がむしゃらプロレス 秋の最強戦士決定戦‼︎『GAM1 CLIMAX’2016』〜力戦奮闘 〜観戦記(二日目)(門司赤煉瓦プレイス:2016・9・18日)
イントロダクション
1日目の観戦記はこちらから
2日目に勝ち上がったのは、ドラゴン・ウォリアー、鉄生、野本一輝、スミス、Allマイティ井上、ジャンボ原。このメンツだけでも激戦が予想される。果たして鉄生は痛めた肘でどこまでやれるのか?マスクドPTですら試合中の怪我で途中脱落したくらい過酷なGAM1の舞台。気合いだけでは乗り切れないことは本人も承知の上だろう。さすがに日曜は土曜日のようなことはなく、大入り満員となった。
オープニング
前説で、豪右衛門がタッグ王者の相方としてMIKIHISAを指名。
これによって11月20日のタイトルマッチは豪右衛門&MIKIHISAでタッグ戦が行われることが決定。まあ、タッグの場合譲渡されて防衛したためしがないので、見もの。時期尚早かどうかは試合してみないとわからない。本当はBarongと鉄生に挑戦してほしいというのも考えてはいたけど。
また、試合前のスタートはゲストの毛利道場エゴイスト代表の大向美智子さんがつとめ、大会はスタートした。
▼GAM1トーナメントAブロック2回戦(30分1本勝負)
①×ドラゴンウォリアー vs ○鉄生
(6分24秒)
ジュニアながら怪力を誇るドラゴンと、初制覇に執念を燃やす鉄生。前日あれだけ綿密に試合を組み立てたドラゴンがいきなり鉄生とタックル勝負にきた。多分あまり普段はやらないはずなのだが、力勝負という鉄生の土俵に上がった闘いをした時点で、少しらしからぬことをしたな、と思った。
しかし内容を即座に修正できるのもまたドラゴンである。前日のモミチャンチン戦で痛めた鉄生の肘を一点集中で攻め始めた。本当は最初から立って勝負するより最初から寝技でネチネチ攻めた方が良かっただろう。だが序盤でドラゴンがスタンド勝負を選択したことで、結果的に鉄生には決定的ダメージを与えられなかったのだ。
鉄生側からするとどうしても短期決戦に持ち込みたかったはずなんで、願ったりかなったりだったはず。この日はなぜか相手が勝手に短期決戦や肉弾戦などなぜか鉄生の土俵で勝負するパターンが多かった。そういう意味では鉄生は運も味方につけたといえるだろう。
とはいえ相手の土俵で勝負しても必ずしも負けるわけではない。その土俵が自分の得意分野でもあるからだ。であるならばドラゴンの戦略はあまり間違いではない。そう考えるとむしろ初制覇に向けた鉄生の執念が勝ちを呼び込んだのではないだろうか?
試合後ドラゴンは男泣きしていたそうだが、かつて何年も何年も悔し涙を流した鉄生はその味を最もよくしる男。また練習して来年と言わず、何度でも積極的にリベンジに来てほしい。悔し涙を流せる選手は必ず一人前になれるはずだから。
▼GAM1トーナメントBブロック2回戦(30分1本勝負)
②×ジャンボ原 vs ○ALLマイティ井上
(5分52秒)
昭和プロレスをこよなく愛する二人の激突!ある意味味わい深いが、トーナメントでなければじっくりした攻防になったかもしれない。
この試合でも炸裂した井上のWARスペシャルは115キロの体重を乗せてくる非常にエグい技である。決められた方はスタミナもロスするし、そうなると短期決戦に出ざるを得なくなる。スタミナをロスするだけでなく、焦らせるという意味でも非常に有効な技の使い方だと私は思った。
昭和プロレスファンであるジャンボにしたら不本意かもしれないが、連戦慣れしていてなおかつラグビー仕込みのスタミナを誇る井上に対してやや無策すぎたかな?と思う。用意していたかもしれない奥の手も出せずじまいだった感もあったし。
逆に井上はジャンボをよく研究していたし、短期決戦も視野に入れた試合運びも万全。ツアー組んで最終戦にコンディションをマックスにもってきた作戦も奏功し、短時間で効率よく勝利。連戦経験に上回る井上が勝つべくして勝った試合だった。
ただ、ジャンボに関してはまだまだ昭和プロレスの引き出しがあるはずだし、例えばこの日くらった延髄斬りを自分のものにすれば、レッグラリアット、ジャンピングニーと組み合わせて効果的な足攻撃が可能になる。そういう意味では得るものがデカイ闘いだったのではないかとわたしは思う。
▼何となくチャレンジな6人タッグマッチ(30分1本勝負)
③美原 輔 & ×サムソン澤田 & タシロショウスケ vs ○七海健大 & ダイナマイト九州 & 尾原 毅
(8分19秒)
若手のチャレンジマッチという位置づけだが、キャリア的には二世代分くらい上のタシロがこの位置に甘んじているのは、正直もどかしい。年齢的には若手だけど、美原や澤田の突き上げを考えるとウカウカはしていられないはずなのだが。
