[プロレス観戦記] 『FREEDOMS vs がむしゃらプロレス 対抗戦』

『FREEDOMS vs がむしゃらプロレス 対抗戦』(2019年8月3日・土・ 門司赤煉瓦プレイス)

この全面対抗戦がぶち上げられたのは、今年5月のFREEDAMS北九州大会。近年では毎年何かのサプライズがあり、昨年は杉浦対陽樹のシングルマッチを後楽園で行うことが発表された。このサプライズはがむしゃらにも、当然本人にも内緒で仕掛けられるため、発表する殿のしたり顔がもれなく付いてくる仕組みになっている。

そうして仕掛けられた対抗戦のボールはがむしゃら側に渡されたわけだが、発表されたカードはまさかの全戦対抗戦!しかも対抗するFREEDAMSは、主要メンバーがほぼ勢揃いするというありえないことがおきてしまった!前代未聞のプロ対社会人の全力闘争。かねてより殿は「リングに上がる以上、プロもアマも関係ない!」と断言してきたからこそ、容赦ない攻撃が仕掛けられるこは想像に難くない。

リングはがむしゃらのものだが、エプロンは通常の仕様ではなく、黒い布が使われており、いつもとは異質な感じがする。場外戦を想定してか、広めにスペースが作られていた。前説はゲロQ+HIROYA。続いて運営部のSHIGEKICHIリングアナとK.Kレフェリー、そしてドン・タッカーがリングイン。

友好的な感じで対抗ムードを和らげようとしたSHIGEKICHIリングアナを制したドンは、なんと本気でFREEDAMSを倒すと宣言。気合いの丸坊主姿に!

返す刀で佐々木貴を呼び出すと、こちらも気合い一杯!思わずドンがコーナーに後ずさるほどの迫力でこちらもなんと全勝を宣言!かくして対抗戦の火蓋はきって落とされた!

▽全面対抗戦シングルマッチ
①×ドラゴン・リブレ vs ○リキ・ライタ
(10分21秒)

全試合対抗戦となって、唯一のシングルマッチがこの試合。結果がこうだったから言うわけではないが、カード発表された当初から私はこのカードを最注目していた。

とはいえ、さすがにあしはらみたいな試合をしていたら、リキには万が一にも勝ち目はないのだけど、キャリアでも若さでも上をいく「先輩」リブレに対して、リキはどう挑んでいくか?

正直、社会人だからとか、年齢がいっているからとかはどうでもいい。その闘う姿勢こそ、リブレに焼き付けないと結果がどうあれ、リキのためにもならないし、がむしゃらプロレスのためにもならない。

単に勝ちにいくだけならそれこそここにSMITHを入れてもよかったし、ほかにもできる選手はたくさんいる。でもリキ・ライタだからこそ、リキ・ライタがこの第一試合という大事な位置づけで、お客さんにどういうイメージを残せるかが大きなカギ。

さて、当然のようにテキーラ持参のリキは、デスマッチ団体なんだから、という理由で、ビバ・メヒコデスマッチを強要。しかし、当然プロの吉野レフェリーが知るわけもないので、SHIGEKICHIリングアナが一からルールを説明する。吉野さんは「アレンジさせてもらう」と言って、1分を待たずに自分の裁量で、優勢を決めてテキーラを飲ませるという進化系ルールになってスタート。

当然ながら、最初からリキはハイペースで飲まされていき、通常なら相手選手が飲むことはまずない。しかし、吉野レフェリーの裁量で、ドラゴンスクリュー→足4の字固めに入ったリブレの「プロレスLOVE」ポーズが似ていない!とクレームが入り、酒に弱いらしいリブレが飲まされてから、試合の雲行きが怪しくなる。

その後も吉野レフェリーの裁量は自由きわまり、リキが仕掛けた足4の字固めがひっくり返されて、リキがテキーラ飲まされたあと、再開するにあたり、まるで総合のように元の4の字固めの場面からやり直したり、実に自由自在。

結果的にこのフリーダムなレフェリングに助けられて、リキがリブレから自力で初勝利!怒った佐々木貴が飛び出してきて、リブレに鉄拳制裁したが、時すでに遅し。

やはりビバ・メヒコデスマッチはレフェリーの腕次第で更に面白みが深まりやすいことが証明された。たしかにリキは自力で勝ちはしたが、この試合の立役者は吉野レフェリーだった!これは間違いない。予想を超えた面白さだった。

▽全面対抗戦1 vs 3ハンディキャップ
②○マンモス佐々木 vs ×ダイナマイト九州 & ×BIG-T & ×竹ちゃんマン
(6分49秒)

先週木曜のラジオで「ガンジーになる」(無抵抗主義?)と宣言していた九州。とはいうものの、対マンモス佐々木というより、盤石の信頼をおける(かもしれない)パンチくんのかわりに、果たして竹ちゃんマンやBIG-Tが機能するのかどうか?

