プロレス的発想の転換のすすめ(94)ナラティブとプロレス
ナラティブ=物語
今回はナラティブとプロレスのお話です。
ナラティブ(narrative)というのは、「物語」「語り」「話術」と訳され、ビジネスシーンだけでなく、医療や臨床心理、教育などの現場でも使われています。
ではストーリーは?
映画やドラマの「ナレーション」という単語は、ナラティブの「語り」から派生した言葉です。
ところが、物語をさす言葉にはもうひとつ「ストーリー」(story)という言葉があります。
2つの違いは?
ナラティブとストーリー・・・日本語に訳すとどっちも物語になります。
では、両者の差は一体どういうところにあるのでしょうか?
物語の筋書き
そもそもストーリーは物語の筋書きのことをさします。
主人公やその他の登場人物をメインに、話が展開されていき、主に起承転結で物語が完結するのがストーリーの特徴です。
自由な物語
ナラティブの場合は、語り手が物語を展開していくのですが、語り手が物語の主人公となり、完結していなくても構わない自由な物語となっています。
プロレスの場合、ストーリーというよりナラティブと呼んだ方がふさわしいようです。
プロレス=ナラティブ
ある程度の流れは団体や選手が用意していきますが、それがお客さんの物語になった時にプロレスはナラティブになると思います。
あまたあるエンターテインメントはその多くがストーリーです。
ゴールのないマラソン
提供されるストーリーには始まりがあって、終わりがあるからですね。
しかし、武藤敬司選手が語ったように「プロレスはゴールのないマラソン」なのです。
連綿と続く
ゴールした先にはまた次の物語が始まっており、連綿とつづいていくのです。
ビジネスの世界でいうナラティブマーケティングも基本は同じです。
マーケティングでも
顧客のナラティブにアプローチしていくマーケティング戦略が、ナラティブマーケティングと呼ばれるものです。
従来は作り手や売り手側のストーリーで商品を販売していました。
問題解決につながって
これに対して、ユーザーの物語を想像することで、そこにどんなベネフィット(商品やサービスを通じて提供できる便益)を付加できるのかということを訴えていくのがナラティブマーケティングなのです。
そこでは、相手の話をしっかり聴いて、問題を客観視できるようにして、それが最適の決断になっているかどうかを検証し、話し合うことで問題解決につながっていくようにしていきます。
ナラティブアプローチ
冒頭で臨床心理でも使われるとありましたが、私が散々勉強してきたカウンセリングの技法こそが「ナラティブアプローチ」によるものです。
カウンセリングでは、相談者自身がネガティブに捉えていた過去の経験や、思い込みを肯定的な価値観に置き換えてもらいます。
心的リソース
相談者が語り手として、「物語=ナラティブ」にして話してもらうことで、自分自身が忘れていたことや、気がついていなかった問題点などを発見することもできます。
そこで相談者自身が選択した決断が「自分の幸福や達成に役立つ心的リソース」を引き出す物語(ナラティブ)につながっていることが最も望ましいとされます。
プロレスは奥深く面白い
プロレスは筋書きのあるドラマかもしれません。しかし、その性質はストーリーではなく、ナラティブです。
それは送り手が完璧にコントロールできるものではなく、受け手が単に受動的に享受するだけのものではありません。
だから、プロレスは奥深く面白いのです。