TATSUMI FUJINAMIデビュー50周年記念プロレス大会
(2022年12月16日・金・下関市体育館)
イントロダクション
この大会は厳密に言うとドラディションの大会ではない。実際ドラディションのホームページには「他団体参戦情報」として下関大会のことが触れられている。
これは、下関在住の竹村豪氏が運営する「合同会社ZIPANGOO」が主催する、いわば「竹村興業」なのである。
しかし、主役は竹村ではない。
下関市体育館であり、竹村の師匠である藤波辰爾なのである。
それはなぜか?
1963年に開館した下関市体育館は、老朽化に伴い新体育館が建設中で、取り壊しが予定されている。
そして、日本プロレス時代に同郷の北沢幹之を頼り、大分から追いかけて下関市体育館で入門テストを受けたのが、藤波辰爾なのである。
つまり、この大会は藤波辰爾50周年記念大会というだけでなく、原点の地でドラゴンが試合するラストチャンスだったのである。
もちろん政治家転身を目指す竹村には、打算がゼロではないと思われる。
実際、この大会のボランティアスタッフは、ほとんど政治団体関連で、しかも県外の人間だった。
しかし、会場では政治的アピールはしていなかったし、慣れないプロレス興業に四苦八苦しながら結構頑張っていた。
その様は微笑ましくもあった。
もっとも冷暖房を完備しない下関市体育館で、カイロを200円で売っていたのは、笑ってしまったが(笑)
開場
下関市体育館は、駐車場が狭いため早めに場所取りをしに行ったのだが、割とすんなり停められた。
普通なら開場前だと体育館前で並ぶのが通例だが、なぜか今回はロビーに入れてもらえたので、中の椅子に座って時間を潰せた。
やはり準備に手間取っているようで、時間になっても開場しない。古びた寒い田舎の会場でインディ時間発動。
しかし、これすら味わいがある。
ちびっこプロレス教室
中に入るのは約22年ぶり。前回は新日本プロレスだった。
我々は南側正面の二階席最前列を陣取った。これが下関の古いファンにとっては一番の特等席だからだ。
そして、リング上では藤波親子が最終調整をしていた。
しばらくして、MC Shujiさんのアナウンスで呼び込まれたちびっこ達を相手にプロレス教室がスタート。
コロナ禍以降では多分はじめてみるプロレス教室の講師は、竹村+がむしゃらプロレスのYASU、トゥエルノ・ゲレーロ、鉄生の3名。
がむしゃらプロレスでもプロレス教室はやっていて、以前鉄生&YASUが先生を担当した大会は目撃している。
しかし、この3名での教室はおそらく初だろう。
さすが政治活動をしているだけに、竹村の弁舌は滑らかだったが、口調が教師というより、政治家の先生だったのはご愛嬌か。
オープニング
ちびっこプロレス教室が終わると、全選手入場しての、アントニオ猪木追悼のテンカウントが行われる事に。
ここで、藤波さんをプロレス界に導いた北沢幹之さんが登場。2022年3月の新日本旗揚げ記念日では、ロープが外されたリングに、花道が用意されていた。
しかし、下関市体育館にはそんなものはなく、結局この日出場する選手たちの介助でようやくリングにあがることができた。
個人的には、リング下でも良かったと思うが、これが北沢さんのご希望なら仕方ない。
藤波さんが猪木さんの遺影を持ち、北沢さんが見守る中、テンカウントが鳴らされ、MC Shujiさんの「アントニオ猪木」コールのあと、炎のファイターが流れてセレモニーは終了した。
そのあと、大会規定がアナウンスされたが、声出し応援に関しては特に触れてはいなかった。
第一試合
がむしゃらプロレス提供試合
〇YASU対●鉄生
(ウラカンラナ)
下関出身・在住のYASUにとって、晴れて凱旋となったこの試合。
対戦相手はスーパーヘビー級の鉄生。このシングルマッチも相当レアではある。
試合は、序盤からパワーと体格差で鉄生がYASUを圧倒。
ヘビー級の鉄生がジュニアのYASUをパワーと体格で押していく展開が見られた。
