DDT「D王 GRAND PRIX 2019 in HAKATA」(2018年12月9日(日)博多スターレーン)
イントロダクション
この日は門司で九州プロレス、小倉でがむしゃらプロレス、博多では大日本&DDTと福岡県は興行大戦争。ばらけて欲しかったなあ、というのは正直あるけど、決まったもんは仕方ない。というわけで私はがむしゃらファン感謝デー→DDTを選択。
無理してでもDDTが見たかったのは、滅多に見られないD王グランプリが博多で開催されるから。トーナメントは以前観たけれど、D王はなかなかチャンスがない。
普段ネタに走る文化系プロレスを自認するDDTがプロレスで強さを競い、来年2月の両国のメインを狙うリーグ戦。
樋口が二連敗スタートするなど、波乱に満ちたリーグ戦。しかも現KO-D王者カリスマ佐々木はHARASHIMAと。またKO-D最多防衛記録を持つ竹下は、総合格闘技界の異端児、青木真也と激突する。このカードをみて行かないという決断は私にはできなかった!
オープニング
しかし、がむしゃらファン感謝デーは17時過ぎに終了。いつもなら18時試合開始になるスターレーン大会もシングルトーナメントのせいで、開始時間が30分早いのだ。
どんなに頑張っても、リーグ戦のどれかは見られない。小倉駅についたのは17時40分。新幹線は55分発しかない。博多についてダッシュでスターレーンへ。階段を上って場内に入ると、ちょうど彰人対プーマ・キングが終わり、プーマ・キングが退場してくるところだった。
オープニングマッチ
○高尾蒼馬&×島谷常寛&アズールドラゴン vs 〇坂口征夫&高梨将弘&渡瀬瑞基(8分55秒 コブラクラッチ)第二試合:ルチャ・リブレルール
○大鷲透&〇平田一喜&上野勇希&相島勇人 vs マイク・ベイリー&×アントーニオ本多&梅田公太&飯野雄貴(11分36秒 奇跡を呼ぶ一発逆転首固め)
○Aブロック公式リーグ戦 30分一本勝負
×彰人 vs 〇プーマ・キング(10分28秒 変形ロメロスペシャル)
この試合まで見られず。ということで、公式サイトへのリンクを張っておいた。個人的にはプーマ・キングの試合は見たかったなあ。あの彰人から白星あげたとなれば気にならないといえばウソになる。しかし、見逃したのが公式戦一試合で済んだことはむしろ幸運だったとも言えるだろう。
○Aブロック公式リーグ戦 30分一本勝負
〇樋口和貞 vs ×MAO(13分46秒 ドクターボム→エビ固め)
私が見たのは、ちょうどこの第四試合から。2人はDNA時代からの出世頭対決。元・タッグ王者と現・タッグ王者との対決になる。ある意味キチガ○のMAOに対して、樋口がどれだけリミッターを解除できるか?
試合開始直後は、極めてオーソドックスな攻防に終始していたが、場外に出てから一転、MAOの中に何かスイッチが入ったのか、「博多駅へいくぞー」と、いつものDDTのノリで外に出ようとしたが、これは松井レフェリーが静止。ならば、と今度はスターレーン南側後方で、樋口に相撲勝負を挑んだ。が当然これはMAOの負け。しかし追撃に出た樋口をMAOが鉄板の上に叩きつけ、一気に逆転。
だが、序盤からそうだったが、なぜかこの日のMAOは、やたら力勝負を挑んでいく。相手の土俵で勝負したい気持ちはわかるが、樋口に比べて体重でもハンディがあるMAOは、得意の空中戦でもう少し樋口にダメージを与えるべきだった。
終盤に出した竜巻旋風脚も樋口に止められてしまうし、MAOの作戦ミスが随所で目立った。逆に樋口はノアマットでリーグ戦を体験している分、終始冷静だった。樋口を慌てさせるに至らなかったのは、やはりMAOの若さが裏目に出たとしか言いようのなかった試合だった。
逆にフィニッシャーになったドクターボムなどは、MAOが万全だったら切り返しもできたので、自身にダメージがなければ一発逆転も可能だっただろう。それだけに、自ら誘い水を出してパワーの前に屈したという点ではMAOには課題の多い闘いになったように、私は思う。
○Bブロック公式リーグ戦 30分一本勝負
×遠藤哲哉 vs 〇サミー・ゲバラ(11分59秒 シューティングスタープレス→片エビ固め)
遠藤が外国人選手とシングルでぶつかる試合は多分始めてみる。サミー・ゲバラは、フリーになった入江率いるレネゲイツでその実力者ぶりを存分に発揮していた試合巧者。
試合は文字通り意地と意地のぶつかり合い。DDT一のハイフライヤー、遠藤に対して、ゲバラもハイフライで勝負を挑む。その場跳びシューティングスターも、ゲバラが仕掛け、遠藤の場外弾を受けたあと、すかさずリングインして逆襲のトペをお見舞いするあたり、サミー・ゲバラの負けず嫌いっぷりがたっぶり現れた試合になった。
遠藤としてもハイフライヤーとして負けるわけにはいかない。サスケスペシャルをはじめ、一通りの技は繰り出したものの、肝心の決め技は、ゲバラが読んでかわすという展開に。決まり手の半歩先をゲバラが先んじるため、遠藤は自分のパターンに持ち込めない。
最後は遠藤のお株を奪うかのようなシューティングスタープレスで、ゲバラが遠藤からカウント3を奪取!ただ負けるならまだしも、自分の土俵で勝負を挑まれて負けた、とあっては遠藤の心中も穏やかではないだろう。
しかし、これでゲバラは確実に上位陣に食い込んでいく事は間違いないだろう。ある意味D王本命の遠藤が敗北した事で、リーグ戦は混沌としてきた!
