プロレスリング華☆激イジメ撲滅チャリティープロレス『篠栗☆エストレージャ』(2015年6月14日・日)
イントロダクション
古賀の奇跡を見届けてから一週間後、昨年に引き続いて笹栗大会にも行くことにした。ここはメルカド笹栗という町民体育館の表に出店やステージを作り、午前中から試合開始までをお祭りで楽しんで、そのあとプロレスを体育館で楽しむという一日を過ごせるいわば町おこしの一環にもなっている。
今年からチケットを出店でもぎるとその店の商品がプレゼントされるシステムになっていた(店によっては割引になるところも)。たこ焼きやポテトといったお祭りの定番からアユの塩焼きまであるというあたりが笹栗らしい。チケットでたこ焼きをもらってから試食で食べた甘夏ようかんが美味しかったのでおみやげに所望。めったに自分で甘いものなど買わない私にしてはかなり珍しい。
オープニング
会場は土禁で、床にそのまま座るみちのく方式。これもまたいい光景だ。そしてこの日もなんと超満員に!大人のプロレス教室ではレベルの高い参加者が続出!さらに古賀に続いて子どもの部は二部制になる盛況ぶり!だいたいどこも親にやらされている子が多いものだが、笹栗も古賀も全員自分から積極参加!これはすごい!この段階ですでに盛り上がっている
というのはかなり珍しかった。
そしてアステカからプロレスのルール説明があって試合はスタートした。
第一試合:20分一本勝負
○コスモ☆ソルジャー (12分35秒ドラゴンスープレックスホールド) ×ゼファー
ゼファーに関していうと、まず受け身がダメ、試合の組み立てが雑。ウケたと思ったら
ろくに相手を見もせずに何度でも飛ぶ。このあたりが難点だと思うし、実際観戦前にも指摘していたのだが、この日のゼファーはこれを全て見事なくらいに実践していた。
体格でいうとコスモとそれほど差はないようだが、体の厚みが全然違う。タッグだとぼろが出にくいがシングルではごまかしがきかない。それがゼファーの「正体」だと思う。
ただ、彼に同情するなら教えている師匠たちがそもそもプロレスをわかっていないと思われるのだから、こうして他団体に参戦して自分で学習するしかない。そういう意味では今回華☆激のチャンピオンであるコスモと対戦できたこと自体が彼にとっては「財産」になりうる。
少なくとも自団体だけでキャリアを積むのは彼のためにもならないだろう。結末はコスモがゼファーの後頭部をガードするように手を組んでしっかりロックした状態での「正調」ドラゴンスープレックス。
しかし頭の打ちようのない投げ方をしたのにもかかわらずゼファーはまたしても後頭部を痛打して実質KO状態。セコンドに抱えられて退場する際も自分の足で歩くのがやっとという状態だった。投げっぱなしや、藤波が初期に使っていた頃ならまだ対処する側に準備がないからありえたかもしれないが、正調ドラゴンでKOというシーンは今時なかなかお目にかかれ
ないと思う。まあそれだけ危険な技であることには違いないが、これでコスモを非難するのはおかど違いというもの。やはり受け身をしっかり習得してリングにあがらなかったゼファーに非があると考えていいだろう。
第二試合:30分一本勝負
○石橋葵 (11分38秒ビスケットスター→体固め)×神田愛実
九州巡業二戦目。この位置で試合する意味を二人ともよくわかっていたと思う。やっぱ小細工した試合するより地方ウケする試合ができる選手の方がスキルが上だと思っているので、彼女たちにはこういう体験を機にキャリアアップをしてもらいたい。手が合うのか実に彼女たちの試合はスイングしていて、小気味いい。男子だけの試合だとどうしても色が変えにくいけど、彼女たちの登場によって、場の空気が変わる。
石橋はさすがにそのあたりの空気を上手に読んでいたけど、神田はまあまだこれからかな?
地方で名を知らぬ女子が闘うとどうしてもアウェイになりがちだけど、古賀でも篠栗でも彼女たちは大いに歓迎されていた。それで十分だったと思う。
またぜひ参戦してこの時経験したことを糧にしてきてほしいと思う。
第三試合:イジメ撲滅プロレス公式戦:45分一本勝負
○新泉浩司 & 小川聡志 (11分41秒エメラルド・フロウジョン→片エビ固め)スカルリーパーA-ji & ×ヴァンヴェール・ネグロ
二代目馬之助が負傷欠場したことでネグロに二度目のチャンスがやってきた。相手はもと九州統一チャンピオンの新泉とマッチョおやじ小川。A-ji的には通常営業の相手だったろうけど、ネグロには汚名返上の機会到来である。自ら先発を買って出ると積極果敢に華☆激タッグを攻めまくる。正直この意気込みはとても素晴らしいのだが、受けている小川や新泉は
実に涼しい顔をしていて、逆に攻めているネグロがだんだん苦しそうになっていた。まあ古賀での反省点を短期間で修復できるならば誰も苦労はしないんだけど。
とはいえ、九州のダークヒーローといわれ、近年ではブーイングよりむしろ声援が多いA-jiにしてみたらこの日の篠栗の少年たちのガチ過ぎる熱い歓声は何よりエネルギーになった
のだろう。
久々に悪党A-ji全開で極悪殺法を次々繰り出していく。実にわかりやすい強くて悪くて手が付けられない「巨悪」を実に楽しそうにやっていた。あれだけのブーイングや罵声をあびるとさすがに気持ちよかったんだろうなあ。レスラー冥利に尽きると思う。
ネグロもなんとかそういう声にこたえようと必死になっていたが、興味深かったのは、新泉がネグロに放ったフィニッシュだった。ジャーマンスープレックスからのランニングエルボーで、とどめはエメラルドフロウジョン。
前日、命日だった三沢さんの技を四天王プロレスを崇拝する新泉が使った点に意味がある。
これを受けるということは三沢さんの魂に触れるということでもある。それを受け切って立ち上がる選手になれというメッセージがこもっていたのかもしれない。結果は古賀より無残に記憶も飛び、またしてもA-jiには試合後ボコボコにされた。しかしこの技を出した新泉の思いはきっとネグロには届いていると思う。熱い火の出るような試合だった。
第四試合:イジメ撲滅プロレス公式戦:60分一本勝負
篠栗88タッグ選手権試合
[王者組]アステカ & ×KING (20分25秒ムーンサルトプレス→片エビ固め)5代目ブラック・タイガー & ○アズールドラゴン[挑戦者組](王者組防衛失敗。挑戦者が二代目王者に)
プロレスのカードで一番面白いのは「どっちが勝つか全く予想ができない」ものであることは明白だ。いかに勝敗以外のところで評価されようがそこだけは変わらない。安全パイで
防衛を重ねても、その王座には何の価値も生まれない。だからこそ、この試合は組まれた事
自体に意味があった。最近絶好調のアズールと、素顔はとんでもない実力者である五代目ブラックタイガー。いくら華☆激のタッグ王者でもあるアステカ&KING組でもこれは相手が悪すぎる!
