[心理×映画] 映画鑑賞記・恋極星
両親を亡くしたことから、知的障害になった弟を一人で支えている菜月(戸田恵梨香)。人生に絶望していた菜月のもとに、初恋の相手の颯太(加藤和樹)が11年ぶりに現れる。やっと笑顔を取り戻した菜月だったが、再び颯太は去ってしまった。そして、残された菜月には思いも寄らぬ運命が待っていた。(あらすじはYahoo映画より)
原作は別冊少女フレンド掲載の少女マンガ。
原作のファンはどう思っているのかはわからないけど、思ったよりドライな印象を受けた。
基本悲恋の少女漫画原作をそのまま映像化するとどうしても喜劇っぽくなってしまいがちなんだけど、そこは映像への翻訳が必要になってくる。もちろんそれは監督をはじめとする映画人の役目でもある。
正直、漫画原作は企画が通りやすいんだろうし、人気キャストを抑えるには二年、三年先まで想定して制作に入らないといけない事情を考慮すると、漫画原作が乱雑する邦画界の事情もわからないではない。
ただ、この映画の肝は戸田恵梨香の演技力だと思う。また彼女を美しく撮ったフォトグラファー出身のAMIY MORI監督の功績も大きいだろう。
正直、少女漫画の原作で戸田恵梨香はないよなあと思っていたので、実際作品をみてみたらこれが思いのほかはまっていてびっくり!
個人的に特別興味のない俳優さんでもあったし、ぶっちゃけスルーしていたけど、この映画の中の戸田恵梨香は実にいい!
なんというか、別フレ読者(10代女性中心)が自分と主人公を重ね合わせて悲劇に酔うなら、戸田恵梨香はミスキャストに近いんだけど、男が「こういう子に好かれたいよなあ」と思わせる笑顔を、この映画の中の戸田恵梨香嬢はこれでもかというくらいふりまいている。
おそらく男性監督が同じように撮ったらべたべたした綿菓子みたいな甘ったるい悲劇ブリッコになっていたおそれもあるのだけど、同じ女性目線で彼女の魅力を掬い上げつつ、男性の観客のハートを射抜いていくAIMI監督のバランス感覚には「男気」に通じる潔さすら感じられる。
だから媚びた印象が残らないのだ。この辺のバランス感覚はとても優れていると思う。
お話自体が特別ひねりのないド直球の悲恋モノなんで、映像として料理するならかつての大映ドラマのような大げさで、お涙頂戴にしてもよかったんだろうけど、結果的にちょうどいい塩梅になった点は大いに評価してもいいと思う。
ただ、絵作りが先行する監督にありがちな「絵ありきで物語が従」的な傾向はこの映画でも多々あって、前半でツンツンしている戸田恵梨香演じる菜月が、初恋の相手の颯太(難病もち)にデレるまでの過程がやや性急に感じた。
後半べったべたになるのも、死別するのもやたらフラグが立ちまくっているわけだし、お客も何となく察してしまっていると思う。
よって無駄に引き延ばすと伏線回収までにかなりもたついた印象が残ってしまう。そういう傾向が多々あったのは惜しまれる。
とはいえ、さすが写真家が本職だけあってこだわりの絵作りには一見の価値がある。中国で絶賛されたという雪景色は何度もロケハンを重ねただけあって、かなり美しい。
物語には特別目新しさもないし、登場人物に感情移入もできないにしても、やはりひとりの俳優の魅力を掘り下げて、内面からにじみ出る魅力を巧みに掬い上げ、なおかつ風景で心象風景を語らせているところは、さすがだなと思えた。
宮崎駿作品もそうなんだけど、撮りたい絵、描きたい絵ありきで映画ができてしまうとやっぱ脚本が弱くなる。だからタッグを組む脚本家の腕次第ではEIMI監督もきっとデビュー作以上の映画を残す可能性はあるだろう。今後の活躍に期待したい。