[映画鑑賞記] ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります
16年10月13日鑑賞。
画家のアレックス(モーガン・フリーマン)と妻ルース(ダイアン・キートン)は、愛犬ドロシーとブルックリンの絶景が望めるアパートメントの最上階に住んでいる。彼らの結婚生活も40年を超え、だんだんエレベーターなしの生活がつらくなってきた。二人は不動産エージェントでめいのリリー(シンシア・ニクソン)に頼んでアパートを売りに出すことにするが……。(あらすじはyahoo映画より)
個人的には住まいにも結婚にも幻想がないので自分の身に置き換えて見るには、何もとっかかりがない作品。多分こうした機会がないと見る気すらないタイプの映画。私の両親らの世代は家に対する執着とかも凄いのだけど、結婚にも持ち家にも全然興味がわかない分、最初の導入ではどう見ていったらいいか、かなり戸惑った。
ただ、年齢的に終の住処というのは少し心に響く。誰かが横にいてくれるイメージはないけれど、自分がどうなりたくて、どうありたいか?それをイメージしながらこういう夫婦の姿も理想の一つかな、と思えたのは、恋愛映画嫌いの私にしては意外な反応だな、と自分で自分がおかしく思えた。だいたい絵に描いたようなカップルが予告で流れるだけでかなり不快な感じがするため、基本恋愛映画はみない。例外は「ローマの休日」と、「君の名は。」だけ。そんな私に「いいなあ」と思わせたのだから、私の完敗であった。
コメディながらゲラゲラ笑えるタイプではなく、ハートフルコメディという分類の作品になるのかな。ただ、モーガン・フリーマンとダイアン・キートンの二人が演じる夫婦が実に絵になる。この二人の雰囲気だけで約90分持たせられるというのはある意味すごい。人種を超えた愛の形…というのはとってつけた話で映画で尺が多くを割かれているのは、アパートを売りに出す老夫婦のドタバタ劇と、終の住処を求める自然なやりとり。それが凄く印象に残る作品。
ちなみにモーガン、フリーマンとダイアン・キートンは初共演らしいが、とてもそんな感じはみえない。本当に名演でグイグイ引き込まれてしまう。この二人が映るだけで価値がある映画といってもいいと思う。
もう一つこの映画のポイントになっているのは窓からの眺め。老夫婦は寄る年波で階段しかない今の住まいを手放して、より楽に昇り降りできる住まいを探そうとするわけだが、今以上の風景が見られる物件には巡り会えない。本当に求ているものは一番身近にあるのに、人間というやつはなかなかそれに気づけない。このあたりの可笑しみも魅力の一つではないだろうか。
あとアレックスが、レコードプレイヤーを子どもに説明してあげるシーンもなんか古いけどいいものは意外とそばにあるという隠喩みたいになっていた。そしてそのシーンにもやはり窓からの眺めがあって、おそらく薄々はこのあたりで、アレックスには今の住処を手放したくない気持ちが出てきていたのかもしれない。
この映画は結婚歴もない独身の私が観ても全然問題ないということで、ある意味カップルや夫婦限定で売ってしまうのはもったいない気もする。とはいえ家や配偶者に全く興味のない独身者が率先してこの映画を観るとは思えないので、そういう人におすすめするには難しい映画かなあ、と思う。
ただ、一回見たら必ず何かしら心に残る映画であることは間違いない。主人公の老夫婦はこうあるべき理想の夫婦などでは決してなく、最終的に自分はどうしたいのか?を考えて最後の決断を下す。それは結婚していようといまいと、人生の大事な場面で何かを決める時にとても重要なことだと私は思う。結果的に彼らはエージェントとの取り引きをしない決断をし、転居を先延ばしにしているようにみえる。しかし最善の策をつくした結果ならば変わらないという決断も尊重されてしかるべきだろう。
この映画は恋愛要素というより人生の岐路で下す決断が正しかろうとそうでなかろうと、尊重されるものなのだということを私に教えてくれているような、そんな気が今はしている。