[格闘技観戦記] 関門ドラマティックファイトvol.11

イントロダクション

6月の関門ドラマティックファイトはもともと見たいと思って観に行ったものではない。正直同日開催のプロレスに行きたかったし、実はこの11月も裏に見たいプロレスの大会があった。しかし、今回は自分の意志で「見に行く」と決めていた。前回の関門ドラマティックファイトにはそれくらいの衝撃を受けたからだ。

そしてなぜか6月も11月もドラマティックファイトの前にプロレスの大会が海峡メッセで開催されていて、両方とも満員になっていた。満員のプロレスと満員のボクシングの大会が、下関という片田舎で真っ向勝負する形になってしまった。スポーツとしては全くの別物だけど、エンターテインメントとしては完全なる商売がたきになりかねない。しかも東京ではなく地方で勝負をかけているというのは、下手すると地方に根差しているローカルプロレスだって足元をすくわれかねない。

オープニング

前回観戦した時にその危惧を感じたからこそ、もう一度この目で確かめたかった。「勝負するやつは本当に面白いのかどうか」ということを。強敵を知るには強敵を研究するに限る。さて今回は前回を上回る感動があるかどうか?前日のドラゲーを上回る興奮が得られるかどうか。そこを見て、感じてみたいのだ。

スマイル渚デビュー戦女・女子アトム級4回戦

スマイル渚(関門J) 対 樽井 捺月(アルファ)

デビュー戦を前にして緊張しない選手などいないだろう。この緊張感は試合をする度に味わっていくものだと私は思う。

私はプロレスファンだからプロレスの例えしかできないけれど、緊張感ということでいうと、前文科大臣を務めた馳浩が、現役時代の試合前にいつも嘔吐していたというエピソードを思い出す。試合内容がいかに奔放な馳のような選手でも舞台袖では別人になる。だから試合が面白かったりするものなのだ。

緊張と付き合いはじめたという点ではスマイル渚はやっとスタート地点に立ったばかり。上の先輩たちは、その緊張感と付き合いながら戦っている。

うまく付き合えたら一人前、楽しめるようになれば一流という感じかな。そういう意味では第2ラウンドの渚には緊張感と付き合おうという姿勢が感じられた。

ただし、そこを見逃すほど樽井は甘い相手ではない。戦績はまだしも実戦をかさねた分、何から何まで渚とは対照的に冷静だった。かつて自分も通った道だから甘い顔はしなかったのかもしれない。樽井もまたプロのボクサーだった。だから私は樽井が渚の対戦相手でよかったと思えた。

眼底骨折という重症を負ってしまったスマイル渚。しかし、怪我をなおしてまたリングに戻ってきてほしい。

<h3バンタム級4回戦 田中 敦志(ビッグA) 対 前村 隆気(ヤマカワ)

こちらもデビュー戦の田中。対戦相手の前村は山口県宇部市出身。デビュー戦なのに完全アウェイという状態におかれた田中だが、やはり硬さはぬぐえない。

やりやすい場所でデビューするのも、完全アウェイでデビューするのも時の運だけど、私は完全アウェイの方がむしろ印象に残るようにおもう。なぜならアウェイだからこそ「地元でいい格好したい」とか「勝ちたい」とか言う雑念からは解放されやすいと考えるからだ。

そういう意味では関門JAPANではないけれど、田中もまた「勝負するやつ」だった。こういう場が用意されて多くの観客が目撃者になった幸せというものを、田中にはかみしめてほしい。

とはいえ、やはりそこは実力勝負の世界。破れるべくして田中は敗れた。だが、渚同様、田中もこの敗戦を糧にできる選手だと私は見た。今度いつどこで彼の試合を見る機会があるかはわからないけど、また見てみたいなとは思う。

一方の前村はやはりキャリアなりに落ち着いていたように見えた。このあたりは実戦慣れしているということなんだろう。

60.0㎏契約4回戦

平田 太地(島袋) 対 岩崎 淳史(フジタ)

