全日本女子プロレス「新生・全女 創立29年目の旗揚げシリーズ」第14戦下関大会(1997年10月6日(月)海峡メッセ下関:観衆:1560人)
イントロダクション
会場の海峡メッセは展示見本市場なので、2分割して使用することが可能。しかし、なぜかここに来る団体は大日本を除くと、すべての団体がフルスペースを使って興行を打っていた。
しかしお客の入りが、そのスペースに見合ったほど入っているのか?と言うと、残念ながら一部メジャー団体以外は、スカスカの状態になっていたのが現状。
この日の前後も例外ではなかった。特に全女は経営が危機に瀕しているというのに、余計なところでお金を使っているな、という印象は拭えなかった。
オープニング
メジャーのプライドを捨てきれないなのに、現場はインディ。会場について当日券を求める列の後ろに就こうとした。
たまたま私と同様その場に今来た人達が何人かいて、きちんと並ぼうとした。当日券売り場にいた松永会長の口調の端々、そして会場で立ち見の人達に1000円でリングサイドに座れるという呼び込みを続けていたにも関わらず、ほとんど誰も答えようとしないことなどに苛立ちを募らせていた角掛の様子からも、それは十分に伝わった。
これを書いていたらテレビで全女を励ます企画というのをやっていた。放送での会長以下選手たちはとにかく明るかった。カメラが回っていることを差し引いても、この明るさ意味で開き直ってたのかな?
そうしたこともあって全選手入場式の時も、終わった時だけ頭を下げてという思いもなくはなかった。
とはいえ、やはり舞台裏とリングは関係ないこと。リング上で選手達で見せてくれた順序の未来はどうだったのだろうか?
▼エキシビジョンマッチ=7分間
△豊田真奈美(0-0)△藤井己幸
私が座った席は通路のすぐ横で真後ろがフェンスになっていて、立ち見の客たちがいる場所になっていた。
でそこにいる人たちの会話を耳に入ってくる。話の内容からどうも初心者らしいことはわかった。
試合はどれだけフォールを取られてもギブアップを取られても、きっかり7分間行われるというもの。
初心者たちもわざと受けていると分かるだけの余裕が、豊田にあったのだが、だんだん時間が経つにつれて、彼らも「おいおい、このままじゃ勝てないぞ」と口にするようになっていた。
そしてタイムアップ。つまり藤井は一度も豊田にフォールを許さなかった。これは大変な事実だった。
とはいうものの慣れない時間で、感覚的に調子が出せなかったというのもあったし、何より豊田の余裕は、最後までなくならなかったのは事実。求められているレベルはさらに高いところにあるのだから、この辺で良しとしてはいけないのだろう。
さらなる藤井のレベルアップに期待したいところ。
▼20分一本勝負
○元川恵美(IWAジャパン)&西堀幸恵(IWAジャパン)(15分47秒:変形羽折り固め)●脇澤美穂&藤井己幸
いわゆる押さえ込みから始まる全女のの新人たちから比べると、最初から使える技にそれほど制限のない他団体の選手達の方が、より印象に残りやすい感じがする。手数が多いというのはそれだけで有利とも言えるのまもしれない。
この日も技数を多く出していたのは、やはり IWA JAPAN勢だった。特に元川のサポートでのびのび戦っていた西堀は特に印象に残った。
しかしこの日2戦目となり、「伝わる」場面が多く見られた藤井にしろ、今一つ印象の薄かった脇澤にしろ、とにかく基礎と体がきちんとできている点はポイント高い。
後でこの日来ていた友人達とも話をしたのだけれど、特に太ももの裏のあちこちにあざを作っていた西堀に比べると、全女の二人はダメージに対しての抵抗力があるのか?そういった痣すらみられなかった。
連戦や1日2試合でもこなせるだけの基礎体力が、備わっているからだろうか?これぞメジャー選手の証明と言えるのかもしれない。
とはいうものの、西堀の活躍は光るものがあったし、この中では頭一つ抜け出している元川の実力は、目を見張るものがあった。
実際元川を生で見た見るのは、市来と戦っていた時以来だったので、余計そう思えたのかもしれない。
▼ミゼットプロレス
リトル・フランキー対ミスターブッダマン
レベ ルから言うとリトルさんの足下にも及ばないという印象だけが残ってしまった。
角掛の場合、毎回闘ってきてそこそこ手があってきたブッタマンとは、どうも勝手が違う様子。リトルさんの掌の上で転がされたような感じだった。
休憩
休憩中に PHS の宣伝コーナーがあった。いわゆる JWP でのオロナ○ン C のコマーシャルのようなもの。九州では豊田が上がったりしていたそうだが、あまり盛り上がらなかった様子。
この日はなんと角掛がリングに上がった。しかしまともな受け答えに終始していてがっかり。ちなみに休憩中に友人が設置されたプリクラを撮っていた。博多では故障して使えなかったそうだが、この日も故障。試合終了後にはなおっていたらしいが。
▼エキシビジョンマッチ=7分間
△井上貴子(0-0)前川久美子
私が座っていた通路側から貴子がでてきたんだが、思ったより元気そうで一安心。この日会場に来て、納見の全女復帰を知ったのだが、貴子のセコンドにはその納見と、西堀がついていた。納見のキャラは全女でも貴重だし、復帰はうれしかった。
