全日本プロレス「第6回王道トーナメント」【二回戦】博多大会(2018年9月22日 土 博多スターレーン:[観衆] 495人)
イントロダクション
下関ではかつて開催された王道トーナメント。意外にも博多では初開催なんだそうだ。今回は、初戦で秋山が骨折欠場というハプニングはあったが、概ね盛り上がりをみせている様子。一回戦の結果を受けて、二回戦は真霜対ドーリング、そして宮原対ジェイクという、チャンピオンカーニバルもかくやという好カードが実現。
今や大差をつけられたとはいえ、元々は新日本の対抗馬として長くメジャーの名をほしいままにしてきた全日本。人員も揃い始めてきたが、まだまだ全盛期からは程遠い。博多の入りも微増微減を繰り返している今だからこそ、新日本では取り込めないプロレスファンに訴えかけていかねばならない。決して並大抵のことではないが、一時は危篤状態からここまて復活した秋山全日本の底力に期待したい。
オープニング
博多スターレーンに入ると、チャンカンの時とは異なり、ハーフスペースに戻っていた。先週の新日本下関大会の有様をみているだけに、博多でこれだと全日本が新日本の対抗馬たるにはまだまだ時間がかかりそうだ。まあ、その分指定B席がまるでリングサイドみたいな位置にあるので、あながち悪い事ばかりではない。ただ、連休初日にこの入りはやはり寂しいかなあ。
FC撮影会は諏訪魔。なぜかBGMがT-SQUEAREのRODANだった。「RODAN」とは「空の大怪獣ラドン」のことであるのだが、劇中でラドンが破壊しまくったのが、昭和の天神だったことを思うと、この後諏訪魔が町を吹き飛ばすほどに暴れ回るのか・・・そんなことをついつい想像してしまった。
試合開始前に、けがで欠場することになった秋山準が登場。試合ができないことを詫びて、12月の最強タッグで再び博多スターレーンに登場することをリング上で約束した。
第1試合:シングルマッチ:20分一本勝負
×丸山敦vs〇ブラックめんそーれ
(5分46秒 金的→首固め)
突如として現れたブラックめんそーれ。めんそーれ親父とも中島洋平とも違うらしいが、現状打破にもがき苦しむ中での試行錯誤の一つだろう。
その努力は認めるが、現実は後から入団した岩本がジュニアのベルトを巻き、セミファイナルにラインナップされている。しかし、ブラックめんそーれは第1試合でノンタイトル。
相手はどんな立ち位置でも仕事がこなせる丸山ということになると、勘ぐればマッチメイカーから「保険」をかけられたようなもの。果たしてブラックめんそーれの「変身ぶり」やいかに。
さて、いきなり「プレイバックパート2」をミキシングしたテーマ曲で入ってきた、ブラック。やたら「しゃー!しゃー!」うるさいが、そもそも沖縄プロレスつながりでいうと、HABのパクリっぽいなんだよなあ。めんそーれ親父には親父の良さがあったんだけど。
よくよく会場を見渡すと、ブラックのしゃーに対して戸惑う観客がちらほら。「あの人、なんであーなったと?」という「ナゼの嵐」が吹きまくっている。微妙なキャラクターのブラックに戸惑う丸山だが、仕方なく付き合っていると、まさかのレフェリーのブラインドをついた金的攻撃!これで悶絶した丸山をブラックが丸め込んで勝利。
しかし、ブラックめんそーれが何をしたいのかは、最後まで分からずじまいだった。
第2試合:タッグマッチ:30分一本勝負
〇大森隆男&新泉浩司vsウルティモ・ドラゴン&×無宿の「赤虎」
(7分17秒 アックスボンバー→片エビ固め)
プロレスリング華☆激のゲストから、だんだん全日本博多大会の登場人物の一人として認知されはじめている新泉だが、華☆激では無敵の三冠王も、いざ王道マットに上がると今ひとつ爪痕を残せないでいる。それはこの後に出てくるKINGも同様なんだが、せっかくチャンスを貰えている以上、もっと上に食い込んでほしい、というのはファンの偽らざる願いでもある。
