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[映画鑑賞記] ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

16年12月18日鑑賞。

物語の舞台は、『エピソード4/新たなる希望』の少し前。銀河全体を掌握しつつあった帝国軍は究極の兵器であるデス・スターの完成の時を迎えた。そんな中、帝国に抵抗を行っていた反乱軍の元にデス・スター開発の主要人物であるゲイレン・アーソよりデス・スターの重要情報を入手して逃走した帝国軍のパイロット、ボーディー・ルックの情報が入る。

ボーディーはゲイレンの指示に従って反乱軍と同じく帝国に反旗を翻していたソウ・ゲレラ一味に接触するが、捕縛されてしまう。ゲレラ一味は過激な集団であり、同じ帝国を敵としている反乱軍に対しても敵意を持っていた。反乱軍はゲイレンの娘、ジン・アーソを利用してゲレラと接触を図ろうとする。ジンは幼少のころに父ゲイレンと別れ、ソウ・ゲレラに引き取られて彼の下で暮らしていた過去を持っており、戦乱に巻き込まれてゲレラと袂を別った後に無法者となり、帝国軍に逮捕されていた。

反乱軍のスパイであるキャシアン・アンドーと元帝国軍ドロイドであるK-2SOはジンを救出し、反乱軍の本拠地ヤヴィン第四惑星にて顛末を説明して協力を要請。ゲレラと接触しようとする。惑星ジェダを本拠地とするゲレラ一味の元に向かうキャシアン、ジン、そしてK-2はジェダでボーディーを捜索するが、そこで帝国軍とゲレラ一味との交戦に巻き込まれる。元ジェダの寺院の守護者であるチアルート・イムウェとベイズ・マルバスも戦闘に巻き込まれ、K-2を除く4人はゲレラ一味に捕縛されてしまう。

ジンはゲレラと再会するがアジトには捕縛されたボーディーと彼が持ってきたゲイレンのホログラム映像のデータがあった。ゲイレンは帝国軍の士官であるオーソン・クレニックに協力を強要されていたがホログラム映像よりゲイレンはデス・スター開発を協力するフリをして弱点を作っており、その図面データは帝国軍の建築物データが収集されている惑星スカリフの基地に存在することが分かる。

その一方、帝国はデス・スターの指揮官となっていたクレニックの指揮の下、ジェダをスーパーレーザー砲の試射の標的にしていた。
(あらすじはwikipediaより)

スターウォーズでは、宇宙戦争というスケールのでかい舞台で、おもに親子ゲンカというスケールの小さい小競り合いが延々と描かれていて、これはエピソード1から7までほぼ一貫されて貫かれている。

スターウォーズそのものが本格SFとは真逆のスペースオペラに起源をもつ以上、チープな争いをスケールでかく描くことが最大の特徴だからこそ、アナザーストーリーでスターウォーズを描くことは難しくなる。リアルな戦争映画にしてしまうと、スターウォーズの特徴そのものを失いかねない。かといって別な親子ゲンカや、痴話喧嘩におきかえても、ベイダーやルークが紡いできた歴史には敵わない。

そこでローグ・ワンの描き方なのだが、これが絶妙なバランスの上に成り立っている。ギャレス・エドワーズ監督自身がスターウォーズシリーズを敬愛してやまない以上、大きく逸脱した作品にならないだろうという想像はつく。が、ここまで見事に「アンソロジーシリーズ」を描き切るとは思っていなかった。

ローグ・ワンが傑出しているのは、やはりメインキャラクターにかつてのジェダイ寺院の僧侶であり、目が見えない盲目の戦士チアルートを配したことに尽きる。フォースに並々ならぬ信仰を持ち、強靭な肉体と精神力で戦うチアルートは、洋の東西を問わず「座頭市」にインスパイアされたキャラクターがそうであるように、目が見えないこと以外は何でもできてしまうチートキャラクターになっている。事実チアルートも序盤では無双の活躍を見せていくのだが、そこはスターウォーズの世界。エピソード3と4の間ではジェダイはほろんだことになっている。だが、フォースを信仰しながらフォースを身にまとえないチアルートはこの世界では最強であって決して最強ではないのだ。そして実はそのことをチアルート自身が重々理解しているのがまた切ないのだ。

