がむしゃらプロレス『GWO TYPHOON ~時代は俺らを求めてる~』観戦記(2015年2月15日(日)北九州パレス)
イントロダクション
この日までいろいろなことがあって、個人的にも悔しい思いやジレンマもあった。やはり生きていると楽しいことばかりではない。プロレスだってアニメだって心理関係だって、好きでいられる代償は誰しもが払っている。でもそういった感情のぶつけ場所のひとつとしてプロレスがあるのであればそれは素晴らしいことだと思う。感情のみえない試合はみていても面白くない。選手が感情をみせてこそはじめて観客はカタルシスをえられるのだ。圧倒的な力となったGWOに手薄な正規軍がどう立ち向かっていくのか?力に任せたGWOがこれをいつぶしていくのか?今年最初の大会はいつもとはやや勝手が違う感じがしていた。
第一試合:▼GWO TYPHOON おまけマッチ(30分1本勝負)
×竹ちゃんマン & ガムコツくん & セクシーロージィ vs ダイナマイト九州 & 小倉発祥パンチくん & ○タシロショウスケ(9分30秒)
なんか聞いたようなテーマ曲(BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY=新・仁義なき戦いのテーマ)で、いきなりにらみをきかせて入ってきた前タッグ王者とタシロ。パンチくんなんか完璧に、小倉発祥の「その筋のひと」(20世紀の、だけど)の恰好になっていて、もはや「パンチさん」である。で、リング上で手書きの文字で「田代軍」と書かれた変な布を出して「これから田代軍としておまけ試合をしきっていく」と高らかに宣言。しかし武闘派宣言?をした割には試合内容はいつもどうり。相変わらず人を煙に巻くファイトスタイルではあったが、もともとは同じユニット(セクシーおまけ軍)だったこともあって、そうそう九州ペースの試合にはならない。特にロージーの手足?になったガムコツくんと竹ちゃんマンが結構お笑いマッチの中でも頑張って、色をみせていたのが面白かった。
まあでも田代軍がどこまで長続きするのか?それとも5月の大会では全くなかったことになっているのか?そのあたりが楽しみではある。
第二試合:▼GWO TYPHOON シングルマッチ(30分1本勝負)
○MIKIHISA vs ×紅(3分51秒)
この試合は新人同士でしかも同期対決という、今ではメジャーどころでもあまり見ない組み合わせだったこと。ライバル関係をことさら丁寧に伝える必要もなく、ただ目の前の敵に対して闘志をむき出しにしてかかっていけばいい。見せ方について頭をひねる必要もない。しかもお互いに選手として、人間としての、信頼関係もある。だったらなおのこともっとガンガンいってもよかったと思う。特に両者とも蹴りを売りにしていて、その蹴りの種類もまた異なるわけだから、序盤から探り合うよりスタミナも気にせずフルスロットルで蹴りあってもよかった。ましてや今大会で唯一入場テーマを流さず入場したのであれば、なおのこともっともっとシンプルな試合でもよかったと思う。
もうひとつ、同日デビューながらややMIKIHISAが先行しかかっている状況にあって、紅は一気にその差を埋められるまたとないチャンスだったと思う。だからこそこの試合が、先行されたそのままの結果で終わったことは残念でならない。もしこういう勝ち方をするんであれば紅がこういう結果を狙うべきだったのではないだろうか?もちろんMIKIHISAもこれで同期に勝ったとか超えたとかはこれっぽっちも思ってはいないだろう。だが、プロレスは負けてからが本当の勝負の始まりである。何もできずに負けた紅はこれを機にまず同期越えを果たすという課題ができたわけだし、こういう張り合いのあるライバルにめぐまれたということは幸せなことである。この緊張感のある関係を保ったまま成長していけばきっとがむしゃらの黄金カードにもなるだろう。その可能性はあるということ。あとは、2人がどうプロレスと向き合って、どう自分の中で落とし込んでいけるかだろう。
