DDT Road to Ryogoku 2017~ドラマティック・ドリーム・鶏かしわめし~
(2017年7月8日【会場】福岡・小倉パステルホール【観衆】202人(満員))
イントロダクション
前日の7月7日に未曾有の大豪雨で小倉を流れる紫川が氾濫をおこし、その紫川のすぐ横にあるパステルホールで、本当にプロレスが見られるのか、やきもきしていたのだが、当日は晴天とはいわないまでもまずまずの好天。湿度は半端ないが、そんなことはいっていられない。
北九州のプロレスシーンでパステルホールが使われるのは、実に2001年以来16年ぶり!私は16年前の大会もみているのだが、そこでいろいろあって、プロレスが使用できなくなったとは聞いていたので、DDTのパステルホール開催は「まさか!」の出来事であった。何にしても、会場難で悩む北九州のプロレスシーンで、パステルホールが使えるというのは大朗報なのだ。
個人的には6月のセンダイガールズ以来となる生観戦なんで、待ちきれない思いが募りに募っていた。プロレスファンはプロレス見すぎてお腹いっぱいの時より飢餓状態で待っているほうが幸せな時もある。今回はそういうタイミングなんだと思っておこう。
オープニング
今回は三萩野に車をとめてモノレール移動という手段をとった。仕事場にしている秘密基地からパステルホールまで徒歩で行けるので、いったん荷物をおいて、観戦後基地から荷物をもって三萩野にUターンして、打ち上げにいくというコースを選んでみた。
試合開始前、ファンクラブ撮影会を終えた竹下たちの元に、吉村が難癖をつけにきた。こんなキャラだったんだ、吉村。「お前(竹下)の大事なものを次々奪うからな!」と言って、控室から盗み出したプロテインを八杯飲み干すが、それは島谷のものだったらしく、微妙な空気の中、寸劇終了。
▼オープニングマッチ 高梨将弘・試練の3WAYマッチ二番勝負第1戦! 30分一本勝負
樋口和貞 vs ●高梨将弘 vs マッド・ポーリー○
6分51秒 体固め
※リバース・スプラッシュ
私は試練の○番勝負というのは、新人からメインイベンターに駆け上がるくらいの選手がやるシングルマッチが基本なんだと相場は決まっていると思っている。しかし、DDTはそこを一味変えてくる。
まず、試合形式が3wayだし、出てくる選手も樋口を除けばキャリアのあるベテラン。その樋口にしても既にKO-Dに挑戦経験もあるわけだが、強いて試練というなら、この試合形式そのものを回す頭脳ということになるのかもしれない。
そこへいくと、一癖も二癖もある高梨が有利になる試合形式。確かに体格的には高梨にとって試練かもしれないが、実は幾重にも意味が重ねられている。プロレスの奥深さを知るには申し分ないマッチメイクである。
試合はテクニカルな攻防にトホホさを混ぜたDDTらしい展開。まず最初に除け者にされた高梨が場外に出ると、ポーリーと樋口の肉弾戦に。しかし途中で高梨がポーリーについたり、樋口についたり、とこばんざめ状態で、のらりくらりとやりすごす。
なぜかポーリーも樋口も安易に高梨を信じてしまうのが不思議なのだが、上手い具合に渡り歩いていた高梨が最後につかまりピンフォール負け。
▼第二試合 30分一本勝負
○大鷲透&鉄生 vs 勝俣瞬馬&トゥルエノ・ゲレーロ●
6分59秒 ラ・マヒストラル
巨漢対ジュニア、ベテラン対ヤング。今年のがむしゃら枠はいよいよ「ゲスト扱い」からの卒業となった。次のステージに上げられたことは、鉄生にしろ、ゲレーロにしろ望むところだろう。
リードするプロ側に目を向ければ、鍵を握るのはやはり勝俣だろう。キャリアのある大鷲は重々承知しているだろうが、自分だけ目立つプロレスをしたのでは、DDTにいる意味がない。
この枠はかつて、大社長をはじめ、MIKAMIや男色先生ら錚々たるメンバーが担当してきたことを踏まえたら、勝俣がいかに期待されているかもわかるだろう。
試合前になぜか大鷲が勝俣、ゲレーロにいちゃもんをつけだした。「俺たちはお前らみたいにちゃらちゃらしていない。俺たちみたいなイカツイ人間は努力しないといけないんだよ!」と鉄生に「モテたいか?」と問いかける。
これに鉄生が「モテたいです」と呼応し、かくしてモテたい大鷲組対モテてる(ことになっている)勝俣組という奇妙な対立概念が生まれてしまう。