しかし今回のお客さんは今時のプロレスに面識がないせいか、今一つ反応が悪かった。
鉄生から「こいつ下関出身なんだろ?もっと応援してやれよ!」という声が出て、初めて拍手や歓声が沸き起こって、そこからは熱のこもったプロレスになっていった。
近くのお客さんが「(YASUの)体は柔らかいね」という感想を述べていたが、その辺りからジュニアヘビー級らしい飛び技やスピードなどで、鉄生を攪乱していく展開が見られた。
それでも体格差で圧倒していく鉄生。悪役として特に汚いことをやってはいないのだが、ベビーフェイスのYASUをやっつけるという構図は、一見さんの多い会場でさんざん経験を積んできているので安定して見られた。
最後はウラカンラナでくるりと丸め込んで、YASUが地元凱旋を白星で飾った。
それにしても鉄生は恐ろしく対ジュニアには勝率が悪い。過去にはゲレーロにも連敗していたことがあったし、今回はYASUにも丸め込まれてしまった。
ただ、地方で分かりやすいプロレスを届けようということでいうと、目的を果たせたと思う。
第二試合
〇アステカ&小川聡志対●アズールドラゴン&二代目上田馬之助
(アステカロール)
プロレスリング華☆激提供試合は、博多ライトヘビー級現チャンピオンの小川とアステカが、久々に純粋にタッグを組んでの試合。
対するはアズール&上田馬之助というダークサイドコンビ。
当然ながらダークサイドの2人は最初からまともな試合をするつもりはなく、反則絡みで場外戦を挑み、そのまんま客席になだれ込んでいく。
これはアジアンプロレスなどで散々やってきたことではある。その経験値に基づいてのこと。
こうした地方大会は4人ともお手の物だと思う。テクニック合戦もやろうと思えばできるのだろうけど、あえてそれをしない、というのもアジアンでの経験が生きているのだろう。
下関大会の前はアジアンで山陰をまわっていたメンバーがそのまま入っていたこの試合は、いわばアジアンの延長戦という感じになっていた。
それは多分正解だったと思う。第一試合に続いて、見たまんま悪い奴と、いいもんのわかりやすい対決になったわけだ。
そういう意味では初心者にもわかりやすいプロレスになっていたと思う。
ちょっと見ていて気になったのはアステカのコンディションが、いまひとつ思わしくないのではないか?というところ。
その分小川がカバーしていたようにも見えたし、基本ヒールが試合を引っ張っていたので、それほどおかしなところは見当たらなかった。
最後はアステカが大逆転のアステカロールで、アズールからピンフォール勝ち。
結局ベビーフェイスがヒールを破って溜飲を下げるという形で終わったが、寒い会場の盛り上げに一役買っていたように思う。
休憩
2試合終わって休憩。アステカブースやアズールブースには試合を終えた選手がお客さんに囲まれていた。
プロレスになれていないお客さんには新鮮だったんだろうなあ。
そして、川棚町出身のキッズアイドル、KUWAGATA★KIDSのライブを挟んで後半戦に突入。
この時点でかなり気温は下がっていたのだが、コロナ対策でただですら暖房のない体育館の窓は開けっぱなしなんで、芯から冷えまくっていた(ちなみに終了時の気温は7度だった)。
セミファイナル
阿蘇山(九州プロレス)&●トゥエルノ・ゲレーロ(がむしゃらプロレス)対〇つぼ原人(フリー)&富豪富豪夢路(フリー)(バーミアンスタンプ)
本来だとこの試合が第2試合だったはずのだが、なぜか当日順番が入れ替わっており、セミファイナルに繰り上がった。
ただわかりやすさという点でいえば、セミファイナルにした意味はあったのかもしれない。
序盤は阿蘇山と富豪富豪夢路の、夢ファク同窓会対決が主軸になって進んでいった。
レッスル夢ファクトリー時代は二人とも期待の若手として、将来を嘱望されており、彼らのゴツゴツとしたファイトが、当時のファンを引きつけていた。
そんな二人が今や大ベテラン。時代は過ぎてしまったのだなあと思わざるを得ない。