第三試合:▼GWO TYPHOON シングルマッチ(30分1本勝負)
×ジェロニモ vs ○久保 希望(フリー)(9分41秒)
物事の習い始めは、誰しもただ教わった通りにしかできなかったり、覚えが悪くて教わったことがなかなか会得できなくてあがきもがいた経験があることだろう。そうこうしていくうちに、だんだん色んなことを覚えていって、それがやがて人にも説明して教えられるようになってはじめて、やっと受け身だけだったところから、次のレベルに行ける。人にものを伝えるということは、当然自分が自分の身体に落とし込むことをしてないとできないんだけど、その自信がなかなかもてなかったり、最初は先生やコーチと呼ばれることへの葛藤がおこったりもする。そうこうしながらだんだん一人前になっていく。
この大会はどの試合も好勝負連発だったけど、あえていうならこの試合がべストだったと思いたい。一見すると久保にジェロニモがチャレンジするような試合形式だが、実はそれだけではない。久保は10年をこえるキャリアの中で、さまざまな苦汁をなめてきた。そしてそれを糧として成長してきた。で、人に自身がこれまで得てきた経験を伝え始めている。ニコラス戦然り、今回のジェロニモ戦しかり。しかもそれぞれ全く異なる形でメッセージを残していっている。何を得たかは人それぞれだろうけど、伝える側として久保希望が確実に成長し次のステップに向かって進化しているさまをみられたことは大変貴重だったと思う。悔しさをばねにして課題を克服してきちんとキャリアを重ねていっているあたりには、頼もしさすら感じる。
一方正規軍に復帰して心機一転のジェロニモは待望の久保戦ということもあって、気合も十分。ヒール時代から続けているたまご飲みも行い、久保戦へはやる気持ちをおさえられない感じ。序盤のタックルの取り合いはがむしゃら内ならジェロニモの一本勝ちだろうけど、その低空飛行するジェロニモを上から的確につぶしていく久保の優位は動かない。ともするとここら辺で攻め急ぐきらいがあったジェロニモだけど、気合が入り過ぎということもなく、この辺はとられても冷静。場外に戦場をうつすと、エプロンサイドでまさかのジェロバスター。これはさすがにプロ相手でないと出せない技だろう。だがこれも久保に決定的なダメージを与えられない。
正直、次の手次の手をつぶされてジェロニモは悔しいのではないかとみている側は勝手に想像していた。実際久保の攻撃も防御も「本当はジェロニモが久保をこのように攻略したいのではないだろうか」というような展開だったからだ。まあ、それを許すほど甘い相手ではもちろんないのだけど、久保は同時にプロの領域をお客にも実にわかりやすく伝えていた。といっても相手を見下した態度をとるわけではない。対戦相手として尊敬したうえでつぶすという高度な試合内容だった。そこにくらいつこうとジェロニモが必死にあがいたところがこの試合を名勝負にした。だからあとでジェロニモが試合後に流した涙は「うれし涙」だったと聞いた時は背中がぞくっとした。リング上で人目もはばからず悔し泣きをするというのは実をいうとプロでもないわけではない。だが、ここまで差をみせつけられたことが逆にうれしいというジェロニモの気持ちは、プロレスを愛するものとしては痛いほどわかった。だから感動もしたのだ。今考えるとあれが悔し涙だったならここまで感動は残らなかったと思う。
で、話が第二試合に戻るのだけど、新人2人にはこの領域を目指して精進してほしいのだ、試合順とダメージの関係もあってこの試合はみられていないと思うので、あえてこれは書いておきたかった。この試合は久保が己の成長を伝えた試合であるのと同時にジェロニモも己のプロレス愛を満天下に伝えきった試合だったのだ。
第四試合:▼GWO TYPHOON タッグマッチ(30分1本勝負)
