プロレス的音楽徒然草 The Red Spectacles
伝説の始まり
今回は新日本プロレスに来襲した「ソビエト・レッドブル軍団」のテーマ曲、『The Red Spectacles』をご紹介します。
この曲はもともと、押井守監督の初実写映画作品『紅い眼鏡』の主題曲でした。後に押井監督が「ケルベロス・サーガ」と呼ばれる作品群を築き上げますが、本作はその記念すべき第1作にあたります。
異例の製作背景
もともと『紅い眼鏡』は、声優の千葉繁さんのプロモーションビデオを作るという企画で、16mmフィルム撮影、予算500万円規模の作品として1986年1月に始動しました。
しかし、プロジェクトは徐々に規模を増し、最終的には35mmフィルム撮影の劇場映画へと膨らんでいったのです。
メガネのルーツ
千葉さんは押井監督のアニメ『うる星やつら』の人気キャラクター「メガネ」を演じていました。
『紅い眼鏡』に登場する象徴的な「プロテクトギア」も、元を正せば『うる星やつら』に登場したメガネのパワードスーツが起源となっています。
川井憲次の軌跡
音楽を担当した川井憲次さんは、大学時代に音楽活動へ熱中しすぎて中退。親への手前、音楽専門学校に入学するも、こちらも半年ほどで退学されています。
しかし、この頃から作曲の仕事が舞い込むようになりました。
バンドから劇伴へ
同時期、ある歌手のバックバンドのリハーサルコンテストの貼り紙を見て、大学生との混成バンドを結成します。コンテストで見事優勝を果たしたものの、ギャラの良い仕事には恵まれず、結局は川井さんだけがギタリストとして活動することになり、バンドは自然消滅しました。
この頃から宅録(自宅録音)に興味を覚え、舞台音楽やCM音楽などを手がけ、劇伴作曲家としての歩みを始めます。
黄金コンビの誕生
川井さんと押井監督を引き合わせたのは、アニメ『うる星やつら』で音響監督を担当していた斯波重治氏です。
以降、宮崎駿監督と久石譲さんのような「名タッグ」として、押井ワールドに欠かせない楽曲を数多く提供していくことになります。
映像から音を紡ぐ
川井さんはサントラ界の大御所として、アニメ、ドラマ、映画、ゲームなど幅広いメディアで活動されています。川井さんは「作品のビジュアルから音を引き出す」スタイルであるため、何もない状態から作るのは苦手だと語っています。
アニメでは映像が未完成な場合が多いため、絵コンテから着想を得て作曲されているそうです。
格闘の聖域へ
『The Red Spectacles』は、1989年から新日本プロレスに参戦したサルマン・ハシミコフ率いる「ソビエト・レッドブル軍団」のテーマ曲として、プロレスファンに広く浸透しました。
さらに1998年からは、総合格闘技イベント「PRIDE」に参戦したイゴール・ボブチャンチンの入場曲にも採用され、その知名度は決定的なものとなりました。
現場の熱量と苦悩
『紅い眼鏡』は元がプロモーション目的だったため、映画としては異例の低予算で製作され、現場は苛烈を極めたといいます。
学生スタッフを起用し、廃材や不用品を徹底活用。アニメ誌を通じて「不要なメガネ」を一般公募するなど、マスコミやファンも全面協力して完成に漕ぎ着けました。
難解な名作の深淵
私はプロレス会場でレッドブル軍団を何度も生で観てきましたし、『紅い眼鏡』のビデオも繰り返し視聴していますが、近年の押井作品と比較しても、本作はかなり難解な映画だと感じています。
完成時に宮崎駿監督と高畑勲監督に感想を求めた際、お二方とも絶句されたというエピソードも頷けます。
旋律が呼ぶ北の風
前述の通り『紅い眼鏡』は低予算ゆえに海外ロケなどはなく、本来ロシアやソビエトとは縁遠い位置にある作品です。
しかし、今改めて『The Red Spectacles』を聴くと、真っ先に浮かぶのは北国の情景です。
奇跡の親和性
まるでレッドブル軍団のために書き下ろされたかのような錯覚さえ覚えます。私がプロレスファンだからかもしれませんが、映画を熟知していてもなお、この曲とソビエトの親和性には驚かされます。
レッドブル軍団の来日当時、川井さんの他の楽曲も入場テーマとして使用されていました。その流れの中でこの曲が選ばれた縁は、まさに「奇跡」と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
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