【プロレス観戦記】がむしゃらプロレス | ROAD TO 20th ANNIVERSARY GAMSHARA MANIA 2023(2023年12月3日)

がむしゃらプロレス観戦記

がむしゃらプロレス | ROAD TO 20th ANNIVERSARY GAMSHARA MANIA 2023

(2023年12月3日(日) |西日本総合展示場 本館 中展示場)

【プロレス観戦記】 町上津役自治区会 町内会加入促進事業 | がむしゃらプロレス 八児大会 Vol.2(2023年10月8日)
2023年10月8日に開催されたがむしゃらプロレスの八児大会 Vol.2の詳細な観戦記録。プロレス“ザ・モンスター”ハラダが、試合のハイライト、感想、写真などを共有します。

イントロダクション

2023年11月23日をもって、私のがむしゃらプロレス観戦歴はまる14年となり、15年目に突入した。

その一発目が、この20周年記念大会である。

このプロレス観戦記スタイルになったのは、間違いなくがむしゃらプロレスとの出会いからだったのだが、誤算だったのは他団体の観戦記も同じボリュームになってしまったことである。

おかげでプロレス観戦に行くたびに、膨大な文章を書く羽目になったのだが、技術の発達と共に、手打ちする量は減り、ChatGPTや音声入力が手助けしてくれる時代になった。

しかし、何千枚にも及ぶ写真のセレクトだけは人力でやらなければならない。今回もたぶん大変な作業になるだろう(実際一週間かかりました・・・)。

さて、がむしゃらプロレスもついに旗揚げ20周年!地元に根ざした社会人プロレスが、大都市ながら東京ではない北九州で、その歴史が紡がれてきたことは、非常に感慨深い。

特にプロとは滅多に絡まないSMITHと久々に表舞台に登場するNIKKYが、自身の20年を師・阿蘇山と、がむしゃらプロレスには欠かせないプロレスリングFREEDAMS代表・佐々木貴にぶつけるであろう第六試合は、単なる記念試合にはなりそうにない。

他にも懐かしい顔もたくさん見られる今大会は、がむしゃら初進出になる西日本総合展示場で開催される。

果たしてどういう大会になるだろうか?

下関→西日本総合展示場

このところずっと気温が一桁台だったため、防寒対策はバッチリして出立。しかし、意外にもこの日だけ気温は15度。

おかげで屋外待機は非常に快適。この日の総合展示場は、車の商談会に日本語検定もあり、表は国籍豊かな顔ぶれが溢れていた。

ちなみに、早めに出たせいか土日恒例のトンネル渋滞にもハマらずあっという間に着いてしまった。だいたいこの時期はそれにプラス年末進行で、車が溢れかえる時期なんだが、これも珍しかった。

今回は南側にスポンサー席が用意されており、我々は西側に回り観戦。実はコーナーの角側なんで少し撮影しにくいことに後で気づいた。

まあ、慣れない会場だとこういうアクシデントもある。これもプロレスのうち。

オープニングアクト

予告通り定刻になると、愛◆Dreamのステージがスタート。愛◆Dreamというのは、北九州を拠点にしたご当地アイドルで、Wikipediaも存在するくらいの知名度はある。

愛◆Dream - Wikipedia

道理で普段見かけない客層がいるな、と思ったら、彼らはドルヲタ(及びスタッフ?)の人達だった。

私ももはやアイドルに血道をあげる年齢でもないので、彼女たちのパフォーマンスは、エンタメの一部として楽しませていただいた。頑張っている人たちはキラキラして見える。

それはどのジャンルでもおなじなんだな。

本編オープニング

今回は、SMITH代表に鉄生&ゲレーロの副代表コンビが揃い踏み。通常ヒールの鉄生がオープニングに登場するのは極めて珍しい。

いつものキャラクターを崩せない鉄生は、いつも通り毒づくわけだが、すでにピープルズチャンピオンになってしまったがために、本人の意図とは別に会場は大歓声。

こういう事はがむしゃらプロレスに限らず、プロレスではよくある話。しかしそれは歴史を見ていかないと決して体験しえないのである。

プロレスは長く観続けるほど得をするといわれるのは、こうした例が見られるからなのだ。

第一試合(30分1本勝負)

▼gooスポーツ presents▼
社会人プロレス 6人タッグマッチ(30分1本勝負)
〇HAGGAR & MIKIHISA & マツエ・デラックス vs ×ZAKA & 上原智也 & グレート・カグラ
(9分21秒)

