プロレススーパー仕事人列伝 ニック・ボックウィンクル②
対カート・ヘニング戦
前編に続いてニック・ボックウィンクル編の後編です。
今回は「ミスター・パーフェクト」になる前のカート・ヘニング選手との一戦をレビューしてみます。
この試合では、カート選手がベビーフェイス、ニックさんがヒールで進んでいきます。
六つの見せ場
見所はいくつかありますが、試合は次のような展開で進行していきます。
①序盤はじっくりしたグラウンドレスリング
②カート選手が場外で攻勢にラフファイトに転じる
③ニック選手が大技で反撃
④場外戦でカート選手が流血
⑤カート選手に逆襲されたニック選手も大流血
⑥試合終了
長時間でも飽きさせない
この①から⑥まで、それぞれに山場があり、長時間の試合ながら、観客を飽きさせない工夫をしています。
①の攻防では、カート選手が左腕攻め、ニックさんが足殺しと、一点集中攻撃の応酬が繰り広げられます。
実はヒール向き
⑤でもそうなんですが、①などでも攻めているカート選手は実にヒール向きのいい表情をしています。
とはいえ、ベビーフェイスの動きもそつなくこなしているため、後に「ミスター・パーフェクト」(「何をやっても完璧な男」だけど、「これは!」と一つ秀でたものがない、という意味もあるらしいです)と呼ばれる所以がこの試合でも見られるわけです。
最初から汚い攻撃は
一方ダーティーチャンプと呼ばれるニックさんは最初から汚い攻撃はしていません。
序盤でのこってりとした攻防、そして③では、滅多に見せない綺麗な投げ技で、カート選手を窮地に陥れていきます。
注目すべきは、カート選手がクラシカルなスタイルで攻めている間、ニックさんは苦悶の表情を浮かべつつ、しっかり休んでいる点です。
無駄な動きでスタミナをロスしないのは、さすが仕事人です。
ベビーフェイスが先に流血
加えて、ベビーフェイスであるカート選手が先に流血しているのもポイントです。
ベビーフェイスが窮地に陥りながら、反撃に転じてヒールを流血に追い込んでいく事で、会場のヒートを買っていきます。
しかし、先に流血したカート選手は、序盤の脚責めの効果もあり、終盤は千鳥足になります。
してやったり
序盤で見せていた一点集中攻撃も、中盤から崩れ出すあたりに、カート選手の若さを感じます。
試合は結局60分時間切れ引き分けで終わり、ダーティーチャンプはAWA王座を防衛し、若きチャレンジャーは疲労困憊しています。
一方でニックさんもリングにへたり込んではいますが、表情にはどことなく余裕めいたものが感じられ、防衛についても「してやったり」という雰囲気を感じさせます。
イチオシ選手には
しかし、カート選手は、1987年5月2日にはニック・ボックさんを下してAWA世界ヘビー級王者となります。
ラリー・ズビスコ選手が試合に介入したとしてタイトルは一時預かりになるのですが、最終的にはヘニングの王座奪取が認められました。
このように、ニックさんは「これは!」と団体側が認めていたり、大物プロモーターのイチオシ選手に、タイトルを明け渡しています。
仕事人レスラーの矜恃
カート・ヘニング選手もそうですが、日本でAWA王座を巡り、PWFルールで戦ったジャンボ鶴田さんもそうですね。
そういう役割もサラッとこなすのが、ニックさんのダーティーチャンプとしての巧さであり、仕事人レスラーの矜持ではないか、と私は思っています。