プロレススーパースター本列伝 異端の笑国―小人プロレスの世界
解説
プリティ・アトム、リトル・フランキー、角掛仁、コブッチャー、ミスター・ポーン、天草海坊主等々、絶妙の演技で我々に豊かな笑いを提供してくれた小人プロレスラーたち。今、その笑いが消えようとしている。彼らの生活や考えに肉迫する。(解説は株式会社現代書館HPより)
こびとプロレスのルポ
「異端の笑国―小人プロレスの世界」は1990年刊行の、ミゼットプロレス(以下、小人プロレス もしくはこびとプロレス)を取り上げたルポルタージュです。
単行本は絶版になっていますが、文庫版として幻冬舎アウトロー文庫より「君は小人プロレスを見たか」として出版されており、2009年2月、「異端の笑国―小人プロレスの世界」を基に新たに作り直した新刊「笑激! これが小人プロレスだ」も刊行されています。
バブル的ブームも
私もギリギリ小人プロレスを生体験出来た口なんで、「異端の笑国―小人プロレスの世界」は刊行当時に即購入して読みました。
90年代当時は既に衰退しつつあった小人プロレスですが、この本やテレビのドキュメントなどでちょっとしたバブル的「ミゼットプロレスブーム」が起きたことがあったのです。
思いやりにあふれた正論
そもそもこのブームがくるにあたって70年代くらいから「不自由な肉体を見せ物にするな」という思いやりにあふれた正論によって、表現者、エンターテナーとして活動したいという小人達は活動の場を奪われて行きました。
それまで当たり前にでていたテレビ出演にも投書がくるようになり、「障害を笑い者にするな」と言う声は日増しに大きくなっていきました。
「見せ物は悪」という固定観念
そこには、小人レスラーのエンターテイナーとしての技術や努力やプライドには、少しも思いをはせようとしない一方的な意見しかありませんでした。
ただひたすら「見せ物は悪」という固定観念から少しも出ようとはでず、障害者、健常者の別にかかわらず、すすんで見せ物になろうとしている人に思いをはせないものでした。
世間の目に対して闘いを挑んだ
その「見世物」のために大きな代償を払おうとする人間だっていたわけです。「異端の笑国―小人プロレスの世界」はそうした世間の目に対して闘いを挑んだ本でした。
時を経て、「かわいそう」という意見に対するアンチテーゼが少しずつ出始めて、「小人プロレス」は「ミゼットプロレス」として、90年代以降、何度か脚光を浴びることになります。
エンターテインメントとしての側面
ただし、もともと日本の小人プロレスは、お約束みたいなボケがたくさんあって、突っ込み役として、レフリーもハリセンを持ってリングに上がってたりもしてるエンターテインメントとしての側面が強くありました。
しかも、90年代になってくると、もう三人しか小人レスラーがおらず、試合がどうしてもマンネリっぽくなっていました。
「俺たちは応援してるぞ!」という応援
シングルマッチしか組めないため、どうしても組み立てが限られているという負の部分もあったのです。
その中で懸命にエンターテインメントとして昇華させようとする彼らには、ガンバレ!」「俺たちは応援してるぞ!」という応援がありました。
ただ「笑ってもらいたい」
でも、それは彼らが望んだことではありません。彼らはただ「笑ってもらいたい」という想いでリングに上がっていたので「真面目に小人プロレスを観よう」という目線もまた不本意だったようです。
しかし、時代は移り変わり、残った小人レスラーが2人になった現代になって、ついに小人だけの団体が登場します。
クラウドファンディングを実施
2004年にデビューしたプリティ太田選手は、2021年8月 風前の灯であったこびとプロレスを復活させたいと願い、有志メンバーと共に「こびとプロレス再生プロジェクト実行委員会」を発足します。
練習場所がないこびとレスラーのために、プロレスリングを購入することを目的としたクラウドファンディングを実施。目標額250万円に対し、4,778,000円の資金調達に成功します。
日本初となるこびとプロレス道場
公約どおり、「こびとプロレス再生プロジェクト実行委員会」はプロレスリングを購入し、大田区大森に「日本初となるこびとプロレス道場」を開設します。
そして株式会社つばきHOLDINGSが運営主体となり、プロレス団体「椿ReINGz(ツバキリングズ)」を設立しています。現在プリティ太田選手は芸能活動の傍ら、プロレス活動も行っています。
異端扱いした目を変えるのは
90年代までは異端だった小人プロレスが、ついに表舞台に返り咲こうとしているのは非常に感慨深いものがあります。いつの日か再び地方でも当たり前のようにこびとプロレスが観られる日もそう遠くないのかもしれません。
異端扱いした世間の目を変えるのは、やはり健常者ではなく「小人レスラー」自身でないとだめだと思います。かつて会場を爆笑の渦に包んだ小人プロレスがメジャーにかけあがるには、何より選手自身が一流のエンターテイナーでないといけません。
異端に甘んじた小人プロレスを陽の当たるスポーツエンターテインメントにするためにも、「椿ReINGz(ツバキリングズ)」には一掃奮起してもらいたいと思います。