたくて、敢えて第一線から外しているんだろうか?
そんな気さえしてくる試合内容だった。
セミファイナル:30分1本勝負
内藤哲也&○鷹木信悟&辻陽太&高橋ヒロム&BUSHI(13分57秒MADE IN JAPAN)ウィル・オスプレイ&ジェフ・コブ&グレート・O-カーン&HENARE&×カラム・ニューマン
こちらは、L.I.J離脱をほのめかして18日の福岡で見事な掌返しを見せた鷹木と、それに激怒するO-カーンとの抗争がキモである。
個人的には、ロスインゴ推しではないけど、4年前同様「デ・ハポン」締めで終わってくれればまだマシな気もするんだけど…。
私が座っている席の真後ろに、選手入場口が作られており、割と近場で選手入場が見られたのはお得だった。ちなみに南東席と書かれていたが、実質北側だから最初はしょうがないよな、と諦めていた。
しかし、これは思わぬ福音だった。正直ユニットが並んで出てくる光景は、ワールドでも、なんならレスリングどんたくでも見飽きるくらい見てきたのだ。
だが、こんな近距離で同じものを見るとありがたみがマシマシになるのだ。今回それを思い知らされた。
やっぱりスター選手ってオーラが違うんだなあ、という当たり前の現実を今更ながら実感できたのは、今回の大きな収穫だった。
そもそもこの下関大会はワールドの中継がない。後で見返したくても不可能なのだ。その一期一会感も、私にそう思わせた原因の一つかもしれない。
試合は福岡で因縁が生まれたオーカーンと鷹木がバチバチにやり合うのも、前哨戦としてみればなかなか盛り上がったと思う。会場の雰囲気も第一試合からできあがっていたし、福岡だけでなく下関もワールドで中継していたら、神戸や両国はもっと盛り上がったんではないだろうか?
毎回思うことだけど、G1が終わるとなぜか毎年シリーズの中継数がぐっと減ってしまうのは、もしかすると田舎を中心に回るからだろうか?
まあ、ワールドで見返せない分ライブで見たお得感はあったんだけど、せっかく「Road to」と銘打ったシリーズなら、ビッグマッチへ繋がる大会は、もう少し配信してもよかったかなあと思う。
まあ、会場にいた人間はかなり得をしたとは思うけれど。
メインイベント:30分1本勝負
SANADA&タイチ&DOUKI&×TAKAみちのく(14分35秒EVIL→片エビ固め)○“キング・オブ・ダークネス”EVIL&SHO&高橋裕二郎&ディック東郷
このシリーズをワールドで見ている限り、KOPWを巡るタイチとSHO、IWGPヘビーを強奪したEVILに対するSANADAと、対立構造はあるのだが、そこに「怒り」が見えてこないのだ。
どう考えても、理不尽な真似をしているHoTには罵声がもっと集まっていいはずなのに、なんか乗り切れないのは、J5G側にも問題があるように思えてならない。
冒頭、KOPWのベルトを誇らしげに掛けたSHOが「山口の田舎者どもにも(KOPWの)ルールをわかりやすく説明してやれ」と、なぜか上から目線で阿部リングアナに要求。この徳山大学OBはなぜか自分と縁がある場所をディスるのが好きみたいだ。
阿部アナが発表したように、決定しているのはタイチが提案したルールなのだが、SHO曰く「俺は決まったルールでやってやるよ」と、妙に神妙なマイク。
しかしこれは当然フリで、蓋を開ければ悪行三昧。ストロングスタイルもどこへやらだが、そもそもJust5Guysがあまり怒りを表に出さない分、HoTの請け負う仕事が増えてしまうのは痛し痒し。
試合はそれでも二転三転。場外乱闘もありのわかりやすい地方プロレスが展開され、それはそれで大層盛り上がっていた。
レスリングどんたくはどうしても三階席奥から観戦しているので、ライブ感が薄くなるのだが、比較的選手が近場に来る海峡メッセみたいな場所だと、HoTは実にいい仕事をしているのがわかる。
特にディック東郷とTAKAみちのくはかつてKAIENTAIとして、WWF(今のWWE)でも行動を共にしていた同士でもある。もちろんその前は海援隊☆DXでみちのくプロレスを席巻していた。
その歴史を考えると悪の限りを尽くす東郷と、ベビーフェイスになったTAKAの絡みは非常に感慨深いものに感じずにはいられなかった。
試合はそのTAKAが孤立し、健闘するもののEVILが正攻法の「EVIL」一発でTAKAを沈めて、HoTが勝利。
エンディング
しかし、勝ったのになぜか敗者のように逃げ去っていくHoT。パンタロンを脱ぐ暇もなかったタイチは「なんなら今ここで(KOPW戦を)やってやろうか?」と怒り心頭。
お客さんを煽って「巌流島!巌流島」とコールを促すと、会場も大巌流島コールで後押し。
すっかりベビーフェイスが板についたタイチは「お前らがいると下関が穢れるんだよ!」と「カエレ」コールから「出て行け」コールまで煽り、会場が一体となる中、毒づきながらHOUSE OF TORTURE は去っていった。
残されたタイチはなぜかDOUKIにマイクを渡す。「待って、待って。俺に渡されても…」といきなり渡された割には、「俺は仲間としてガッチリサポートする気でいるから。安心してタイトルマッチ闘ってくれ」とそつなく喋り切ったDOUKIは、最後にSANADAへマイクを渡してしまう。
一番喋れるTAKAが先に退場したため、観念した?チャンピオンは「下関の皆さん。いまチャンピオンベルトが盗まれてるんですけど、次回は、“日本で1番好きな町”ここ下関に、sanaやんがあのベルトを持って帰って来ます」
と大サービス!
最後は「オイ下関!! See you Next Time!」で大会を締めた。
後記
最初は今の新日本に足りてないのは怒りだと思っていた。実際見終わった後でも、そんなに感想は変わっていない。
だけど、4年ぶりの下関大会は全体を通してすごく楽しかったし、面白かった。 この多幸感はプロレスに必要なものである。
ただし、それは猪木さんが作ろうとしていた「怒りの空間」とは真逆である。
そう言いながら、プロレスにハッピーを求めていたのは私自身だったのかもしれない。
怒りと多幸感。この矛盾する2つをうまくプロレスの中に落とし込んでいくことで、新日本プロレスは大きくなってきた歴史がある。
ユニット抗争も生で見ていると非常に面白いのだが、ワールドで追っかけていると、その1/3も魅力が伝わってこない。
だからと言って全戦ライブで追っかけて試合を見るわけにもいかない。
やっぱりところどころに、怒りは必要なのかもしれないし、何だったらHOUSE OF TORTUREに不条理の扱いを受けている、Just 5 Guysはもうちょっと怒ってもいいような気がする。
Just 5 Guysみたいな、気の良い兄ちゃんたちが、ベビーフェイスをやってる姿は決して悪いものではない。
多分今の人たちが求めているプロレスはハッピーエンドで帰れる満足感に浸れるエンターテイメントなんだろうなとも思う。でもくどいようだが、どこかで裏切ってほしいという気持ちもあるのが、昭和から見ているプロレスファンの切なる願いでもあるのだ。
矛盾してるのは十分承知の上だけど、やっぱり今の選手たちが追求している「本気」とアントニオ猪木さんが見せようとしていた「本気」は別のもののような気がしてならない。
そう思うとちょっと寂しい気持ちになった帰り道であった。