対照的にベイダーが闇のフォースを使って次々と反乱分子を始末していく様は、フォースがこの世界で一番最強に位置すること、そしてその力があまりにも強大であることを、見ている我々に教えてくれるのだ。悲しいまでにフォースを信じ、己を鍛え上げて今の無双状態になったチアルートは、一見すると戦争映画ではまず登場しないタイプのキャラクターである。にも関わらずフォースというスターウォーズの根幹をなす概念を、チートな能力を持つチアルートの存在によって説明していることで、逆に戦記としてのリアリティーを演出しているのである。これは見事だと思った。チアルートを演じているのは、映画とキャラクターによってアクションのスタイルを大きく変え演じ分けることのできるアクション界の巨匠、ドニー・イェン。彼のアクションは、中国名が甄子丹であることから「甄功夫」と呼ばれているのだが、この映画では完全に「チアルートの武術」を作り上げている。いわゆるカンフーらしい動きというのは一切披露していない。私は、勝新版座頭市を除けば、彼の盲目の戦士ぶりは際立ったものと断言したい。ちなみにチアルートのカラーコンタクトはドニー・イェンの発案でギャレス・エドワーズ監督と相談して作り上げたものだそうだ。

そしてもう一人、というかもう一体、私の心をつかんだキャラクターが反乱軍の情報将校キャシアンに再プログラミングされた元帝国軍のドロイド、K-2SO。戦闘能力はかなり高く、頼れる相棒という点では、本編のチューバッカに相当する位置かな?しかしフィルター機能が無く思ったことを全て口にしてしまうため、時に人が聞きたくないこともズバズバと発言してしまう空気を全く読めないあたりは、C3-POというよりR2-D2に近い感じもする。その一方でドロイドとは思えぬ漢気を見せたりするのが、硬派なローグ・ワンの世界では妙にマッチングしている。

ローグ・ワンの成功はこの2名によってもたらされたといっても過言ではないだろう。正直この2人のスピンオフさえ見たいと思ったくらい。

画面上の最大の特徴はやはり「ジェダイ不在」の時代を明確に描いている点で、スターウォーズの売りの一つであるライトセーバーのチャンバラがほぼない。唯一ベイダーが使うだけなのだが、そのむやみに安売りしていないところも好感度が高い。どうしてもジェダイ中心に描かざるとえないスターウォーズの本編とは対照的に、ジェダイでなく、フォースももたない戦士の活躍を描くという点では、機動戦士ガンダムのサイドストーリーにも近いものがある。ガンダムの場合、ジェダイがニュータイプになるわけだが、ニュータイプ(あるいはジェダイ)でない人間が多く戦場においてドラマを作り上げている点を深堀りして行くとより本編を見返した時にも奥行きが生まれてくる。このあたりも独立した作品でありながらちゃんとスターウォーズの歴史を踏襲している。まさに「もうひとつのスターウォーズ」という看板には偽りなしだったのだ。

主人公がエピソード7同様、女性だったのは単なる偶然だったらしい。でもやはり新時代のスターウォーズの主役としてジン・アーソを配したことも大いに評価したい。ジンと父ゲイレンの物語はスターウォーズでは普遍の「親子の物語」だし、ソウ・ゲレラとジンの関係性はオビ・ワンとルークを想起させる。こうして随所にスターウォーズ本編につながるテーマもちゃんとおさえられているので、ローグ・ワンが1mmもスターウォーズの世界からは逸脱していないことは一目瞭然。それでいてベイダーとルーク、ルークとオビワンの物語とは全く異なる風景を提示している。

正直「アンソロジーシリーズ」っていっても何するんだろう?くらいにしか思えなかったローグ・ワン。しかしいざふたを開けてみたらここまで手の込んだ映画になっていたとは。いや、思い込みだけで見に行かないという選択をしないで本当によかった。これは間違いなくスターウォーズの歴史を語るうえで絶対外すことのできない映画になったのではないだろうか?そんな感じが私にはしている。

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