プロレス想い出コラム~林祥弘との尽きない想い出の数々(3)
なれ合いのないタッグ
林・野本組というタッグは今思うと不思議なタッグチームだった。タッグプレイヤーとしての経験は林が上で、シングルプレイヤーとしては野本が上。チームといいながら連携らしき連携はなく、馴れ合いのない緊張感を私は試合から感じていた。
それなのに同期としてだけではない以心伝心ぶりもあるという、タッグの定石からはかなり外れたチームだった。
名チームというのは組んでよし闘ってよしというものだ、という思いは私の中では今もかわらない。
名勝負にならなかったシングル
だが、この二人は決して名チームではなかった。なのに団体の中でタッグチームといえば林・野本と言われたくらい記憶に残り、林個人はタッグ王座を2度も戴冠している。つまり記憶にも記録にも残るチームだったわけで、こればかりは疑いようもない。今考えても本当に不思議なのだ。
不思議といえば野本対林というのも名勝負に成り得なかった。あれほどお互いを嫌っていて、人間的にもあわないことが試合からだけで十二分に伝わる鉄生対陽樹の方がよほど印象に残る試合をたくさんしている。
訳がわからない
それに比べると林対野本はほとんど記憶に残っていない。野本対◯◯、林対◯◯なら即座に浮かぶ試合はいくつもあるのに、野本対林だけが印象に残らない不思議。しかもなぜか会場では彼らの試合を観て感動した記憶だけは残っているから厄介なことこの上ない。
ただ、彼らの中でこの顔合わせが特別なんだという気持ちはどの試合からも伝わってきた。それは言葉にしなくても伝わるから不思議である。もっと不思議なのは選手として進化が早くて、出世も早かった野本一輝までが対林祥弘戦になると途端にギクシャクした試合運びになるから本当にワケがわからなかった。
信頼がなくても
かつて藤波辰爾と名勝負数え歌を繰り広げていた長州力は「藤波だからこそ本当のバックドロップが放てるんだ」と語っている。「ライバルといえどキチンとトレーニングをして、しっかりした技術があるからこそ、彼ならば危険な技でも無事でいられる」という信頼がある上でプロレスの名勝負は出来上がる。
これについては今も私はそう考えている。
そういう意味では信頼などまるでないはずの鉄生対陽樹がなぜ名勝負になるのか?
プロレスで決着をつける
これまた不思議ではあるのだが、彼らの場合、互いが「プロレスで決着をつける」ことを強く望んでいると思われるため、凄惨な試合になりようがないというのがある。
一番危険だった初顔合わせから彼らの試合は何度も組まれているが、だんだん回数を重ねる度に洗練されてきているのがその証拠だろう。普通憎しみ合うとああはならないものだが、これもまたプロレスの奥深さを物語るエピソードの一つかもしれない。
巡り合わせの不思議
もちろん林対野本で2人が手を抜いたシーンなどただの一度もない。むしろ同期だからこそ激しくやり合う試合になっていたからだ。なのに記憶には残らない。
野本が一旦がむしゃらプロレスを離れることになり、後を追うように、林も一身上の都合でリングを離れる。これも奇妙なタイミングである。そして林対野本のラストマッチになった、旧大連航路上屋の試合以来、彼らのシングルは組まれていない。
わざとそうしていたわけでもなく、顔を合わせる機会は何度もあったはずなのに、不思議といえば不思議な話だった。これも巡り合わせといえば巡り合わせなんだろう。
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