実際問題「1.3.5.7九州!九州!」がいつも通りできた時点で、九州の仕事は完遂できたと考えてよさそうだけど、そのお返しは半端ない形でくるだろう。キーポイントはむしろBIG-Tがどれだけ力を発揮できるかにかかっている気もする。なかなか覚醒しないけど、gWoもなくなったし、今後どこへ所属するにしても、この試合はキーになるに違いない。

マンモスの入場時に正座して待つ九州たち。試合前にマイクをもち「争いはやめましょう」と言い出し、竹ちゃんマンを寝かし、フォールを奪うように要請。そしてマンモスに握手を求めるが、当然これは「フリ」。握手と見せかけてマンモスを奇襲。そこから場外に出たり、戦前通り「いつものやつ」を見せつけて九州のケツが大活躍。

だが、肉弾戦だけでない面も持つ頭脳派のマンモスは、ややこしいメンツに苦慮しながらも、体格とパワーを駆使してぶつかっていく。こうなっていくとあきらかにがむしゃら勢は不利。

結果は予想通りマンモスがハンディをものともせず、堂々の勝利。そりゃ、現タッグチャンピオンだし、負けるわけにはいかなかったからねえ。

▽全面対抗戦タッグマッチ
③神威 &○ 吹本賢児 vs 豪右衛門 & ×MIKIHISA
(10分19秒)

gWo解散後、7.1でのMIKIHISAの呼びかけに応えてナスティ入りした豪右衛門は、晴れてMIKIHISAとの名タッグを復活させたわけだが、相手はこれまた高い壁になりそうな神威と吹本。神威はUNCHAINではないし、吹本とは頻繁には組んでいないといっても、両者ともベテランだし、呼吸という点では問題ないだろう。

逆にMIKIHISAがナスティにいってからは、豪右衛門とはタッグを組んでいない分、連携に一抹の不安があるといってもいい。個々の力は十分にあるけど、それだけではタッグは成り立たない。逆に組んでいないのに連携に不安があるとは思えない神威&吹本とは対照的である。

試合を見ていると中盤までは元・GWAタッグ王者組が力量を発揮していたが、吹き本や神威はどうも様子見していた感じがした。守勢に回っても落ち着いてみえたからだ。逆に豪右衛門&MIKIHISAの方が浮足だってみえた。一見すると普段通りの連携ができていたようにみえていたんだけど、終盤の神威&吹本の畳みかけはすさまじかった。プロレスというのはつくづく奥が深い。

そして、神威と吹本はまるで普段から連携しているかのように非常にコンビネーションがよい。メインが圧倒的な差ならば、この試合はプロが細かいところで差を見せた試合だったように感じた。とはいえ最後にパッケージドライバーまで繰り出したあたりに、もしかしたらプロ勢がそこまで追い込まれていたのかなと思ってもみたりした。

とはいえ、現状で豪右衛門もMIKIHISAもできる全力は出して戦っていたので、彼らを責めるつもりはない。例えば、プロとアマでは、あたり云々はやはり差があっても仕方ないけど、空間の使い方や変幻自在なコンビネーションなど盗めるところは一杯あったんじゃないかな、と感じた。

▽全面対抗戦6人タッグマッチ
④×GENTARO & ○進 祐哉 & ○平田智也 vs ○SMITH & ○HIROYA & ○サムソン澤田(10分11秒)

試合としては一番読めないのがこのカード。SMITHとGENTAROの知恵比べも見どころだが、澤田と進のテクニック合戦ももごたえがありそうだ。さらに平田とHIROYAは若い世代通しの意地の張り合いに期待したい。

GENTAROはうまいし、ここぞというときには物凄い力を発揮してくるが、それはSMITHも同様。澤田と進はベースにあるものが違うけど、グラウンドでは一日の長があるし、平田とHIROYAは今が伸び盛りの成長株。