そしてつぼ原人が出てくるとやはり会場は大いに沸く。
元々ヨネ原人のオマージュみたいな形で登場したつぼ原人であるけれど、いつのまにか素顔時代よりも原人としてのキャリアが長くなってしまったようだ。
このキャラクターは地方ではわかりやすいというのは、既にオリジナルがみちのくプロレスで証明していることである。
実際会場も大いに沸いていた。
そして曲者たちの中に混じってゲレーロも健闘していた。
最後はゲレーロと原人の一騎打ちになって、うまい具合に勝利を収めそうになったところで、体をくるっと反転させたつぼ原人。
そのままおなじみのバーミヤンスタンプで、ゲレーロの顔面を押さえ込んで、貫禄の勝利。
寒い中待たされた上に、最後がこういう形になってしまったのは、がむしゃらファン的には残念だったけど、本人的には良い体験になったのではないだろうか。
阿蘇山との師弟タッグというのもなかなか見る機会がないし、これはこれで非常に貴重なものだったと思う。
メインイベント
〇藤波辰爾&LEONA(ドラディション)&竹村豪氏(フリー) 対 NOSAWA論外&●MAZADA&FUJITA(東京愚連隊)
(ドラゴンスリーパー)
事前にカード発表がなかった本大会。
東京愚連隊の3人が対角線上にいると、やはり安心感がハンパない。
この3人だったらよほどのことがない限り、試合内容で外すことはないからだ。
一方竹村豪氏も本来なら、TAKEMURAとして東京愚連隊側で活動しているけど、地元でヒールをやるわけにはいかないという事情もあって?今回はベビーフェイスとして頑張っていたように思う。
他方LEONAに関して言うと、レスラーとしての成長はあまり感じられないような気がした。
MAZADAが非常に良い仕事をして、LEONAをローンバトルにしたり、FUJITAが場外戦でこっぴどくやっつけても、お客さんからはそれほど反応がない。
むしろMAZADAがFUJITAを「山口県人」(山陽小野田市出身)として紹介した時の方が、お客さんが沸いていた。
LEONAは裏方としての才能はあると思うので、自分がやりたいというところまでレスラーをやって、後は藤波さんを支えていってもいいのではないだろうか?
この試合、藤波さんの出番は随分後になってから来たので、試合終了後のマイクでは「風邪をひきそうになった」と藤波さんは苦笑していたけれど、それでもやはり千両役者が出てくると、リングがパッと華やぐのだから大したもの。
最後はMAZADAがドラゴンスリーパーに仕留められ、無事大会のメインイベントを終えることができた。
結果、20分超の大熱戦になったが、ほとんどはLEONAと竹村が捕まっている展開だった。
それだけ東京愚連隊、特にMAZADAの仕事ぶりは素晴らしかった。
また引退を控えたNOSAWAのメキシコ流テクニックも光っていたし、実質東京愚連隊の試合だった。
まあ、それはそれでいいのではないだろうか。
エンディング
試合終了後藤波さんの50周年を記念した鏡割りが行われた。これも多分リング上で見るのは初めてではないだろうか?
鏡割りが終わった瞬間に流れた曲は「マッチョドラゴン」(歌なし)だった。
ちなみにメインイベントの入場はミノタウロス版の「ドラゴンスープレックス」、勝利者テーマは「RISING」だった。
最後は藤波さんの「1・2・3ダー!」で締めて「炎のファイター」が流れる中、大会は無事終了した。
後記
藤波さんがマイクで語った通り、日本プロレス時代から現在まで生き延びた下関市体育館は解体が予定されており、新体育館が建造中でもある。
だから22年振りにして、ラストのプロレス興業の主役は、ここで日プロに入門したドラゴンであるべきだったのだ。
客入りは決して芳しいものではなかったけれど、この大会はやったことに意味があったと思う。
ありがとう、さようなら、下関市体育館!
体育館の観戦記はこれが最後になるけど、私の思い出の中には永遠に生き続けていくことだろう。