この試合で一番目に付いたのは澤田。関節技のエキスパートである尾原を挑発し、自らグラウンド勝負を挑む度胸は新人離れしている。しかもバックの取り合いから片足を引っ掛けて相手をひっくり返すテクニックで何度も尾原から一本とっていくし、流れも実にスムーズ。いや、これは間違いなく大物になるだろう。できたら総合のバックボーンはここぞ、という時に出せるようになれたらもっといい。あまり普段から使ってくると相手も警戒してくるからだ。
美原も澤田に触発されてキレのいいドロップキックで先輩方をキリキリ舞いさせていく。澤田とはタイプが異なる若手らしい動きは見ていていつも気持ちいい。
土曜日もそうだったが、もともとお笑いに走らなくてもプロレスができる九州が普段よりも厳し目に接していたのが面白かった。七海健大もGAM1というくくりがなくなると、寝かせて平手打ちするパターンだけでなく、しっかりしたテクニックで若手の壁になっていた。やればできる素材なんだけど、このまま明るく、楽しい路線に転向するには何か惜しい気がする。
そして生真面目にきちんとコンディションを整えてくる尾原毅には是非マスクドPTのもつインタコンチベルトに挑戦してほしい。PTも今は諸事情でパートタイムレスラーだし、条件は尾原と五分五分。だとしたら尾原が2010年で苦杯をなめた小倉北でのかりを返すのは今しかない!是非若手の見本になるためにも尾原自らがチャレンジする姿をみせてあげてほしい。やはりこのまま無冠で終わるには惜しい素材だし、期待して待ちたいと思う。
▼GAM1トーナメントAブロック準決勝(30分1本勝負)
④○鉄生 vs ×野本一輝
(9分58秒)
さて、先ほども少し触れたが、今回はなぜか鉄生の土俵で勝負する対戦相手が多く、この野本一輝もまた例外ではなかった。確かに急な出場だし、練習も不十分だから、短期決戦を選ばざるを得ない事情も理解はできる。しかし、普段ならグラウンドや関節技でじっくりスタミナを奪い、スープレックス系でダメージを与え、スリーパーで意識を飛ばしてゴッチ式パイルにいく必勝パターンは、やはり序盤の攻撃がいかに相手に効いていたかがカギになる。
それを考えるとまだ鉄生に余力があるうちに、野本がゴッチ式に行ったのは明らかに急ぎすぎだった。あれで鉄生に野本が短期決戦狙いにきているのを読まれたとしたら悔いが残る失点だった。
盟友に対する思いとは別に、トーナメントはトーナメントとして集中するべきだったし、そこらへんはもとgWoの鉄生の方が意識していたように思う。だから鉄生は勝ちに執拗にこだわった結果、かつての屈辱的敗北の借りを返すこともできた。一回戦が不本意な反則という結果で勝ち上がった野本は最後まで自分らしい戦い方ができないまま姿を消すことになった…
▼GAM1トーナメントBブロック準決勝(30分1本勝負)
⑤○ALLマイティ井上 vs ×SMITH
百戦錬磨のスミスに唯一穴があるとしたら、巨漢対策に乏しいこと。特に以前対決していたブルート健介以外に、それらしい相手ががむしゃらにはいなかった。しかし、前回敗北したマツエデラックスとか今回のAllマイティ井上などは、どちらもスミスにとっては未体験ゾーン。事前に情報を収集し、具体的なイメージトレーニングで綿密な試合運びを計画するスミスにとっては、そのイメージ戦略がやりにくいというのはかなり嫌だっただろう。それでも井上は7月に参戦したオオクニヌシみたいに完全にベールに包まれた選手ではないし、むしろ松江の誰より露出しまくっているので、まだ対策はたてやすかったはず。
しかし、いつもなら巨漢を怒らせるのに有利なスミスのおふざけがおかしな方に働いてしまった。そもそもスミスは大の負けず嫌いである。バケツを被せて相手の視界を奪い、バケツごと叩く流れを、なぜか自分ではなく、相手に叩く役をやらせるという、妙な我慢比べをはじめてしまった。井上が乗ってくれば勝機もあるかな、とは思ったが、スミスとは違う意味で百戦錬磨な井上はこの我慢比べに乗ったフリをして、しれっと自分のスタミナを回復させていた。
連戦が続く中、決勝にいくためには何処かで井上は休む必要があった。その井上に必要な休み時間をわざわざスミスが与えてしまったのは策士らしからぬミステイクだった。マツエデラックス戦でもそうだが、策士策に溺れるというパターンで自滅を招くのは、スミスらしくない。
だいたい投げ技が不発になるとスミスの場合、スイング式リバースSTOへの布石が打ちづらい。事実このおふざけでスタミナを回復した井上に、変形エクスプロイダーは功を奏さず、逆に井上の必勝パターンに巻き込まれてまさかの本命スミスが敗退!これにより決勝は鉄生対井上という異色の取り合わせになった!
