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[映画鑑賞記] LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門

2017/02/12

17年2月10日鑑賞。

剣術の腕を買われた五ェ門は、伊豆半島を根城にするヤクザ・鉄竜会の用心棒として雇われる。不遜な態度をとる五ェ門に幹部たちは不満を抱くが、五ェ門は鉄竜会の運営する賭博船の中で他組の襲撃から組長を守り、幹部たちを黙らせる。同じ頃、ルパンと次元は賭博船の売上金を盗むため金庫に侵入し、先回りしていた不二子と出会う。ルパンと不二子は売上金を山分けすることにしたが、直後に賭博船が爆発する。様子を探りに機関部に向かった五ェ門は、そこで斧で機関部を破壊する大男に遭遇する。五ェ門は大男を追い詰め目的を尋ね、大男は「ルパン・次元・不二子を殺しに来た」と答える。隙を突かれた五ェ門は大男を逃がしてしまい、さらに雇い主である稲庭牧男が爆発に巻き込まれて死んでしまう。

翌日、爆発現場に公安警察の銭形が現れ、海上保安官たちに大男の行方を尋ねる。大男の素性を尋ねる海上保安官に対し、銭形は「バミューダの亡霊だ」と答える。同じ頃、稲庭牧男の葬儀に現れた五ェ門は、彼の息子・稲庭Jr.に用心棒の務めを果たさなかったことをなじられ、仇を討つことを誓う。一方、ルパンたちは伊豆山中のアジトで祝杯を挙げていたが、そこを「バミューダの亡霊」ホークに襲撃される。ルパンたちは逃走するもののホークに追い付かれるが、そこに五ェ門が現れる。五ェ門は自らにかけられた汚名をそそぐため、ホークに戦いを挑む。(あらすじはwikipediaより)

2012年放送のテレビシリーズ「LUPIN the Third -峰不二子という女-」、2014年の映画「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」の流れをくむスピンオフシリーズ「Lupin the Thirdシリーズ」の第3弾。前作の「次元大介の墓標」は福岡市のみの公開であり、ちょっと見に行くことはできなかったけど、もともと私は原作ルパンのファンなので、このスタンダードなアニメ版でもなく、原作とも少し異なる絵柄のLUPIN THE IIIRDシリーズはかなり魅力的であった。よって北九州での上映が決まったときは本当にうれしかった。

イタリアとの合作で高い評価を残したテレビ版PART4のスタッフが多く結集した本作はよりハードボイルドに、よりアダルトなテイストで、劇場版にふさわしい作品に仕上げている。特に目を見張るのは強敵・ホークとの死闘で、ここで己の力が通用しない五エ門の苦悩が、映画のキャッチフレーズにもなっている「未熟なり」という言葉で表現されている。一度は敗者となった五エ門にこの言葉が突き刺さるわけだが、正直ファーストシリーズ以前に原作からルパンに親しんでいる私から見ていると、「血煙の」五エ門は通常営業の五エ門にしか見えなかった。

結構無双なようでいて自分に厳しくなっているがゆえに、そこを突かれてしまう五エ門の弱さはこれまでのシリーズで散々描かれてきたからだ。今回も徹底的に五エ門は自分自身を追い込んでいくんだけど、覚醒した瞬間から「我々がよく知っている五エ門」にチェンジしてしまうので、あまりにタメがないというか、私が見る限り短編という長さが逆にマイナスポイントになってしまった気がしてならなかった。

もし若くて自分の腕を過信している時代の五エ門ならば、ファーストシリーズで初登場した時のようなちょっとした傲慢さや、女好きな面があってもおかしくはない。そこの描き方はやや弱い感じがしたのだ。タイムライン的にはルパン一味になる前のファーストシリーズの時間軸ということらしいが、その割には少しルパンや次元が五エ門に甘い感じがしたのも気になった。この時代の次元にしろルパンにしろ、誰ともつるまないなれ合わない、ものすごく尖った感じが魅力的だったんだけどそこの肝になっている部分がぼんやりしているのも気がかりなところだった。

いい感じで描かれているのはやはり銭形警部で、このシリーズでは一貫して「銭形」と呼ばれている。正義感に熱く、正義のためなら悪いこともして、命令違反も犯す、クールで頭の回る銭形は今回もかなり魅力的なキャラクターとしてえがかれている。間違っても「とっつあん」ではないところが大いに好感が持てる。

そして、この曲者ぞろいの中で新顔のホークが存在感をたっぷり示してくるのは、なかなかに評価が高いところでもある。こういう死ななそうなキャラが猪突猛進でルパンたちを追ってくるというのはなかなか魅力的でもあるし、物語としては軸になりやすい。長編だとだれるかもしれないけれど、こういう短編で見せるスタイルならもってこいのゲストキャラだったと思う。

しかし肉を斬らせて骨を断つというのをそのまま絵にして動かすと、めちゃめちゃグロイ割にはなんか笑えるというか、ややコミカルな感じがしたんだけど、五エ門というキャラがそもそも強すぎて逆に笑えるキャラになってしまっているので、テレビシリーズとの明確な差異をつけるには、やや不十分な気もした。

とはいえ、このテイストのアニメをやるには規制ばかりのテレビではやはり不向きだし、こうしたスピンオフから新しい流れが出てきてくれることも期待したいところ。特に私が意欲的だなと感じたのは、通常五エ門のテーマに多用される和楽器を「血煙の五エ門」では一切使用していないことと、にも関わらず和のテイストを音で表現しきれているところもこの映画の特徴だと思う。小池監督は音楽のジェイムス下地さんにいろいろ注文を出したそうだが、監督の期待に十分に応えていると思う。

小池演出の持ち味でもあるスピード感は五ヱ門が覚醒した後編では、シリーズ随一ともいっていい鋭さをみせる。この小気味よさと、ダークでディープなルパンの世界を堪能するには、ぜひ劇場で体感してほしい映画のひとつではある。とはいうものの、次元大介の墓標もそうなのだが、前編後編にわける演出意図がいまいち掴めなくて、前編のエンディングで私は一回集中力が切れてしまった。私の希望としては、できれば約1時間ノンストップで駆け抜けたかった。

ちなみに短編映画なせいか、メンズデー対象外で一律1300円だったけど、パンフが300円と安価だったんでトータルとしてはお得だったかな。

 









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