試合は貴子の復帰が近いなと思わせる内容。終了後満足げな表情でリングを後にしていった井上貴子が印象的だった。試合結果は7分間時間切れ引き分け。
▼30分一本勝負
△高橋奈苗(時間切れ引き分け)△中西百重
栗栖ジム出身の中西と、浜口ジム出身の高橋。ジュニア世代の筆頭格同士の戦いは、そのまま全女の未来形の戦いになるものと言っていい。
そして実際、彼女達はそれに相当する試合を見せてくれた。決して派手な大技がどんどん出てくるものではなく、どっちかといえば地味な前座でよくありがちな、技を抑えててもお互いのスタミナを奪い合うといった、タフマッチになっていた。
目立った技はミサイルキックとジャーマンくらい。とにかく立ち技で相手にダメージを与え、グランドで押さえ込み、カウントが入るとブリッジで返していくといった展開が延々と続いていった。
会場もワッと沸くでもでもなし、さりとて退屈するでもなく、この試合を見つめている様子。
そして20分過ぎた辺りに、試合が動き出すと、いつのまにか自分も手に汗をかいていた。
「起きろ!」の掛け声とともに、何度もドロップキックを放っていく前座特有の試合展開も見られたこの試合は、明らかにそれとは違う異質さがあった。
後半空中戦に活路を見出そうとする中西。そして見事なブリッジで渾身のジャーマンを払っていた高橋。お互いの意地と使える技が少ない分、この試合に懸けてやろうという意気込みが、ヒシヒシと伝わってきた。
手数が豊富だとついつい、「これでダメなら次の技」といった展開になりがちだけど、新人だったら多分それが幸いしていたのかもしれない。
今時の試合ではなかったし、試合としてはむしろ不格好だったかもしれない。しかしこれほど伝わるものが多い試合というのは、正直久々に見たような気がする。結果は両者譲らずの30分時間切れ引き分け。
この日はたかはし智秋あは立って良かったような印象。何度も中西を追い込んだジャーマンは立派だった。
試合終了のゴングとともに、惜しみない拍手が。この試合が始まるまでは、今日は引き分け多いよなぁと言っていた初心者たちも、もちろん拍手を送っていた。
中西の顔にはやり遂げたというより、決めてに欠けて勝利できなかった悔しさがありありと浮かんでいた。やはり二人にはもっともっと上のレベルを目指して欲しいし、そのくらいの気持ちは持っていてほしい。
でもキャリア2年ほどの選手たちが、これほどの試合を見せてくれたという事実には、心から賞賛を送りたいと思う。
この日セコンドに付いていても一番いい仕事をしていたのが元川だったんだが、そんな彼女が結構この日の中西を意識していたようにも見えた。
▼60分一本勝負
豊田真奈美&○伊藤薫(20分19秒 ダイビングフットスタンプ)堀田由美子&●前川久美子
先ほどの試合が地味だった分、思いっきりはじけた感じのあるメインになった。
華やかなスター選手たちが、華やかな技を次々と繰り出すのだから、それも当然だろう。会場もパーッと盛り上がっていた。素人の人たちもこの試合が一番面白かったなあ、と言っていたが、それも無理からぬことだと思う。
しかしそれは同時に確かなものをしっかり見せてくれた、セミの二人がメインを引き立ててくれたとも言えるわけだ。
そういう意味ではまさに神がかったセミファイナルだったと個人的には思う。
カード自体は3人のU-TOPSに囲まれた豊田という図式だけど、ここは一夜限りのフリーダムフォース復活とも言える。もっともこんなことでもなければ、地方向け大会の意味不明なカードでしかないのだけれど。
しかしで新生全女を何とかしたいという、4人の意思が好勝負を生んだのかもしれない。実際に10分を越える熱戦は、伊藤のサポートに回った豊田が堀田を抑え、その間に前川を会場を驚愕のダイビングフットスタンプで仕留めてピリオドが打たれた。
この四人の中では、伊藤の活躍が光ったかな?
後記
初めて全女を下関で見た時、たまたま主力選手が、海外遠征や怪我で相次いで欠場してしまい、スカスカの状態だった時があったが、その時休憩明けのタッグマッチで、地方では珍しい30分時間切れ引き分けの熱戦を見せてくれたことがあった。
こういう時だからこそ、もしかしたらあの時の再来があるのでは?という密かな期待があったのだけれど、まさかそれが現実のものになるとは思わなかった。
それだけにとても嬉しくて、試合終了後友人相手に「これは神がかったセミファイナルだよ!」と興奮して喋り続けてしまった。その横でロビーのソファーに座って、携帯片手に渋い表情を浮かべていた松永会長がいたにも関わらず。
新人たちが未来を見せてくれた反面、フロント陣は明るい未来を見せてくれそうにないなというのがこの日の大会の印象ではあった。
冒頭で言った通り選手の明るさが唯一の救いになっているような気がした。
ただ、経営縮小によって、毎年きてきてくれていた全女が、もう来てくれないのではないか?という一抹の寂しさはある。
下関はまだいいほうかもしれないが、何年かに一度生のプロレスが来ることだけを楽しみにしていた地方の人たちにとっては、今回の大会の出来事はとても残念なことになってしまったかもしれない。
そんな地方に生のプロレスを届けてくれていた、唯一の希望は今年で潰えてしまうことになってしまうのだろうか?
帰り道、偶然、試合が終わって宿泊施設へ引き上げていく選手たちを目撃した。試合のない選手たちが皆の荷物を持って移動していたのが印象的だった・・・