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[映画鑑賞記] 攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL 2.0

2017/04/22

17年4月21日鑑賞。

西暦2029年。他人の電脳をゴーストハックして人形のように操る国際手配中の凄腕ハッカー、通称「人形使い」が入国したとの情報を受け、公安9課は捜査を開始するが、人形使い本人の正体はつかむことが出来ない。
そんな中、政府御用達である義体メーカー「メガテク・ボディ社」の製造ラインが突如稼動し、女性型の義体を一体作りだした。義体はひとりでに動き出して逃走するが、交通事故に遭い公安9課に運び込まれる。調べてみると、生身の脳が入っていないはずの義体の補助電脳にはゴーストのようなものが宿っていた。(あらすじはwikipediaより)


押井作品は19990年代までの超理屈っぽさが漂った、意味不明で難解な作風と、2000年以降、55歳で空手をはじめてからの作風では、イメージががらっと変わっている。そもそも体育以外の成績は優秀だったという押井氏が(おそらく奥さんの影響で)スポーツ好きに転じていくあたりが、大変興味深いところではある。1995年に作られた攻殻機動隊はその作風が変わる端境期にある作品と位置付けられる。厳密にいうとうる星やつら当時に離婚し、ぴえろ独立後に再婚しているので、そのあたりの心境の変化もあったり、プロダクションIGに拠点を移して以降、押井塾を創設して後進の育成に尽力するなどといった作家性とは別な変化もあるのだが、面白いことにスポーツに目覚めた押井氏の作風はどこか爽やかささえ漂ってくる印象さえある。

さてその爽やかさが漂う前の攻殻機動隊で、90年代以前の押井作品のにおいを感じられるとしたら、やはり劇場版パトレイバーをほうふつとさせる、ごちゃごちゃした香港のロケーションだったり、電脳世界を押井流の理屈で夢かうつつかの境界線をあいまいにしてみたりといった点があげられよう。ハリウッド版の場合、理屈っぽさがやや陰をひそめていた分、物足らなさを感じた攻殻ファンというか押井ファンも少なくなかったという。

香港の街並みは、自身が生を受け、育った東京の埋め立て地を見たてたのかもしれない。90年代というと、同じ埋め立て地を舞台にしたパトレイバーの時代でもある。パトレイバーも理屈っぽさとアクション大作の狭間にある作品だが、劇場版パトレイバー二作を経て攻殻機動隊に行き着いたと考えたら、ごく自然な成り行きでこの作品ができたことがわかるはずである。


押井守監督は1970年代にアニメスタジオ「タツノコプロ」に入社。たちまち若手演出家の四天王と呼ばれる位置にまで上り詰めるが、この当時は「タイムボカンシリーズ」などのギャグ路線を担当していた。その流れで自身初のシリーズディレクターを任された「うる星やつら」でも手腕を発揮するが、このシリーズ途中で離婚を体験する。うる星やつらが途中から急に不条理路線に転じていくあたりとぴったり符合すると私は思っている。もともと学生運動に傾倒し、理屈をこねくり回していたであろう、若き日の押井青年の姿は自身が原作を手掛けたマンガ「とどのつまり…」に詳しい描写がある。

この理屈バカぶりが行き過ぎて、宮崎駿監督から推挙されながら、自ら降板した劇場版「ルパン三世」を経て、「天使のたまご」で結実する押井ワールドは難解なことこの上ない。攻殻以降の押井作品しか知らない人間が、「赤い眼鏡」(押井作品初の実写映画)でも見た日にゃ、頭が混乱してどうにかなってしまうに違いない。ちなみに、押井監督と親しい高畑勲、宮崎駿両監督が「赤い眼鏡」の試写をみて絶句したというエピソードも残っている。そのくらいこの当時の押井作品は見る人を選ぶ映画だったのだ。

ただし、基礎を学んだのが全盛期のタツノコであり、ヒット作の演出を数多く体験して、エンターテインメントを描くすべを若い時代に身に着けていたことが、押井監督を単なる難解な映画を撮る監督におしとどめなかった要因だろう。タツノコ時代のエンタメ路線、うる星~天使のたまごまでの難解路線を経て、社会派の劇場版パトレイバーを作って、攻殻につながっていくラインはすべて同一線上にあるもので、決してGHOST IN THE SHELLが偶然の産物でないことを証明していよう。

そして攻殻は古い押井スタイルから、新しい押井スタイルへ変化していくタイミングで作られた。これが仮に天使のたまごの後、3年ほされた時代に作っていたら、これほど世界的にムーブメントをおこすほどの作品にはならなかっただろうと私は思っている。そういう意味では幼いころからリアルタイムで押井作品を体感してきた世代である私たちは大変な贅沢をさせてもらったのだなあと、今回改めて観終わってしみじみ痛感させられたのだった。









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