見るべきポイントは一見はっきりしているけど、チームリーダーのGENTAROとSMITHに未知の部分が多すぎて予想が立てづらいという「困った」カードでもある。

そして戦前の予想通り、この試合を混沌に陥れたのは、やはりGENTAROとSMITHの二人だった。まず先制したのは、野球も好きなSMITH。HIROYAとサムソンにお揃いのユニフォームを着せ、高校野球よろしく選手宣誓。あくまでスポーツマンシップに則って戦う気らしい。もちろんどこまで本気かは見ている時点では分かろうはずもない。そして、あのユニフォームがまた買い取りなのかどうかも知るすべがなかった。

結局SMITHは最後までユニフォーム姿だったが、こちらの問題点はGENTAROだった。孤高の存在にして、根っからの自由人であるGENTAROは、入場時からリブレを小突いたり、乱戦の際は客席に長々と居座ったり、やりたい放題。

もともと平田や進とは組む気がなかったらしく、誤爆がきっかけで、進&平田とも分裂。結局、なぜかGENTAROに対して五人が敵にまわり、1対5というスコアでGENTAROが敗北を喫する形に。

まさか、野球ネタが回りに回ってこんな形の結末を迎えようとは…。これでがむしゃらプロレス二勝、FREEDAMS一勝という形になった。

▽FREEDOMS vs 西日本連合軍 全面対抗戦6人タッグマッチ
⑤佐々木 貴 & ○杉浦 透 & 鎌田直樹 vs ×KENTA & 土屋クレイジー & ライジングHAYATO withキューティエリー・ザ・エヒメ
(14分35秒)

なんとも豪華なメンバーがそろった西日本混成軍。KENTAは現・GWAインターコンチチャンピオン。土屋は四国統一タッグ、そしてHAYATOは四国統一シングルと大阪のベルトを巻く二冠王。

ただ、メインの鉄生&陽樹同様、「爆弾」を抱えているのも西日本混成軍。そもそもHAYATOと土屋が愛媛で抗争を開始したのは、お互いが組んだタッグでの誤爆がもとでもある。そして、先の愛媛の大会で土屋は伊予魔神軍と結託して、HAYATOのもつタッグベルトを奪取した経緯がある。そしてKENTAは、土屋がいたgWoを解散に追い込んだLCRのメンバーである。

殿を含めて、FREEDAMSは力を合わせないと到底勝てないメンツなんだが、その前に空中分解する危険性もあるので、色んな意味で目が離せないのだ。

試合は先発で出てきたライジングHAYATOが捕まってしまい、ローンバトルになってしまう。FREEDAMS勢の中でも杉浦の余裕綽々な佇まいは、新人の頃からでは想像もできない。鎌田はそんな先輩方を見習って精いっぱいヒールをやっていたけど、まだ経験値が足りない感じもした。

一方終始血気にはやっていたのが土屋クレイジー。一切の気後れなくプロに堂々と立ち向かっていく姿勢には大きな声援がとんでいた。あれぞ社会人プロレスラーの心意気というやつである。お見事というほかない。

他方ではやる2人に押される格好でKENTAの出番が減ってしまったのは痛し痒しであった。だが、ほかの二人に負けじと前に出る姿勢は素晴らしかったし、本来KENTAはこうあるべきという試合をみせてくれた。

しかし、やはりFREEDAMS勢、特に殿とスギウラマンの懐の深さは、ため息しか出てこなかった。相手の良いところを引き出して全力で叩き潰しにかかるプロレスの見本のような試合だった。

試合後もおさまりがつかない土屋が食ってかかる中、なぜかGENTAROまで参戦して、エリーにセクハラ攻撃するなど終始混沌としていた。

▽全面対抗戦6人タッグマッチ
⑥○ビオレント・ジャック & ミエド・エクストレモ & シクロペ vs YASU & ×TOSSHI & トゥルエノ・ゲレーロ
(10分44秒)

メキシコ修業時代にミエドとは一緒に練習していたというゲレーロ。当時は二人ともともプロレスラーを目指す仲間同士だったが、5年という時を経て、片や西日本社会人ジュニア選手の雄として、かたやメキシコを代表するデスマッチファイターとして、がむしゃらプロレスのリングで相対峙するというのはなかなか感動的なめぐりあわせである。

