[映画鑑賞記] プロメア
2019年5月31日鑑賞。
世界の半分が焼失したその未曽有の事態の引き金となったのは、突然変異で誕生した炎を操る人種〈バーニッシュ〉だった。あれから30年、〈バーニッシュ〉の一部攻撃的な面々は〈マッドバーニッシュ〉を名乗り、再び世界に襲いかかる。〈マッドバーニッシュ〉が引き起こす火災を鎮火すべく、自治共和国プロメポリスの司政官クレイ・フォーサイトは、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉を結成した。
高層ビルの大火災の中、燃える火消し魂を持つ新人隊員ガロ・ティモスは、〈マッドバーニッシュ〉のリーダーで、指名手配中の炎上テロリスト、リオ・フォーティアと出会い、激しくぶつかり合う。リオを捕らえることに成功し、クレイからその功績を認められ ―― ガロにとってクレイは幼き頃、命を救ってくれた恩人で憧れのヒーロー ―― 誇らしげに喜ぶガロであった。
しかし、リオは〈マッドバーニッシュ〉の幹部であるゲーラ、メイスと共に捕らえられていた〈バーニッシュ〉を引き連れて脱走する。後を追ったガロが彼らのアジトにたどり着くも、そこで目にしたものは、懸命に生きる〈バーニッシュ〉たちの姿であった。そして、リオから〈バーニッシュ〉をめぐる衝撃の真実を告げられることに。
何が正しいのか――。
そんな折、ガロたちは地球規模で進められている“ある計画”の存在を知ることになる――(あらすじは公式HPより)
「全て計算」されたもの
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」を製作したアニメスタジオ・TRIGGERが三度、脚本・中島かずき×監督・今石洋之コンビで世に出す作品がプロメア。前二作はもともとテレビシリーズだったため、純粋な劇場作品は、プロメアが初になる。
ビジュアルを見るとまさにこれぞTRIGGER!これぞ、今石×中島コンビといった趣で、期待感はマックス。キャラクターはグレンラガンっぽいが、色合いはむしろパンティストッキングに近い。ちなみにグレンラガンのカミナにしろ、プロメアのガロにしろ、髪が逆立っているのだが、これはキャラクターデザインされる前に、今石監督が描いたラフ画が元になっているそうだ。カミナもガロも共に髪が逆立って描かれているのはそういう理由らしい。つまりは今石監督の「趣味」なのだ。
そして、カートゥーンチックなカラーリングは、パンフレットによると「全て計算」されたものであるらしい。ではその意図とは何か?それは「2Dと3Dの境目をなるべく少なくする」こと。手描きによる2Dと3Dの視覚差というのは、技術の発達に伴い、近年ではかなり埋まってはきているが、特にテレビシリーズではまだまだ違いが明確にわかる。
だが、本作「プロメア」を見ているとその差が誤差レベルくらいにしか感じない。これはとても凄いことだが、それを可能にしているのが、カートゥーンチックな色彩設計だったのだ、という。こうした2Dと3Dのハイブリッド作品は、今後どんどん精度を上げていくに違いない。
そして私が鑑賞前に憂慮していたキャストの問題。プロメアでは松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人各氏らが参加されているが、メインキャストであるこの3人の声優経験が不安材料だったのだ。
「ナチュラルな演技」が通用しない
だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。パンフを読むと彼らには二つの共通項があったのだ。その一つは3人は共に、中島かずき氏が座付作家として参加されている、劇団新感線に出演経験があると言うこと。
舞台というのはテレビや映画と違い、細かい表情や小声での表現が難しいため、より大きな声で劇場全体に響かせることが要求される。中でも中島脚本は通常の舞台以上の声量が要求されるため、普段以上に声を張る必要がある。つまりジブリ映画にありがちな「ナチュラルな演技」(言い方を変えれば棒読み演技)が通用しない。
もともと声優さんというのは舞台役者経験者が多かったため、お三方には声優としての力量が申し分なく備わっていた。それは作品を見れば一目瞭然。プロの声優さんと混じってもなんら不自然さを感じない熱演は、プロメアを構成する重要なファクターの一つになっていると私は思っている。
そして、新感線出演者である彼らが中島脚本に絶対的な信頼を置いていたこともパンフでは明らかにされている。中でも松山ケンイチさんは、新感線出演中にグレンラガンも御覧になられていたそうで、今石演出のなんたるかも理解されていた。要するにプロメアは、昨今の流行りである有名人を声優に起用した作品とは一線を画していたのだ。これは正直一本取られた気分になった。
ケレン味が持ち味
もちろん本筋である作画の熱量だって半端ない。グレンラガンやキルラキルで存分に楽しませてくれた、外連味たっぷりのハイレベルな動きに、迫力ある画面。これは2Dならではの本領発揮。なおかつ3Dでないと不可能なところは、きちんと補われている。まさに新時代のハイブリッドアニメーションになっていた。
もちろん中島脚本×今石演出で外せないメカアクションも今回はふんだんに盛り込まれている。舞台というのも観客の想像力に訴えかけてくる分、テレビや映画ではありえない世界が描けるのだが、アニメという表現はその舞台の要素を昇華させるという意味では非常に重要な表現方法なのだろう。
そして新感線のようなケレン味を持ち味にする演目の場合、よりアニメとは親和性が高いのだろう。さらにはTRIGGERが得意にする作風は、まさに中島脚本のためにあるようなもの。その祖にガイナックスがあるスタジオ、TRIGGERと中島かずきのタッグは改めて無敵である、としか言えないくらいプロメアは「燃える」作品である。
そこを一捻りして「火消し」をテーマにしている点も非常に興味深い。TRIGGERの王道中の王道として、プロメアは安心して楽しめると思う。
惜しむらくはグレンラガンよりは火消し成分が入っているため、激アツという評価になるかどうかは人それぞれだと思われるが、劇場アニメという枠内ですっきり収められているのは、さすが中島×今石コンビの仕事としか言いようがない。