○Aブロック公式リーグ戦 30分一本勝負
×佐々木大輔 vs 〇HARASHIMA(15分47秒 蒼魔刀→体固め)
かつて佐々木大輔が中堅の実力者として、地味に仕事をしていた時代、華々しくDDTの不動のエースだったのがHARASHIMAである。時を経て、虎の子だったエクストリーム級ベルトを青木真也に奪われて無冠になったHARASHIMAに対して、DDTの頂点であるKO-D無差別級王者にして「カリスマ」の称号を持つ佐々木。
現在進行形のカリスマ対かつてのDDTの象徴。HARASHIMAがこのまま引き下がるタマではないのはわかっているが、現在のカリスマの勢いは本物。それを受けてHARASHIMAは、思いつめた表情でリングイン。かたや仮マネージャー島谷を先導させて、 佐々木は余裕の表情…と思いきや、こちらも何か思うところがある様子。
試合開始直前、佐々木がドロップキックでHARASHIMAを吹っ飛ばし、先制すると、得意のミスティカ式クロスフェースで締め上げる。場外でも、HARASHIMAを、パイプ椅子ごと頭から鉄柱に激突させ、序盤はチャンピオンが攻勢。しかし「過去の人」にされたくないHARASHIMAの意地は、カリスマの用意周到な攻撃を徐々に上回り始めたのだ。
チャンピオンのダイビング・エルボードロップ狙いをHARASHIMAは山折りで迎撃して反撃に転じた後、蒼魔刀を佐々木がかわしてクロスフェースに移行するも、HARASHIMAが抱えて山折りから蒼魔刀へ。しかしここを耐えた佐々木は、ミスティカ式クロスフェースで再度勝負に出た。しかし、HARASHIMAはリバースフランケンで再び攻勢に転じると、中座になった佐々木に高角度の蒼魔刀!これで勝負あった!
無冠になったとはいえ、HARASHIMSAの実力は衰えてはいなかった。それどころか、KO-D現王者を破ったことで、再びタイトル戦線に浮上してきた。このしぶとさこそがHARASHIMAの真骨頂ともいえるだろう。いずれエクストリームをとられた青木真也に対しても借りを返す日が来るだろう。HARASHIMSAの反撃の狼煙が上がった試合だった。
○Bブロック公式リーグ戦 30分一本勝負
〇竹下幸之介 vs ×青木真也(8分53秒 ジャーマン・スープレックス・ホールド)
※青木が第1341代アイアンマンヘビーメタル級王座の防衛に失敗、竹下が第1342代王者となる。
これは要注目の対戦カード。かねてより対戦希望をぶちあげていた竹下にとっては願ったり叶ったりというところだろう。
そして、最多防衛記録を作りながら、ここ最近はシングル王座から遠ざかっている竹下にしてみれば、現・エクストリームチャンピオンの青木は標的に値する選手でもある。
青木真也に関しては内外でいろいろ言われているが、私的には格闘家であるにも関わらず、プロレスの巡業に参加し、プロレスルールの中で自身のスタイルを曲げない姿勢はもっと特筆すべきだと思う。本人も「プロレスというグレーゾーンに夢中」であると公言しているし、今後の活躍に期待したい選手の一人でもある。
かつて1990年代後半から2000年代初頭、プロレスラーが格闘家のフィールドで、格闘技のルールの中で相次いで敗北したことがあった。ただ、逆に格闘家がプロレスのリングに上がって、プロレスのルールで試合することはほとんどなかった。だからこそ青木真也は単独でプロレスの世界に飛び込んできて、完全アウェイの中で試合をしている。これは大したものだと思うのだ。
竹下はリングシューズをはかず入場。単純に青木対策というより、プロレス界に単身乗り込んできた戦士へのリスペクトも感じられた。
