小倉けいりん がむしゃらプロレス杯[F1]記念・GAMSHARA WRESTLE KINGDOM ~辿り着いた俺達の夢~
(2014年5月6日/火・祝:北九州メディアドーム アリーナ)
イントロダクション
そもそもがむしゃらプロレスは、専用の道場ができる前は練習場所の確保も大変だった。
その中でおそらく一番多く使用されたであろうと思われるのが、メディアドーム前。
がむしゃらプロレス10年余の歴史のほとんどはここで作られたといっていい。「いつか俺たちもあの中で試合がしたい」と夢を語りながら、薄いマットを敷いてその上で練習をしていた。その集大成ともいえる大会がついに実現した。
ただのイベント試合とはここがちがう。しかも競輪のレースは「がむしゃらプロレス杯」としておこなわれている。
とはいっても今回の主役は競輪なんで、試合やイベントはレースの幕間に行われ、レース開始前には終わらせないといけない決まりがあった。
ここががむしゃらプロレスとしては未体験ゾーンなんで実際どうやったら競輪目当てでないお客さんも、またプロレスをみたことのない層にアピールできるかが最大のテーマになっていた。
オープニング
中に入ってしまえば、夢は過去のこと。待っているのは現実にある時間や製薬とのとの闘いだった。ちなみに当日のタイムスケジュールを参考までに(がむしゃら公式ファンサイトより転用)。
13:30~14:30 ふれあいプロレス教室&チャリティチョップ
14:30~15:00 アニソンLIVE(ぴのこ&内野孝太)
15:00~15:15 オープニングトーク
1R 15:20~ ▼がむしゃらプロレス(第1試合)
※小倉発祥パンチくん&セクシーロージィvsタシロショウスケ&ニコラス今中ジョリー
2R 15:44~ アニソン(Sakura)
3R 16:08~ ▼がむしゃらプロレス(第2試合)
※TOSSHI&鉄生&陽樹vsTA-KI&ブルート健介&SMITH
4R 16:32~ ふれあいプロレス教室&チャリティチョップ
5R 16:57~ ふれあいプロレス教室&チャリティチョップ
6R 17:22~ アニソン(安里ミム)
7R 17:50~ ▼がむしゃらプロレス(第3試合)
※新泉浩司&がばいじぃちゃんvs久保希望&くいしんぼう仮面
8R 18:19~ ▼がむしゃらプロレス(第4試合)GWA Jrヘビー級選手権試合 【挑戦者】ジェロニモvsL.O.C.キッド【王者】
9R 18:52~ ふれあいプロレス教室&チャリティチョップ
10R 19:25~ ふれあいプロレスラ教室&チャリティチョップ
11R 20:00~20:30
となっていた。
これをみると分かる通り、イベントや試合との間が時間が極端にあいていたりして、また競輪側のレース展開によっては進行も変わる予定になっていた(実際はリングトラブルや音響トラブルで時間の変更を余儀なくされた)ので、運営サイドもスケジュール全体が把握しにくかったのがわかる。
でお客側としては予想外だったのが、メディアドーム内にいろいろイベントがあってその中の一環としてプロレスがあってという図を想像していたのでいざ入ってみたら、アリーナにポツンとリングがあってその周囲を椅子で囲む形になっていた。
さらに音響は自前。メディアドームのものはレースの邪魔になるためつかえない。
そして、パタパタハンドも使えないというやっぱ応援する側にも手足を縛られた感があって、いつものがむしゃらを純粋に楽しむという感じにはなれなかった。
今後は、今回やってみて改善すべき点、メディアドーム側と話しあいを重ねる点はたくさんあったはずなんで、よりよいものにはなっていくだろう。しかし一番の難点はこの長時間メディアドームに拘束されることで、これがお客の集中力も切らした一因になったことは否めない。
そういう難しい局面の中で試合をしたのは大変だったとは思うけれど、これもまたいい経験に放ったと思う。イベントプロレスの難しい所でもある。
第一試合:疲れん程度一本勝負:
小倉発祥パンチくん&○セクシーロージィvs●タシロショウスケ&ニコラス今中ジョリー
(パンチくん含め3人同時フォール)(3分51秒)
この試合は正味3分しかなかった。
書くことがあるとすれば、「疲れん程度一本勝負」が史上初の「タイトル通り」に終わったということだけ。
本当ならパンチくんとロージーの自由さに翻弄される中で、なんとかニコラスとタシロが抗うところが見せ場になるはずが、制限時間が迫るとどうしても気になるのか?
