がむしゃらプロレス・矢野貴義一周忌&生誕祭 ドン・タッカーイズム (2021年10月3日(日)門司赤煉瓦プレイス)
イントロダクション
個人的な話になるけど、7月の大会が終わった時点では、まさか自分が後々人生に残る大きな体験をするとは、これっぽっちも思ってなかった。
8月頭の人間ドッグで肺に腫瘍が見つかり、当初は検査入院といわれていたものが、内視鏡検査になって、いつの間にか腫瘍の除去手術に話が変わり、あれよあれよという間に入院→手術。
救急病院に入院したため、手術即日で管ぶち抜かれて、その日からリハビリ開始。これを乗り越えられたのは、ひとえに「10.3のがむしゃらに行く」というモチベーションだった。
もちろん最初は痛み止めも効かないし、酸素吸入の管だけは割と遅くまでつけていたけど、だいたい自分が思い描いた通りに退院できたし、観戦2日前には抜糸も終わっていた。
個人的には傷口を見るたびに、大仁田厚の気分でいたんで、病室ではずっと「家に帰るまでがデスマッチ」(これは葛西選手の名言だけど)と自分にいいきかせていた。厳密にいえば、「門司赤煉瓦から帰るまでがデスマッチ」だったんだけど。
ちなみに、8月に病気がみつかって、手術を経て抜糸が済んでもまだ病名が確定していない。これも想定外だった。病名が付かないと保険が下りないので、入院費や治療費は全部自腹で建て替えなければならない。
なんで、最低限のチケット代とグッズ以外のお金はなるべく節約する方向でなんとかこっちも乗り切った。だいたい故人を偲ぶ大会に行くのに、自分だけ先に故人に会いに行くわけにはいかないのだ。
ということで自分語りはこの辺で終わり。
オープニング
当日はよもやの30度超え。なんでも観測史上初の猛暑だったらしい。10月なのに容赦ない気温。さすがにばて気味だったが、室内に入るとガンガンに空調が効いているうえに、自分の近くには運悪く、換気用の扇風機が回っていて、寒い!
結局、当日着用した林祥弘Tシャツの上に、ドン・タッカーTシャツを重ね着しての観戦になった。
今大会は、ドンの一周忌という事もあって、生前親交があったロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン( Los Ingobernables de Japón)のメンバーが連名で送った花束が飾られていた。生前のお付き合いを大事にしている義理堅さには感動してしまった。
オープニングはゲレーロ副代表が登場。今回はこの時点で第三試合~第六試合の西日本オールスターズ対がむしゃらプロレスの対抗戦は、当日オーダー表を各代表(がむしゃら:SMITH、西日本:大向美智子)が提出し、試合直前に発表するという形だったため、本人もカードを知らず「ドキドキしている」といっていた。
そして、そのカード発表は第二試合終了後の休憩時に発表となったのだが・・・
さらにそのSMITHがまさかのドン・タッカーコスチュームで入場。横に広い本物を見慣れているせいか、縦に長いドン・タッカーはなんか胡散臭かったが(笑)、これをできるのはやはりSMITH以外にはいないだろう。
▼第一試合:シングルマッチ
○HAGGAR vs ×KENZO(7分17秒)
同日デビュー同士の同期対決。先月末に松江遠征も経験し、一歩リードしているKENZOに、やや遅れをとっているHAGGERがどこまでくらいついていけるか?
