九州プロレス『北九州ば元気にするバイ!’15』観戦記
(2015年3月1日(日) 北九州市・北九州芸術劇場大ホール)
イントロダクション
昨年はメインがダダすべりだったり、中央に設置した招待席はガラガラだったり、北九州大会はじまって以来の低クオリティな大会だったのだが、今回はその轍は踏まないということで、いろいろ手をうってきていた。今回は招待席を真ん中にするという愚はおかさず、招待席自体もある程度埋まっていた。それはいいのだが、どうも今まで九プロが持っていたいい部分までスポイルされてしまったような気がしていた。それはストーリー性だったり、ドラマ性といった部分。玄武會と正規軍が抗争してるはずなんだけど、そこらへんが不鮮明というか。
オープニング
まあ試合内容がよくなかったら、それらの部分が生きるはずもないのだが、スターレーン大会以降、結局予定もバッティングしたりで行けなかった大会も含め、どうも「見逃して後悔した」ことがなかったりするのはちょっとどうなのかなあと思っていた。
もともともっているポテンシャルはとても高い団体だし、実際見逃して後悔したことも過去にはいっぱいあったりしたのだが、半年ぶりだというのに、わくわく感が0というのも困ったものだなあと思いながら、芸術劇場へ行く事になった。
キックオフ! 九州アニマル大決戦! 20分1本勝負
○フライング・ギラン(8分49秒 片エビ固め ※ギラントーンボム)対白くま●
ギランもいつの間にか北九州大会限定のキャラになってしまい、ギラン一族という設定も何となく「中身の都合」次第なんだろうなあと思ってしまうあたりがもうダメなんだよなあ。ギラン一族が一堂に会するとか、そういう面白いことをやってほしいのに、第一試合に固定して、中身だけすげかえて毎年やっていたんではいずれ飽きられよう。もう飽きてるけど。
で、今回は鳥vs熊の九州アニマル大決戦と銘打って、これも立ち位置が微妙な白くまが対戦相手。「フライング」というからには鳥らしく空中戦が期待できるのかなあと思っていたら、白くまのゆるいペースで試合が進行。あげくギラヴァンツ北九州のマスコット、ギランくんを、白くまが敵と間違え攻撃。ここから怒ったギラン兄弟は、二人掛かりで逆襲というまさかのギランくん介入・・・・いや、ギラン一族が一堂に会してほしいとは思ったけど、こういう形での参戦は勘弁してくれよ。延髄シュート、フライングボディアタック、コーナーからのミサイルキックと終盤は何となく飛んでいたギランが、ニールキックから、ギラントーンボムで決着。いや、もうすこし鳥人らしいところをみせて欲しかったなあ。去年のWギランの方がまだ飛んでいたよなあ・・・・
ばってん試練の7番勝負〈第五番〉チャレンジ・ザ・レジェンド! 20分1本勝負
○ザ・グレート・カブキ(7分56秒 体固め ※ラリアット)対 ●ばってん×ぶらぶら
対 がばいじいちゃん
試練の七番勝負ってまだやっていたのか?しかも第一戦の相手で、ゼウスという強烈なのが出てきたせいで、それ以降は記憶にすら残っていない。というより第一試合がゆるい試合になることは予想できるはずなのに、なぜ同タイプの試合を二試合続けてマッチメークするのかなあ?正直、カブキが登場してヌンチャクを披露して、毒霧噴いたのがこの試合のピークだった。
そもそもばってんという存在を、一番まずい使い方してるのが所属の九プロというのが大きな問題なんだよなあ。DDTの方がまだ面白い演出をしてお客の興味をひいてるんだけど、カード自体もあいかわらず3WAYだし、これで興味をひけると思っているんだとしたら、マッチメーカーの頭も劣化したよなあと思わずにはいられない。とはいえ、ばってんの強いアピールで実現したレジェンドへの挑戦ということになっているので、九州ゆかりのレジェンド・カブキを生かしつつ、お笑いに昇華できれば、がばいじいちゃんもいることだし、やりようによってはインパクトのでかい試合になったかもしれないのだが、多くを期待したのは間違いだったかなあ。事前にばってんが予告していた「小倉城!皿倉山!しろやのパン!」という北九州エルボーを、絶妙のタイミングで緑の毒霧を噴射してかわしたカブキが、悶絶するばってんへラリアットを決めて、試合終了。正直眠かった。
黒船北九来襲! 30分1本勝負
田中純二 & ●ウォーターマン日田丸(10分56秒 片エビ固め ※グラノミクス )対 ○ザ・グラバー & キシャーン