久々登場のマツエ・デラックスを擁したがむしゃらサイドと、松江だんだんプロレスでは敵対するカグラが、OPGのジョロキアに属する上原&ZAKAと組んで闘うオープニングマッチ。

この中ではZAKAだけジュニアだが、やはりそこは試合巧者。久々のがむしゃらプロレスでもいつも以上に大躍進。

北九州でのZAKAはOPG勢の中でも人気選手だったが、会場が決して忘れていなかったのも素晴らしかった。

ここに文字通りJOCKERであるカグラがインサイドワークで掻き乱すあたり、悪役連合軍はなかなかの難敵だった。

しかし、それを一瞬で変えてしまうのが、マツエ・デラックスの爆発力!

その爆発力に西展は大歓声!GWAタッグを巡る抗争では、厄介な外敵だった選手だが、味方にいるとこれほど心強い存在はいない。

しかも、あの体型でパワーだけでなく、スピードもあるんだから、そりゃ会場も湧くはずである。

それに乗ったHAGGARが大躍動。こういうお祭り的カードで、HAGGARが爆発するとは思わなかった。これは嬉しい誤算。

相手がジュニアのZAKAとはいえ、これだけクセの強いメンツの中で自力勝利したのは、何ものにも変え難い財産になったことだろう。

第二試合

▼パークサイドビル presents▼ 8人タッグマッチ(疲れん程度1本勝負) 〇七海健大 & セクシーロージー & ポール・ブレイザー & 尾原毅 vs なにわ3号 & ×リキ・ライタ & マスクド・PT & DIEZEL (18分05秒)

第一試合がわかりやすいがむしゃらプロレスだとしたら、こちらは長年見てきた古参にはたまらないカード。

時たま顔を出しているロージーや最近になって会場に姿を見せているDIEZELはまだしも、マスクドPTやなにわ3号の登場はさすがにびっくりした。

特にPTはだいぶ細くなっていたが、あのパワーと会場を威圧する迫力は依然健在だった。

そのPTが絶対王者として立ちはだかっていた時代に、何度もぶつかっては跳ね返されていたのが、尾原毅である。

だいぶ遅咲きではあったが、もしPTがそのままがむしゃらプロレスに在籍していたら、SMITHとともに王者時代の尾原に挑戦者として現れたかもしれない。

そうなると尾原より下の世代になる鉄生や陽樹の時代は、今よりずっと遅くなっていたことだろう。

そんな世界線を想像しながら感慨深く試合を見ていた。

ちょっと心配だったのは、ドクターストップが元で引退を余儀なくされたKENTA。

確かにテーマ曲を聴いた時は心が踊ったし、相手を寝かせてのチョップの連打やフィニッシュになったスーパーノヴァも健在で、引退したことを忘れてしまうくらいだったが、同時に相手の技もガンガン受けてしまっていたのは、流石にヒヤヒヤした。

ある意味、ノスタルジーから現実に引き戻されたわけだが、一試合だけの記念試合という晴れ舞台に、限定復活したのであれば、これ以上言うことはない。

後は日常生活にダメージが残らないことを祈るのみである。

第三試合(30分1本勝負)

▼メンバーズ悠 presents▼ スペシャルタッグマッチ(30分1本勝負) 土屋クレイジー with 大向美智子 & 〇葛西純 vs ×久保希望 & 杉浦透 (12分28秒)

デスマッチのカリスマ・葛西純の隣に立つことが夢だったという土屋クレイジーがついにそれを実現させたこの試合。

実はこの日プロレスだけでなく、プロ修斗も裏被りしており、毛利道場コンビはハネ立ちで次の会場に向かわなければならなかった。

しかし、そうしたハードスケジュールにありながら、土屋からは自分の夢と今の自分の礎になったがむしゃらプロレスへの思いが十二分に感じられた。

対する杉浦透は先週に引き続いての参戦。当然のように介入してくる大向美智子まで相手にするのだから、FREEDAMSのチャンピオンといえど、当然大苦戦となる。

私はちょうど葛西&土屋組のコーナーサイドにいたのだが、私がちょうどカメラを構えた瞬間、セコンドの大向がさっと屈んだことだった。

特にこちらを見ていたわけではないのだが、長年セコンドワークや巡業をこなしてきている体験が身体に染み付いているのだろう。気配で察することができるのは、教えてできることではない。

女子の中では長身の部類に入る大向美智子の所作は、伊達にプロで長年活躍していたわけではないことを改めて教えてくれた。

 

がむしゃらだけでなく、近年ではスタッフやセコンドも自分の背後にお客さんの目線があることを意識していないケースが多い。

場合によってはお客さんの視界を遮ってしまい、試合がよく見えないケースも多々見られる。

これは控えにいる選手もそうで、観客の視線が意識できているレスラーとそうでないレスラーは待機している時の動きからして違う。

試合とはだいぶ違う内容になったけど、葛西サイドにいたせいで、久々にパールハーバースプラッシュを超間近で見られたのは大収穫!