出世では先行しているといっても、まだ客前の試合数は2人とも一桁にすぎない。なので、試合は自分が覚えたものをひたすら羅列するという流れになっていく。
このあたりは、過去デビューした新人も同じだったんだけど、観ている側には、想い出補正がかかっているせいで、どうしても「先輩レスラーのデビュー時はもっとすごかった」と思いがちになる。
しかし、あの林祥弘はデビュー戦で派手にずっこけるという伝説級のやらかしをしているし、それに比べたらKENZOもHAGGERも堂々としていると個人的には思う。
HAGGERの最大のウィークポイントだった「声が出ていない」という点も、同期のKENZOが相手だったからか?よく出ていたし、試合の組み立てが荒いのは2人ともに言えることなんで、この辺はキャリアを重ねていけば問題はないだろう。
この2人の個性をいかすとなると、細かいテクニックより肉弾戦の方が映えると思う。試合自体はその細かいテクニックで決まっちゃったのは皮肉な話ではあったんだが。
あとは、2人とも自分に見合う必殺技を探して身につけること。諸先輩方も代名詞的な技をもち、お客さんに認知されている。せっかく恵まれた肉体があるんだから、生かさない手はない。
できるなら、小手先のテクニックより、相手を豪快に吹っ飛ばす気持ちのいいフィニッシャーをみせてほしいと思う。
第二試合▼疲れん程度1本勝負
リキ・ライタ & ○ダイナマイト九州 with ジャンボ原 vs ×パンチくん & ブラック☆スティック with 美原 輔(11分06秒)
本大会は、がむしゃらプロレスの過去と現在がほどよく混ざった、故人を偲びつつも未来が感じられる大会だった。
カード発表時には特別セコンドは明かされておらず、入場テーマで誰がくるかわかるわけだが、それがジャンボ原と、美原輔というのは、長年がむしゃらプロレスを観ている側からすると、実に嬉しいサプライズだった。
特に美原は「さあ、これから!」という時にはいなくなっていたので、まさかの登場に会場は大盛り上がり。原とレフェリー健大とのジャンケンコンビ復活にも会場は大いに沸いた。
さて、事前のアナウンスで「リキ・ライタ以外の三選手の強い要望により、武器の使用が認められる」事になったこの試合。
疲れん程度のはずなのに、レフェリー含めてハードコア仕様になっているし、ブラック☆スティックが持ち込んだ黒棒が、なぜか蛍光灯デスマッチの要領で、ロープに貼り付けられている。
ただ、蛍光灯は一回割れると終わりだが、黒棒は割れないし、落ちてもまたセコンドがつけなおすので、リキ・ライタはロープワークするたびに、背中に激痛が走る有様。ある意味ハードコアである。
案の定、リキがひとりボコボコになるのだが、サプライズで九州と美原がチョップ合戦を始め、しかも美原が往年と変わらないキレのあるドロップキックまでみせてくれた。これが今回限りでは実にもったいない!
それは九州も感じたのか?試合後美原に「久しぶりだな。やめてからずっと顔も見せないで!」と、チョップ合戦をやりたりないアピールをしたあと「12月5日、門司赤煉瓦で大会がある!」とだけ言ってマイクを置いた。
対する美原の返答はなかったが、本人の気持ちに再び火がついたのであれば、ぜひ参加してほしい。無理にとはいわないけど。
休憩
第二試合のあとに、休憩挟んで立会人阿蘇山のもと、がむしゃら代表SMITHと、西日本オールスター代表・大向美智子がリングにあがり、カード表を提出。
コロナ禍で活躍の場を奪われた大向代表は、いつになくテンション高めな感じ。まあ、その予感はこのあと当たるわけだが。
そして、対抗戦のカードは以下のようになった。
第三試合▼チーム西日本 vs がむしゃらプロレス6人タッグ
×シドニー・昌太・スティーブンス & 石鎚山太郎 & ライジングHAYATO with キューティエリー・ザ・エヒメ vs HIROYA & MIKIHISA & ○尾原 毅(13分09秒)
この試合の主役は、やはり久々の登場になる、キューティーエリー・ザ・エヒメ代表になる。
まあ、それは別にしてもやはり久々になるライジングHAYATOと石槌山太郎の参戦はうれしいし、ここにシドニーが加わったチームというのも非常にお得感がある。
