プロレススーパースター本列伝 クーデター 80年代新日本プロレス秘史
解説
日本のプロレス・格闘技史における大きな分水嶺となった80年代新日本プロレスの分裂・移籍劇。初代タイガーマスクの引退、猪木の社長辞任、そして長州らの離脱とジャパンプロレスの設立、それらのすべてを知る立場にあった大塚直樹・元新日本プロレス営業部長が当時自身がつけていた「日記」をもとに真実を告白する。未公開の記述から初めて明かされるタイガーの引退、ジャパンプロレスの設立秘話などスクープ満載の書。
なぜ世に出したか?
かつて、新日本プロレスのリングアナや営業を歴任し、のちにジャパンプロレスを立ち上げて、1980代のプロレスシーンにいくつもの波乱を呼んだのが、この本の著者・大塚直樹氏である。
実際、ジャパン解散後はプロレス界からはフェードアウトし、一般の仕事をされており、マスコミにもでてこなかった氏が、なぜこの本を世に出したのか?
鬼籍に入った当事者たち
それは、本でも書かれているように、当事者の多くが鬼籍に入ってしまったことが執筆の動機のひとつとして書かれている。
驚くべきは30代だった大塚氏が当時の状況をメモにして残していた点である。
生々しい事件
唯一の生き証人として書かれた数々のメモは、当時の生々しい「事件」の数々を白日のもとにさらしている。
とはいっても、この本は暴露本の類いではない。
能動的理由がない
実際、現在の大塚氏は事業でも成功し、プロレス界とは縁のない世界で生きている一般人でもある。
要するに暴露本にありがちな、裏を暴いて小銭を稼ぎたいという、ある意味能動的な理由が全くないのである。
だからこそ、かつて起きた新日本プロレスのクーデターからはじまる一連の事件に関しては、当事者として当時の自身の反省も踏まえながら、あらためてまとめたのだということがよくわかる。
若くして野心を
1980年代、クーデター事件のことは既にリアルタイムで知っていた身としては、時を超え、あらためて突きつけられた真実に驚愕する部分も多かった。
そして、大塚氏が若くして野心をもってしまったが故に、失敗に終わったこともきちんと書かれている。
第三勢力として
ややネタバレになるが、ジャパンプロレスを旗揚げした際、全日本・新日本に次ぐ第三勢力とする構想もあったようだ。
実際、TBSにおいて長州力を中心にした特番が放送されていたことは、オールドファンならば記憶にあるかもしれない。
歴史の真実
これはもちろんジャパンの試合がTBSで放送されるのを見越してのことで間違いなかったようだ。
しかし歴史の真実として、結局TBSでジャパンプロレスの試合が放送されることはなかった。これも理由が事細か書かれているので是非読んでいただきたい。
青臭い黒歴史
やはり人間年をとってくると、若い時代に描いた夢や野心が青臭くみえてくるのかもしれない。
本来なら黒歴史として葬ってよかったのだろうに・・・
過去を清算
でも、それをあえて形にして世に出したことで、大塚氏は自らの過去を清算したかったのかな、と想像してみた。
時間がたつと人間関係もかわっていくようで、袂を分かったはずの猪木さんや長州さんとも和解が出来ていたそうだ。
非常に爽やか
それはあれだけ血なまぐさかったクーデターのエピローグとしては、非常に爽やかなものになっていた。
やはりプロレスは長く見続ければ見続けるほど味が出る大河ドラマなんだなあと、読了したあとに思い知らされた次第。