▼マスカラ コントラ カベジェラ(30分1本勝負)
⑥×ジェロニモ vs ○Barong
(7分52秒) ※リング上でバリカンを入れられ坊主頭に
本人にも直接言ったけど、昨年タッグのベルトを失ってからのジェロニモは腑抜けていた。そもそもベビー転向後、身体のキレがよくてもメンタル的にノリが悪かったり、そうでないときは身体を負傷していたり、何処かチグハグだった。
その最たる例が鷹の祭典バージョンのホークスユニフォーム着ての入場をはじめたこと。別にジェロニモが野球好きでもどこのチームが好きでも構わないのだが、ヒール時代以前から長く育ててきたインディアンギミックをあっさり捨て去ったのがどうも釈然としなかったのだ。
昔から波がある選手ではあったが、ここまで酷い状態は見たことがなかった。確かにテーマらしいテーマがなく、対抗戦の波にも乗り遅れたため、存在感を示すのがセコンド業務のみという何とも歯がゆい状況にモヤモヤさせられてきた。
七海健大にしろジェロニモにしろやればできる人間がなかなか浮上のきっかけをつかめないというのはこれほどモヤモヤするものか。そこへ来てこのマスカラコントラカベジェラである。これはある意味一世一代のビッグチャンスである。しかもこれほど負けることを期待されるカベジェラマッチもそう例がないだろう。要はボウズとひとセットで皆が覚醒したジェロニモを見たいと願った結果なのだ。
そして先んじてBarongの気勢を制したジェロニモが嵐の波状攻撃!久々のキラージェロニモ覚醒に沸く会場。そう、我々が見たいのはイキイキと自由に暴れまくるジェロニモであり、勝敗やボウズはついでにすぎない。エプロンサイドでのジェロバスターも久々に解禁して波に乗るジェロニモだったが、やはり気合いだけで勝てるほどBarongは甘くはなかった。
勢いで攻めたてるジェロニモにまさかの毒霧!毒霧の使い手DIEZELとは長く同じチームにいたため、ジェロニモ自体に毒霧攻撃への耐性がなく、これが勝敗の分かれ目につながった。
で、カベジェラマッチへの不満だが、実はバリカンよりハサミをもつ方がお客にはわかりやすい。ジェロニモのような長髪を切る場合、バリカンだと髪の毛が引っかかって上手く切れないからだ。だからリング上でBarongがハサミで髪を切り、それをお客に向けて見せるというやり方が一番ベスト。
ただしハサミをそのまま凶器にしちゃうと、30年前の長与対ダンプみたいな凄惨な内容になりかねないし、やはりやるなら髪を切る道具としてだけハサミを持ち出し、後ほど控え室で丸刈りになるというのがもっともよいやり方ではないかと私は思う。
▼GAM1 RETURNS スペシャル6人タッグマッチ(30分1本勝負)
⑦×トゥルエノ・ゲレーロ & 豪右衛門 & 久保 希望 vs ○モミチャンチン & 阿蘇山 & 陽樹
(11分43秒)
GAM1リターンズと銘打たれたこのカードは一回戦で敗退した選手同士が組んだり闘ったりする。つまりユニット関係なしの個人闘争が見られるわけで、これは本家G1クライマックスがかつて得意としていたお家芸。今はなんか影を潜めちゃったけど、本来のグレード1というのはこうあるべきなんだよなあ。
しかも彼らをリードするのがプロ選手の久保と阿蘇山というのはなかなかに興味深い。前回の敗戦を経て、モミチャンチンと陽樹の越境タッグに、豪右衛門とゲレーロという普段ならありえない組み合わせができてしまうのもこの試合の妙。
そのあたりは各人心得ていて、阿蘇山組がいきなり奇襲から試合はスタート!陽樹はゲレーロを、豪右衛門は阿蘇山に、モミチャンチンは久保に狙いを絞り大暴れ!しかも新しいターゲットを前にイキイキと各人が攻撃しているので、非常にめまぐるしく飽きることがない。また遠慮会釈なしの攻撃にプロの二人もムキになるから余計に面白い!