対するがむしゃら軍もユニットの垣根をこえた形。MIKIHISAとHIROYAは多少ぎくしゃくしていたが、石槌とHHIROYAの絡みは、HIROYAが山であるはずの山太郎を「見下ろす」ことで、抗争の接点を作っていたし、HAYATOも全日本参戦で培った経験をもとに、より攻防がスピードアップした。
そして、ナスティの2人が揃ってエリー代表の毒牙にひっかかるという「お約束」も含めて、愛媛色が強く出た試合になった。まさか尾原毅が、色香に惑わされるとは思わなかったが(笑)、これくらい柔軟性がある今の尾原は正直怖いと思う。
年末の対陽樹戦にも期待がかかる闘いだった。試合はその尾原がシドニーを足関節ギブアップさせ、まずがむしゃら軍が一勝をあげた。
第四試合▼チーム西日本 vs がむしゃらプロレスタッグマッチ
○上原智也 & グレートカグラ vs サムソン澤田 & ×YASU(11分15秒)
7月から連続参戦になるOPG上原と、松江のヒールユニットJOKERのリーダー、カグラが組んだチームというのはなかなかに魅力的。対する澤田とYASUもともに正規軍経験がありながら、同時期に同じユニットに所属していないため、実質初タッグといっていい。こういう機会でないとみられないチームでもある。
とはいえ、相手がスーパーヘビー級の2人とあっては、どうしても対格差という問題が出てくる。それはYASUでも例外ではないはずなんだが、土屋クレイジーとのタッグで、無差別の闘いを数多く経験しているYASUには、その対格差を、強みに変えられる技術と経験がある。
この試合でも、澤田の技巧派テクニックと、YASUのスピードスターぶりががっちりかみ合って、非常に濃い内容になっていった。当然相手の上原とカグラも曲者ぞろいなんで、流れはつの間にか西日本オールスターの流れになっていった。
どっちも急造タッグには違いないんだが、タッグとしての経験値と、くぐった修羅場の数が差をわけたのだろう。途中カグラが効果的に椅子を持ち込んだりして、自分有利な展開に持ち込んだのも大きかった。
よくよく考えてみたら四人ともヒール寄りの選手なんだが、カグラ以外はそれっぽいこともせず、非常に内容の濃い試合をみせてくれた。この試合で惜しくもYASUがとられたことによって、西日本対がむしゃらは1対1のイーブンになった。
▼チーム西日本 vs がむしゃらプロレスタッグマッチ
嵐 弾次郎 & ○土屋クレイジー with 大向美智子 vs ×トゥルエノ・ゲレーロ & 陽樹(17分14秒)
セミファイナルに組まれたのは、いずれをとってもひけをとらない実力者同士のタッグマッチ。しかし、予想外に大荒れの試合になってしまった。
約二年ぶりの参戦となる土屋は、てっきりシングルチャンピオンである陽樹狙いかと思いきや、あっさり先発を弾次郎に譲る。
弾次郎対陽樹は、当然普段からライバル視している両者だけに、序盤から激しい肉弾戦となったのだが、土屋は階級の違うゲレーロ一本に狙いを絞って猛チャージ。
その狙いは後々明らかになるのだが、途中からここ数年なりを潜めていた大向美智子が大爆発。
度重なる介入に激しい場外戦で、チャンピオン陽樹をイスで滅多打ち!もはや、かつての同志だったという意識はかけらもない暴れっぷり!まさに大向台風である。
そこへきて、がむしゃら勢に加わるとみせかけて、乱入してきたYASUが土屋側に加担。実質4対2になったがむしゃら勢はさすがに勝ち目がない。
途中おっとり刀でかけつけたHIROYAをもはねかえし、最後は土屋が当初から狙っていたゲレーロからピンフォール勝ち。
これで、西日本対がむしゃらは西日本の2勝で先行・・・だけでは終わらなかった。
まず試合後、マイクをとった土屋は、まずチャンピオン・ゲレーロからフォールをとったことでタッグ挑戦を表明。
弾次郎はドリーム・チューバ―なので「敵認定」した土屋は「俺を組むやつはいないか?」とマイクで呼びかける。
そこへ再びYASU登場。ここで、かつてがむしゃらタッグ戦線で名勝負を残した2人が再合体!さらに「俺が原因でなくなってしまったGWO。俺が(タイトルマッチを)勝ってGWOを復活させる!」と、まさかのGWO復活宣言!
これに怒ったゲレーロは「昔話してるんじゃねえ!俺たちはドン・タッカーのいない今のがむしゃらプロレスを生きているんだ!」と、土屋の挑戦を受諾。
かくしてたぶん12月のマニアではチャンピオン・ゲレーロ&HIROYAに、挑戦者土屋&YASU組が挑戦濃厚となった!