今回は関門JAPAN勢以外のカードが二試合。私感だが、プロスポーツとスポーツエンターテインメントの違いは「生き様がみえるかどうか」だと思っている。

不思議なもので高橋イズムが宿る関門JAPAN勢には生き様が感じられることが多い。また彼らに立ちふさがる対戦相手も生き様をさらけ出して立ち向かっていくことが多い。

ではそうでない場合はどうなのか?ぶっちゃけていうと普通のプロボクシングである。いい言い方をすれば勝者が全てで、敗者には何もくれてやらない世界。

勝ち負けの世界とは元来そういうもので、だからこそそんな厳しい世界で勝つために努力する姿は美しい。

しかし、それだけだとアマチュアでも同じこと。お金がもらえるかもらえないかだけで、プロアマを分けるならその境目はどこにあるのか?プロスポーツならば、真剣勝負は当たり前で、その先にある何かがないと、とてもではないがドラマティックにはならない。

ドラマティックファイトになるためには、対戦相手だけでなく会場のお客さんとも勝負するべきだし、そこまでしてはじめて「面白い」と言ってもらえるプロ選手足り得るのではないか?そんなことを思いながら私はこの試合をみていた。

ウェルター級6回戦

チェンジ濱島(関門J) 対 クドゥラ金子(本多)

今だからいうが、6月の観戦前に、いくつか映像をみせていただいた中で個人的に「面白いな」と思った選手が濱島である。何というか試合によって変わっていく様がまさに「チェンジ」していたからだ。

技術的なことは素人だからわからないけど、だんだん身にまとうオーラがでかく感じられたのだ。

そして6月から約半年ぶりに見た濱島はまたチェンジしていた。具体的に言うと彼の背中が私には以前より一層でかくなってみえたのだ。

背中で語れる選手は一流の素養があると言うのが私の持論のひとつである。表情が豊かな選手も確かに魅力的だが、顔はいわば感情を「伝えやすい」ツールである。対して背中はその表情をみることができない。でも濱島の背中からは感情がみえた。少なくとも私にはそうみえたのである。

だが、あれだけ大きくみえた背中もラウンドを追うごとに小さくなっていく。アクシデントも味方に変えていけるアクセルと比べても、濱島に善戦以上のものが見えなかったのは見ている側としても悔しかった。

私が感じた勝敗の決定差はダウンではなく、バッティングの場面。勝つためなら手段を選ばない外国人選手ならではとも言えるシーンだが、あれをチャンスに変える力が今のチェンジには足りていないのだろう。

確かにクドゥラ金子には勝負にも貪欲さがあったし、何よりハートも体力もパンチも強い選手だった。あれが日本人にないものだといわれればそれまでであろう。でもバッティングを犯してでも勝利がほしいというクドゥラの姿勢は見習ってしかるべきだと思う。

故意のバッティングはもちろんスポーツマンシップに反することではあるけれど、でもバッティングをおそれないという点でクドゥラは濱島に大きく勝っていた。それは間違いないと私は思っている。

クドゥラはだてに5戦5勝の選手ではない。それは素人がみてもよくわかる。ただしこういう相手に堂々と向かっていける勇気を濱島はもっていた。あとはどれくらい自分の恐れと向き合って闘っていけるかだろう。

不思議なもんで関門JAPANの選手と闘う対戦者たちも皆一応に「生き様」をさらけ出してくる。クドゥラもまたそんな「生き様」をさらけ出してくるファイターだった。

勝負するやつはたしかに面白い。でも無策な勝負をするやつは、実をいうとそんなに面白くはない。面白いやつはリングの上で生き様をさらけ出して勝負できるやつだけ。そんな人間はまさに選ばれた人間である。チェンジもクドゥラも間違いなく選ばれた選手たちだった。だから試合がおもしろくなった。2人には本当にありがとうと言いたい。

54.0kg契約8回戦

ジャンプ池尾(関門J) 対 澤田京介(JBスポーツ)

失礼なのを承知で言わせてもらうと、私が今回感じた池尾のイメージは「上がいなくなったことで繰り上がってセミを任された」印象。なぜそう思ったか?それは試合前のPVで池尾本人が目標を「ランキング入り」といっていたことだった。セミを任せられる選手の目標がランキング入りなのか?という疑念がまずあった。

彼はチャンピオンにはなりたくないのか?ランカーの先にもちろん見据えているものはあるだろう。ランキング入りだって簡単なことではない。それは素人にだって十分理解できる。できるからこおそあえていわせてもらおうと思う。

そんな秘めた思いを池尾が果たして観客に言葉ではなく、試合内容で伝える気持ちがあったかどうか。もちろん身近にいるトレーナーや会長には伝わっていただろう。しかし残念ながらそれだけでは会場のお客さんには伝わらない。もちろんどこの世界にもチャンピオンになりたいけれどなれない人間はゴマンといる。それが現実である。