試合を短時間でまとめようとしてほぼ無理矢理そうなったという感じ。だらだらやればいいというものでもないけど、短い時間内でも表現のしようはあると思うので、最後のフィニッシュ以外は評価の対象外としておこう。書くことないし。
第二試合:世代対抗戦:(20分1本勝負)
TOSSHI&鉄生&○陽樹vs●TA-KI&ブルート健介&SMITH(7分57秒)
この試合も制限が無かったらみたい顔合わせが多かったし見どころも多かった。
ここ最近スミスの牙城に迫るTOSSHIは執拗にスミス狙いできていたし、初対決となる陽樹も意識しまくり、となれば鉄生も黙っていない。
ところがヤングマン側は久々当場のブル健が大活躍して結果的にスミスを隠してしまった。
また上手にいなすスミスは比較的省エネファイトで手数をみせないまま(でもエクスプロイダーは出していたので調子が悪かったわけではない)、おそらく自分のタイトル挑戦者としては次の一番手になる陽樹とはニアミス程度の絡み。まっすぐな陽樹にしてみれば勝ったのに不満な点が多々あったろうけど、相手を気持ちよく勝たせないというのもヤングマンのイヤラシイところではあった。
で、試合こそクロスオーバーが勝ったものの、試合後陽樹と鉄生はあわや仲間割れ寸前になっているし、そこをなんとかTOSSHIがとりもって一難をのがれたが、時限爆弾をかかえたまま不安要素ばかりが大きくなってしまった。世代交代を成し遂げる前に個人闘争に目がいってしまうと足元救われそうなんだけどなあ。
第三試合:SPECIALマッチ(20分1本勝負)
新泉浩司&○がばいじぃちゃんvs久保希望&●くいしんぼう仮面(8分30秒)
この試合も新泉対久保、くいしんぼう対じいちゃんだったら見応えがあったに違いないんだが、スケジュールの都合でこれが混ぜられてしまった。
ややもったいない感じはしたんでぜひ別な機会で再戦をしてもらいたい。それにしても所属の九プロがイオンモールで試合をしてるのにわざわざこっちに出て、しかもライバル団体の華☆激一番のこわもて、新泉と組んでしまうんだからこれも事件といえば事件。
でも不思議とぎすぎすしないというのはじいちゃんの長年生きてきた?人徳なんだろう。
それでもただですら時間がない状況で新泉が台車でじいちゃんを運んでくる、その入場シーンの長いこと。くいしんぼうですら多少時間を短縮したバージョンだったのに、あくまでじいちゃんはマイペース。
久保にとって損だったのは、老人虐待を先にくいしんぼうにやられてしまったこと。
大阪ではちょいちょい顔を出す「キラーくいしんぼう」というレアなものが見られたのでお得ではあったんだけど、久保は腹いせにあまり絡めなかった新泉をちょいちょい挑発しては憂さを晴らしていた。ちょっと気の毒だったかな?