④YASU & ×TA-KI vs ○豪右衛門 & 林祥弘(12分25秒)
ただのヒールユニットではないというGWOの中にあって、一番ヒール経験がないのが林と豪右衛門の2人。付け入るとしたらそこだとは思っていたが、YASUの機動力をうまく使った上で、TA-KIの極悪殺法で正規軍はいきなり先手を取った。その後も要所要所でクレージージャスティスの本領を発揮。以前も組んではいたけど、今のTA-KIとYASUの頭脳とスピードの連携はこれからの闘いを面白くしてくれそうな予感。
しかし一発でそれを返せるのが今のGWOの勢いである。特に請われてGWO入りした林のYASUに対する攻めは全く容赦がない。豪右衛門も昨年GAM1決勝まで勝ち抜いた勢いは衰えておらず、やはりあっという間に攻守逆転してしまう。その勢いはTA-KIの狡猾な攻撃が付け焼刃にみえるほど圧倒的だった。それゆえか試合後のTA-KIの悔しがり方は半端なかった。やはりクレージークレバーでやってきたことが通用しない現実をつきつけられては心中穏やかではいられまい。ただ、狙いどころは間違ってはいないので、どこかに隙あらばそこを抉り出すいやらしさは失わないでほしいと思っている。たぶんそこはTA-KIにしかできないところだからだ。
第五試合:▼GWO TYPHOON 6人タッグマッチ(30分1本勝負)
⑤×ジャンボ原 & 陽樹 & ハチミツ二郎(東京ダイナマイト) vs マスクド・PT & SMITH & ○藤田ミノル(フリー)
(19分49秒)
※0分04秒でハチミツ二郎選手が藤田ミノル選手に敗れたため再戦
試合内容をざっと振り返ると、正規軍の助っ人で入ったハチミツ二郎がGWO打倒を宣言し、藤田の勧誘にも応じず、試合開始後4秒でフォール負けし、泣きの再戦を申し込んで今度は激しい試合になるも途中で二郎が寝返って、GWO入り。そのまま4対2でGWOが圧勝という展開だったのだが、正直、このカードが一番アナウンス聴いてピンとこなかった試合だった。正直言うとプロの2人に闘う理由があまりないことと、彼らが入ったことで本来正規軍対GWOというユニット対抗戦でもあり、次期タッグ王座を狙える位置にもいるはずの陽樹とジャンボの2人とスミス・PTの絡みがぼやけてしまった。そのうえ、本来面白い方に行きそうなハチミツ二郎が漢気をみせたのも不自然だったし、過去このパターンは割とやりつくしているので、意外性もなかった。どこかでメンバー拡張はするだろうとは思っていたけど、原も陽樹も能動的にGWO入りする理由がない。まあ今正規軍に残っているメンバーは全員そうなんだけど、GWOに移籍しても明確なビジョンがない。そこへいくとプロ枠でゲスト参戦しているハチミツ二郎しか「裏切り者」がいないという結論になってしまう。
かといって藤田対二郎という対戦でも「?」なんで、結果的には仕方ないのかもしれないけど、欲を言えばPT・スミスに次回陽樹・原でタッグ挑戦みたいな流れができてほしかったなというのが正直なところ。実際ジャンボも往年の一番いい時期の必死さみたいなものをこの試合で出していたし、陽樹にしてみたら望んで闘いたい相手が3人まとめて対角線にいるわけだからモチベーションも高かったはずなのだが、ちょっとこの展開では正規軍を貶めすぎたような気がした。やはり敵対する陣営あってのGWOなんでその辺のさじ加減はやはり今後調整が必要だと思う。
第7試合:▼GWO TYPHOON GWA Jrヘビー級選手権試合(60分1本勝負)
⑥【挑戦者】×L.O.C.キッド vs ○TOSSHI【王者】
(15分20秒)
大会開始前に唯一発表になったカードがこの試合。ここにも問題があって実はGWOのジュニアのチャレンジャーがキッドしかいないというところなのだ。もとヒールとしてのTOSSHIのクオリティーも結構高いので強いて言うなら彼がGWO移籍という手もないわけでないだろうけど、それではただですら戦力が偏っているGWOのピントがぼけかねない。それでなくても「おもしろそう」という意味合い意外これといって理由がなさそうなハチミツ二郎加入という場面を前の試合でみていることもあって、ここでTOSSHIが寝返ることはまず考え難かった。
