全日本プロレス・2019 SUMMER ACTION SERIES ~2019 Jr. TAG BATTLE OF GLORY~
(2019年7月23日・火・福岡・北九州芸術劇場 中劇場)
イントロダクション
芸術劇場でプロレス観戦するのは一昨年の九州プロレス以来。全日本プロレスが、芸術劇場を使用するのはもちろん初。事情を明かせば、他の会場が取れなかったんだろう。北九州は博多と並んでプロレス会場探しには苦労する土地なのがもったいない。
二階最上段から見下ろすリングはまた格別で、いつもと違う光景が見られたのは良かった。FC特典の撮影会は、好きな選手とのツーショットという太っ腹ぶり。大都市より地方大会が恵まれているのは、こういうところにある。
オープニング
試合開始前は北九州を拠点に活動するご当地アイドル愛◆Dreamがライブを行う。こうした点も馬場全日本を知る人間からは隔世の感がある。そしてメンバーが全員ジャイアント馬場さんが亡くなられた後に生まれていたことを知り、かなりメンタルを削られた。
そうか…この子達は生でジャイアント馬場という存在を見ていないんだなあ。自分が歳とるはずである。
第1試合 2019 Jr. TAG BATTLE OF GLORY公式戦
〇岡田佑介&佐藤光留 [2勝1敗=4点] vs ×大森北斗&フランシスコ・アキラ[2敗1分=1点] (11分00秒サドンデス→体固め)
秋山全日本にとって精神的支柱でもあった青木篤志の急逝に伴い、否が応でもエボリューションの戦力にならなければならない岡田と、青木の相方でもあり、全日本ジュニアを牽引する佐藤光留は、仮に相手が若手の北斗&急成長株のアキラであっても取りこぼしは許されない。
今や全日本は若手がどんどん出てくる好環境にあり、馬場全日本時代ならいち若手に過ぎなかったであろう岡田に求められることは多いのだ。
試合は若さと勢いで北斗とアキラが先手をとり、エボリューションを封印しにかかるが、やはり打撃や関節技という絶対的な武器を持つひかるんにペースを変えられるとなかなか苦しい。
そして、北斗よりやや上にはなるが、やはり若い岡田が、北斗とアキラの壁になる。いつのまにか、岡田が若い世代の挑戦を受けて立つ側になっていたことも感慨深い。
もちろん岡田にしてみたら、青木の分まで戦力になりたい気持ちはあっただろう。だが、目の前に自分を追い落としかねない突き上げがあることに対して、自分の力を誇示したかったにも違いない。そんな岡田の気持ちを汲んでか、ひかるんのサポートもまた抜群だった。こちらにも青木の影が見えた気がした。正解は本人のみぞ知るところではあるんだが。
第2試合 6人タッグマッチ
秋山準&大森隆男&×鉄生 vs ジェイク・リー&〇野村直矢&トゥルエノ・ゲレーロ(9分23秒フロッグスプラッシュ→片エビ固め)
北九州大会恒例がむしゃらプロレス提供試合は、なんと秋山&大森という馬場全日本の時代を知る選手が直接乗り出してくるという好カード。全日本に対する憧れを隠さないゲレーロにとっても、秋山&大森と組む鉄生にとってもまたとない貴重な機会であることは言うまでもないだろう。
先発は鉄生とジェイクでスタート。やはり現役アジアタッグ王者(パートナーは岩本)であるジェイクの壁は厚い。が、今までならたじろいでいた鉄生が、タックル合戦でも引かない姿勢がみえたのは、収穫だった。
それはゲレーロでも同じで、あの秋山準に真っ向から挑んでいくあたりに、大きな成長がうかがえた。普通なら憧れのマットに上がって、浮足立っても不思議ではないのだが、2人ともそういうところは一切なく、見ていて非常に頼もしかった。
とはいえ、ツアーを経て連戦を経験し、あたりの強いスーパーヘビー級と毎日バチバチやりあっているプロのメンバーと比較すると、やはりこじんまりして見えたのも事実。特にゲレーロは上背だけならプロメンバーと見劣りしないだけに、余計際立って見えたし、鉄生も序盤は耐えられたところを終盤では返せなかったり、課題になるところも目立った。
やはり経験値という点ではプロには到底かなわないので、そこは表現力だったり、場を支配する力だったりがもっと磨かれてくると、単なるお客さんではなくなってくるとは思う。
