千の顔を持つ男
今回はあまりにメジャーすぎて取り上げるのを躊躇した、ジグソーの「スカイ・ハイ」を紹介します。言うまでもなく、これは「千の顔を持つ男」ことミル・マスカラス選手の入場テーマ曲であり、プロレス入場テーマ曲の草分け的存在となった名曲です。
演奏しているのは、1966年にイギリスのウェスト・ミッドランズ・コヴェントリーで結成されたジグソー(Jigsaw)。ソフトロックバンドとして1968年にデビューしました。
プロレス曲の金字塔
結成以降、鳴かず飛ばずの時期が続いていたジグソーでしたが、この曲のヒットで一躍メジャーの仲間入りを果たします。日本でもオリコン週間総合2位という大ヒットを記録しました。「スカイ・ハイ」のイメージが強すぎるため、一発屋と思われがちですが、実は他にも多くのヒット曲を残しています。
映画の主題歌として
この楽曲は、1975年の香港・オーストラリア合作映画『スカイ・ハイ』(原題:The Man From Hong Kong、主演:ジミー・ウォング)の主題歌として制作されました。カンフースターとして世界的に知られる「天皇巨星」ジミー・ウォング氏の世界進出作に、この曲が起用されたのも何かの縁でしょう。ちなみに、明るい曲調とは裏腹に、歌詞の内容が「失恋」をテーマにしている点も興味深いところです。
意外な選曲の背景
さて、ミル・マスカラス選手になぜ失恋ソングである「スカイ・ハイ」が選ばれたのか、その真相は定かではありません。一説には当時の日本テレビのプロレス中継スタッフが選曲したと言われていますが、世間的な流行に加え、楽曲のイメージがマスカラス選手の「空中殺法」を連想させやすかったことも理由の一つでしょう。
考えてみれば、ウルティモ・ドラゴン選手の「セパラドス」も、明るい曲調のわりに別離を歌っています。海外の楽曲においては、こうしたギャップは決して珍しいことではないのかもしれません。
独特な死生観と音楽
日本人の感覚では「失恋=演歌」のように、歌詞とともに曲調も暗くなる傾向があるように感じます。私自身、そうした先入観を抱いてしまいがちです。
さて、「スカイ・ハイ」には数多くのバージョン違いやカバー版が存在します。たとえば、新日本プロレスが主催したジュニアヘビー級の祭典『スカイダイビングJ』のオープニングで使用されたものは、ジグソーによる別バージョンやカバー版でした。
伝説の映画版イントロ
一方、ミル・マスカラスの入場テーマとして定着したのは、先述の映画『スカイ・ハイ』で使用された、イントロが長いバージョンです。
通常、ジグソーのアルバムに収録されている「スカイ・ハイ」は、イントロが短いシングルエディット版です。こちらも一時期使用されていましたが、やはり日本で初めて流れたプロレス入場曲の象徴といえば「映画版」であり、ファンの間では長らくCD化が待望されていました。
執念の初CD化が実現
しかし、映画自体が失礼ながらマイナーであったことも災いし、ファンの熱意をよそになかなかデジタル化されない年月が過ぎました。そして2002年10月、ついにアルバム『Jプロ格探偵団』にて初CD化が実現したのです。
日本独自のこだわり
このアルバムのライナーノーツには「世界初CD化」の文字が躍っていました。どうやら、この「映画バージョン」をCD化したのは日本だけだったようです。
プロレスの入場テーマは版権の問題もあり、世界共通で同じ曲が使えるとは限りません。むしろ国ごとに入場テーマが異なるのは一般的であり、だからこそマニアは好きな選手のテーマ曲を各国版でコンプリートしようとするのです。漏れなく私も、ニュートン版やジグソーの諸バージョンを一通り収集しています。
永遠に響く空中殺法
現在もなお、現役選手としてフライング・ボディ・アタックを披露しているミル・マスカラス。彼のキャラクターは唯一無二であり、一代限りの伝説となるでしょう。しかし「スカイ・ハイ」という楽曲は、マスカラスと共に永遠にプロレス界に刻まれ続けていくはずです。それほどまでに、この曲はプロレスという文化と切り離せない存在になっているのです。

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