[プロレス映画鑑賞記] 狂猿

せかぷろ

イントロダクション

プロレスラーのなかでも、ひと握りの者しか足を踏み入れないデスマッチの世界で暴れ廻り、クレイジーモンキー(狂猿)の異名を持つ、葛西純。
あらゆる凶器が巻き散らされたリングで平然とバンプを取り、全身血まみれになりながらも闘い続けるその姿は、決してメジャーにはなれない存在ながらも世界中に熱狂的なファンを生み出し、いまも伝説を刻み続けている。

『狂猿』は、葛西純を中心に、文字通りの血と汗を流しながら闘い続けるプロレスラーたちの姿を追った本邦初のデスマッチドキュメンタリーである。カメラは復帰に向けてトレーニングを積み、カリスマと呼ばれてもなお、見果てぬ刺激を求め続ける葛西純に密着。子煩悩でも知られる葛西のプライベートや、過酷なリングの舞台裏にも迫る。(公式HPより)

地方進出するには

デスマッチから足が遠のいてしまって、もう三年が経過しようとしている。

コロナ禍でもプロレスの大会は開かれれてるけど、西日本は特に博多スターレーンがなくなってから、近辺でデスマッチOKな会場があるのは、熊本か広島だけになってしまった。

それでもプロレスリングFREEDAMSは地方にデスマッチを届けてくれる貴重な団体なんで、広島にはあししげく通っていた。しかし、そのFREEDAMSも地方進出するに、今の状況はあまりに厳しい。

観に行けてない間

「狂猿」では、私が観に行けていない間の葛西さんを中心に、プロレスリングFREEDAMSの今が切り取られていた。正直コロナでなければ東京でも見に行きたかった。でもそれを思いとどまらせたのは、結局声出しができないというコロナ後の新ルールがあったからである。

やはりFREEDAMSにいって「DEVIL」のイントロが流れて、「か・さ・いー!」コールができないと、なんか消化不良な気分になってしまう。他団体に行っても何となく感じている物足らなさが、FREEDAMSやデスマッチではより顕著に骨身に染みる。

やってる側の空虚感

見ている側がこんな感じなんで、やっている方の空虚感は半端ないものがあっただろう。実際劇中で葛西さんは「コロナ禍でも思わず声を出してしまいそうになるくらいじゃないと、俺たちの負け」という意味のことを語っていらっしゃる。

そして、怪我との闘いの中で思い描いた復帰戦がコロナで流れ、望まないた形でのリング復帰・・・と、私の空白期間で、葛西純ほどのカリスマをも、コロナ禍がむしばんでいたのは、ある意味衝撃でもあった。

優秀なドキュメント

しかし、それでも葛西純はリングに帰ってきたし、試合もした。

声出しも満足にできない中で、デスマッチファイターたちが見せてきたものに、私はたまらなく愛おしさを感じたし、と同時にたまらない枯渇感をも感じていた。

確かに狂猿はとてもよくできたドキュメント映画である。

なにより川口潤監督がドキュメントの名のもとに控室までずかずかと入り込まないのもよかった。取材先にも丁寧に根回しし、色んな答えを引き出している。

ドキュメント映画の監督としてはとても優秀な方だと思う。

本物のデスマッチ

プロレスファンではなかったという川口監督が、葛西純という題材に魅せられて、そのさまを丁寧に追いかけているのが、非常に素晴らしい作品である。

ただ、私は本物のデスマッチというものを知ってしまった人間である。正直、狂猿から受ける何億倍のエネルギーを生のデスマッチ観戦で味わえることを知ってしまっているのだ。

だから、とてものどが渇いている私に、水を差しだしてくれているのだが、その水はスクリーンの中にあって、決してリアルで飲むことはできない。

そんなもどかしさが「狂猿」にはあった。

デスマッチ観たい!

たぶん普通の映画ファンだったら、「狂猿」は絶賛できる内容だと思うし、映画ファンとしては、この映画と出会えたこと自体に感謝しないといけないのだが、この喉の渇きはついに映画を観終わるまでいやされることはなかった。

終劇して最初に思ったことは「デスマッチ観にいきてえ」「か・さ・いコールしてえ」というものだった。

映画館ではコロナ前だと「応援上映会」とかいうのがあって、声出しOKな上映スタイルもあった。そして「狂猿」はこの声出しにもっとも向いてい作品だとも思った。

声出しNGなご時世

しかし、いくら換気が徹底している劇場でも、今のこのご時世で声出し上映するのはリスキーすぎる。そもそも地方で声出し上映というには、おそらくやってくれるところはないだろう。

仕方ないので、片道一時間45分かかる帰り道で「DEVIL」を車内で大音量で流しながら、一人で葛西コールをしながら、帰路に就いた。正直これでも「一方通行」でしかなく、もどかしい気分は残ったのだが、だいぶんもやもやはなくなった。

ただ、自分の中の「狂猿」が完結するためには、やっぱり会場で生のデスマッチに触れて、大声で葛西コールするしか方法がないと思う。

飢えに気づかされた

そのためには一日も早くコロナが収束してほしいところだが、今まで日常だと思っていたプロレスの風景が当たり前でなくなった今、「狂猿」はプロレスファンとしての私の飢えを気づかせてくれる映画になっていた。

やっぱり非日常を求めて会場に行っているんだから、手拍子だけでおとなしく帰ってくるのってなんか違う。今はそれでも生でプロレスが見られるありがたみを噛みしめておいかないといけないんだけど・・・

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私的プロレススーパースター烈伝 | せかぷろ
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