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[映画鑑賞記] 傷物語Ⅲ冷血編

今年の劇場鑑賞一発目は「傷物語」になった。物語シリーズとは西尾維新原作のライトノベル。とある田舎町の男子高校生・阿良々木暦は、街に現れた瀕死の女吸血鬼キスショットアセロラオリオンアンダーグラウンドを助けたことがきっかけで、吸血鬼もどきの人間となってしまう。女吸血鬼はその力を封じられたものの、怪異の王であるキスショットの出現はこの街の霊的エネルギーを乱し、様々な怪異の類が出没するようになる・・・・「傷物語」は物語シリーズのファーストシーズンの二作目であり、「化物語」の前日譚になるエピソードである。

昨年一月からはじまった映画「傷物語」の完結編が「冷血編」。2010年に制作発表があって、そこから5年という歳月がたった。個人的には2010年にたまたまアニメの化物語に出会ったのが、「物語」シリーズとのお付き合いの始まりだったので、それほど待ったという感触はなかったのだが、物語の起点でもあり、後に続くシリーズでもちょいちょい気になるところがでてきていて、「そういえば劇場版ってまだ作っているのかな」くらいには思っていた。そしてふたを開けたらテレビ版からは想像もできないクオリティの絵が次々と出てきて見るたびに度肝を抜かされた。1月の「鉄血編」、夏の「熱血編」に続いて待望の完結編。これは見ずにはいられなかった。

個人的には今回完全にヒロイン位置にいる羽川翼の扱いがどうなるのか?そしてのちに羽川主演の「猫物語」で描かれるように、最初から完璧なようでいてどこか狂気のある羽川が、傷物語の時点で出てくるのか?という点が気になっていた。キスショットと暦の関係はすでにシリーズで詳しく描かれているので、あえて注目するとしたらそこだったのだ。そしてその狂気性を「冷血編」ではきちんと描いてくれていたことにまずはほっとした。冒頭で忍野メメが「普通の人間にしては(怪異に)関わりすぎている」というくだり。そして、羽川自身が「友だちのために死ねないのなら、私はその人のことを友だちとは呼ばない」という。このセリフは、彼女の狂気を十分に感じさせる演出として効果的だったと思う。

羽川があれだけの聖人君子でありながら、時系列では傷物語の次になる「化物語」ではあからさまに危ない戦場ヶ原ひたぎと阿良々木君は付き合うことになっていくのだが、猫物語を見るまではそれが不思議だったのだ。というのも当初はどう見てもひたぎの方が色んな意味で危ないキャラだったにも関わらず、なぜ羽川と付き合わなかったのか?その「答え」も「冷血編」ではうっすらにおわせている。

冷血といいつつ、実は暦に情が移っているキスショットや、そのキスショットを殺してまで人間に戻りたくない暦の悲しすぎるバトルは、前回3度のバトルを売りにした「熱血編」を超える大迫力。グロすぎて逆に笑えるともとれるような過剰演出はそれこそ実写でやったら台無しになるだろう。フランス映画のエッセンスをちりばめながら、舞台を過剰なまでに日本にこだわった点も、えてして異世界に舞台をもっていきがちな昨今の日本のアニメとは方向性を異にする。そして3.11で終焉した日本の姿も見事に切り取っている。ラストの戦場は旧・国立競技場なのだが、これがまた実に象徴的に描かれている。一度終わった日本が再生していくためには、人間も吸血鬼も怪異も共存させるという忍野の「大岡裁き」は一見すると虫のいい話にも見えないことはないけれど、この物語を誰も不幸にしないためにはそれぞれが傷を背負うという点では決して甘い理想などではないことがわかる。

そのあたりの覚悟をすくないキャスト陣(わずか4人!)も十分くみ取っていたようで、すでにベテランの域にある暦役・神谷浩司氏をして「この作品をやるために声優を続けてきた」といわしめるほど。演技を終えて「この次何を目標に生きていけばいいんだろう」と思うくらいに、魂を吹き込んだ熱演は劇場で見てこそ真価が伝わるだろう。

Ⅱよりエンディングテーマを担当しているクレモンティーヌの歌声が悲しくも切ないキスショットの心情を歌い上げているようにも聞こえる。今回はクレモンティーヌのほかに「フランスの幼女」(尾石監督・談)もヴォーカルに加わって、キスショットの全年齢に対応する細かい演出もみせている。物語シリーズは基本ヒロイン(役の声優さん)が、主題歌を歌うという決まりがあるけれど、傷物語に関しては、そのパターンを踏襲しなくてよかったと個人的には思っている。ハッピーエンドとは言い難いけど、でも後味はそんなに悪くない。ただ、次の物語シリースに出会うときは、暦やキスショットらの印象がちょっと変わって見えているかもしれないなと思った。長期間にわたる制作を根気よく積み重ねたスタッフ陣には心から敬意を表したい。素晴らしい作品だった。









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