プロレス的音楽徒然草 I Won’t Do What You Tell Me
ガラガラ蛇の下積み時代
今回はWWEのアテチュード時代におけるスーパースター、ストーンコールド・スティーブ・オースチンのテーマ曲「I Won’t Do What You Tell Me」をご紹介します。
ダラスでクリス・アダムスの指導を受け、1989年にUSWAでベビーフェイスとしてデビューした当時は、本名の「スティーブ・ウィリアムス」の名でファイトしていましたが、同じUSWAに同姓同名の先輩レスラー(ドクターデス・スティーブ・ウィリアムス)がいたため、リングネームをテキサス州都のオースティンに因み、アメリカの人気テレビドラマシリーズ『600万ドルの男』の主人公の名前でもあったスティーブ・オースチンに変更し、ヒールとして売り出します。
WCW→新日本登場
その後、WCWにスカウトされてブライアン・ピルマンとともにハリウッド・ブロンズというベビーフェイスで売り出されます。92年当時WCWが提携していた新日本プロレスにも参戦しており、G1クライマックスの二回戦で武藤敬司とのシングルマッチを行っています。
ところが、後年蝶野正洋と対戦した際に、変形パイルドライバーで蝶野の首を破壊したことから、「スティーブ・オースチン」としての転落の人生が始まったのです。
95年の新日ツアーで故障したのちWCWを解雇。いろいろあってスティーブ・オースチンはWWE(当時はWWF)に入団することとなります。ちなみにオースチンはWCW時代からWWF初期までは技巧派の選手として名を売っていました。あのマサ斉藤さんが「こいつはレスリングができる選手だ」という太鼓判を押していたほどの実力をもっていたのです。
武藤とシングルマッチも
私は鳥取で武藤とシングルマッチをやった試合や、WCW時代にリッキー「ザ・ドラゴン」スティムボードと対戦した試合が「技巧派」オースチンのベストバウトだと思っているのです。
が、後年ブレイクしたストーンコールドになってからは「これ」といった名勝負を思いつきません。そもそもストーンコールドのキャラクターは、「邪魔をする者は誰でも叩きのめす」という長年ブレイクできなかったオースチンの積年の恨みがこもったものでした。
スタナーの功罪
これを端的に表現したのが代名詞にもなった「ストーンコールドスタナー」で、これが決まると確かに一撃必殺という感じで、観客は大熱狂していました。私もこのモデルチェンジは格好いいとは思った一人なんですが、とはいえ流れるような試合展開を見せる技巧派のオースチンが記憶に刻まれている分、ストーンコールドの試合運びはドタバタしてみえたのも事実でした。
スタナーというのは一撃必殺の技としては非常に見栄えがいいのですが、プロレスがうまいとされるオースチンをもってしても試合がバタバタしてみえるのが致命的だと私は思っています。ストーンコールド以降、多くのレスラーがスタナーを使うようになっていくと、どの選手もおおむね試合がバタバタしてしまう傾向にあるように見えるんですね。
積年の怪我
余談になりますが、かつては新日屈指の技巧派としてならし、道場長もつとめていた飯塚高史が、現在タイガージェットシンばりの極悪ヒールキャラで大暴れしているのも、一説によると積年のけがが原因で技巧派のレスリングができなくなったからだともいわれています。
飯塚は若手時代に馳浩とともにソビエトへサンボ留学も果たしたほどの実力派だったのですが、この飯塚の変身には驚かされました。とはいえ単なるヒールターンではない「事情」がわかると「なるほどなあ」と思ったものでした。
体力の限界
実際、オースチンは首脳陣とのトラブルのほかにも体力の限界で引退→復帰を繰り返しますが、単純に技巧派のスタイルを捨て去ったのではなく、身体がもはや技巧派のレスリングができない状態であったことは想像に難くありません。
鈴木軍で暴れる(2017年現在)飯塚の姿を見ていると、往年のような流れるようなレスリングをしていません。
オースチンと重なる部分
はからずもオースチンと同じスキンヘッドでもあり、なおかつ技巧派からヒールに転身したその姿をみるにつけ、オースチンと重なる部分が多いなと私は思っています。
この「I Won’t Do What You Tell Me」以降、ストーンコールドの入場テーマにはいずれも冒頭にガラスを叩き割る音が挿入されており、曲中でも何度も繰り返されています。
ガラス音
これはオースチンのトレードマークのひとつであり、会場からは大歓声が挙がります。このガラスの音を自身のテーマ曲にサンプリングした例は武藤敬司や高木三四郎などがいます。
プロモーションビデオでオースチンは「ガラスの割れる音で俺は臨戦態勢に入る」といっているのですが、もしかするとこの効果音で本人は、スティーブ・オースチンから「ストーンコールド」への変身のスイッチをいれていたのかもしれませんね。