[映画鑑賞記] 劇場版はいからさんが通る前編~紅緒、花の17歳~
2017/11/25
17年11月24日鑑賞。
時は大正。「はいからさん」こと花村紅緒は竹刀、大槍を握れば向かうところ敵なし、跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘。ひょんなことから知り合ったハンサムで笑い上戸の青年将校・伊集院忍が祖父母の代からの許嫁と聞かされる。忍に心ときめくものを感じながらも素直になれない紅緒は必死の抵抗を試みて数々の騒動を巻き起こす。伊集院家に招かれ、花嫁修業をすることになった紅緒だったがそこでも相変わらず騒動を起こしてゆく。しかし、やがて紅緒と忍はお互いをかけがえのない存在と思うようになるのだが・・・(あらすじはwikipediaより)
21世紀の「はいからさん」
「はいからさんが通る」は何を隠そうリアルタイムで体感した世代である。まだ「男が少女マンガを読むなんて!」と蔑まれた時代に、妹の愛読していた「少女フレンド」を普通に読んでいてハマった作品の一つだった。
そんな「はいからさんが通る」を、見る前に期待したポイント。それははやみんこと早見沙織さんが演じる紅緒!現代に「はいからさん」が蘇るならば、この人以上のキャストはいないと断言できる。
そして不安な点はやはり原作・大和和紀さんの絵に寄せなかったこと。やはり、原作派の私としては、あの絵がスクリーンで動くさまをみたかったというのが正直なところある。
だが、大和和紀さんが映画に太鼓判を出しているのを観て、これは「いけるかも?」という期待を持った。果たして現代版「はいからさんが通る」は原作厨をねじ伏せる力があるのかどうか?不安はあるものの期待も大きい。
さて、結果はいかに?
凛々しくてかわいい紅緒さん
というわけで、見終えた第一の感想は「ああ、まさにこれがはいからさんだよなあ」ということだった。大和和紀さんが再アニメ化を了承した際、「現代の絵で」というリクエストを出していた(と後でパンフ読んで知るわけだが)のもうなずける!とにかく今回の紅緒さんは、凛々しくて可愛い!
早見さんの演技と絵がビックリするくらいあっていて、見終わった今となっては、やや古めかしい原作の絵だと必要以上に大正時代がノスタルジックにフィーチャーされる可能性も考えられるくらい。
時代の波に翻弄されながら明るさとポジティブさを失わない花村紅緒がここまで魅力的に表現されていたことに、私は正直平伏するほかない。
実は作中で紅緒さんがショートヘアになるシーンがあるのだが、ショートヘアになってからの紅緒さんは、はっきりいって原作以上にチャーミング!これはしてやられた!竹内まりやさんが作った主題歌も大正ロマンというより、颯爽とした紅緒さんが思い浮かぶ名曲で、早見さんの歌声とともにきき惚れてしまった!
リアルはいからさんとの思い出
話はガラっと変わるが、四半世紀前に死別した祖母はまさにこの時代、リアル「はいからさん」を地でゆく人だったらしい。テニスをしている若いころの祖母の写真を見るにつけ、「ホントにはいからさんっていたんだなあ」と常々感じていたものだった。
昭和うまれの私は確かに大正を体験してないけれど、大正時代を生きた祖母と過ごしたからこそ、リアルに感じられるものがある。大正から昭和に移る不穏な時代感などは劇場の画面を通してみても、ドキドキさせられたものだった。
大和和紀さんの作品では、はいからさんもそうだが、その後に連載された「紀元2600年のプレイボール」という野球漫画があって、前半はコミカルで後半は不穏な時代によって登場人物が翻弄されるという流れになっていた。
そんな中でも決してポジティブさをうしなわない、自分の生き方を自分で決められる登場人物たちに、私は大いに感銘を受けた。花村紅緒もまさにそういう人で、多分憧れの女性像として幼い私の脳裏に焼き付いたのだと思う。
私のダブルスタンダード
また話は飛ぶのだけど、私が恋愛映画を嫌う一番の理由が「自分の運命を自分で決めきらない」登場人物が出てくること。で、そういう登場人物が出てくる恋愛映画は嫌いだということ。
花村紅緒は、自分とは関係ないところで自分の運命を決められてしまう時代にうまれながら、時代の最先端を風切ってすすんでいく魅力的な女性であり、そこに惚れた少尉の気持ちも痛いくらいわかる。
少尉は典型的な白馬の王子さまキャラでありながら、男からみてもいやな感じが一切しないのも素晴らしい。2代目少尉の宮野真守さんがこのあたりをうまく救いあげて新しい少尉像をつくりあげていた。
陳腐な恋愛映画はとかく運命に身を任せてしまう登場人物が多すぎる!確かに私の恋愛映画嫌いは、恋愛ファーストの少女マンガ好き嗜好とはダブルスタンダードになるかもしれない。しかし、自分の運命を自分で切り開く登場人物になら、たとえ恋愛ものであろうと共感はできるのだ。
スタッフの「はいから」愛
加えて昔のテレビアニメ版のファンに向けて?ナレーターを初代少尉を演じた森功至さんが担当されていて、なおかつテレビ版のオープニングがインスト版とはいえ流されている。
諸般の事情により原作を最終回まで描ききれなかったテレビ版。その完結はアニメ制作を担当した日本アニメーションの悲願であったとも聞く。それだけの強い想いがこの作品を作り上げていたのだ。お見事というほかはない。
強いて注文をつけるとしたら、後編では是非とも初代紅緒である、よこざわけい子さんに何らかの形でご出演いただきたいのだが、可能性がないこともないだろう。
しかし、2018年公開とありながら、実際いつ頃公開なのかはわからずじまい。正直あのようなよいとこで終わるのでモヤモヤして仕方ない。
時代を超えてここまで関係者、スタッフに愛される「はいからさんが通る」。知らない人はもちろん、私のような原作厨にもぜひ一度スクリーンでみてもらいたい。骨のある大正ロマンとアニメだからキュンキュンできる甘酸っぱさがいやというほど楽しめると約束できるから。