東京女子プロレス・福岡・沖学園ドーム「砂漠の鷹2018」
(2018年10月14日(日) 開場13:30 開始14:00 観衆:384人-満員-)
イントロダクション
東京女子プロレス、前回の来福から実に4年を経て、再び博多へ。今回の会場はさいとぴあから沖学園ドーム…てか、沖学園ってどこ?ぶっちゃけ山口県民には全く馴染みがない。だいたい私には、さいとぴあとさざんぴあの違いすらよくわかってないのが実情なんだから、プロレス初開催施設の場所なんかわかるわけがないのだ。
さて、このところAbemaの中継がメインになって以前ほど地方にツアーで来なくなったDDTグループだが、11月のDDT下関大会や、この東京女子にしても、来てくれるだけでマシというもの。なかなか来てくれない団体の方が多いわけだし。
ましてや東京女子なんて福岡出身の山下と伊藤がいて、単独開催が4年もできなかったんだから、そりゃこの機会を逃したら次はいつになるかわからない。そういう意味で見逃すわけにはいかなかったのだ。
さて、前日に調べた沖学園のアクセスは意外と簡単だった。JR博多駅から鹿児島本線で竹下という駅で降りて、そこから徒歩7分。一応余裕持ってでてきたら、竹下には12時過ぎについてしまった。まあ、DDTには竹下幸之介とう選手もいるし、選手絡みの名前がついていると覚えやすい。まあ、それはともかくさいとぴあに行くよりは圧倒的に近い。そりゃ博多から一駅だもんなあ。近いはずだ。
ちなみに沖学園は竹下駅から徒歩7分なんで、12時半にはグーグルマップすらつかわずに会場前に到着。みるとDDTグッズを持った明らかにプロレスファンと思しき不審者(笑)が列を作っていたので、後方に並ぶ。プロレスグッズ身につけた成人男子ってそれだけで学園関係者じゃないし。
ちなみに、沖学園って第100回の甲子園に出ていたらしい。うちテレビないから、知らなかった。てか、そもそも野球見てないし。名門私立らしく校門では、学校関係者の車などはいったん停車してからゲートが開くのを待つシステム。これだけ厳重警戒だとそりゃプロレスファンを簡単に校内に招き入れるはずもないわなあ。
13時前にようやく中に入ることが許されしばし待機列で待った後に、土禁の沖学園ドームへ。中は非常に見やすく、二階はリングサイド二列目とたいして変わらない。
オープニング
オープニングアクトは前回に続いてLinQ!そして二曲目の「カロリーなんて」には入場ゲートからクビドル・伊藤麻希が登場してセンターを奪取!リング上とはいえ、まさか伊藤がLinQのステージで中心に立つ日が来ようとは!前回はLinQの一員として踊って歌っていたことを考えると隔世の感がある。
曲終わりで「でも久々のLinQはやはり楽しかった」と伊藤。まあ、結果的にアイドル専業時代より結果出してるし、この光景はまさに凱旋にふさわしいものだった。
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第一試合・15分一本勝負:
○まなせゆうな vs ×ラク(5分40秒 ネックスクリュー・ホールド)
まなせもラクもAbemaで試合見ているので認識はある。ラクをはじめとする基本アップアップガールズ(プロレス)のメンバーは、プロレスに対する取り組みも実に真摯。これでアイドル活動もやっているんだから、大したもんだと思う。
まなせはやはり体格と見た目以上に柔らかい身体が武器だし、蹴りもなかなかいいものを持っている。見た感じはまなせ有利は動かないが、これにラクがどう立ち向かっていくのか?