九州プロレス、選手、ファンまでも「すべて金で買う」と宣言した謎の外国人、ザ・グラバーは曲者キシャ―ンまで金で買ったらしく、お供につけて客席に金をバラまきながら登場。このグラバー札がなかなかの出来で手に入れたかったのだが、残念ながらあと数センチ届かず。まあできるんならレインメーカーみたいなド派手な金の雨を降らせて欲しかったのだが、ちょっとそこらへんが微妙だったかな?だいたい海外ではミリオンダラーマンという成功例があるんだけど、それにしたってもう30年近く前の話だし、実際に団体に金の雨を降らせたレインメーカーはまだしも、リアルお金持ちのビンスがリングに上がって試合してしまってからは、プロレス界の「作られたお金持ち」キャラは今一つ説得力をもたなくなってしまった。そういう歴史を踏まえた上で、あえて黒船来襲と銘打ってきたのかなあと思ったのだが…
タキシードを脱いで臨戦態勢になったグラバーは普通の外国人選手になっていた。ここはやはりパーキン・スパイダースみたいなインパクトが欲しかったなあ。しいてお金持ちらしいところといえば、エプロンサイドから、大量の紙幣を日田丸に投げつけ、ひるんだ隙にキシャーンの急所攻撃がみられたあたりと、フィニッシュに出てきた「グラノミクス」くらい。まあ力で圧倒していたわけでもなく、淡々と実力者2人を退けたという試合内容では、次にじゃあ、筑前やめんたいと闘うのかといえば、その図式がみえてこない。試合後、虫の息の日田丸の口に大量の紙幣をねじ込み、「金権プロレス」をアピールしたのはいいんだけど、これをやられてるのがめんたいや筑前だったらもっとインパクトがあったろうになあと思わずにはいられなかった。まあ、あの2人はそういうのはやらないだろうけど。
夢は叶う!~伝説の虎、九州降臨!~ 45分1本勝負
筑前りょう太 & ビリーケン・キッド & ○初代タイガーマスク(16分40秒 体固め ※ダイビング・ヘッドバッド )対阿蘇山 & 桜島なおき● & 藤田ミノル
このカードをみて最初に思ったこと。それは「九プロが佐賀プロと同じことをするな!」。
佐賀プロの観戦記でも散々苦言を呈した中のひとつに、「レジェンド呼んで自分たちが試合で絡めてうれしいのはわかるけど、その自己満足に客をつきあわせるな!」というものがあった。今同じことをよりによって九プロにいわないといけないというのは本当に悲しい。
佐賀プロの後追いをしたことも情けないのだが、初代タイガーに気を遣いすぎて自分の試合ができていなかった筑前やビリーはもっと情けない。はっきりいって58歳である現在の初代タイガーよりずっとポテンシャルもずっと高くないといけないはずの、現役バリバリの筑前やビリーが嬉々として、初代虎の露払いを演じてるさまは情けなかったとしか言いようがない。
試合前のあおりVでも阿蘇山が「なあにが初代タイガーだ。レスラーなら組むより闘うだろ!」といっていたが、玄武會の方がよっぽど初代タイガーの良さを引き出そうとしていた。もちろんレジェンドとしての敬意を払いつつ、「老いたけど、今でもこの人はこんなにすごいんだよ」ということをお客に伝えようとしていた。それがなかったらこの試合はワースト試合になっていたかもしれない。
実際下関市の初代タイガーが隣の山陽小野田市の藤田と対峙したシーンでは、同じ山口県人レスラー同士の夢の対決レベルだけではなく、藤田がガードした上から初代タイガーが鋭いキックをたたき込み、防御した藤田ごと吹っ飛ばしていくシーンが見られた。このあたりはさすが腐っても虎だった。こういうところをみて「なにくそ、レジェンドに負けてたまるか」という闘志を筑前やビリーに感じられたらこの試合はもっとレベルの高い内容になったと思うのだが…
明らかにレジェンドに気を遣っての長い場外戦(タイガーを休ませる計算だったのかもしれないが、リング上にぽつんとひとり残されたタイガーは、なんか手持ちぶさたに見えたし)もだれた。さらに、届いたかどうかがきわめて怪しい、初代タイガーのダイビングヘッドバッドでフィニッシュにしてしまったのも「なんだかなあ」というレベル。こんなところで終わってしまったのがつくづくもったいないと思った。このメンツだったらもっと他にやりようがあったはずなのに。
<北九州ば元気にするバイ!!~九州プロレス選手権試合~ 60分1本勝負