まさにお祭りにこれ以上ない刺激的なスパイスが加わった一戦だった。

第四試合(60分1本勝負)

▼癒猿 presents▼ GWA 無差別級タッグ選手権試合(60分1本勝負) [挑戦者チーム]KENZO & ×豪右衛門 vs [第15代王者チーム]サムソン澤田 & 〇陽樹 (14分32秒)

正直、今回のタッグ挑戦はやや無理やり感があったように思う。現実がむしゃらプロレスではなかなか本格的なタッグチームが生まれなく、一時的に盛り上がることはあっても長続きしない、という歴史がある。

ちょうど今がその長続きしない「凪の時期」にあたり、幸運にもKENZOは二度目のチャレンジを行うことになった。

ところが、なぜかこの日はパートナーの豪右衛門にイマイチ覇気が感じられない。もともとムラがある感じはしていたんだが、調子のいい時の豪右衛門とは明らかに何かが違う。

そもそもタッグ戴冠歴もあり、ブランクを経て新しいパートナーと新時代を築ければ、豪右衛門としては万々歳な2023年の締めになっていただろう。

だが、青写真を描いただけでチャンピオンになれるほど、Re:ZARDは甘くない。それほど防衛回数をこなしていないものの、すでに同じ相手に一度防衛しているだけに、心理的には王者組に余裕すら感じられた。

結局最初の懸念は大当たりしてしまい、何処かギクシャクしたままのチャレンジャー豪右衛門は、自ら敗北を喫した上に、味方のKENZOからも三行半を突きつけられてしまった。

もともとGAM1 で陽樹に土をつけた事で、半ば強引に挑戦権を勝ち取った豪右衛門が、まさかこんな形で失速するとは。

普通勢いで掴み取ったチャンスがあれば、明らかにチャレンジャー側にアドバンテージがありそうなものだが、そうはならないのだから、つくづくプロレスは難しい。

そして、あまりに盤石すぎる王者チームを脅かすチャレンジャーチームが果たして来年現れるのだろうか?

いっそ他団体含めて挑戦者決定戦をやってもいいのかもしれない。正直がむしゃら内で、今このタイミングでタッグを狙えそうな顔ぶれに新鮮味がないのが、最大の難点になってしまった。

果たして2024年のGWAタッグはどうなっていくのだろうか?

《休憩》

ここで15分の休憩。ここでも現在のがむしゃらプロレスの問題が露呈。リング調整ができるメンバーが集まらないのだ。

次に試合を控える選手はまだしも、若手がいれば率先してやらなければならない仕事。

この辺のキビキビした仕事っぷりもがむしゃらプロレスの魅力だったのだが、KENZO&HAGGAR以降の世代が出てこない(いない)あたりに、必ずしも楽観的に20周年を喜んでばかりはいられない現実が垣間見えた気がした。

第五試合

▼来々軒 presents▼
スペシャルタッグマッチ(疲れん程度1本勝負DX)
〇ダイナマイト九州 & ランジェリー武藤 vs ×パンチ君 & 菊タロー
(12分17秒)

当初ダイナマイト九州のパートナーはXという発表になっていた。

先月のFREEDOMS北九州大会の後に開催された殿の宴で「X」 の話題になり、実は○○選手なのではないかという話をした。

その○○選手を私は図らずも当ててしまったのである。

問題はXとして出てくるその選手の「本業」が忙しい場合、わずかに外れる確率が上がることだった。

しかし、20周年という特別な場所に出てくるのには、これ以上ふさわしい人材はいない。

ただ問題なのは一般人とはいえあの「澤宗紀」を使わずに ランジェリー武藤「だけに」オファーするという贅沢な使い方!だいたい引退する前は澤宗紀もセットで試合に出てくるのが常だったからだ。

ただ確かにそこにいたのは、ランジェリー武藤に違いなかった。

とはいえ 対角線上にいる菊タローもまた武藤公認のものまねレスラーでもある。

まさかの武藤対武藤というわけのわからない対決が実現する中、腕を責められても必ず膝が痛いというムーヴを2人とも繰り返すシーンはもはやカオス。

かと思えば菊タローが勝手に天を仰いで、ドン・タッカーを呼び寄せ懐かしのドン・タッカームーブを繰り出すなど、さながら一大モノマネバトル!

