[プロレス観戦記] 北九プロレスZ「障がい者スポーツ支援チャリティー」やっちゃれEvolution2014

北九プロレスZ「障がい者スポーツ支援チャリティー」やっちゃれEvolution2014

(2014年8月3日:日:中間市体育文化センター)

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イントロダクション

この会場はあの「世界のプロレス」が奇跡の大会(99.6.5)を開いて一躍プロレスファンの記憶にその名を刻んだ場所である。もっとも奇跡は二度起きず、12月の大会は惨憺たる内容だったのだが、それを私とアステカさんと今の玄海になる前のK選手の三人で観戦したのも、今となっては懐かしい思い出である。なんといってもあの森谷さんの試合をご生前に見た、最初で最後の場所でもあったし。そういうことでなんと中間にくるのは「それ」以来15年ぶり!昨年の中間大会はやはり北九Zらしいひどい内容だったと聞いていたのでいかなくてよかったともいえる。だいたいそもそもこの団体を私がプロレス団体として評価してないからこそ、わざと「北九Z」という風に「プロレス」の4文字を外して呼称しているのに、なんとよりによって公式アナウンスで当の本人たちが「北九Z」という省略形を使いはじめていた。どうせ深く考えもしないで使ってみたんだろうけど。

オープニング

だがこの日の会場はいつもと何かが違っていた。入ってみてびっくりしたのは、リングの大きさがちゃんとした大きさになっていたことと、レフェリーがかわっていたこと!しかもレフェリーはもと華☆激→九州プロレスで活躍していた日高(中洲ヨースケ)君ではないか!いや、くんなんて大した知り合いでもないのになれなれしいんだが、新弟子から知ってるとついそう呼んでしまうのをお許しいただきたい。そして、どういうつながりなのかは知らないが、パワーストーンまで売っている!北九Zの売店にあるパワーストーンってなんか負のオーラをもらいそうな気がして買いたいとは思わなかったけど(爆)一応名誉のためいっておくと意外ときちんとしたお店ではあった。

しかし、相変わらずなところはいくつもあって、音響はブツギレ。リングアナ(H中さんでない方)は相変わらずカミカミ。なぜか選手紹介とテーマ曲が流れだす間に数秒間が空くし、かと思ったらフライングでテーマ曲が先に流れ出すし、まあ進行はいつも以上に北九Zクオリティーであったことは指摘しておきたい。大会名「やっちゃれEvolution」(やっちゃれ・えぼりゅーしょん)を何度も「やっちゃれ・れぼりゅーしょん」ってアナウンスしてるし。どうなんだよ。これ?

入場式

試合前に全選手入場式。ここで「九州の宝」と大会プロデューサー谷口がヴァンヴェール・ジャックを呼んで、この日の彼の誕生日祝いを行い、また幕間で車いすバスケを行うことについても説明をしていた。たぶん用意されていた企画ならこんなに谷口が流暢に話せるはずがないので、本人の肝いり企画なんだろう。でもこの発案は悪くないと思う。昨年よりちょっと数が多いという客席は約8割の入り。まあ健闘した方ではないだろうか?谷口が営業をしっかり回っていたのは知っていたし。だが、そもそも北九州の団体のはずなのに、わっしょい夏祭りの裏に中間で大会を開くという間の悪さは先にどうにかしろよ、と思ったが、次回大会の案内を聞いていると今度はがむしゃらの真裏。しかもイベント試合みたいなのに、大人1000円、子どもはなんと!(なんと!というのはアナウンスで強調されていたので使ってみただけ)200円とるという。いや~、さすがにこれはいかないでしょ。前売りと当日価格が同じなのかどうなのかも不明だったし。

本音をいえばFREEDAMSのデスマッチトーナメントを見に広島に行きたかったんだが、この後の予定に学院のメンバーでギラヴァンツ観戦する予定が入ってしまったがために、こっちを選択せざるを得なかったのだ。北九Zに対して「ただでも来るか!」といっていた私がよりによって有料大会に顔を出す羽目になったのは、そういう理由から。そこに久保さんの応援という名目もできたので、渡りに船ではあったんだけど。