しかし、ついいつもの調子で鉄生が試合しようとすると、コーナーの大鷲から「笑顔!笑顔!」と檄が飛んでくる。このDDTらしさにのまれないようにしないといけないから結構大変。頭も使うし、体も使う。それでもゲレーロにしても、鉄生にしても適応能力の高さを見せつけたと思う。
しかも、試合を見ていると、美味しいところを譲りそうで、本当は大鷲が一番もてたいんだ、という感じにみえてくるから不思議なものだ。結局、闘龍門仕込みのラ・マヒストラルで、大鷲がゲレーロから大人げないピンフォール勝ち。何気にメキシコの先輩とてのプライドもちらっとみせたあたりに、大鷲班長のモテない男の意地みたいなものが見えた気がした。
▼第三試合 30分一本勝負
大石真翔&○ゆに vs 高木三四郎&ヒラタコレクションA.T.●
8分45秒 体固め
※コーナー2段目からのスカイツイスター・プレス
DDT初のキッズレスラーゆに。真価が問われるのはやはり九州の地ということになるだろう。なぜなら、九州には神の子、ヴァンヴェール・ジャックや、ユーセー・エストレージャがいる。キッズレスラーだから特別扱いされるわけではない。
しかもジャックやユーセーは、大人の選手も真っ青なくらい試合運びも技も熟練しているのだから、始末に負えない。いつの日かゆにが、ジャックやユーセーと絡んだ時にどんな試合をみせてくれるだろうか?そんなことを考えながら試合をみていた。
正直言うと、ゆにはやはり、幼少時にアマレスから仕込まれているジャックやユーセーと比べると、明らかに見劣りがした。確かに頭脳的にはDDTでやっていけるものをもっているのだが、それだと、すでにDDT参戦経験があるジャックには遠く及ばない。
やはり私には、大社長やヒラタ、まこりんという芸達者な人間たちがいてこそ成立している試合にみえた。子どもだからということでやられて、相手にブーイングが飛ぶようではまだまだレアルのキッズたちと戦ってもどうかなあ、という感じ。
でも体操仕込みの運動神経には将来性を感じたし、ゆにはプロレスを続けていけば伸びる素材かもしれない。
それにしても闘龍門ネタで攻めてくるヒラタを見ていると、平田一喜時代が遠い昔のような気がしてくるから不思議だ。
▼第四試合 30分一本勝負
HARASHIMA&○高尾蒼馬 vs MAO&島谷常寛●
10分6秒 エビ固め
※ジントニック
スマイルスカッシュ対DNA?という組み合わせ。いつの間にか高尾も受けて立つ側に回っているのが感慨深い。それだけDDTの新陳代謝は猛スピードで進んでいるのがわかる。うかうかしていると、後輩に足元をすくわれかねないのだ。
小倉営業担当の高尾対次期下関大会の営業担当の島谷という対決。まだ全シリーズで試合を組まれていない島谷と、すでにNωAで活躍しているMAOとではだいぶ差があるように感じられた。同じようにみえているDNAでもやっぱり生で見てみると、個々の力量に差が感じられるから不思議なものだ。
そういえば、中学生レスラーとして名をはせたMAOはゆにの「先輩」ともいえる存在。そういう意味ではゆにが将来どういう形で試合をしているかは誰にもわからない。
そして力量差ということでいえば、スマイルスカッシュとDNAではその差は歴然。ジントニックを出させたことでいえば、島谷は頑張ったと思うが、正直HARASHIMAは力を温存していたし、蒼魔刀も出さなかった。そういう意味でいうと、HARASHIMAに必殺技を出すまでもないと判断されたのが、現在のMAOと島谷の力量ということになる。
厳しいけれど次回当たるときにはぜひともHARASHIMAの伝家の宝刀を抜かせるくらい、スマイルスカッシュを追い詰めてもらいたいものだ。
▼第五試合 30分一本勝負
●佐々木大輔&遠藤哲哉 vs ジョーイ・ライアン○&アントーニオ本多
13分34秒 片エビ固め
※スーパーキック
DDTの地方大会に外国人選手が3人きているのは史上初だろう。アントンがいることで、わかりやすいベビー対ヒールの構図にもなっている。ここだけ世代闘争という構図は希薄ながら、やはりキモはジョージ・ライアンということになるだろう。アメリカインディー界の超大物という触れ込み通り、実際、売れっ子らしいので、生で見られるというのは本当にありがたい。しいて言うならDDT本隊だけでなく、ガンバレ☆プロレスとかでも試合を見てみたい気がする。