まさにがむしゃらプロレスの20周年がぎゅっと濃縮された戦いになっていた。

最近見た人たちには細かいところはわからないかもしれないが、この試合は非常に懐かしくて面白くて、きっと本当にドン・タッカーが一瞬だけど降りてきたのではないかと思ってしまった。

ただすぐにドン・タッカーがいなくなってしまったようで、あっさり菊タローに戻ってしまったのは笑ってしまった。

中の人が一般人になっても、ランジェリーの動きは相変わらずキレッキレ。

思わず2009年に初めて見た時の衝撃を思い出さずにはいられなかった。

がむしゃらプロレスの昔を知らない人たちにはそれなりに面白い試合にもなっていたと思うし、その歴史を知ってから見るとさらに深みが増す内容になっていたと私は思っている。

本当に腹がよじれるかと思った。

第六試合(30分1本勝負)

▼マニラガール presents▼
NIKKY、SMITHデビュー20周年記念試合(30分1本勝負)
NIKKY & ×SMITH vs 〇佐々木貴 & 阿蘇山
(13分32秒)

個人的には一番期待していたカード。新日出身の仲野新市から薫陶を受けて、プロレスキャリアをスタートさせた阿蘇山が、その教えを伝えてできたのが、がむしゃらプロレスである。

その教えを一番最初に受けて団体と共に歴史を刻んできたのが、SMITHとNIKKYの2人である。

NIKKYはしばらくぶりの登場になるし、SMITHも代表を受け継いでからは第一線から距離を置いた。

しかし、オープニングアクトでは久々に気合い入りまくりのSMITHがそこにいた。そもそもプロとはよほどの事がない限り、絡まないスタンスを貫いているSMITHが、率先して強敵に立ち向かうという、一番「らしくない」選択をしたのだから、これは一大事件である。

最初こそがむしゃらプロレスのTシャツの下にFREEDAMSのTシャツを着込むなどの「小技」で心理戦を仕掛けてきたSMITH&NIKKYだが、そのFREEDAMSTシャツを叩きつけて、殿と師を挑発。

もちろんこれに佐々木貴&阿蘇山が反応しないわけがない。当然のように倍返し、3倍返しが返ってくる。

しかし、最初こそTシャツを着たまま戦っていたSMITHが阿蘇山から無理やり脱がされると、なんとNIKKYは自らTシャツを脱ぎ捨てた!

まるで若い世代がベテランに向かっていくかのような気迫溢れるファイトに場内は大熱狂。

 

キャリア最古参の2人が敢えてベテランらしからぬファイトを見せた意味は、おそらくその背中を後輩に見せて、原点を伝えようとしていたのかもしれない。

まあ、本人たちは言葉的には言わないだろうけど、あれだけ「らしくない」試合を見せられるとプロレスファンはついついそうした事まで想像してしまうのだ。

プロがアマを下に見て叩き潰す試合は、正直見ていて気持ちの良い内容にはならない。しかし、どれだけ上から見下ろしても、そこに確かな愛情がなければ、こうした試合にはならない。

図らずも対がむしゃらプロレスでは繰り返して殿が口にしてきた「リングに上がる以上、プロもアマも関係ない」を、佐々木貴はこの日も一貫して貫いた。

その心意気に真っ正面から立ち向かい、気持ちよく玉砕したSMITHとNIKKYを、きっとドン・タッカーも林祥弘もニヤニヤしながら、しみじみと見ていたに違いない。

プロレスは技術だけではできないし、気持ちだけでもできない。時には不恰好な様を大勢の前で晒すことになる。

プロレスをやっていたら、いつもカッコ良い試合ばかりできるわけではない。

でも、こんな不細工な試合が案外記憶に残るもの。それがプロレスというジャンルの不思議なところでもあるのだ。

セミファイナル(60分1本勝負)

▼メンバーズプラチナ presents▼
GWA Jr.ヘビー級選手権試合(60分1本勝負)
×[挑戦者]YASU vs 〇[第16代チャンピオン]トゥルエノ・ゲレーロ
(13分55秒)