第一試合 20分一本勝負

○久保希望 VS  ●ベンガドール13
(9分12秒 エビ固め)※GTホールド

レアルルチャで今のところ私が知る限り唯一の素顔で活躍するルード選手がベンガドール。表情がみえる分、わかりやすいというのはあるけど、実力は未知数。ただし、レアルはリンピオよりルードの方が頭角を現しやすいのか、目立ってる気がするので、今後には期待したい選手の一人ではある。で、普段は格上の選手とあたることが多い久保だが、なんだかんだいっても10年選手。ただ、年上の選手層が無駄に厚い九州のプロレスシーンでは若手扱いの域を出ないため、こうした格下の選手に胸を貸すマッチメークはなかなかみられない。ということで、ルチャ以外のムーブができない(と思われる)ベンガドール相手に、久保の引き出しがどれだけ多く開いて対応できるのかが注目のポイントだったが、さすがそこは伊達に10年のキャリアを無駄にはしていない。悪役、コミカル、ハードヒット・・・どのスタイルにも対応できる久保の柔軟さが光って今までにないベンガドールをみることができた。まさに風車の理論どおりのプロレスが展開され、見てる側も非常に楽しい気分になることができた。で、ふと二年前のみなと祭りでの谷口対ネグロ戦を思い出したのだが、格下の相手を引っ張って試合を組み立てられない当時の谷口(あくまで二年前の話)のふがいなさに比べると、この日の久保の安心感っていったらなかった。間違っても変な試合になりようがないというのは、ここまで久保がお客との間に積み重ねてきた信用の賜物である。大人の事情で前半戦の試合にしかでられないことを差し引いても、この第一試合はかなり贅沢だったと思う。

ベンガドールの試合はそれほど多くは見ていないのだが、こうして相手に引っ張ってもらったらそれなりにシングルマッチの形は整えられる選手なんだなという認識はもつことができた。久保の厳しい攻撃に半ばフラフラになりながらもよくくらいついていった。まあ、でくの坊ではこうしたファイトもできないわけだし、素顔というのは大きな売りのひとつなんだから、マスクがない分闘争心をもっとむき出しにして向かって行ってほしい。まあ、今の実力では正直久保の本気を引き出せるところまでは、とてもいってはいないと思う。が、精進のしようによっては上にあがれる可能性もっているとみた。あとは、経験値を積んでいってほしい。

第二試合 45分一本勝負

○スカルリーパーA-ji &上田馬之助VS KING &●サガン虎
(12分43秒 ギブアップ)※ヘブンズドアー

ダークサイドFTOは天空マッチで同門対決を馬之助が制し、再びタッグを再結成して挑む最初の試合になった。しかし、呼ぶのはいいんだけど、Zみたいに少人数しかいない団体に悪のユニットが2つもいるんだろうか?KAZEが率いるブラックドリームもヒールなんだろうけど、どう考えてもダークサイドの方がステイタスとしては上の悪役で、しかもステレオタイプの反則を得意とする分、お客にもわかりやすい。それでいて観客の支持率は異様に高いわけだから、クオリティの面から考えてもダークサイドに前座をやらせる意味がわからない。とはいっても各団体が主催する興業自体が減っている以上、もち回りでこうした登場の仕方をしないとなかなか大会自体が開催できない事情もあるんだろうけど、それはお客としては関係のないことなんで、こうなった以上はダークサイド以上の悪夢をブラドリ(とお客に略されてよばれてる悪役ユニットもどうかとは思うのだが・・・)にはみせてもらう必要があるのだが・・・・

さて前から気にはなっていたことだが、ダークサイドの特に上田馬之助について、この際
確認しておきたいことがあった。それは地力の強さ。いうまでもなく初代上田馬之助は道場では無敵を誇る腕っぷしの持ち主で、それを試合でもそれとなくお客にアピールするのが常だった。有名な猪木とのネールデスマッチでも前半では執拗な腕取りの攻防を展開しているぐらい、デスマッチですら基本中の基本を怠らない上田さんの律儀さと、UWF勢も舌を巻いた確かな技術がそこにはあった。で、二代目もできる選手だとは思うのだが、彼の場合、しょっぱなからラフをしかけることが多く、それもまた持ち味ではあるんだろうけど、やはり基礎力だけで「強い」とお客に思わせる攻防が少なすぎると思う。ラフや乱入ももちろんテイストとしては大事なんだけど、レスリング担当をA-jiまかせにしないでもっとアピールしてほしいのだ。そうするとただ汚い反則をするヒールとしてではなくもう一枚上手の悪役になれる余地は十分あると思う。