でも見ていて嬉しかったのは、秋山GMが一切がむしゃらをお客さん扱いしていなかったことで、馬場さんから受け継がれた「王道」をがむしゃらに注入しようと厳しい攻めの姿勢できてくれたこと。これはやはり感謝しかない。そしてどんな相手でも一切手を抜かない強敵であってくれたことは、長年全日本を観戦してきた人間からすると、誇らしかったりもした。
どれだけ時間がたとうとも馬場さんの教えが脈々と受け継がれている限り、全日本プロレスは決して死なない。思った以上にいい試合になって、会場も熱く盛り上がった。何よりネームバリューのある秋山や大森が第二試合に出ていても成り立つくらいに、今の全日本は充実している。それが一番うれしかった。
第3試合 6人タッグマッチ
諏訪魔&石川修司&×田村男児 vs ジョー・ドーリング&〇ディラン・ジェイムス&青柳亮生(11分15秒チョークスラム→片エビ固め)
暴走大巨人対大型外国人タッグのぶつかり合いは今や秋山全日本の名物として定着した感があるが、地方大会らしくここに若手二人が入っている。当然彼らは狙われて然るべき対象になるが、同時にトップどころに食らいつけば、自身のスキルアップに繋がる。
ましてや全日本ではヘビー対ジュニアの対戦は当たり前のように組まれる。無差別の闘いが日常である以上、ジュニアだから、若手だから、というのは通用しない。
青柳も田村もこれをチャンスととらえ、自分から積極的にタッチを求めていったところは本当に良かったと思う。ややもするとヤングライオンのがつがつした感じから比較して、大人しめなイメージがある全日本のあすなろ戦士たちだが、秋山全日本の若手たちは自らチャンスを求めて、つかみにかかっている。第二試合にでている野村もそうだったし、メインを務める青柳兄もそうだった。
もちろん暴走大巨人にしても、ジョー&ディランにしても、彼らに甘い顔は一切見せないし、対格差を利してつぶしにかかるのだが、踏まれても踏まれても立ち上がる若手たちの姿勢は素晴らしいものがあった。
正直、世界タッグを争う諏訪魔&石川と、ジョー&ディランの間に立って、下手すれば埋没しかねない状況下で、しっかり観客にアピールできたのもよかった。
実際青柳亮生と田村男児はそこそこ上背もあり、今後のトレーニング次第では大きな体を作っていくことも可能だろう。その時にこの試合のような経験が、スキルになって加わってくると、間違いなく将来のスーパースターになってくれるだろう。秋山全日本の魅力は大型選手の肉弾戦だけではなく、イキイキした若手の成長にこそあると私は思っている。
第4試合 8人タッグマッチ
丸山敦&ブラックめんそーれ&SUGI&×レブロン vs 岩本煌史&佐藤恵一&〇Kzy&堀口元気(11分28秒ランニングエルボースマッシュ→片エビ固め)
ジュニアタッグリーグということもあり、軽量級が多いドラゲーからはセミに出るKagetora&マリアに加えて、Kzyと堀口も参戦。たしかに馬場全日本時代からインディ団体との交流がなかったわけではないが、やはりドラゲーの選手が全日本マットで闘うというのは、色々感慨深いものがある。
休憩前のいかにも全日といったド迫力バトルから一転、インディサミットの様相を呈した第四試合。注目は北九州限定で参戦しているゼロワンのSUGIや、ランズエンドのレブロン、そして神戸ワールドを終えたばかりのKzy&堀口。特にSUGIの過去を考えると、ドラゲー勢の邂逅は非常に興味深いものがある。
できたらこの4選手はジュニアタッグリーグにも出てほしかったメンツではある。特にドラゲー勢はツアーも多いので、ビッグマッチ後の休みの間しかでられないというのがあるんで難しいところではあるけれど。
試合は入場時のダンスからゴムパッチン、そして、堀口がダイブ失敗するムーブまでドラゲーのまんま進んでいったが、注目は、今まで意外と絡みがなかった丸山と堀口が丁々発止でやりあっていたこと。この辺はドラゲーに飛び火しても面白いし、全日マットで展開しても面白い。
そんな中でもゼロワンのSUGIが潜在能力を発揮して、大いに会場を沸かせたことも特筆しておきたい。中の選手の正体からすると、このメンバーの中で頭角を現して当然ではあるのだが、ドラゲー勢の対角線にSUGIがいたことは何となく運命的なものを感じずにはいられなかった。
第5試合 2019 Jr. TAG BATTLE OF GLORY 公式戦
