プロレススーパースター本列伝 クマと闘ったヒト
バカしていた時代
「クマと闘ったヒト」というのは、作家・中島らもさんと、元、日本プロレスのプロレスラー、ミスターヒトさんの対談本です。
私は20代の頃足繁く大阪に通っていた時期があり、その頃大阪でお好み焼き屋さんを営んでいたミスターヒトさんには大変お世話になっていました。
一日のパターン
この時の私の行動パターンは、
①朝一の新幹線で新下関から新大阪へ。
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②梅田経由で宝塚へ直行、手塚治虫記念館にいき、一日中漫画をむさぼり読む。
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③宝塚から難波へ移動してプロレス観戦
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④ミスターヒトさんのお店「ゆき」で打ち上げ
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⑤最終の寝台で帰路に。寝台の中で着替えてそのまま出社。
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⑥一週間仕事したのち、また大阪へ(エンドレス)・・・・
ということを毎週のようにやっておりました。このことを話すたびに「あんた、そんなバカなことばかりしてちゃいけないよ」とよくヒトさんから諭されていたものでした。
若気の至り
今にして思うと、若気の至りでヒトさんの忠告を無視したおかげで、後々ひどいめにあうのですが、当時はそんなことなんかなーんもわかってもいなかったですからね。つくづくどうしようもない青二才だったなあ、と思うわけです。
ヒトさんには申し訳ないんだけど、私は「ゆき」に通い詰めていたことを未だに「バカなことをした」とは微塵も思っていません。そしてヒトさんには感謝こそすれど、ネガティブな感情を抱いたことも一度たりとてありません。
時を経て「再会」した
若さもなくなり、体力も衰え、老いを実感していた最近になって、とある古本市で偶然この本をみつけて思わず買ってしまいました。
すでに私も若くはなく、ヒトさんもらもさんも鬼籍に入られて久しいのですが、読んでいると、収録場所であるヒトさんのお店「ゆき」の情景が浮かんできて、なんとも言えない気持ちになりました。
ブレットの自慢話
ヒトさんというのは、マット界随一の毒舌家でして、しかも表題通りおしゃべりな人でした(笑)
未だにそれをよく思わない関係者・選手もたくさんいるのですが、私にとってのミスターヒトという人は、人の悪口をあけすけに言う割にはどこか憎めない、可愛らしいおじさんというイメージがありました。
カルガリーでヒトさんがお世話になっていたスチュ・ハートとの繋がりは、この中でも散々紹介されていますが、「ゆき」のお店の壁の中央には、ヒトさんが育てた?自慢の弟子の1人、ヒットマン・ブレッド・ハートのサインがバーンと鎮座ましましており、それを肴にヒトさんの自慢話を聞くのが、大阪行きを締める上で私にとって欠かせない楽しみでした。
マイルドに修正
ちなみにこの本ではヒトさんの発言が多少マイルドに修正されています。なぜそれがわかるのか?というと、少なくともヒトさんの口から「〇〇さん」という言葉を聞いた記憶がなかったからです。これは主に90年代に「ゆき」に集っていた人間なら「ああ!」と思い当たるのではないでしょうか。
ぶっちゃけヒトさんにとってはあのBI砲ですら「馬場・猪木」だし(笑)、ほかはいわずもがな。だからこそ話に裏表がなくて面白かったのです。もっとも私が思うに、ヒトさん自身にどこか東スポチックなところがあって、陰謀説とかエロ話は多少盛りすぎていたような感じもしないではなかったのですが、それを含めて「ミスターヒト」という「エンターテインメント」として、我々は楽しんでおりました。
裏表がなかったアウトロー
裏表がないミスターヒトさんは大作家のらもさんにも、一介の名もなきプロレスファンである私にも同じような話をしてくれています。
ですから、この本に脚色があるとしたら「さん」づけがあるかないかくらいで、ほぼ純度100%の「ミスターヒト語録」が収録されていると私は断言できます。だって実際に聞いている話がかなりありましたからね(笑)
「ゆき」での思い出は数限りなくあるのですが、今にして思うとあの店に出入りしていた選手は非常にアウトロー気質な一匹狼が多かったなあと感じます。
らもさんもアウトロー
マサ斎藤、馳、ラッシャー木村、カンナムエキスプレス、ジョニー・スミス。そして「ゆき」の提灯を馳と共に寄贈したライガー、橋本真也。皆、一癖も二癖もある面白いメンバーでした。あんな豪傑ばかりが揃うお店なんて、今はもうありえないでしょう。
考えてみたら、中島らもさんも文筆家としてはかなりアウトローな方でした。構成を手伝った吉田豪さんが馳タイプだとしたら、らもさんは間違いなくヒトさんタイプだったんじゃないかな、と私は想像しています。
あの頃に・・・
もしも、今になって後悔があるとしたら、鬼籍に入られたヒトさんとの写真がないことと、主がいなくなり閉店した「ゆき」には二度といけないことくらいですが、こうして「クマと闘ったヒト」のような対談本を遺してくれたヒトさんとらもさんには本当に感謝しかないですね。
ページをめくるたびにあの頃にタイムトリップできる感覚が味わえる不思議な本、それが私にとっての「クマと闘ったヒト」なのです。