果たして序盤からピーンと張り詰めたような空気が会場を支配する。最初から盛り上がるDDTの日常とは明らかに異質な空気である。DDTのエンターテインメント性から生み出される「明るくて、楽しい」世界にはない緊張感。これは単に格闘技対プロレスではなく、すきあらばどこからでも決めて勝負を終わらせられる、青木真也という「真剣」がもたらした空気だったと思う。
プロレスというのは、エンターテインメントの中に強さを内包している特殊なジャンルだが、得てしてエンターテインメントに傾きすぎると、この緊張感は薄らぐ傾向にある。特にハイフライヤー対決はリスキーな割には、身を削る凄さが緊張感に昇華しにくいという欠点もある。
他団体の例でいうと、ザックセイバージュニアの試合には、一撃必殺の概念が存在するが、ウィル・オスプレイの試合にはそれがない。どっちもプロレスだし、どっちも素晴らしいが、それだけ異なる概念が存在するのがプロレスの奥深いところである。
DDTにはこうした一撃必殺の概念は長らく存在していなかった。初期DDTなら、今は亡きスーパー宇宙パワーや、仮面シューター・スーパーライダーらがその役割を担っていた。その一撃必殺のすごみを持つ青木真也の登場を誰より歓迎したのは、初期DDTでみずからボコボコにされた体験がある大社長だったのかもしれない。
竹下幸之助はその青木真也の登場を歓迎し、自ら対戦を熱望した数少ない選手の一人でもある。もともともって生まれた素質と運動神経、そして23歳という若さは、あらゆるものをどん欲に吸収している最中でもある。今まではエンターテインンメントの中に内包された竹下の強さはかいま見えたが、これほどストレートに竹下の強さが表に出た試合は初めて見た。
青木のグラウンドには何度も捕まったし、何度もギブアップさせられそうになった。しかし竹下はこれらを耐えきってプロレス技につないでいく。コブラツイストや一発目のジャーマンねらいにいったときは、会場が大きくどよめいた。
やはり今までがっつりプロレスを体験したことがなかった青木は、グラウンドをいったん休止してキックで活路を見いだそうとするが、ここはもう少しこらえてもよかったかもしれない。キックの「受け」に関してはHARASHIMAばじめ名だたるストライカーにさんざん蹴られてきた竹下には「耐性」があったからだ。
最後は二度目のジャーマンにトライした竹下がほぼ力業で青木を投げきってカウント3。試合後、青木と竹下は健闘をたたえ合い、頭を垂れた。これほど緊張感があって、これほどすがすがしい試合はここ数年みたことがない。私もカウント3つが入った瞬間「竹下~!」と大声をあげていた。
グレイシーの時のような勝っても負けてもどこかもやっとした感じは、この試合にはなかった。それだけこの試合は純度の高い内容だったし、けちをつけるところのなかった試合だったのだ。DDT公式の動画でみていただけたら幸いである。
試合後竹下が言った「僕はDDTも強くありたい。DDTもナメられたくない。それを今日一つ結果を出すことができたと思っております。青木選手にもこれで完全に勝ったと思っていません。もし青木選手がいいなら、もっともっとDDTの世界、浸かってください。僕たち、青木選手を楽しませますんで、また、これっきりじゃないです。絶対に僕ともう一度闘ってください、お願いします。」とアピールした。
後記
いやあ・・・・この試合がみられただけでも無理して博多まででかけた甲斐があった!まさに新日本対UWFを彷彿とさせるような、すごみのある試合だった。私的に今年のベストバウトは竹下対青木で決定でいいと思う。これほど見に来てよかったと思う試合は近年になかった。
おそらく青木はプロレスに浸っていってもこの刃は研ぎすまさせれたままだと思う。今更飛んだりはねたりのスタイルはできないと思うし、ロープワークなんて覚えなくていい。青木真也は青木のままプロレスをむさぼり尽くしてほしい。本当にすばらしかった!ありがとう竹下、ありがとう青木!!!