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[イベント備忘録] 原田とシン・ゴジラと➂

今回は山口県宇部市と下関市の関係性について話したい。

宇部市は庵野秀明の故郷であり、下関は私が現在もすんでいる出身地である。下関市民からみた山口県、下関市民から見た宇部は、庵野秀明を語るうえでははずせないファクターでもある。エヴァに登場するセカンドインパクトでは、山口県宇部市は難を逃れ、新東京市とともに生き残っている設定になっているそうだ(ちなみに下関市は水没しているらしい)。

公式に認定されているかどうかは定かではないが、テレビ版に登場する山口県にしか流通していないシモラク牛乳が登場するシーンがあって、これが決定打になたっといわれている。庵野秀明は故郷のネタをちょいちょい作品に織り込んでくることがあるのだが、特に6話のシモラク牛乳登場は山口県のオタク界を大いに沸かせた事象だったことは間違いない。

さて、山口県というのは縦横に無駄に広いことでも特徴的で、山陰側と山陽側では気候風土言葉さえ異なってくる。いい例が「この世界の片隅に」を監督した片淵須直作品の映画「マイマイ新子と千年の魔法」に出てくる「三田尻」弁である。三田尻というのは宇部にも山口市にも近い、現在の防府市のことを指すが、私は当初この映画を見たときに三田尻弁が全く理解できなかった。舞台になった防府がかなり前の時代ということも差し引いても、これは衝撃だった。そのくらい方言としても全く異なるという土地事情も山口県にはある。

従って、意外と近いようでいて異なる文化をもっている宇部市と下関市は似ているようで違うものなのだ。いい例でいうとシモラク牛乳は下関市にもあるが、宇部のソールフードでもある「一久の中華そば」は宇部市とその近郊にしかない(現在は下関市でも袋入り生ラーメンとして販売されている)。このようにうかつに「同じ山口県」だからということでひとくくりにできない事情もあるということなのだ。

これがエヴァのキャラデザインを手掛けた貞本義行の出身地である徳山市(現・周南市)までいれるとさらにややこしくなる。野球で例えると、福岡に拠点がるソフトバンクの話が通じるのはせいぜい宇部市くらいまでで、徳山まで行くとお隣の広島カープが幅を利かせだす。同じ徳山出身のプロレスラー・長州力は大のカープ党としても知られているが、もはやそういう意味でも文化圏自体が大きく異なるのだ。

さてそういった風土に育まれた宇部市のオタク事情は海沿いに住んでいるか、山沿いに住んでいるかで大きく異なってくる。当然庵野秀明が住んでいた時代は地デジになる前の話なのだが、海沿いならば九州のテレビ局の電波が拾えるというかなり有利な場所にある。しかし沿いだと、山口県のテレビ局(おろらく庵野が住んでいた時代は民放が2局だった→現在は三局)しか入らない。これがどういうことを意味するのか。見たいアニメ・特撮番組をリアルタイムで体験できるかどうかという大きな違いになってあらわれる。ネットもなかった当時、ローカルテレビ局が複数のキー局のネットをやるのは当たり前の時代だった。一例をいうと、山口県にある日テレ系列の放送局ではリアルタイムでルパン三世(セカンドシリーズ)が視聴できなかった。当時はなぜか同じ時間帯にテレ朝系の番組が放送されていたのだ。これはシティハンターでも同じことが繰り返されたので、昭和末期までこうした状況が続いたことになる。

なんでも当時の放送局の社長が「風紀的に好ましくない」との理由でルパンの放送を見送った(でもなぜか数週遅れの夕方にルパンは放送されていた)という説がまことしやかに流布していたくらい、山口県というのは「遅れた田舎」だったのだ。そういった環境の中でオタク活動をしていくことがどれだけ困難だったか。今のようにネットがあればどこででもオタクになれる時代とはわけが違ったのである。

おそらく宇部市民として情報量が決して多くなかったであろう庵野秀明が、あれだけの知識を得ていたのは彼の住処(実家がどこにあるのかは私も知らないが)が、九州のテレビ局を受信できる地域にあったのではないかと想像はできるのだ。なおかつ彼は田舎であるがゆえに情報にも飢えていたと考えられる。情報強者の都会民では決して体験できない「飢え」を常に感じていたことが、オタクの中のオタクである庵野秀明を醸成し、世に送り出したと考えて間違いないだろう。

そういう意味では遠回りながらシン・ゴジラは庵野秀明が宇部市に生まれ育ったからこそできた映画ともいえるのだ。(敬称略)









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