がむしゃらプロレスの歴史を振り返ると、タッグよりはややマシではあるけど、ジュニアも豊作な時期と凪の時期を繰り返してきた。

その歴史において約10数年の歴史を共にしてきたのが、YASUとゲレーロである。

ジュニアというカテゴリーにいると、対戦相手不足に直面するため、YASUは新たなる挑戦を柳井でスタートさせ、ゲレーロはプロレスリング華☆激を中心にシングルプレイヤーとして腕を磨いてきた。

団体内で変化が得にくい場合、外に刺激を求めた結果をぶつけ合うのが、このジュニア選手権になった。

選手としては非常に真っ当なんだが、このあたりにもがむしゃらプロレスが、最近慢性的に抱えている人材不足という問題点が見え隠れした。

正直試合そのもののクオリティは過去一だったと思うが、あまりにテンションが上がりすぎたせいか、2人ともやや危険な方向に針を振りそうになっていたのは気になった。

いつしか怪我や慢性的なダメージを抱えたままプロレス活動していくことが美徳にされ、それに選手も観客も麻痺してしまったのが、いわゆる四天王プロレスというやつである。

実は、馬場さんがやっていたような「無事これ名馬」みたいな余力を残した試合より、全力を出し切り時には限界を超えた試合を見せるようになった結果、プロレスラーの晩年は不幸の連鎖に見舞われた。

とはいえその馬場さん自身も実は「自分が出なくてよければ、それに越したことはないけど、そうはいかない」から現役を続けた結果、61歳の若さで亡くなられてしまった。

この「無事これ名馬」とお客さんに楽しんでもらうための「全力ファイト」をほどよく中和できる存在が実は社会人プロレスだと私は思っている。

プロになるとそれがメシの種である以上、針を振り切る場合もあるだろう。しかし、他にメシの種があるならば、無事これ名馬の方にも針を振りやすい。

実際プロレスができる時期は人生の中で意外と短い。だからこそ悔いなく全力で、でも無事これ名馬として、レスラー人生を全うしてもらいたい。

くれぐれもお客さんに乗せられるだけでなく、時には会場の空気を自分でコントロールできるプロレスラーは現在グッと少なくなってしまった。

だからこそ、高いレベルでYASUやゲレーロにはこれからも試合をしてほしいのだ。無事に第二、第三の人生をおくるためにも。

メインイベント(60分1本勝負)

▼居酒屋がむしゃら presents▼
GWA ヘビー級選手権試合(60分1本勝負)
×[挑戦者/GAM-1 CLIMAX覇者]HIROYA(GAM-1 CLIMAX 2023覇者)vs 〇[第16代チャンピオン]鉄生
(19分06秒)

この試合では、プロを卒業する際がむしゃらプロレスの「永久名誉顧問」に就任した澤宗紀が、選手権宣言をした。

選手としては散々リングにあがっているのだが、こういうかしこまった形でリングにあがるのはなかなかのレアケース。

そもそも永久顧問になってから、久しく九州に顔を出していなかったしなあ。

さて、夏のガンバレ⭐︎プロレス参戦を経て、秋のGAM1 CLIMAXを制したHIROYAが、いよいよ天下取りに王手をかけた。

HIROYAの優勝は、いよいよがむしゃら新時代の幕開けが見られるか?という絶妙なタイミングである。これはもしかすると?と私も思っていた。

しかし、20年の歴史の中でチャンピオン鉄生の立場も変化してきた。

この日セコンドについていたマスクドPTが「自らスカウトしてきた」という触れ込みで、PTマスクを脱がせてお披露目したデビュー戦をついつい思い出してしまった。

[プロレス観戦記復刻版] がむしゃらプロレス:アニソン×プロレス緊急コラボイベント!がむしゃらプロレス心に愛がなければスーパーヒーローじゃないのさ。
アニソン×プロレス緊急コラボイベント!がむしゃらプロレス 心に愛がなければスーパーヒーローじゃないのさ。 (2011年11月3日:北九州パレス) イントロダクション 今回はアニウタSPIRITSと、がむしゃらの合同イベントという体で行われた

もちろん私みたいなお客さんばかりではないのは、百も承知。

しかし、時に毒づきながらも、常に「面白いもんをみせてやる」と有言実行してきた鉄生は、いつしかただブーイングを浴びるヒールではなく、いつのまにかピープルズチャンピオンになっていたのだ。