赤虎は校長の露払いというか太鼓持ちに徹して、大森を撹乱しつつ新泉を狙っていく。華☆激にも散々参戦している校長は新泉に対して、実に効果的なジャベのオンパレードで新泉を大いに苦しめる。この流れる様な一連の校長のテクニックは、飛べなくなってもウルティモ・ドラゴンがいまだトップ戦線で活躍出来ている秘訣のひとつなんだろう。悶絶する新泉には申し訳ないのだが、美しさすら漂っていた。さすが世界の究極龍、いまだ健在である。
しかし、パートナーの大森が新泉を完全にローンバトルにさせない。さすがだてにキャリアは積んでいない。シングルももちろんだが、数々の名タッグチームを世に送り出した大森のスキルは、さすがというほかなかった。特に体格差を生かした迫力ある攻撃にはさしものウルティモドラゴンもタジタジになるほど。
新泉もただやられているだけではなく、場外では校長を追撃し、打撃で追い込む。ここで珍しくややムキになった校長が新泉を追いかけている間に、大森が赤虎を捕獲。最後はアックスボンバーで曲者退治に成功。
第3試合:8人タッグマッチ:30分一本勝負
〇諏訪魔&石川修司&青木篤志&佐藤光留vs×野村直矢&青柳優馬&ヨシタツ&KING(15分43秒 バックドロップ→体固め)
エボリューションが第3試合というのも、何ともすごい話だが、対角線上にKINGがいるというのももっと凄い。華☆激から独立して、佐賀を拠点に活動するKINGにしてみたら一大チャンス。
しかし、華☆激では非凡な強みになっている体格とパワーがこの組み合わせの中では平凡になってしまうのが恐ろしいところ。ヘビー級戦線がどの団体より充実している全日本ならでは、とも言えるが、味方に遠慮していたら、出番自体がなくなりかねない。
それでなくても野村や青柳はチャンスに飢えているし、ヨシタツも「後がない」事は承知している。うかうかしていられないという意味では全員が敵なのだ。こんなシチュエーションは華☆激ではまずお目にかかれない。KINGのプロレスラーとしての存在意義が問われかねない一戦と言っていい。
試合は若さと勢いで野村と青柳が攻勢に出るが、すぐにエボリューションに流れが変わる。なぜか諏訪魔が先頭に立って大暴れ。場外ではKINGめがけて机を投げて、久々に暴走モードに。
正直、諏訪魔の暴れっぷりに他の選手が霞むくらい、この日は諏訪魔一人がいきり立っていた。青柳や野村は中盤以降タジタジ。しかも諏訪魔は更にKINGまで標的にしだす。決して小さい選手でははいKINGがこの中に入ると小さくみえてしまう。
ということはKINGはまだ自らの体格を生かし切っていない、とも考えられる。暴走大巨人にあそこまで暴れられると、普段通りに試合をすればいいというわけにはいかないだろう。やっぱり今後、単なるお客さんで終わらないためには、KING自身もまだまだアップデートが必要だと思った。
試合はローンバトルになった野村を諏訪魔が急角度のバックドロップ葬。あれがでると勝負あったと思わせてしまう時点で、まだまだ野村と青柳には足りないものが多いんだなあと思わされた試合だった。
第4試合「第6回 王道トーナメント」二回戦 時間無制限1本勝負
×ジョー・ドーリングvs〇真霜拳號
(9分48秒 エビ固め)
自団体ではまずぶつかり合えない巨漢対決は、真霜にとってもこれ以上ない刺激には違いない。多分真霜が全力で蹴っても倒れない相手というのは、プロレス界見渡してもそうたくさんいるわけではない。
前哨戦でドーリングとぶつかった感想を真霜は「石川修司よりデカイ」とツイートしていた。当然攻略するにも今までの常識が通用しない。インディ界一あたりが強い部類に入る真霜ですら手を焼く存在。それがドーリングであり、全日本プロレスなのだ。さあ、どうでるか?真霜?