さて、アップアップのなかではやはりラクが一番新人レベルかな、という感じ。逆に言うと、一番アイドル寄りではあるのだが、やはり体格差とキャリアで勝るまなせが付き合っている感じの試合。
ラクのいいところはラシアンスイープ(かわず落とし)に入るスピードがすばやいところと、コーナーを利用した脳天から竹割りだが、これだけではやはり勝てる要素にはなりえない。
それでも不用意に打撃を食わないようにラクも相手の間合いに入らない警戒していたが、いかんせんチョップも手打ちだし、これという必殺技もなければ、やはり勝つのは難しい。最後はまなせの貫禄勝ちといったところだが、毎回試合した後にダンス付きの歌のコーナーまでこなしているアップアップガールズ(プロレス)が努力していないわけではないので、今後も機会があれば見守っていこうと思う。
第二試合:3WAYマッチ・20分一本勝負
◯ハイパーミサヲ vs 上福ゆき vs ×ヒナノ(7分56秒 ハイパミ・リターンズ→片エビ固め)
DDTグループじゃなかったらもうすこし違ったキャラクターになっていただろうと思われるハイパーミサヲは、実をいうと一番見てみたかった選手である。
頭と口先で試合するミサヲのような選手は3wayという試合形式にはうってつけ。手足の長さと長身が売りの上福(かみーゆ)と、アップアップのヒナノを交えた3人というのはなかなかカオスなメンバーである。
入場そうそうマイクを握ったミサヲは博多初登場である自分を「愛と正義を守るスーパーヒーロー」であると名乗り、返す刀でかみーゆとヒカリを「私が一人でも勝てる」と豪語。3wayなのにわざわざ敵を増やすという「らしくない」挑発まではじめる始末。当然、かみーゆとヒカリは結託してミサヲを攻め立てるのだが、これをのらりくらりとかわしながら、いつのまにか場外でこそこそやっている。
しかも、敵に回したはずのヒカリをいつのまにか手足のように使い、かみーゆをコーナーに串刺しにしてしまうしたたかさは、やはりミサヲの真骨頂。
だいたいこうして調子に乗ったミサヲが最後で墓穴を掘るというのが、定番ではあるのだが、この日のミサヲは一皮むけたのか?そのまま勝ってしまった。後輩二人に勝ち誇りながら悠々と退場するミサヲを、かみーゆとヒカリは呆然と見送るほかなかった。
第三試合・15分一本勝負:
○坂崎ユカ vs ×ミウ(12分36秒 マジカル魔法少女スプラッシュ→体固め)
前回観戦時にいたメンバーの中で、今回も参戦しているのは、山下と中島、そしてこの坂崎である。坂崎ユカはこちらで見ていない間、中島とのタッグチーム「みらくりあんズ」で長く活躍していたが、坂崎と瑞希がタッグ王者になった関係で、現在は別な選手と組むか、シングルで試合に出るしかない。
というわけで、坂崎ユカのシングルマッチの相手はアップアップガールズ(プロレス)のミウ。申し訳ないが、東京女子もアップアップガールズもそれほど熱心にみていない私には、アップアップのメンバーは見分けがつかない。
幸い坂崎の実力があれば、ミウの個性も引き出すことが可能だろう。そういう意味で期待していたカードである。
前半はやはりミウの個性を引き出しつつ試合を組み立てていた坂崎が要所要所で厳しい攻めをみせていく。グラウンドムーブはひととおりついてきたミウも関節技に取られると、さすがに分か悪い。
特に上からアームロックで「折れるよ、折れるよ」とプレッシャーをかけていた坂崎の攻めは、新人クラスでも手を抜かない気持ちの強さがみてとれた。だが、これを耐え切ったラクもなんとか反撃していく。ラクの場合、ほかのメンバーにない武器としてのパワーがある。
やはりカナディアンバックブリーカーはラクの協力な武器になっているし、同じくらいのキャリアの選手ならば、フィニッシュホールドになりうる技だと思う。
しかし、やはり東京女子のなかではベテランになる坂崎相手では決め技にはならない。しかもラクにはこれ以上フィニッシュがとれる技もない。これだとさすがに厳しい。逆に坂崎には「マジカル魔法少女スプラッシュ」という見栄えのする決め技があり、試合も見事に決めて見せた。
相手の良さを引き出した上で勝つという、プロレスの定石どおりの試合ができる坂崎はまだまだ若手の壁になるには早すぎる。今回はたまたまタッグのタイトルマッチはなかったけれど、いずれ坂崎や瑞希のタイトルマッチも生で見てみたいものだ。
第四試合・20分一本勝負:
×滝川あずさ&ヒカリ vs ◯天満のどか&愛野ユキ(13分5秒 キルスイッチ→片エビ固め)
のどかおねえさん改め、天満のどか。正直のどかおねえさんで試合を見てみたかったという気持ちもあるが、今のキャラクターの方が、実妹・愛野ユキと組むときのバランスは良さそう。
そもそも、私が天満のどかに注目したのは、Abemaでも中継された路上プロレスのひとつに彼女たちのカードがあって、心身ともに柔軟な選手ではないか?という印象を持ったからだ。
それだけに、秋に引退する滝川あずさや、これから上に上がってくるであろうヒカリに対しては、実力を行使する必要がある。さて、実の姉妹タッグの実力やいかに?