だがその難敵を招へいしたのはほかならぬアステカ本人なのだ。そこは素直にほめてもいいところだろう。だが試合はそれだけでは終わらなかった。一度火が付いた笹栗のお客さん
はこの超強力挑戦者に最大限のブーイングをあびせ、アステカ&KINGに大声援をおくる。
典型的な勧善懲悪の図式でこれで悪役が負ければ万々歳だったのかもしれない。
しかし、ブラック&アズールは負けなかった。というか終始危ない場面すらなかった。逆にKINGはローンバトルが続いて防戦一方。アステカがカットに入っても、それすらはねのけてしまう。加えて人をいらっとさせるベテランならではの老獪な策にチャンピオンチームはなすすべがなかった。正直A-jiの介入はあったけど、あれはおまけにしか過ぎなかった。乱入がなくてもダークサイドチームは勝てたんではないかなと思う。
それでも笹栗のお客、特に子どもたちは本当に熱かった。セコンドの制止を振り切って何度もリングサイドにかけつけて涙ながらに悪役を罵倒し、KINGに声援をおくる。こんな純粋で熱い子どもたちの姿に薄汚れた我々大人はただただ胸を打たれるだけだった。
実際セコンドが試合そっちのけで子どもの制止にかかりきりになったことは結果、王者を孤立させはしたけど、そこで子どもたちを責められはしないだろう。結局、力尽きる形でKMINGはアズールのムーンサルトの前に敗れ去った。初挑戦から一年、初の戴冠になった
アズールを潔くたたえるアステカ。
正義が負けたことに泣きながら「俺が大きくなったら絶対仇をとってやる」と一人の少年が叫んでいた。ここまで熱く熱くプロレスの試合をみたことがかつて自分にあっただろうか?試合後「悔しいです。二人がかりで責められることがどれだけ恐ろしいことか!どれだけ悔しいことか!子どもたち、よく覚えておいてください。そして来年必ずもう一回闘ってベルトをとりかえします」とアステカがしめてようやく篠栗の少年少女たちは納得した。
いや、でもこれはアステカやKINGだけでなくダークサイドにとっても大きな体験だったと思う。これほどの歓声と熱気の中で試合ができたというのは本当選手冥利につきるだろう。そしていじめ撲滅に町をあげてとり組んでいる笹栗の本気が闘っている選手のねむったスキルまで覚醒させたといっても過言ではあるまい。
結果論だけど、負けてバッドエンドになったことで本来の目的であるいじめ撲滅というテーマが最大限具現化されて伝わったのだからこれ以上いうことはない。いや、マジで熱い熱い大会だった。前年はなんかのどかで牧歌的な雰囲気の大会だったけど、今年に入って神がかっている華☆激のパワーと笹栗のお客さんのパワーが合体した今年はとんでもない大会に大化けした!
後記
どんなに創意工夫しようとどんなに表現方法が変わろうと、プロレスの根っこにあるものは同じだと私は思っている。選手の眠っている力を引き出し思いもよらぬムーブメントを起こす。プロレスに最も大切なもの。それは観客の熱だと思う。福岡市でも北九州でもない古賀や篠栗だからこそ、この純粋な熱があったのだ。プロレスに触れる機会がない土地であり、福岡から近いようで遠い。こういう条件下だからこそ、原石のような輝きが眠っていたと考える。
その熱は純粋で、熱ければ熱いほどいい。それによって他の観客にも熱が伝播して、熱狂という空間が生まれるのだ。古賀に続いて篠栗もまたすごかった。プロレス見てきて約40数年、これほどの熱気をこんな短期間で連続体験したのはおそらくはじめてのことかもしれない。
だがこれはもう奇跡と呼んでは失礼だろう。古賀と笹栗は新しい西の聖地になったと断言してもいいと思うのだ。観客の熱気でエネルギーをもらいそれを選手が試合で伝え返す。こんな幸福な場所がどこにあるだろう?だからプロレスはやめられないのだ。この観戦記で少しでも当日の熱気を感じてほしいと思う。