注目はかねてからモミチャンチンを密かにロックオンしていたゲレーロ。確かに負けた結果望んだ対決が実現したのは皮肉といえば皮肉な話。だがせっかく巡ってきたチャンスをフイにするわけもなく、果敢に挑むゲレーロに決して手を抜かないモミチャンチンは前日鉄生を苦しめた腹パンならぬ腹ラリアットをえぐい角度でぶちこんでいく。これには体重差も加わって見事なくらいダメージをくらい、悶絶するゲレーロ。土曜日は首にスィンギング・ネックブリーカー、今回は腹ラリアットと、エゴイストの必殺技フルコースを一人でくらってしまう格好に。
そしてかなり意外だったのは陽樹とモミチャンチンの連携が実にスムーズ!越境タッグとは思えない呼吸の合い方には驚くほかなかった。これに阿蘇山が加わるとちょっと手が付けられない。まあでもしかしGAM1リターンズの名に恥じない素晴らしい試合だった。
ところで余談だが、久保組の入場テーマがアニメ、Re:ゼロから始まる異世界生活のオープニング「Paradisus-Paradoxum」だったんだけど、あのメンツのなかにリゼロ知ってそうな人が思いつかない。誰が選曲したのか凄く気になる…^_^
▼GAM1トーナメント決勝(30分1本勝負)
⑧○鉄生 vs× ×ALLマイティ井上
(9分46秒)
不思議なものでGAM1五年の歴史でシード枠の選手が勝ち上がったことは一度たりともない。この二人も二日間で四試合。しかも井上は9月半ばから連戦、連戦のスケジュールを組んで挑んできた。試合数と移動の負担を考えても、難敵揃いのトーナメントを勝ち上がったのは驚異的である。
しかし、鉄生もあれだけの一点集中攻撃を受けながら、井上に負けず劣らずの強豪を撃破してきた。その精神力と執念はかつてPT以外シングル無敗だったスミスに土すらつけたほどこれまた驚異的。
だからこの試合の場合、二人とも短期決戦しか選択肢がない。泣いても笑ってもこの試合が最後。それだけに死力を尽くしてぶつかり合う鉄生と井上に、赤煉瓦プレイスは大ヒートアップ。頭突きに頭突きで返す意地と意地のぶつかり合いはまさに名勝負の名にふさわしい素晴らしいものだった。
圧巻は未だかつて返されなかった井上のコーナー最上段からのダイビングセントーンすら鉄生にトドメをさせなかったこと。やはり決め技を返されたショックは計り知れないし、かなりの精神的ダメージに繋がったと思う。逆に鉄生は以前なら連発していた鋼鉄ロケットランチャーを温存できる我慢強さも身につけていた。首や頭、肩や肘にも負担がかかりかねないリスキーな必殺技だし、トーナメントを戦い抜いた疲労も考えたら出せて一発が限界だったとわたしは思う。それだけによく辛抱して、ここぞという時に使うことができた。状況をきちんと把握して、判断力も的確。かつてスミス戦でGWA王者になった時より格段に鉄生は進化していた。
結果は鉄生が勝ち、井上が負けたけどどちらも讃えられて然るべき闘いをしてくれた。本当に素晴らしかった。本来ならお互いが称え合うエンディングでも不思議ではなかったが、それを嫌ってgWoを離脱した鉄生にも、松江の看板を背負った井上にもその力さえ残ってはいなかった。もしかするとそこまでできたのも、看板とか追悼とかいうことではなく、単純に自分が望むこと、したいことを徹底的に優先させた結果かもしれない。自分のことより他人のことを考えて上に行けるほどトーナメントは甘くない。そこへいくと優勝した鉄生は徹頭徹尾自分のためだけに闘っていた。それが結果的にはGAM1のためにもなったし、がむしゃらプロレスのためにもなったと思う。
そして息つく暇もなく鉄生は陽樹を呼び出した。鉄生が優勝したことで自動的に11月20日のメインは陽樹対鉄生という超因縁対決になってしまった。こうなったらもう完全に個人闘争である。お互いが忌み嫌い、お互いが憎しみ合うだけだった初対決からどこまで自分が純粋に勝ちたいかを争う闘いは確かに2016年掉尾のメインにふさわしい。
後記
昨年は陽樹と林祥弘がたった舞台に今度は鉄生が上がる。そこで昨年のメインをこえないとここまで自分のために戦ってきた意味がなくなってしまう。目の前の陽樹を倒すことはもちろん、昨年のクオリティをこえない限り、林祥弘にも勝てない。その両方に勝ってこそ、はじめて2016年は鉄生の年になったといえるだろう。ベルトはぶっちゃけおまけに過ぎない。GAM1優勝の真価を問われるのはここからなのだ。
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