序盤はほぼジョーのペースで試合が進む。不用意に組み合わず、距離を置いて蹴り、密着して関節技と、真霜は実に理詰めで攻めていくが、ジョーの規格外の一発で全てひっくり返されてしまう。
特に場外ではまざまざとパワーの差をみせつけるジョーの前に、真霜は青息吐息。誰もがジョーの勝ちを確信したその隙に、スッと身体を屈めた真霜が電光石火の丸め込み。まさかの逆転負けに呆然とするジョー。してやったり!の真霜はリング下で勝ち誇る。
レフェリーにも詰め寄るが、当然判定は覆らない。まさかの敗北に意気消沈したジョーは退場時に入り口近くに飾ってある王道トーナメントの優勝トロフィーをジッと見つめていた。
第5試合:6人タッグマッチ:30分一本勝負
ゼウス&ボディガー&×ギアニー・ヴァレッタvs崔領二&〇ディラン・ジェイムス&火野裕士(14分21秒 チョークスラム→片エビ固め)
これもど迫力対決。ビッグガンズにヴァレッタを加えたトリオはまさに規格外だし、対する崔&ジェイムスに火野を加えたトリオだって大概なメンツである。
こういう大型選手同士のぶつかり合いを毎日繰り広げていたのが、鶴龍全盛期だった。決して小さい選手ではない長州力が全日本のマットでは小さくみえたくらい、当時の全日本プロレスに集う選手は、大きさからして桁違いだったのだ。
往年のNWAやAWAのような世界的後ろ盾がない現代で、大型選手同士のど迫力対決を実現させるには、インディの力も不可欠。そこは昔に比べてかなり柔軟になった秋山社長の采配の妙が、こうしたスーパーヘビー級対決を実現させたと考えられる。
まあ、予想していたことではあったが、細かいことはいいっこなしのど迫力な攻防がこれでもか、とばかりに繰り広げられる。さながら肉弾戦のオンパレード!細かい理屈も何もかもが吹き飛ばされる迫力に、見ているこちらはただ唖然呆然とするほかない。
中でも三冠ベルトを虎視眈々と狙う火野はチャンピオン・ゼウスと一歩も引かない真っ向勝負を繰り広げる。胸を突き出して互いのチョップをうけあう流れは、大概どんな試合でも見られる光景だが、肉体自体が規格外な火野とゼウスの攻防は「ありふれた」ものとはとても呼べなかった。
とにかく一発一発の音がすごい!そして重い!効いてないはずがないゼウスの水平チョップを、サッサと手で払う火野に対して、三冠チャンプが更にムキになって迎撃。しかし耐えに耐えた火野は、三冠王者の反撃すら真正面から受け止めて吹き飛ばす。会場が驚きと興奮に満ちたどよめきで包まれたのが印象的だった。
火野が打ち勝ったとはいえ、激闘の爪痕は我慢できるほど簡単なものではなかったようだ。コーナーに戻る時に火野がほんのすこしだけ苦痛に顔を歪ませていたが、火野裕士にこんな表情をさせるくらい、ゼウスの攻撃も容赦なかったのだ。
試合は大乱戦の中、ジェイムスがヴァレッタを高角度ノド輪落としでマットに突き刺してカウント3!ど迫力の怪獣大戦争に終止符を打った。
長らくジョー・ドーリング以外に大型外国人選手がいなかった全日本だが、ここへ来て着実に外国人選手もコマが揃いつつある。黒星を喫したヴァレッタも日本マットに慣れてくると、ジェイムス同様侮れない強敵になりうるだろう。彼らの中から次世代の三冠王者が生まれても決しておかしくはない。そう思わせるだけの内容があった試合だった。
第6試合:世界ジュニアヘビー級選手権試合:60分一本勝負
【第48代王者】
×岩本煌史vs【挑戦者】〇近藤修司
(17分26秒 キングコングラリアット→片エビ固め)
*岩本が初防衛に失敗。近藤が第49代王者となる。
さて、青木を破り、並み居る全日本ジュニアの代表格にまで上り詰めた岩本が向かい合うのは、かつて武藤全日本時代にジュニアの象徴でもあった、近藤修司。団体を違えた今となっては、直接あたる機会もたくさんあるわけではない。
岩本は無論、武藤全日本時代にはまだ全日本の選手ではなかったのだから、わざわざ外敵を迎え撃つ理由はそれほどない。それでも近藤修司とぶつかる道を選んだということは、岩本なりの覚悟の表れであろう。
序盤は岩本が執拗なヘッドロックで近藤を追い詰める。当然力で勝る近藤は振りほどこうとする。しかしなかなか岩本は離れない。業を煮やした近藤は、一旦場外に岩本を叩き出すが、すぐに生還した岩本が再びヘッドロック。
この攻防を試合終盤まで続けていたら、あるいは結果が変わったかもしれない。しかし、頭部にダメージあり、とみた岩本は場外で近藤に投げっぱなしドラゴンスープレックスで、一気に畳み掛けようとする。
私は5分過ぎで岩本自らヘッドロック勝負を放棄したことで、流れが近藤に傾かないか?という危惧を抱いていた。なぜなら、相手はあの近藤修司である。ジュニアにあるまじきパワーだけがウリではない。無類の打たれ強さもジュニアの範疇を軽く超えているのだ。
だが、岩本は近藤と意地の張り合いをしてしまった。ビッグガンズや火野がバチバチやりあった試合はノンタイトルだからこそできた試合。タイトルマッチで受けを競ったら、それは体格で勝る近藤が有利に決まっている。
