[アニメ感想] 2018年秋アニメ完走分感想文 SSSS.GRIDMAN
2018/12/26
ある日、目覚めた裕太は記憶喪失になっていた。鏡で自分の顔を見ても自分が何者か思い出せず混乱する。そこへ裕太を呼ぶ声が響き、導かれるまま声の方へ進んでいくと年季の入った古いパソコンが語りかけてきた。そのジャンク品の画面が輝き、声の主が現れる。それはハイパーワールドから使命を帯びてやってきたハイパーエージェント、グリッドマン!(あらすじは公式HPより)
リスペクトとインスパイア
ゾンビランドサガと秋アニメの覇権を争った注目作。そもそも95年放送の特撮ヒーロー番組「電光超人グリッドマン」を原作に、円谷プロとアニメ制作会社TRIGGERがタッグを組むという事で、放送前から話題になっていた作品でもある。
円谷特撮ヒーローのアニメ化でいうと、既にウルトラマンが「ザ・ウルトラマン」などで、その先鞭をつけている。
ウルトラシリーズの場合、基本特撮版のフォーマットをそのままアニメに持ち込んだスタイルで作られたり、ウルトラマンキッズのようにキャラクターの頭身を縮めて可愛らしくしたりしたりという形でアニメ化されている。
さて、SSSS.GRIDMANはどういうスタイルで作られたか?それはウルトラシリーズが試みたどれでもない新しいスタイルだった。しかもアニメ版ゴジラ(アニゴジ)のように、特撮へのリスペクトを切り捨てることもしないというある意味欲張りな表現方法をとったのだ。
SSSS.GRIDMANについては、特撮だけでなく、広く色んな作品に対してのリスペクトとインスパイアが散見される。ネットでは散々書かれているが、TRIGGERの前身であるガイナックスで作られた「新世紀エヴァンゲリオン」を彷彿とさせる数々のメタネタはそのまま特撮愛溢れる画面作りにつながっている。
終わらない物語からの脱却
だが、SSSS.GRIDMANの凄さはそれだけにとどまらない。「世界の神」である新条アカネに寄り添う形で進むアニメ版グリッドマンは、実をいうと「電光超人グリッドマン」の正統続編でもある。まだ未見のあなたのために、極力ネタバレにならない感想を書くつもりだが、最終回で明かされる数々の真実は、考察厨にとって実に美味しい素材だった。
電光超人グリッドマン自体、既にウルトラシリーズとの差別化を図るために、ウルトラシリーズのパターンからの脱却を試みている。そしてTRIGGERが作るSSSS.GRIDMANは、原作のグリッドマンの姿勢を踏襲しつつ、自社のルーツであるエヴァからの脱却を試みている。
テレビ版のエヴァンゲリオンは、結局人類補完計画の全容は明確にならず、主人公・碇シンジの「救済」を形上作って強引に完結させた。それは全26話の中で物語を描ききるために、キャラクターに寄り添うことを放棄した結果でもある、と私は考える。
結果、エヴァは「終わらない物語」になり、物語のためにキャラクターが酷使されていく作品を増やす結果になった。だがSSSS.GRIDMANは、新条アカネという神さまに対して、突き放すでもなく、かといって甘やかすでもなく、常にキャラクターに寄り添い続けているのだ。それは、おそらくウルトラシリーズではなし得なかっただろうし、グリッドマンでしかできなかったことだろう。
物語がキャラクターに寄り添う
普通なら記憶喪失になった主人公・響裕太がグリッドマンの力を借りて怪獣を倒し、町の平和を守るというだけでも成立する物語を、あえて新条アカネに寄り添わせた事で、物語に深みを持たせることに成功している。
これは特筆すべき事だと私は声を大にして主張したいと思う。心理カウンセラーでもあり、特撮オタクでもある私にとって「物語がキャラクターに寄り添う」という作劇はかなり斬新に映ったのである。
結果的に単なる勧善懲悪を飛び越えて「癒しの物語」に仕上げてみせた雨宮監督の力量にはひたすら驚愕するほかない。そして新条アカネだけではなく、アカネが生み出した「世界の全て」もまた癒されているのだ。もちろんそれを見届けてきた視聴者である私もまた全話完走して癒された一人である。
物語のためにキャラクターを従わせる作りから、物語がキャラクターに寄り添う形へ、という変化は今後作られるアニメの在り方をも変えていく可能性だって考えられる。そう考えるとエヴァという「大きくなりすぎた存在」に対して、明確な「親離れ」をしてみせたTRIGGERとSSSS.GRIDMANは、歴史に名を刻んだ存在になったといっても過言ではない。
素晴らしい作品をありがとうございました。