映画鑑賞記・ピンクの豹
ピンクの豹
10年7月30日~31日鑑賞。
中東某国の王女・ダーラは母国の革命
から逃れ、イタリアのスキーリゾート、
コルティーナ・ダンペッツォに身を寄せている
身であった。王女は内部にピンクの豹が浮かび
上がるというダイヤモンド「ピンク・パンサー」を
所有していたが、革命政府からは国民の財産
として返還を求められていた。そのダイヤを
狙ってイギリス貴族のチャールズ・リットン卿
(正体は希代の怪盗ファントム)が王女に接近して
くる。リットンは手下に王女の愛犬をさらわせ、
それを追跡したための怪我を装って王女の同情と
信頼をまんまと得る。やがて王女はリットンに
恋愛感情をも持つようになっていく。
一方、ファントム逮捕に執念を燃やすパリ
警察のクルーゾー警部はファントム出現を予想し、
愛妻シモーヌを伴ってコルティーナを訪れた。
しかし、実はシモーヌはリットンの愛人で、
クルーゾーの捜査方針はリットンに筒抜けに
なっていた。そこにリットンの甥で、アメリカ
に留学していたジョージも現れるから話は
ややこしい。叔父が怪盗ファントムである事も、
シモーヌが叔父の愛人である事も知らない
ジョージはシモーヌに夢中になっていく。
こうして白銀のリゾートからローマへ、
恋とダイヤの争奪戦が繰り広げられることに
なってしまうのだった。ファントムの正体が
リットンと確信したクルーゾーは王女にそれ
を告げ、ローマの王女邸で行われる仮装
パーティーの夜にファントムを待ち構える。
リットンとジョージはそれぞれダイヤを
狙い忍び込むが、ダイヤは王女により
隠されていた。市街でのカーチェイスの末に
リットン卿とジョージは逮捕され、裁判に
かけられる事となった。クルーゾーは2人の
有罪を確信し、自信満々。ところがシモーヌ
は王女を訪ね、リットンらを救うよう懇願する。
リットンへの思いを断ち難い王女の発案に
より、シモーヌはクルーゾーのポケットに
ダイヤを忍ばせる。裁判が開廷され、被告側
の弁護人からクルーゾーこそファントムでは
ないかとの疑義が示される。思わぬ追求に狼狽
したクルーゾーはポケットからハンカチを
取り出そうとして、ダイヤを一緒に引っ張り
出してしまった。ダイヤを隠し持っていた
事にされたクルーゾーはファントムに
されてしまう...
無実となって釈放されたリットンが、やがて
ファントムとして活動を再開すればクルーゾー
の無実は証明される。それまでは囚われの身と
なるクルーゾーは最初は必死に無実を
主張するが、意外にもファントムの人気は
凄まじく、法廷には女性ファンが押し掛ける。
その様子に満更でもない感じのクルーゾー
は、ついつい自分がファントムであるかの
ような発言をしてしまう。
といった感じで実はクルーゾー、この作品
では脇役にすぎない。邦題が「あえて」
「ピンクの豹」にしているのは、全く別個の映画
としてとらえるのが正しいと判断されたから
だろう。デヴィッド・ニーヴン、ピーター・
セラーズ、ロバート・ワグナー、キャプシーヌ、
そしてクラウディア・カルディナーレの、
セラーズ以外は美男美女の5大スター競演による
ロマンティック・コメディになっているのが
後のシリーズとの大きな違い。白銀のスキー
リゾートから文化の都ローマへと舞台を
移しながら、再三のパーティーシーンも
華やかに物語が展開するので前半部分でベタ
なお約束ギャグを期待していると肩すかし
を食らう。だから子供の頃これ見ていて
「なんかちがうなあ」と思っていたモノ
だったが、今見るとそれで正解だったワケね。
セラーズはコメディリリーフで、彼の登場
シーンが増えるとドタバタ喜劇の要素が
強くなる。ただ、ヘンリー・マンシーニに
よる主題曲『ピンク・パンサーのテーマ』は
そのままで、これが大ヒットし、スタンダード
ナンバーとなった。加えて、やはりマンシーニ
による哀愁漂う挿入曲『今宵を楽しく』が時に
妖しく
、時に切なく全編を彩っている。
リゾートホテルのラウンジで主要出演者を
観客に、歌手兼女優のフラン・ジェフリーズが
『今宵を楽しく』を歌い踊るシーンも人気が高い。
本作でセラーズが演じたクルーゾー警部は
ファントムの引き立て役で、哀れな道化者とも
いえる役回りであった。しかし、その個性溢れる
エネルギッシュなキャラクターが好評であったため、
翌1964年には早くもクルーゾーを主役とした
スピンオフ作品『暗闇でドッキリ』が製作される。
これが実質的に「ピンク.パンサー」シリーズの
続編に相当するが、中身は全くの別物。設定もほとんど
引き継がれて折らず関連性は低い。またオープニング
アニメーションに登場したピンクの豹のキャラクター
も人気を得た。本作シリーズを離れ、映画やテレビに
おいてこのキャラクターを主役とした多くの
アニメーション作品が製作された。
これがそもそも最初の出会いだったんで、
実写と知ったときは「あれ?」と思ったのも道理。
でもオリジナルはこっちなのよね。
そして文字通り「ピンク」な話でもあるわけ
だし。あえて「ピンク.パンサー」としな
かったのは正解でもあり、同時にちょっと
ややこしくしてしまった元凶にもなって
しまったのである。本作を1964年度の映画
とする記述が見られるが、製作国アメリカでは
1964年5月20日の公開だが、西ドイツ等では1963年
に先行して公開されている。ゆえに1963年度の
作品とするのが一般的のようだ。
当初、クルーゾー警部にはピーター・ユスティノフ、
シモーヌにはエヴァ・ガードナーが予定されていたが、
両者の出演キャンセルによりセラーズとキャプシーヌ
が起用された。特にユスティノフフの降板はローマ
でのクランクイン直前で、セラーズは急遽の代役
として生涯の当たり役を手に入れる事となった。
本作でのクルーゾーはコメディリリーフとして
全編で大ボケを繰り返すが、冷静な推理でファントム
の正体をリットンと見抜くなど、名探偵の顔も
見せる。次作以降に見られる見当違いの思い込み
で捜査に万進して、結果的に事件を解決して
しまうという行動パターンとは異なる面も
あるのでこれは別の物語と考えても
差し支えあるまい。