▼チーム西日本 vs がむしゃらプロレス・シングルマッチ
×ALLマイティ井上 vs ○鉄生(16分01秒)
大荒れのセミファイナルの後は非常にやりにくかったと思う。大きな流れができただけに、そのあとの試合にかかるプレッシャーは半端ないものがあると想像できる。ましてやシングルマッチだし、いいわけできないムードも漂っている。
ただ、全盛期の井上だと、思いっきり鉄生と肉弾戦が期待できるのだが、ここ数年の井上のコンディションはお世辞にもいいとはいいがたい。
9月末のだんだんプロレスのメインで、ミステリコ・ヤマトとシングルマッチを闘った井上は、満身創痍の身体を張って試合に挑んだが、それでも結果は黒星だった。
コンディションが整わない中、一時期引退宣言もしたのだが、それでも井上はリングにかえってきた。やはりリングにかける思いは人一倍あるのだろう。
その満身創痍の今の井上が、現在進行形の鉄生とがっぷり四つの削りあいを挑んだのがこの試合だった。正直明日以降の仕事を考えたら・・・試合後に待つ、松江までの長時間移動を考えたら、ほどほどにしてもよかったと思う。
だが、敢えて井上は削りあいを挑み、鉄生も容赦なく井上を削っていった。肉体的にも精神的にもお互いがお互いを容赦なくつぶしあう。
タイトルがかかっているわけでもない。強いていえばがむしゃらが引き分けに持ち込めるかどうかの試合であるにも関わらず、そういうのを超越した世界観を鉄生と井上は作り出した。
途中、サポーターを外し、痛むはずの身体をなげうって、時に悲鳴をあげながら鉄生の猛攻に耐えた井上は、何度も何度も這っては立ち上がってきた。
正直、2人が単に「プロレスが好き」だけならばここまでする必要はない。でもプロでもめったに見られない「削りあい」に挑んだ、武骨な漢たちのぶつかり合いは、いつしかセミで吹き荒れた嵐を、記憶の片隅に追いやっていた。
結果、ギリギリのつぶしあいを制したのは鉄生だった。普段首へのダメージを考えて最小限にしている頭突きも何発も繰り出した。ここまで削りあったのはおそらく全盛期のSMITHに勝った試合以来ではないだろうか?
そこまでしないと勝てない「ALLマイティ井上」を引き出したのは、紛れもなく鉄生だった。現役のGWA6人タッグ王者でありながら、どことなく陽樹のサポートに回り、副代表もこなしている鉄生が、久しぶりにすべてのしがらみを解き放った試合でもあった。
ここまで出し切らないと勝てない相手、それがALLマイティ井上だったのだ。試合後「ギリギリだった」と正直に吐露した鉄生だったが、すぐに「やり足りねえ」と再戦を要求していた。
まだ12月のマニアを控えてはいるが、個人的にはこの試合が今のところベストバウト候補にしたい。それくらい中身の濃い試合だった。
試合後、総括を述べたSMITH代表も満足げだった。今回登場したほぼ全選手がリングに上がり、SMITHの「3・2・1・がむしゃらー!」で大会を締めた。
後記
個人的には、大会が一か月伸びたことで、この大会に参加することを目標にして、リハビリと治療に挑むことができた。病名がいまだわからないのは、困ったことではあるし、自分と入れ替わりで父の再々入院が決まったことで、10月もあっという間に過ぎてしまいそうな気がする。
でも、この大会は自分のことはさておいても非常にクオリティが高かったし、ここを目標にしてきて本当に良かったと思った。特にメインイベントはどこに出してもはずかしくない内容だった。同じ日にN-1やG1もあったけど、メジャーと比べても何ら引けはとらない大会だったと思う。
結局、ドン・タッカーを偲んだのは最初のうちだけだったんだけど、それでも過去に縛られず、現在進行形のがむしゃらプロレスを作り上げたみんなのことを、きっとドンもどこかで見ているに違いない。そして、きっと喜んでくれている・・・きっとそうに違いない。