さて、実物のライアンは、まあDDTにふさわしい如何わしさと、胡散臭さの塊だった。股間を武器にするというのはDDTで覚えた技らしいが、見た目のイメージを最大限に利用しまくっているのが面白い。それに対して、佐々木が小悪党全開のキャラで迫っていくのが面白い。勝手にライアンの奥さんの写真を持ち出して、いえない言葉で挑発したり、写真をタイツの中に入れたりとやりたい放題。
遠藤をうまく操縦しつつ、アントンやライアンのキャラが立つように回している佐々木の頭脳プレイが光りまくっていた。
とはいえ、ライアンもキャラ先行の選手ではない。ここぞというところで出すスーパーキックは威力・破壊力ともに申し分ない。アントンの好サポートも手伝って、試合は非常に面白い展開になっていった。
最後はこれまた絵に描いたようにスーパーキックでライアンがさんざん奥さんをもてあそんだ佐々木をピンフォールするというアメリカンプロレスのようなオチまでつけてしまった。お見事というほかない。
▼セミファイナル 小倉名物!わっしょい百万夏のスペシャルタッグマッチ 30分一本勝負
入江茂弘&●岩崎孝樹 vs KUDO&坂口征夫○
11分48秒 坂口式コブラクラッチ
DNAの選手がセミをつとめられるところまで来ているというのが個人的にはなんとも感慨深い。DNAといえば、ちょっと前までは樋口とその他大勢という認識しかなかった私にしてみたら、感慨深いことこの上ない。岩崎の対角線にいるのが、厳しい攻めでは定評がある坂口とKUDOというところもまた興味深い。
入江はアメリカ修行を経て、動きが格段によくなっていた。ぶちかましだけでなく、序盤にみせた坂口とのグラウンドの攻防も以前とは別人のようになっていた。まさに腕をあげたというやつである。
しかしながら、やはり岩崎を引っ張っていくという点では、まだまだ入江には課題が残っているようにも感じられた。なんといっても酒呑童子はくぐってきた修羅場が違う。岩崎は確かにいい蹴りももっているし、蹴撃には自信があるのだろうけど、相手はそのキックでは一日以上のものをもっているKUDOと坂口なんで、先輩をあわてさせるところまでは追い込めてない感じがした。
その差がやはりサブミッションということになるのだろう。岩崎が上を目指すのであれば
まだまだクリアしないといけない課題が多いのではないだろうか?
▼メインイベント 30分一本勝負
竹下幸之介&彰人&●ディエゴ vs 石井慧介○&男色ディーノ&マイク・ベイリー
15分19秒 片エビ固め
※高角度ダブルアームDDT
DDTに登場する外国人選手で地方に出てきて試合したのはケニー・オメガとワンチューロだけである。エル・ジェネリコも、レディ・ビアードも地方では見られていない。ケニーが去って久しく空席になっていた外国人枠に、今回抜擢されたのが、ディエゴと、マイク・ベイリー。2人に対する期待感が高まるのは無理からぬこと。
しかしこのメンツの中に入ると、存在自体がオンリーワンなのに、個性が埋没してしまう。いい素材だなとは思うのだけど、ライアンほどではない感じが私にはした。結局試合自体がディエゴとベイリーなしでも成立してしまうところが惜しいところなのだ。
明人がディーノに狙われるのも、竹下が逆キスに挑むのも、飯伏あたりが通ってきた道だし、彼らがやってももうひとつ物足らない。せっかくこのメンツの中にいる以上、やはりディエゴやベイリーには、男色先生を慌てさせるくらいのことはしてほしいなと思った。
それでも、平均年齢がぐっと若返ったDDTには飯伏時代にはない、おおいなる可能性を感じざるを得ない。正直飯伏やケニーみたいなとち狂った感じの狂気をまだ表現しきれていない点では、DNA同様、ディエゴとベイリーにも課題があるということになる。
でもそこからどう彼らの才能が開花していくかを見ていくのは非常に楽しみでもある。
正直16年ぶりのパステルホールでのプロレスがDDTでよかったなと本当に思う。今後、この小倉の一等地でさかんにプロレスが行われるようになってくれれば、こんなにうれしい事はない。