プロレス的発想の転換のすすめ(95)ナラティブとプロレス
ナラティブの定義
今回は「ナラティブ」とプロレスのお話です。
ナラティブ(narrative)とは、「物語」「語り」「話術」と訳され、ビジネスシーンだけでなく、医療や臨床心理、教育などの現場でも広く使われています。
ストーリーとの違い
映画やドラマの「ナレーション」という単語は、ナラティブの「語り」から派生した言葉です。
ところが、物語を指す言葉にはもうひとつ「ストーリー」(story)という言葉があります。
日本語に訳すとどちらも「物語」になりますが、両者の差は一体どこにあるのでしょうか。
完結しない物語
そもそもストーリーは、物語の筋書きを指します。
主人公や登場人物を中心に話が展開され、主に起承転結で完結するのが特徴です。
対してナラティブは、語り手が自ら物語を展開します。語り手自身が主人公となり、必ずしも完結していなくても構わない、自由な物語なのです。
観客が作るプロレス
プロレスの場合、ストーリーというよりナラティブと呼んだ方がふさわしいようです。
ある程度の流れは団体や選手が用意しますが、それが観客自身の物語になったとき、プロレスはナラティブへと昇華されます。
あまたあるエンターテインメントの多くは、完結するストーリーです。
終わりのない闘い
提供されるストーリーには始まりと終わりがあります。
しかし、武藤敬司選手が語ったように「プロレスはゴールのないマラソン」なのです。
例えば、武藤選手が膝の負傷で引退を囁かれながらも、人工関節を入れてリングに戻り、ついにはG1優勝や王座戴冠を成し遂げる姿は、観客一人ひとりの「逆境からの復活」というナラティブに深く突き刺さりました。
一つの決着(ゴール)の先には、また次の物語が始まっており、闘いは連綿と続いていくのです。
顧客に寄り添う戦略
顧客のナラティブにアプローチする戦略が、ナラティブマーケティングです。
従来は作り手側のストーリーで商品を販売していましたが、現在はユーザーの物語を想像し、どんなベネフィット(便益)を付加できるかを訴求します。
相手の話を聴き、問題を客観視し、最適な決断を検証し合うことで問題解決へと導くのです。
自己を肯定する技法
私が学んできたカウンセリング技法こそが「ナラティブアプローチ」です。
相談者自身がネガティブに捉えていた過去の経験や思い込みを、肯定的な価値観に置き換えてもらいます。
相談者が「語り手」として物語にすることで、自分でも気づかなかった問題点や資源を発見できるのです。
心のリソースを引き出す
相談者自身が選択した決断が、自身の幸福や達成に役立つ「心的リソース」を引き出す物語につながっている状態が最も望ましいとされます。
2023年、武藤敬司選手の引退試合で、彼が対戦相手に指名したのは、かつて武藤選手に憧れてプロレスラーを志した内藤哲也選手でした。
憧れ、挫折、そして師を超えるという内藤選手の歩んできた人生そのものが、観客の心を動かすリソースとなったのです。
プロレスは奥深く面白い
プロレスの本質は、送り手と受け手が共鳴しながら紡いでいくナラティブです。
敗北を喫したレスラーが立ち上がる姿に、私たちは自身の日常の苦難を投影し、共に歩む勇気を得ます。
人生の挫折や再起をレスラーの姿に重ね、自らの人生の一部として語り継ぐ。
人間の複雑な心理がリングという鏡に映し出され、観客の心と共鳴し続けるからこそ、プロレスは奥深く面白いのです。
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