これは大きな変化だった。かつて強さでそうした好意的目線を頑なに拒んだマスクドPTに対して、鉄生は自らのキャラクターを変えないまま、観客の感情を変化させてきた。

実はSMITHに2度シングルで勝利している鉄生は、もう1人の高い壁であるマスクドPTには勝利していない。

PT自身が仕事の都合でがむしゃらプロレスから距離を置いたため、違う形で鉄生は師匠を超える必要があった。

その積み重ねが「現在」だとしたら、今HIROYAに王座を明け渡すわけにはいかない。

しかし、パワーの代わりに失った身体の柔軟性は鉄生のウィークポイントでもある。

そこをHIROYAは、GAM1 CLIMAXを駆け上がることで手にしてきたグラウンド攻撃でネチネチと攻めあげていく。

もちろん理にかなっている攻撃ではあるのだが、会場は悲痛な鉄生コールで、チャンピオンを後押しした。

この日会場に来ていたがむしゃらプロレスのお客さんは、世代交代より現状維持を選んだ。

かつてアントニオ猪木らナウリーダーズに反旗を翻した長州力らニューリーダーが新旧世代交代をかけて、観客に審判を問うた時代があった。

だが、当時の空気を思い出してみるに、必ずしもプロレスファンは革新を支持しなかった。結果的に世代闘争は半年ほどで頓挫してしまった。

つまり、人は革新を求めながら、時に保守的でもある。

プロレスの場合、その原因が時間の積み重ねだったり、そこで生まれた思い入れだったり、歴史だったりするのだ。

その時間の中で紡がれた鉄生とがむしゃらプロレスファンとの信頼関係が、若さと勢いとコンディションで上回るHIROYAが熱望した新時代の扉を開かせなかったのだ。

私はそう解釈している。

今回の場合は「なるべくしてなった」のかもしれない。しかし、その「なるべくしてなった」を散々味わい、SMITHやPTに辛酸を舐めさせられてきたのが、今の鉄生や陽樹なのだ。

いつの日か、HIROYAも下の世代に「なるべくしてなった」という思いを味あわせる日がくるだろう。

そのためには、KENZO&HAGGARの下に続く新世代の台頭は急務である。がむしゃらプロレスの未来のためにも、HIROYA自身のためにも。

全力ファイトを試みた両者だったが、特に何発も鉄生がヘッドバットを繰り出す様子は、かつて何としてでもSMITHを超えようとしていた、若き日の姿を彷彿とさせた。

それが時を経て下から這い上がって来ようとする後輩に向かって鉄生が同じことをしていたというのが、また歴史を感じさせて非常に感慨深いものを感じた。

エンディング

試合終了後、2人ともしばらく起き上がれず、セコンドが駆け寄って介抱しなければならないほど、二人とも生も根も尽き果てていた。

しばらくして起き上がってきた鉄生は痛む膝を抑えながら、杖をついた状態でHIROYAに 「いい選手になったな」と一言。

そっけなくて乱暴な言い方だったが、それは本心だったのだろう。

そして客席に向かって「どうだ? 面白かったか?楽しめたか? 俺様の命令だ!今日出た選手全員リングに上がれ!ドン・タッカーもだ!」と言って本日出場した選手たちをリングに呼び寄せ、 全員で「3・2・1 ・がむしゃら!」 で締めて、20周年の記念大会を終わらせた。

後記

会場は実を言うと暖房が入っていなかったのだが、それを感じさせないくらいの熱戦で、非常にテンションも高くなった反面、終わってから反動で寒さが半端なく襲ってきてしまい、おまけに日も沈んでいたことから気温差が身にしみて仕方なかった。

終わった後、みんなで出した花束の前で、記念撮影をして、しばらく話をしてから別れた。

年内最後のがむしゃらの大会というのは、どの年も去りがたい思いがあるのだが、今回は特別だったかもしれない。

次は2月の赤煉瓦。再び、がむしゃらがいつものホームタウンに帰ってくる!

21年目も変わらない熱さのがむしゃらプロレスが、北九州にあることを北九州の人々はもっと誇りに思っていいと思う。

山口県民としては、変わらずがむしゃらプロレスを応援できることを嬉しく思う半面、ちょっと羨ましいと思っている。

今後も25年、30年、40年と続いていくがむしゃらプロレスを可能な限り追っかけて行き、自分も記録に残していきたいと思っている。

終わってみれば、20周年は通過点。これからもプロレスは続いていく。

まさに武藤さんが言ったように「プロレスはゴールのないマラソン」なのだ。そんなことを考えながら家路に着いた。

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