ただ引退が決まっているとはいえ、マイク持つキャラで売るミサヲと滝川のカードは続かない方が良かったかなあ。たしかに自分の試合を自分で実況するのは、ウリのひとつではあるのだが、面白さが被ってしまったのは残念だった(マイクの使い方については両者とも違いはあるのだが)。
しかも、最初にして最後の博多なのに、滝川の写真集を甲田社長が忘れてきたらしく、それについても試合中にしっかりクレームを入れていた。
だが、やはり実の姉妹連携というのはやはりすごいもので、元々そんなに組んでいないだろうと思われる滝川&ヒカリ組は徐々にローンバトルの場面が増えていく。
口だけでなく試合で盛り返すべく滝川も頑張ったが、やはりのどかとユキは自身の体重をのせた攻撃がうまいし、追い込まれても危機らしい危機になる場面もなかった。最後は滝川自らがカウント3を聞く羽目になってしまった。
試合後、引退まで半月近くになった滝川に対して健闘を称えあう両チーム。結局生では一試合しか見られなかったプロレスラー・滝川あずさだが、引退後の人生も長いし、なんなら本当に中継アナウンサーとして東京女子プロレス専属になってもらうのもアリだろう。
おつかれさまでした。
ライブ
ここでアップアップガールズ(プロレス)のライブをはさんだ。試合後にスタミナを消費しているのに、激しいダンスで歌い踊る彼女たちの姿には、若いとはいえ立派なプロだなあと思わずにはいられなかった。品のないオタ芸をするファンもいなかったし、この日のお客さんも非常にクオリティが高かった。
セミファイナル・20分一本勝負:
×伊藤麻希&瑞希 vs 〇中島翔子&優宇(12分5秒 首固め)
休憩あけのセミファイナルに伊藤のテーマ曲で入場してきたのはなんとLinQだった。まさか伊藤の入場テーマ曲をLinQのメンバーが歌う日がくるとは!その中を一人だけ赤いコスチュームで出てくる伊藤麻希!歌い終わると引退試合のような紙テープが投げ入れられた!
そしてLinQのメンバーに謝意を述べると、パートナーの瑞季を呼び込む。入場順はちゃんと伊藤〜瑞季〜優宇&中島という形になっていた。凱旋とはいえ、東京女子のベルト巻いた経験がない伊藤が下なのだ。
私はたまたまプロレス観戦でリングに上がったLinQ時代の伊藤のステージも何度かみているが、ぶっちゃけアップアップガールズが見分けつかないくらいだから、LinQの見分けなんかつくわけがない。それくらいアイドル・伊藤麻希は「埋もれていた」存在だった。
でも、プロレスに本格的に取り組んで、不恰好なりに支持を集め、DDT総選挙では10月10日時点で一位という票を獲得している。これは実力はともかく、伊藤がDDTや東京女子ファンから支持されている何よりの証明だろう。
ましてや、来週日曜にはDDTの両国大会があり、ここで伊藤は赤井沙希と組んで、前KO-Dチャンピオン里村明衣子とカサンドラ宮城というセンダイガールズの強力タッグと闘うわけだ。戦う前からギクシャクしている赤井沙希との連携にはもはや期待しようがないが、伊藤リスペクト軍団の時と同様に、のびのび試合してくれたらそれでいいと思う。
さて、瑞希がタッグタイトルを巻いたことで一時期解散すら噂された「伊藤リスペクト軍団」だが、瑞希が解散を否定したことで、伊藤は晴れて軍団として故郷凱旋を果たせた。しかし、伊藤リスペクト軍団対角線上に中島がいるわけで、やりにくさはあるだろう。なんせ中島は東京女子の中でもプロレススキルに関しては抜きん出たものを持つ選手。これは油断していて勝てる相手ではないのだ。
