*

[映画鑑賞記]STREET OF FIRE

2016/09/08

お話は非常に簡単で悪者にさらわれたお姫様を、白馬の王子様が救いに行き、無事助け出して、一人去っていくというもの。それ以外潔いくらい何もない。だが、この意図的とも言えるくらいシンプルに削ぎ落とされたストーリーは、一面ではスカスカとも揶揄もされているのは事実。しかし一面では、いかにも80年代といえる名曲揃いの劇伴音楽を生かすためにわざと単純なお話にしたのではないか?とも考えられる。

西部劇の形式を踏襲したロック映画でもあるが、人が一人も死なないという珍しいアクション映画でもある。また1984年度の『キネマ旬報』で、読者による選出でベストワンに選ばれたにも関わらず、一方ではキワモノ映画扱いもされている珍しい映画でもある。理由はたぶんスカスカともとれる内容の薄さと、肝心の楽曲が時代を経て色褪せたためかもしれない。

だが、何と言っても王子様のマイケル・パレと、お姫様のダイアン・レインの全盛期を切り取って残した功績は末代まで讃えらてしかるべきだろう。

諸々の都合で昼間に夜のシーンを撮影するため、セットに光が入らないようにしていたり、いろいろ工夫が施されている。おそらくだが、リマスターしてしまうと、アラが目立つ可能性は十分ある。そのせいか、DVD版でもあまり画質はよろしくない。しかし、この作品に限っては画質はあえて悪い方が逆に味があっていいかもしれない、と私は思っている。

当初ヒロインのエレン役のダイアン・レインは、歌に自信がなく、だから吹き替えになったという俗説が流れていたが、実はダイアン・レイン自身は歌うことには意欲的であったとの説もある。結果的には吹き替えになってしまったわけだが、これはこれで良かった気もする。よくみると口パクがあっていないのだが。

さて、この映画の魅力は何と言ってもその劇中曲に尽きる!というかそれしかない!しかし、初公開時には、この楽曲を堪能できる映画館は地方には皆無だった。

数年前に、シネコンでリバイバル上映された際は、当時満たされない思いを抱きながら鑑賞していたであろう、1984年には若者だった客層がたくさん劇場にきていた。あれだけ年齢層が固定された風景というのはなかなかお目にはかかれないだけに大変印象に残っている。

あの時代のあの楽曲たちが好きな人にはこのサントラ盤はたまらない。しかし、実はよく聞くと劇中で使用されているものと、サントラ盤に収録されているバージョンはアレンジなどに違いがあり、サントラ盤の出来を期待して映画をみたらがっかりするかもしれない。

ちなみに、エレンが劇中で唄っていた「今夜は青春(Tonight Is What It Means to Be Young)」は、「今夜はANGEL」のタイトルで椎名恵によってカバーされ、1985年放映のフジテレビ系大映テレビドラマ『ヤヌスの鏡』の主題歌として日本でも大ヒットした、いわば80年代を代表する曲の一つでもあり、こちらを記憶している方も多いはずである。

確かにストーリーはスカスカだし、お世辞にも素晴らしい映画とはいえないかもしれない。しかし一時代を作り上げた楽曲も、若き日のマイケル・パレとダイアン・レインの輝きなくしては、その光も鈍くなっていたかもしれない。そのくらい鮮烈な彼らの若さをフィルムに収めているこの作品はまぎれもない名作であると私は思っている。

-映画鑑賞記