特に今回のような格下いじめマッチでは、そうした地力アピールがより強い馬之助像を作り上げる絶好の機会だったたけに、もったいないなあと思ってしまった。ガタイもでかいし、頭もきれるだけに、じゃそれで反則までする必然性を今のダークサイドFTOにはそれほど感じられないのだ。完成されているように見えるA-jiと馬之助のタッグもこうしてみるとまだまだ工夫できる余地はあるんだなあと思った試合だった。

一方KINGに対してはそれほどいうことはない。大きな体をもてあまし気味だった若手の頃に比べるとぐっとファイト内容がおちついてきたし、キャリアが下で年上のサガン虎を引っ張る力量もついてきたのは好材料だと思う。せっかくなんでこの九州の狭い輪の中でキャリアを消費するだけでなく、色んな団体にも打って出てほしいところである。サガン虎に関して言えば、「佐賀プロは今後活動する気があるのかどうか」を一番に聞いてみたいところだが、やはり初代タイガーの物まねだけではプロの世界では厳しいかなと思わずにはいられなかった。今回は特に何もさせてもらえなかった感が強かっただけに、余計そう思えてならなかった。

第三試合30分一本勝負

●新泉浩司 VS  ○アズールドラゴン
(16分3秒 エビ固め)※120%スクールボーイ

バチバチやりあうファイトスタイルが信条の新泉(余談だが新泉(にいずみ)はずっと「にい・いずみ」とアナウンスされていた^^;)だが、それにはうってつけの相手であるアズールが今回の対戦相手。特にダークサイドFTOが勢ぞろいということもあって、試合後すぐに馬之助とA-jiがリングサイドにセコンドとして入ると、GTRの盟友久保も新泉のセコンドにつき、にわかにGTR対FTOの対決になった。が、しかしやはりセコンドを手足のように使わせたらFTOにはかなわない。やっぱりというか1対3になってしまう。それでいて、アズールはバチバチにも真っ向から対応してくるから始末が悪い。

最近特にテクニシャンぶりを発揮しだしたアズールは要所要所にテクニックを織り交ぜてかつセコンドをうまく介入させて、試合を終始リード。真っ向勝負しか手がない新泉としては苦しい試合内容になった。でもどうかするとこの手練れの三人を吹き飛ばしかねない勢いを今の新泉には感じるので、この悪の連携もそう長続きはするまい。同じことを繰り返しているようだけど、昔なら短時間で仕留められていたところを、結構粘って試合を盛り上げたのはやはり新泉が実力をあげてきたからだと思うし、直球型のファイトを生かしつつ、こうしたイレギュラーなラフにも強い選手になりつつある証明だと思う。

まあ、FTOサイドとしては芽が出ないうちにつぶしておきたいところかもしれないが、今後まだまだ新泉はどんどん変化していくだろう。決して大きくない体に備わった打たれ強さもあなどれないものを感じたし、彼の成長いかんでは高年齢化が進む九州のプロレスシーンにひとつの光明を見いだせる可能性もあるからだ。

とここまでが前半戦。北九Z所属選手が一人もでないという内容だっただけに普通に面白かった。まあこのメンツだと華☆激でもFTOでもどこでも見られる顔ぶれではあったんで北九Zに対して満足したかというとみてない以上、ここまでは何とも言いようがない。でもこれで3000円もとがとれたといっても過言ではないかな。そして休憩中を利用して車いすバスケが行われ、体験者としてジャックも車いすバスケを経験していた。試合自体は結構ハードでびっくりしたのだが、こういうスポーツのあり方はとても素敵なことだと思う。谷口プロデューサーもこのときは裏方として一生懸命働いていた。本当はメインにでる選手にはあまりうろうろしてほしくないんだが、まあ仕方あるまい。