とはいえ、夢のジュニアトリオは7・1のゲレーロプロデュース大会で一度空中分解しているため、連携に難がないと思われるメキシコ怪獣トリオと比較すると一抹の不安がぬぐえない。

実際試合が始まってると、ロス・ノマダスは基本的ムーブはできるし、スピードもジュニアには劣ることもない。その上パワーもあり、穴もない。これでは付け入る隙もなかなか見出せない。

がむしゃらが誇るジュニアトリオがこうもあっさり連携を分断されるというのも驚愕だったが、正直ロス・ノマダスに全く付け入る隙が見出せないのには参ってしまった。それでいてこちらもがむしゃらの良さはきちんと引き出してくる。飛んでくるブーイングすらエネルギーに変える怪獣トリオには圧倒されっぱなしだった。

ちょうどコーナーにはなった串刺しラリアットの破壊力をまざまざと見せつけられてたのも、改めてロス・ノマダスの総合力の高さを思い知らされた。アックスボンバー式で腕を叩きつけるだけでなく、ネックブリーカード気味に、首を刈るスタイルは、スタン・ハンセンのウエスタンラリアット方式そのもの。

これ一つとってもプロの技量の高さ、ノマダスのうまさが際立っていたと私は思う。むしろ負けて気持ち良いくらいの完敗だった。さすがプロは凄い。そして世界は広い!

▽全面対抗戦タッグマッチ
⑦葛西 純 & ○竹田誠志 vs 陽樹 & ×鉄生
(14分04秒)

5月のFREEDAMS門司赤煉瓦で、陽樹&鉄生と組んだ竹田は、2人のあまりの中の悪さに手を焼いていたが、そこから飛び火して殿がtリング上で、突然FREEDAMS対がむしゃらプロレスの対抗戦をぶちあげて今回の大会につながっている。

もはやタッグとしてはとても機能しそうにない2人がなんで組まされているかというと、この時の火種のもとが陽樹と鉄生の不和からはじまっているからにほかならない。がむしゃらとしては賭けにでたのだが、西日本混成軍といい、火種をいくつも抱えているカードが実現したことは、ある種興味深い。

なぜなら、面白いカードというおは往々にして選手が嫌がるものだからだ。見たいお客に寄り添うか、選手の気持ちに忖度するか?それはマッチメイカーの気持ち次第だが、今回は「そういう」ことになった。さて、この日一番の爆弾を葛西と竹田はどう料理してくれるだろうか?

入場時にパイプ椅子片手に入場してきた陽樹はよりによってunchain相手にハードコアマッチを要求して、竹田と葛西をこの瞬間、葛西と竹田の表情が水を得た魚のように生き生きと輝いた。案の定つぎの瞬間には戦場が場外に移り、陽樹や鉄生はイスで滅多打ち。はやくも二人とも大流血。そこに金具で額をえぐる狂猿・葛西。

陽樹も鉄生もやり返しはするが、あまりにunchainの力が圧倒的すぎた。ついにはあれだけいがみ合っていた鉄生と陽樹が自ら手を差し出してタッチを行うまでになった。たしかにお互い大嫌いなのだが、プロレスの実力までは否定していない。それが二人のいいところでもあり、ある意味この試合のハイライトでもあった。

しかし、いかんせん付け焼き刃の連携でどうにかできるほど、葛西&竹田は甘くない。椅子だけでは飽き足らずついには竹串まで持ち出して、陽樹&鉄生の流血はさらにひどくなる。最後は葛西の容赦ないパールハーバースプラッシュで、鉄生撃沈。

試合後、葛西が「面白かったから、次はデスマッチでやってやるよ」と最大級の賛辞を贈ったほど、鉄生と陽樹はすごい戦いをみせたし、見事に散って見せてもくれた。最後にマイクで陽樹が「お前は嫌いだけど、今日ほど心強かったことはない」とこれまた泣かせる発言も。まあこれで則・雪解けにならないところがこの2人らしい。

プロ対社会人の対抗戦は単に勝敗というところを飛び越えて、プロレスのすごみを見ているこちらにも十分突き刺した結果となった。

本来、デスマッチは感動を生むものなんだけど、アイテムにこだわったり、試合形式にこだわったりするとたちどころに「ゲーム化」してしまう。そうなるともう感動もへちまもなくなってしまうのだけど、FREEDAMSとがむしゃらの提示した闘いにはしっかりとした感動があった。全試合通してひとつもはずれのない素晴らしい大会だった。

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