でもそんなゴマンといる人間の試合がセミファイナルといわれてピンとくるかといわれたら、そうではないというのが私の感想である。せめてその秘めた思いが伝わるファイト内容だったらよかったんだけど、さすがに渚や濱島と同じ目線でセミファイナリストを見ることはできないし、興業の要を任されている以上、それなりのファイトを期待するのは間違っていないと私は今でも思っている。

澤田というのはとにかく自分のペースを崩さないし、相手のペースにも合わせない選手だなと思った。

メインに出る佐々木基樹選手の応援垂れ幕に、「天上天下唯我独尊」という文字が書かれていたが、この日の澤田のファイトスタイルはまさに「天上天下唯我独尊」というに相応しい闘い方だった。そして彼が何を見据えて何と闘っているのかも十分伝わってきた。それが池尾には足りなった部分だと私は思っている。

ライト級10回戦

OPBFライト級6位、日本同級2位 アクセル住吉(関門J) 対 日本ライト級14位 佐々木 基樹(帝拳)

逆境を楽しめるアクセル住吉は、緊張感との付き合い方でいえば、メインイベントにたつに相応しい選手である。そこはセミ以前に出てきた選手とは決定的に違うことでもある。

正直前回見た時も「ものが違う」とは感じたが、半年たって、猛々しかった彼のオーラが非常に柔らかく見えたのが印象的だった。逆に佐々木の方にレジェンドらしからぬ猛々しさを感じたのだから、勝負というのは本当に面白い。

別にうまいことを言おうとは思っていないのだけど、アクセルとブレーキをうまく使い分けて車は進んでいく。アクセルだけでも運転はできないし、ブレーキをかけたままでは前に進んでいかない。そこで住吉にとってのアクセルとは何かということを考えてみた。

それはPVでも本人が語っていた「調子に乗る」という部分だろう。この「イケイケ」になれるというのはファイターにとっては大切なアクセルでもある。一方で謙虚や感謝という言葉は住吉にとっての「ブレーキ」になっているのではないかと私は思っている。6月の試合では、ブレーキを忘れまいと、どこかで必死になっている住吉の姿が見えた。

でも今回の試合ではそのアクセルとブレーキを自在に使いこなしている住吉の姿が見えた。しかも面白いことにアウェイなはずの佐々木に度々「基樹」コールが起きたのだが、それを打ち消すかのように自然発生的に住吉コールが会場から起こったのだ。このコールに乗った「自然体」の住吉が、レジェンドらしからぬ雰囲気の佐々木を飲んでかかっていたようにも感じられた。それを更に後押しする声援。会場は俄然ヒートアップしていた。

だから二度のバッティングすら住吉は楽しそうにしていた。もちろん笑っていたわけでもないし、相手を馬鹿にしていたわけでもない。でも佐々木がバッティングなどで自滅していくのとは対照的に、アクシデントを力に変える力を住吉は今回も発揮した。これこそまさに「勝負するやつは面白い」というやつである。

結果的には判定勝ちで住吉は関門JAPAN唯一の勝ち星をあげた。主催大会で一勝三敗というのは、勝負ごとにおいてはよくないのかもしれない。しかしテーマであるところの「勝負するやつは面白い」というものをきちんと見せて、観客を満足させて帰したという点では、関門ドラマティックファイトはまたひとつ大きな一歩を踏み出したともいえるだろう。

後記

何よりこれほど勇気と感動を与えられるプロスポーツ興行が、地元にあることを私は誇りに思いたい。前回はひたすらプロレスファンとして「面白すぎて悔しい」思いをした。けど、もはや悔しいとかなんとかいう以前に「面白いものは面白い」としか言いようがないし、何よりこの日の選手のほとんどは目の前にいる選手だけでなく、自分の内面やお客さんの目とも十分に闘っていた。

スポーツエンターテインメントとして、関門JAPANがプロレスの強敵であることには違いない。だからこそ私は本気でボクシングにも関わろうと思うし、プロレスにこの刺激を還元しようと超本気で思っている。

プロレスの力も素晴らしいけど、ボクシングの世界もまた素晴らしい!それはまちがいない事実だと思う。だから私は手を抜かずに魂こめて観戦記を書いた。精魂込めて闘い抜いた全ての選手、関係者に心から感謝したい。








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