第四試合 ゼファーデビュー戦60分一本勝負

皇牙&磁雷矢&●ゼファー VS ○KAZE &アグー&ヴァンヴェール・ネグロ
(19分31秒 体固め)※ソロモンの悪夢

さてセミからはいよいよ北九Z勢の登場である。所属選手が出てくるだけでこんなに不安になる団体はほかにないと思うのだが、とりあえず団体の看板だったはずのKAZEが好きなことをやりはじめてヒール転向する、というよくわからないストーリーを繰り広げている以上、手薄なベビーサイドの選手層拡大は急務であった。そこで今回デビューのゼファーである。白と赤のマスクマンはいかにも正統派な感じがするが、いかんせん線が細い。まあデビューしたてのKAZEもこんな感じだったんだが、今やビール腹をタイツで隠すほどみっともない体型になってしまった。そりゃGENTAROも嘆くよね。この腹をみたら・・・元相撲取りでちゃんこ屋のおやじである皇牙はともかくアマレス→総合→プロレスと渡り歩いたKAZEがそれと同じようなシルエットの体型でいいのかどうなのか?

で、試合内容はいたって悪くなかったことを前提に、先に苦言を述べておくと、まずブラドリ。どういう方向性なのかが相変わらずわからない。ホント仲良し3人組が群れている感じのユニット。遊び感覚ということでいえば、結構ファビラスフリーバースも馬場さんから厳しい言葉をかけられていた(で、その結果がゴディのチーム離脱~殺人魚雷コンビへと流れていくわけだが)が、フリーバースの場合、単にアメリカのもと悪ガキがそのままプロレスラーになった感があって、あれはあれで悪くはなかった。同じ群れてるといっても3人のバックボーンにリアルなアメリカの(元)不良少年というものが感じられたからこそだろう。翻ってこの三人に共通するバックボーンは何もない。おまけにテーマ曲をまた気志團の「One Night Carnival」に戻しているのも意味不明。キャラで悪役やるにしてもなんかやりようがあると思うんだけど、色違いのお揃いデザインのTシャツにアグーのオーバーマスクをかぶった三人は会場で拍手をあおり、ベビーフェイス気取り・・・・
う~ん、確かにダークサイドとは違う方向性なんだけど、だからといってこれはどうなんだろう?オーバーマスクをかぶってるから、マスカラスよろしく観客に投げ入れるのかと思えば、それもしない。あげく磁雷矢がそのオーバーマスクを本当に投げ入れようとしたら全力で阻止にかかるし、試合に出る順番もダチョウ倶楽部式。試合がはじまれば「KAZE、しぼれ!」という会場の声にいちいち「しぼっとるわ」と返すなどとまあ、終始おふざけ感が漂いすぎていた。しぼるのは関節ではなくあんたの腹だよ!と心の中で何度言い返したか。まったく。こんな緊張感のないカードをセミにもってくるなんて・・・

でも、こんなふざけた試合がなぜそこそこみられる試合になったかというと、結構ゼファーが頑張ったから。思った以上にできる選手だったのだ。正直「先生」が「この」KAZEや「あの」谷口では多くを期待するのは無理だと思っていたからこれはうれしい誤算だった。正直こんな団体にいないでよそで修行つめばいいのにとすら思った。とはいってもそこは新人。ましてやゼファーはもとより、皇牙にも試合をリードするだけの力量はもちろんないので、各所で磁雷矢が必死になって試合をそれらしく組み立てていた。なんか九州のレジェンドっていいように安く使われてるなあと思わなくもないが、正直磁雷矢さんがリードしてなかったらひどい試合になっていたかもしれないんだから、北九Zは感謝はするべきだろうな。

デビュー戦がこんなのという意味でいえば、ゼファーにも試練の大一番であったことには違いない。普通に久保や新泉相手に玉砕し、ほろ苦デビューを飾るよりよっぽど大変だったと思う。でもそんなゼファーの姿勢に少しは何か感じるものがあったのか、中盤からおふざけモードを引っ込めて来て闘ったブラドリにも一縷の良心が見えた気がした。これがなかったら終始だだすべりな内容になっていただろう。

試合はもちろんゼファーが負けたんだけど、一つ苦言を呈するならばどれだけ苦しい試合だろうとマイクははっきり通る大きな声をだしてほしい。いくら音響がぶつ切れになってても、地声でアピールできるくらいの元気のよさは新人には必須。蚊の泣くような細い声で、何をいってるかわからないようなアピールでは先が思いやられる。ここは真っ先に改善してほしい。しかし教える先生がいまだにマイクカミカミだからなあ・・・