<王者>○玄海(22分55秒 ※玄海灘 )対 めんたい☆キッド●<挑戦者>
※第三代王者が6度目の防衛に成功
昨年のタッグトーナメントで絶対王者・玄海の「無敗記録」をストップさせて、優勝しためんたいが満を持してベルト挑戦ということだったが、この流れというのは過去阿蘇山もやっていて、その時は筑前を破って二代目王者についた。ということはこのタイミングで、玄海の王座転落も考えられないことではない。この大会のあとはめんたいフェスタだし、8月のスターレーン大会までめんたい体制で新しい九プロの流れを作っていくのも悪くはない。まあ厳しい言い方をすればどっちが勝っても次への興味がそれほどないというのが本音ではあるのだが、そこに目をつぶるにしても、この2人の組み合わせは過去好勝負を連発していたので、外しようはないだろうと思っていた。
玄海は気合い十分のキック、パンチ、ヘッドバッドなど力強い攻撃でめんたいはハイスピードな動きで対抗するというのが理想の流れだったんだけど、今回の対決ではそこまで明確な差は感じなかった。さっき玄海の負けを予想しておいていうのもなんだけど、ヘビー級の圧倒する力の差というのを、玄海はもっと見せつけてもよかったかなあ。ヘビーとジュニアの差をあまり感じないというのはやはりちょっと問題だよなあ。今回もすごい試合だったんだけど、玄海がめんたいの攻めに付き合いすぎたのはちょっとマイナスだった。
しかし、「今回も」だけど試合内容はかなり白熱した。前回のフィニッシュ、ドラゴンスクリューからの足四の地固めへ移行してめんたいがペースを握った時はあわやと思ったが、それ以外では玄海を攻めあぐねていたようにも感じた。素早い丸め込み連発で、あわやという場面を作ったが、スタイルズクラッシュまで出した玄海もかなり必死だった。最後は
グーパンチから打ち首・極、渾身の力を込めた超人拳、完全KO状態のめんたいへ完璧な玄海灘を決めて王座防衛となった。
いや、この試合内容で締められたのはある意味救いだったけど、じゃあ次に何をみせるのというところで、何もないのだ。それは玄海が試合後「めんたいがそろそろ勝つと思ったでしょ。しかしね、俺はまだまだ強いんですよ。これで過去最高、6度目の防衛を果たしました。だが、めんたい☆キッド、めちゃくちゃ強かったです。オイ!めんたい、何回でも来いよ!挑戦権とか期間とかどうでもいいよ!また、タイトルマッチやろうぜ!熱い試合やろうぜ!僕たちは熱い試合がしたい。勝手に決めます!今年、博多スターレーン、もう一回やりたいと思います。」とめんたいフェスタをすっ飛ばして、8月のスターレーン大会の告知をしてしまったマイクにも象徴されていたんじゃないだろうか。
エンディング
昨年もやったスターレーンではその玄海に筑前が挑戦するという流れがあって「次回に続く」となった。挑戦権とか期間がどうのというより、今タイトルマッチとして確実な内容が保証できる手札が、玄海対めんたい以外にないという事実が浮き彫りになってしまったような気がする。この鉄板対決によりかかりすぎて、過去にやってきたドラマ性やダイナミックな展開がどっかに行ってしまっているのは、九プロをみてきた人間としてはちょっと残念だった。確かに死闘だったし、熱い試合でもあった。だが、プロレスというのは最終回というものがない。終わりは新しい物語の始まりであるべきだと思う。だとしたらせめて何か匂わす程度でもいいので次回への布石をみせてほしかったと思う。
打ち上げ
試合後の打ち上げで、玄海とは17年ぶりに懐かしい話をさせてもらった。その時にも本人にはいったんだけど、引退するまでにはGENTAROとシングルをやって、若い頃九州にいたのとは違う「今の玄海」を、かつての先輩にみせつけてほしいのだ。FREEDAMSと九プロとは因縁も何もないし、何よりカード的には新鮮でもある。ノンタイトルで、というのならばそれでもいい。そういうのを見たいんだけど、みせてくれるのかなあ?玄海がこのままの流れで埋没していくさまを、ただ指をくわえてみているだけというのはあまりにも忍びないのだ。
もう一回スターレーンをやるんだったら、今度はボブサップや、レジェンドの知名度を借りない、現役世代の意地を見せつけて、私なんかが「参りました」と頭を下げるような素晴らしい大会にしてほしいと思ってはいるのだけど。