×ツトム・オースギ&バナナ千賀[1勝2敗=2点] vs 〇Kagetora&ヨースケ♡サンタマリア[1勝1敗=2点](10分29秒 車懸)
オースギ&千賀は闘龍門13期生。一方のKagetoraとマリアは、ドラゲーの生え抜きで、ルーツは同じウルティモドラゴンながら、全くことなる道筋を歩んできた2チームが、闘龍門でもドラゲーでもなく、全日本マットの、しかもセミファイナルで当たるというのは、色々な意味で感慨深い。
しかも、ウルティモドラゴン校長は彼らに先んじて、定期的に全日本マットにも上がっているのだから、こうして考えると闘龍門とドラゲーの邂逅は必然だったとも言えるだろう。
ロックアップから始まって序盤のやり取りはさすがに、ルーツが同じもの同士。普段あまり絡みあうことがなくてもちゃんと試合としてかみ合っていたのはさすがとしか言いようがない。Kagetoraはなんだかんだいっても闘龍門の色があるので、厳密にははっきりわかれているわけではない。問題はマリアで、「彼女」は純然たるドラゲーの出身者。
全身金ずくめという「余所行き」のコスチュームを纏ったマリアは、相手がSOSであろうが、場所が全日本マットのセミファイナルであろうが、全く「普段通り」の闘いを見せて問題にしない。それでいて、お笑いだけではなく勝負どころではきちんと仕掛けてくるし、厄介なことこの上ない。
これを何とかかき乱さんと、SOSはお得意の連携を駆使していくが、意外なくらいローンバトルにならないTRIBE VANGUARDは、終盤でもカットされたはずのマリアが抜群のタイミングでリングイン。そこへKagetoraの車懸でオースギから勝利。星を一勝一敗の五分に戻した。
マリアの存在に気を取られていると、Kagetoraにしてやられてしまう。TRIBE VANGUARDはリーグ戦の台風の目になりうるチームになるかもしれない。
メインイベント三冠ヘビー級選手権試合前哨戦6人タッグマッチ
×宮原健斗&青柳優馬&ヨシタツ vs 〇ゼウス&船木誠勝&KAI(21分59秒
ジャックハマー→片エビ固め)
大阪をホームにしているゼウスは、かつて宮原から三冠奪取した実績もある難敵。前哨戦という形で試合が組まれるのは、地方大会の常套手段。ただ、全日に上がる前のゼウスはしばらく九州プロレスを主戦場にしていた時期があり、北九州はいわば準ホームといっていい土地。
とはいっても王者・宮原にとっても出身県である福岡はホームであり、北九州は準・地元。お客さんとしてはどっちに声援送ったらいいかという迷いがあったのかもしれない。
ゼウスコールに不機嫌になった宮原は、ややヒール寄りのファイトでゼウスを攻め立てるが、宮原が終始悪役だったかというとそれも違う気がするし。そう考えていくと、ヒールだ、ベビーだ、という前に純粋に三冠をめぐるライバル対決という図式で、次期三冠戦を見るのが正解のような気がする。
ここでも世代対決というものがあって、もと新日本同士であるヨシタツと船木の邂逅や、武藤全日本に出自があるKAIと、秋山全日の申し子である青柳の絡みは、長い全日本の歴史を振り返ってみると、いろいろ感じ入るところがあった。プロレスは長く見ていれば見ているほど色々面白い点が増えていくもの。
特に在籍期間がかぶっていない船木とヨシタツは正真正銘の初対決!かつて憧れた先輩に向かっていく様は、なんとなくヨシタツではなく、山本尚史が見えた気がした。
試合は劣勢を跳ね返したゼウスが船木やKAIのサポートを得て、必殺のジャックハマーで宮原自身からピンフォールをとった。試合後のマイクでも感謝を述べて、全日本プロレスのゼウス、ここにありを見せつけた。
エンディング
ロビーに出てみると、故・青木篤志の写真が飾られていた。そこにはエボリューションの旗にたくさんのメッセージがかきこまれていた。リング上では過去と現在が交錯することはあっても、現実では過去には戻れない。そのむなしさをいやというほど知ったのだった。
試合後の打ち上げも盛り上がったし、大会自体も盛り上がった。これはぜひとも北九州大会を定例化して、定期的に全日本には来てもらいたいなと思う。福岡でスターレーンがなくなってドル箱会場を失ったプロレス界にとっても、北九州大会を増やすことにはメリットがあると思うから、ぜひお願いしたい。おつかれさまでした!