メインイベント時間無制限一本勝負

○谷口勇武 VS ●アステカ
(17分3秒 ギブアップ)※勇武式腕固め「BARIKATA 」

さて、師匠を倒して九州のプロレスシーンに風穴をあけると大言を吐いた試合前の谷口。確かに営業も今までにないくらい頑張ったし、お客も努力の分を知ってかけつけた。あとはメインがどうなるかというところだけ。この試合も素晴らしかったからこそ最初に苦言を呈しておくと、本当にアステカごえを果たしたければ、二年前の対ネグロ戦のような、格下を引っ張れない内容ではなく、また相手の土俵で戦うにしても対佐々木恭介戦のように、返り討ちにあうような試合はしてはならないだろう。格下を引っ張りあげて、相手の得意分野でも互角かそれ以上の内容を示すことがエースの絶対条件であるはずだ。いわゆる相手を生かして、自分も生かすプロレスをすること。自分だけカッコいいレスリングをするだけではお客は離れていく一方である。で、このカード。正直谷口のコンディションがどうであろうとアステカという看板がメインをしめる以上、よっぽどの事故でもない限りはメインの体をなして、大会がきちんと終わることは容易に想像ができた。そこにアステカの勝ち負けはあまり関係ないのだ。ということはメインにこの人がでてくれさえすれば安泰、という興業の一番のキモになるところを、アステカさんに丸投げした時点で、谷口がメインイベンターとしての責任を半分放棄したとも受け取られかねない対戦カードになっていたのだ。だからここで谷口が負けても「ああ、やっぱりな」となるし、勝っても「善戦したよね」とみる側の多くは受け取る可能性が高いわけであるから、世代交代を印象付けるなんてよっぽどのことをしない限りは無理だろう。そもそも総合という確かなバックボーンがありながら、蹴りや関節ではなく投げに固執する従来の谷口のファイトスタイルでは、勝ち目も薄い。スーパー稲妻キックよりは精度が高いものの、谷口の投げ技がフィニッシュになった記憶はここ数年来ない。だからこそ、カッコいいレスリングをしない、なりふり構わない必死な谷口勇武が万が一でもあらわれてくれたら、と願うようにゴングを聞いた。

ところが、谷口がいつもの谷口ではなかったのだ。こんな谷口の試合にあたる確率はたぶん宝くじの一等があたるより低いと思うんだが、やっと我々の願いが届いたのか?そこにはなりふり構わずに必死にいちずに勝利への執念をむき出しにした谷口がいたのだ。まず序盤のハイキックでいきなりアステカの後頭部を射抜くといきなりダウン。受け身をとるでなく顔からまっさかさまに崩れ落ちたアステカの姿にただごとならぬ気配を感じたシーンだった。

実はシュートボクシングの心得もあり、かつては総合の試合も経験したアステカにとっては実をいうと谷口の得意分野は自分の土俵でもある。先手をとられたとはいえ、ここしばらく封印していたレガース着用でこっちも格闘戦モードにシフトチェンジ。こっちの蹴りもまた容赦ない。しかもプロレスの懐でいえば、アステカの方がずっと深い。普段自分だけ格好良ければいいという試合スタイルの谷口に比べればそれは一目瞭然。だから先手をとられてもアステカの余裕は終始消えないままだった。実際キックでダウン取られたあと、場外に放ったトぺで谷口をKO寸前まで追い込んだあたりにプロレスラー・アステカの矜持が見えた気がした。

だからこそわかりにくかったんだが、その懐の深さと、谷口がこの試合にかけた予想外の執念がこちらの予想を大きく覆す結果になったのだ。確かに終始アステカに余裕はあったし、いままでの谷口だったら、彼の試合に付き合っても負ける要素はなかったと思う。ましてや、敵の土俵に簡単におりていってしまううかつな谷口のことだ。つけいる隙はいくらでも生まれよう。今まで通りだったら、だ。だが、この日の谷口は一味もふた味も違っていた。あれだけ固執している投げも決まり手にせず、投げを打ってから蹴り、締めと、勝負をあきらめない姿勢が見えてきたのだ。これはやはり団体を背負うものの覚悟なんだろうか?あれほどいってもなお変わらなかった谷口が、佐々木戦からわずか2か月でこのような変貌をとげていようとはだれが想像しただろう。