私の脳裏には、かつて怪物・ジャンボ鶴田から初勝利をあげた三沢光晴の姿が浮かんでいた。あの時三沢さんがこだわったのは、エルボーでもなく、タイガードライバーでもない。フェイスロックだった。
当時ですらつなぎ技に格下げされていた技をフィニッシュホールドにした閃きを私は未だに忘れられない。だが、フェイスロックもヘッドロックも一撃必殺の技ではない。辛抱して辛抱して、相手が根負けするまで締め上げる。「これでギブアップを奪うんだ!」という強い意志がなければ、ただの奇策で終わってしまう。岩本の着眼点は非常に素晴らしかったが、残念ながら近藤の土俵で勝負しようとした時点で敗北は確定していた。
試合後、いてもたってもいられなかったのだろう。佐藤光留が乱入。「世界ジュニアのベルトはな、全日本プロレスのものなんだ。全日本を出て行ったあんたが巻いていいベルトじゃない!」と、新王者に挑戦表明。
今までも他団体の選手が巻いてきた事がある世界ジュニア。ただ、いずれも全日愛に溢れた選手が巻いただけに、それほど問題にはならなかった。だが、全日本から飛び出して出来たW-1の選手となれば話は別。
しかも、対近藤という事に限っても岩本は三連敗になるのだ。リスクのデカイタイトルマッチは、岩本に重い十字架を背負わせる無情な結果に終わってしまった…。
メインイベント「第6回 王道トーナメント」二回戦 時間無制限1本勝負
〇宮原健斗vs×ジェイク・リー
(19分31秒 シャットダウン・スープレックス・ホールド)
全日本の未来を担う若き二人に任されたメイン。全日本プロレスというのは、生え抜きだろうが、移籍組だろうが、選ばれし者だけしか上に立つことが許されなかった。
ミュンヘン五輪アマレス代表のジャンボ鶴田は言うに及ばず、雑草系にあたる天龍源一郎でさえ、元・大相撲力士という肩書きがあり、試行錯誤しながらメインイベンターになっていった。
そこへいくと、宮原にもジェイクにもいわゆるバックボーンと呼べるものがない。一応、高校時代に柔道部に所属していた、というだけ。しかも宮原は他団体でデビューした選手である。その健介オフィスの1度目の入門テストでは、基礎体力が不足していたため不合格という結果に終わり(現実は保留という形だったらしいが)、入門テストの疲労から帰りは歩けなかったという惨憺たる有様だった。
デビュー後も先輩の中嶋勝彦の陰に隠れる形でこれといった成果も出せていなかった事を考えると、宮原が今の地位に上り詰めたのは奇跡とも言えよう。
かたやジェイク・リーも恵まれた体格で将来を嘱望されながら、2012017年に引退、そして2015年に復帰後、翌年から2年間の長期欠場を強いられるなど、こちらも苦難の道のりを歩んできた。二人が全日本プロレスのメインには相応しくないという声も依然あろうし、そういう声を黙らせきれない宮原政権はまだまだ盤石とはいいがたい。
でもあの若さで王道の大看板を背負う覚悟というのは並大抵のものではないだろうし、自身が幼いころに観戦した全日本に自分があがって、しかも屋台骨として活躍しているのだから、やはり大したものだと思うのだ。
ただ、この試合に限ったことではないのだが、全体的に少し気になる点もあったので、触れておこうと思う。それは場外での攻防が多すぎたこと。この試合も双方の意地の張り合いから、なかなかリング内に戻ろうとしなかった。それはいいのだが、和田京平レフェリーの静止も無視する形で、2人が熱くなりすぎたのはどうかと思う。
宮原が過去にこだわらないのは勝手だが、全日本という団体は歴史を無視して語れるほど底の浅い団体ではない。自分たちがいるのは過去の積み重ねがあった上でのことという事実を受け入れない限り、「最高」はh度遠いと思う。特にたびたび見られるレフェリー軽視の傾向は本当にいただけない。
とはいえ、一方のジェイクにしろ、宮原にしろこの試合にかける執念みたいなものは試合から痛いほど伝わってきた。間違いなく激闘だったと思うし、お互い死力を尽くした攻防になったと思う。それだけに場外の展開が多すぎたのと、レフェリーの静止を聞かない姿勢は疑問を持たずにはいられなかった。
ただ、宮原独走状態にあったところに、ジェイク・リーという対角線にたてる逸材が出現したことはまぎれもない事実。正直足りないところはたくさんあるけれど、宮原の牙城を脅かす存在になってきたことは大変興味深い。
後記
最終的にははハーフスペースのスターレーンも9割は入っていたし、最後の熱狂ぶりはフルスペースの時と何ら変わらなかった。個人的にはハーフスペースの方がリングも近いし、見やすいので助かるけれど、メジャー復興を目指す全日本がこれではやはり困るのだ。王道トーナメントがまだ歴史の浅いイベントということもあろうけど、試合内容ではチャンカンに劣っていると、私は思わない。
第一試合以外は「あたり」だったし、機会があれば来年もまた見てみたいと思った。秋山全日本の挑戦はこれからも見守っていこうと思っている。内容の濃い大会だった。