そして優宇はトーナメント「東京プリンセスカップ」2度の優勝者。更には現在山下が巻いているプリンセスオブプリンセスの戴冠経験者でもある。ただ優宇の場合、試合中に悪い意味で優しさが出るクセがある。全力で倒せる相手にもどこか加減をしているところがあって、この日の伊藤に対する攻めもどこか遠慮がみえた。中島の攻めと比較するとそれは一目瞭然。やはりできてまだ5年しかたっていない団体なんで、こういう細かいところを教えられる先輩がいないというのは、東京女子の欠点でもある。
対する伊藤は、お世辞にも上手いとはいわないが、人の心を打つ何かがある。それは伝わった。できることは限られているけどその中で精いっぱいやっていこうという姿勢がみえたのだ。序盤でみせたチェーンレスリングのムーブにもいつの間にかついていけていたし、努力が形になって見えるという点で、表現者としての伊藤麻希は正直抜きんでたものをもっていた。試合は負けたけど。
試合後のマイクで勝手に「来年も来るぞ!伊藤が勝つところみたいか?」と会場にアジり「お前らもなんかひとつ目標持てよ!腕立て30回できるようになるとか、東大にうかるとか」といって、退場時にアカペラでウルトラソウル歌って締めてしまった。負けてもしぶとい伊藤麻希。この伊藤劇場が今後どう化けていくのか、これも楽しみで仕方ない。
メインイベント・30分一本勝負:TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス選手権試合
<王者>〇山下実優 vs ×プリシラ・ケリー<挑戦者>(11分28秒 クラッシュ・ラビットヒート→エビ固め)
*第5代王者が6度目の防衛に成功。
Abemaの中継で見ていたプリシラ・ケリーが生で見られるチャンス到来!プリシラ・ケリーは1997年うまれの21歳!個人的には97年ってつい最近のような気がするんだが、自分の甥っ子がまもなく20歳になるんだから、現役選手が90年代うまれで20代でも別におかしくはないのだ。
とはいえ、プリシラ・ケリーは画面の中でみるだけでもなかなか魅力的な選手。相手を舌で舐めるというパフォーマンスは、一見すると怪奇派かと思われがちだが、実はしっかりした地力も持ち合わせている。やはりタイトル挑戦ができる能力のある選手なのだ。序盤でみせたグラウンド主体のムーブは実力のほどをうかがわせるものがあったし、タイトルマッチらしい重厚な試合運びができる選手なんだなという印象があった。
さらに、今回のプリシラは怪奇派の側面を封印し、なんと山下の土俵でもある打撃で勝負にでたのだ。確かにプリシラの打撃は非常にいいものをもっていたのだけど、やはり桃色ストライカーとしての山下のものには及ばない。打撃を誘い水にして自分の得意のフィールドに持ち込むことができたら、結果は変わっていたかもしれないが、この辺がプリシラの若さなのかもしれない。
しかし、プリシラ・ケリーが逸材であったことは間違いない。とはいえ、最初から最後まで山下の土俵で勝負したことで、山下の勝ち以外の結果が思い浮かばなかったのも事実。この辺は山下の、というよりプリシラの課題になってくるだろう。いずれWWEを目指すにしてももう少し修業が必要だと私は思った。
試合後、今回も営業に奔走してくれた山下の母に謝意を述べた娘・実優は、「正直、プレッシャーだった」と胸の内を吐露。でもまた福岡に来ることを約束して大会をしめた。
後記
全体的に気になっていたのは、正面を意識した試合はするのだけど、四方や二階席を意識した試合をする選手が皆無だったことだった。おそらく彼女たちにしてみたら二階席なんて初体験に近いものがあったとは思うが、会場の隅々まで「見せる」意識がないと地方の巡業は夢のまた夢。東京女子のように後楽園は(とりあえず)満員にできても、地方に出ると弱い団体はこういうところから気を付けていかないといけないだろう。
とはいえ、初開催になったドーム大会(笑)の成功は彼女たちにも自信になったと思うし、今後の東京女子が定期的にやってくるのであれば引き続き応援したいと私は思っている。