そこらへんの軍団事情はさておいて、実をいうとYASUには勝率のいいTOSSHIも実はキッドを苦手としている。復帰後、闘って勝ち星なし。一昨年の3WAYも結果王者になったのはキッドだったし、やはり相性という点を考えても一番苦手なタイプなんだろうと思われる。しかしもてる術を惜しまず投入したことで試合は白熱した。やはり今のジュニアの中心人物同士の試合がおもしろくならないわけがない。乱入とか裏切りとかは今のジュニアの闘い模様にはふさわしくないし、やってもらいたくもない。
試合が進むとキッドが優位に立つ場面が多々でてきて、ちょっと押されてるのかなと思ったけど、キッドの守護神であるラダーを使わせなかったあたりがTOSSHIの成長した部分だったのかなと思う。それだけ試合に集中してないといけない状況と、正規軍の砦としての責任感みたいなものがTOSSHIを強くしていた感があった。
この2人にYASUとKAGをいれた4人がおそらく今後のジュニアの中心人物になっていくのだろうけど、昨年あれだけ組まれたジュニアの王座戦も対GWOということになるとこの顔合わせを連発してもなあというところがあるけれど、今後どうなっていくのか?楽しみな反面、若干不安もあったりするのだが。
第七試合:▼GWO TYPHOON スペシャルタッグマッチ(30分1本勝負)
⑦×七海健大 & 阿蘇山(九州プロレス) vs 鉄生 & ○KENSO(全日本プロレス)
(18分37秒)
このカードも本当を言うとKENSO対阿蘇山、七海対鉄生という方向性でみたかったのだが、意外な化学反応がおきた試合だった。やはり試合は生ものだなあというのを痛感させられた。まずどうも阿蘇山のコンディションが今一つな感じがした。鉄生に関してはまさしくそびえたつ山の如しで、あの勢いにのる鉄生を一発でふっとばす破壊力をもついつもの阿蘇山らしさがこの日は影をひそめていた。鉄生ももちろん成長しているからこそ、師匠をおいこめたのはいうまでもないが、その山になりきれてない阿蘇山とは対照的に、悠然と七海健大の前に立ちふさがったのが、KENSOだった。立ち振る舞いから一撃一撃の破壊力までこれでもかというくらい本気の攻めを七海に浴びせ続けた。だてに日本、アメリカ、メキシコという世界をみて、そのトップに立ってきたわけではない。
しかし、このKENSOの攻撃を七海はなんと受け切ったのだ。どこで終わってもおかしくないほど完璧に決まっていたのに、それでも立ち上がっていく七海。鉄生相手にこれだったら正直がっかりしただろうけど、相手はあのKENSOなのだ。それを考えると大健闘ではすまされない。正直ベストバウトにしなかったのは、最終的に七海が流した涙が「悔し涙」だったからだ。プロでないけれど、プロに負けじとやってきたのに、やっぱりプロに負け悔しいというのはもちろんわかるし、七海自身のコンディションも決してよくなかったので、泣きたい理由もわかるのだ。だからこそ、それでもどうせ泣くんなら、先を越された鉄生に挑戦という形にするよりも、いつかはKENSOを倒して全日にのり込んでやるくらいの気概があったら、この日流した涙も無駄にはなるまい。
結果は無残に終わったけど、可能性が少しでもみえたのはよかったと思う。ジェロニモの涙がうれし涙でよかったと思えたのと同様、七海がこの試合で悔し涙を流してくれたことは個人的にはうれしかった。そしてその悔しさを正規軍全員がわかちあっていたのも印象的だった。
後記
これから流れをかえるのは大変かもしれないけれど、やはり対抗勢力がいないと一党独裁はつまらないから、この日流した2人の涙にあえて今年のがむしゃらプロレスをかけてみたいと今は割と本気でそう思っている。