第四試合:GWA Jrヘビー級選手権試合(30分1本勝負)
○【挑戦者】ジェロニモvs●L.O.C.キッド【王者】(新王者ジェロニモ誕生)(8分12秒)
で、第三試合でリングに不具合が発生し、調整後、レースが終わるのをまたないといけない形になって一時間後に行われた第四試合でメイン。
YASUがもつ、「いつでもどこでも挑戦権」は本人がこの大会では使わないことを明言しているので、今旬な選手をということで同門(ヤングマン)対決ながら、4月にYASUと決勝を争い、名勝負を繰りひろげた ジェロニモが挑戦できることになった。
だが、もともとはキッドともどもヒール同士、荒れた試合になるだろうなという予想はできていた。
あとはそこで如何にしてタイトルへの執念をみせるかどうかになってくる。たとえ、イベント試合というがされどタイトルマッチ。
大チャンスをものにしたジェロニモは髪の毛を「メディアドームカット」にしてこの場に挑んできた。もちろん髪型だけではない。
今のジェロニモにはチャンスに対する執念とベルトへの飢餓があり、それを後押しする声援がある。プロレスやボクシングでいう「世界チャンピオン」と「ピープルズ・チャンピオン」を比較してみると、「ピープルズ・チャンピオン」にとっては不可欠だが、「チャンピオン」にとっては不可欠でない要素=「人気」が今のジェロニモにはある。
それも急激に勢いのついた人気である。極論すると、人気がなくても「チャンピオン」になることはできるのだ。実際人気のないプロのチャンプはいっぱいいた。
しかし、人気がなければ、「ピープルズ・チャンピオン」になることはできないのである。たとえどれだけ本人が望もうと、お客が望まない限りそれは手にできないものなのだ。
プロスポーツにおいて、「ピープルズ・チャンピオン」の称号は選手の人生を大きく左右するとさえいわれている。プロレスでいうと「ロック様」ことザ・ロックの代名詞にはなっているが、お客が認めたチャンプということでいえば、かつての棚橋や今の中邑、オカダあたりもそうだろう。
そしてがむしゃらのピープルズチャンプに今、一番近い男がジェロニモであった。対するキッドもかつてはピープルズチャンピオンだった。
しかし新しい自分に生まれ変わるため自らその称号を捨て去って、新しい自分を作り直して王座を獲得した。どっちもヒールでどっちも守護神(キッドはラダー、ジェロニモはボックス)を持つ者同士なんだけど、そのあり方は対照的なのだ。
だから先攻はキッドが口火をきった。ラダーで相手をコーナーに固定してのドロップキック。
これで昨年のジュニアトーナメントを制し、新しいキッドここにありを印象付けた。これは今でもキッドにとっては欠かせない技である。しかし誤算だったのは、同じユニットにいながらセコンドにヒール経験が少なく、かつ対応もできないニコラスがいたことだった。
あれがマスクドPTならもともと同門だし、同じヒール同士の阿吽の呼吸で試合がリードできたかもしれない。対してジェロニモには敵にすれば最恐の、しかし盟友になれば最強の男、TA-KIがついてきていた。
TA-KIの存在はこの試合を大きく左右したに違いないし、実際そうなった。声援とボックスとTA-KIの存在、3つの守護神がいたジェロニモと、ラダーしかなかったキッド。ここで差がついたのはなんとも残念ではあった。
だが、今回メディアドームバスターにしろ、胴締め式ローリングクレイドルにしろ、ひとつひとつの技の精度がトーナメントの時以上に格段に精密になっていたのも大きな勝因だったし、長い付き合いのキッドであるからこそ、手の内も読んでいたように思う。
そして最大の差は「勝てば許される、負けたら何も残らない」という気持ちの問題。試合後、キッドが「こんな勝ち方でいいのか」といったが、10年かかってあこがれのメディアドームにたどり着いた時点をゴールにしてしまったキッドと、その先を現実として「勝てばいいんだよ」という形で見据えていたジェロニモの差。これが一番でかかった。
後記
正直大会としては課題も多すぎた(時間配分という点ではもっと詰めが必要かなと思う。
メディアドーム側もプロレスに対する配慮がほしい。が、これは両者が話し合えば解決することなんでここではこれ以上問わない。)し、本戦が終わってすぐというこの短期間のなかで選手も調整も厳しかったとは思う。
リングコンディションも決してよくはなかった。
でもこのジェロニモの勝利はそれらのマイナス要素をすべてふっとばしておつりがくるくらいの感動を我々にあたえてくれた。
北九州のピープルズチャンピオン、ジェロニモ!戴冠おめでとう!現実を常にみている彼ならば、次のタイトルマッチもすでに眼中にいれているだろうし、今後の対戦相手もなめてかからない方がいいだろう。そこにいるのはいつも、普段接しているジェロニモではないからだ。