結局はこの覚悟の差が大きく現れて、粘るアステカがロープ際にいたにもかかわらず強引に上から、谷口がアンドレ殺しのアームロックを決めた。もう数センチで手が届く位置にいながら、完璧に決められたアステカはたまらずギブアップ。この時の衝撃はたまらないものがあった。正直谷口が勝ったとしても丸め込み程度で「僅差にして薄氷」の勝利しか予想してなかっただけにこれはすごいことがおきたと思った。なんせ自分の弟子にはよくて引き分け、負けても薄氷というのがアステカの貫いてきた姿勢だったからこそ、この結末は意外すぎた。だが、ギブアップを受け入れたということはアステカが、もう自身の勝利=自分の価値とは考えなくなってきたことの証であろう。実際ライガーもそうだけど、勝っても負けても強いイメージは変わらないし、価値は変わらない。むしろ勝った側の方が大変になるということでは、この勝利谷口にとてつもない重い宿題を背負わせたことにもなる。

それにしてもポテンシャルは誰もが認めながら、そのセンスのなさゆえに大きな遠回りをしてきた谷口勇武がこうもまあ見事に化けるとは・・・プロレスは奥が深いなと改めて思った。

試合後勝者の谷口がダウン寸前の中、悔しさをあらわにするアステカ。マイクでも「負け惜しみじゃねーぞ」といいながら「これだけ集まってくれた、お前を慕う後輩や、お前を見に来てくれるファンを裏切るな。群れるな、こびるな!孤独かもしれないけどそれがエースだ。お前が引っ張っていけ!だが、次はこんなもんじゃねーぞ!」と師匠としてのカツをいれたが、正直あと何手かだせそうな余裕すら感じていたけど、それを封じた谷口の執念は予想以上だったということなんだろう。確かに一筋の光明はみえたと思う。感動もした。だがなんせ谷口が信用にたる試合をしたのはこれがはじめてなんである。これをどうつなぎとめていくかが本当の勝負になるだろう。

エンディング

全試合終了後アステカさんと久しぶりに話をした。内容はかけないけど正直感動した。15年以上つきあってはじめてこの赤いおじさんを格好いいと思った。と同時に谷口がこの位置にいて、同じことをいえるようになってはじめて世代交代をなしえたといえるんではないかと思った。実はあの年齢にして未だ成長しているアステカさんの地力を私も見くびっていた。いやあ、あの赤い頑固なおじさんがここまでいうようになったとはなあ。感慨深かった。一つだけ話すとしたら、やはり見てる側もそうだったけど、もと華☆激の日高レフェリーがこの試合を裁いたことが私もうれしいと思ったし、アステカさんもそう思っていたようだったこと。15年余の歴史を振り返ると走馬灯のようにいろいろな場面が頭をよぎっていったのもなんか感動させられた所以だったのかもしれない。

だが歴史云々は別にしても試合内容で谷口が勝ったのはまぎれもない事実。試合後もひとりひとりのお客をフラフラになりながら、でもしっかりした声を出して送り出していた谷口の姿に今度こそ本気で賭けてもいいかなという気にさせてくれた。それは事実。確かにいらっとする進行や曲だしのタイミングが遅いことやブラドリの立ち位置や、練習してないのがもろバレな皇牙など、谷口への信用がそのまま団体の信用にならないのは当たり前だとしかいいようがないのだが、少なくともまたみる機会があったら、今回ほど見るハードルをさげて観戦することはないとだけはいっておく。それだけハードルが上がったということで、もししょぼい試合をしようものなら、それこそみなと祭りの比ではない観戦記になるだろうことは予告しておく。

後記

でも、今回は本当に谷口勇武よくやった!それだけはいっておきたい。悪口言うつもり満々で会場に来たんだけど、まさかこういう展開になるなってなあ。やはり中間では奇跡がおきるのかな?

次回は有料大会が黒崎であるらしい。もちろん私はこの勝利をふまえてなお、Zを観戦することはない。要は裏がどこと重なろうと北九Zを見に行かないと損だ、くらいに思わせてほしいのだ。そういう意味では道のりは依然険しいのである。

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