プロレススーパー仕事人列伝②トニー・セントクレアー編.2
ライガーとの対比
プロレススーパー仕事人列伝①トニー・セントクレアー編.1はこちらから
獣神サンダー・ライガーというのはスター選手でありながら仕事人のような役目もこなせる非常にまれなレスラーだと私は思います。数多くの金字塔を打ち立てたプロレス界のレジェンドにして仕事人。一時代を築いてなお、レスリングに貧欲でいられるその姿勢は同年齢の私にとって大きな励みにもなっています。
そのライガーがまだヤングライオンだった頃、多分記憶違いでなければ、トニー・セントクレアとは対戦経験があるはずです。
蝶野対トニー
彼はスター選手とも若手ともカードが組まれる、悪い言い方をすれば便利屋みたいなところもありましたからね。しかし、今ではなかなかお目にかかれないトニーのような選手と闘えたことはライガーのキャリアの中で大変大きな財産になっているのではないか、と私は想像しているわけです。
そこでライガー世代の選手がトニーと闘っている映像がないか探してみたら、蝶野正洋対トニー・セントクレアーという試合をみつけました。
黒の総帥になりたて
この試合のコスチュームと、蝶野がSTFを使用していることから、海外遠征時(84年~89年)のマサ・チョーノではなく、黒の総帥になりたての頃の映像ではないかと推察されます。
イギリスはウェールズのケーブルテレビS4Cのものと思われるので、おそらく試合自体は88年から90年代初頭のものでしょうね。G1を制したころの白い蝶野の名残でもあるフライングショルダータックルも出しているところをみると黒の総帥初期の試合で間違いないでしょう。
ゴツゴツした試合
さて、この試合では対リーガル戦とは全く趣の違う試合をしています。なんせ黒の総帥としてヒールとして売っていこうという頃の蝶野ですから、試合展開もケンカキック主体でゴツゴツした感じになってます。
ですので、トニーの試合運びも必要に応じてラフ多めな感じになってますね。中盤でケンカキックをカウンターのスリーパーで返した当たり以外はテクニシャンというよりラフファイターの顔でこの試合に挑んでいるのは間違いないようです。
流血戦へ
フライングショルダーアタックも二発目は下から迎撃して不発にさせ、トニー自ら場外戦を挑み、悪の総帥のお株を奪うかのような激しい攻撃で蝶野を流血に追い込みます。
また空中弾も多めなんで、フライングニードロップも繰り出していますが、不発に終わったりして、トニーピンチか?と思わせておいて、ロープに走った蝶野をカウンターでDDTにきってとったトニー。これはズバッと決まり、最後はボディスラムでとどめを刺しています。
得がたい体験
若手の有望ヒールにヒール道というものを指南しているかのような試合です。やはり彼は誠にたがえぬ仕事人であったということは疑いようもないですね。しかし改めてみるとトニー・セントクレアーの試合ってどれも面白いんですよねえ。
本当にこういう選手がどの時代にもひとりいてくれたら安泰なんですけどねえ。
トニーのような選手との対戦経験というのは得難いものであることは間違いないと私は思います。
全体のバランス
彼と一戦交えた選手は大概出世してますから、蝶野もその例にもれなかったということですね。三銃士は一通りトニーとは当たっているはずなんで、やはりその陰にはトニーがいた・・・というのは少し持ち上げすぎかなとも思いますが、でも彼が素晴らしい選手であったことは間違いない事実です。
さて、昨今ではだいたいの選手は自分の見せ場しか考えていません。ライガーのように全体のバランスが見渡せる選手が希少になっている現実は危惧すべき問題ではないかと私は思うのです。ただライガーが現役でいて、彼と組んだり闘ったりできる新日本の若手選手はかなり恵まれていると断言できます。
自分が一歩引いたときに
彼らがライガーのどの部分を吸収したいのかは人それぞれでしょう。でもいずれ自分が一歩引いた時にも仕事ができる仕事人レスラーを目指す逸材がひとりでも現れてくれたらこんな嬉しいことはないですね。
とはいえ、若いうちはやはりスター選手を目指して皆貪欲になるべきだし、キャリアを積む中で自分の中に変化が生まれた時にスターでなくても仕事人レスラーを目指せる選択肢があるということを知識としてインプットしていられたら、それは可能性の幅を広げる意味でも大切なことではないかと私は考えています。
トニーのような素人も玄人も裸足で逃げだすような仕事人レスラーはいつの時代にあっても大切な存在なのです。
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