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万国びっくり映画鑑賞記・片腕ドラゴン

2016/10/18

正徳武館でカンフーの修行を積むティエン・ロン(ジミー・ウォング)は、料理店で対抗する流派である鉄鉤門の門下生に絡まれていた客を助けるため、彼らと乱闘になる。門下生から嘘の報告を受けた鉄鉤門師匠であるチャオは、正徳武館へ殴り込みをかけるが、道場主であるハンは弟子とともに彼らを返り討ちにする。メンツを潰されたチャオはアジア各国から凄腕の格闘家を招き、再度正徳武館を襲う。戦いの最中ティンロンは沖縄空手の達人である二谷太郎から技を受け、右手を切り落とされてしまう。九死に一生を得たティンロンは秘薬により残った左手を岩をも砕く必殺の拳と変え、チャオ一味に復讐の戦いを挑む(あらすじはwikipediaより抜粋・編集)。

一応まじめな解説もしておくと、ジミー・ウォングを「天皇巨星」たらしめたのが本作のヒットで、ジミー先生はかのブルース・リー師父の先輩にあたる。ジャッキー・チェンはジミー先生の映画でカンフーごっこをしていたという。ちなみにジミー先生は勝新太郎版の座頭市、日本のドラゴン・倉田保昭、さらには世界の三船こと三船敏郎とも共演(というか対戦経験)があるアジア唯一のスターなのだ。この世界でのジミー先生はまさにレジェンドなのである。

片腕というギミックは、日本ではあまりなじみはないが、もともと中国の武侠小説に「体の一部を切り落として、代わりに尋常ならざる能力を手に入れる」お話が多いことも、採用された理由にあるだろうし、現実問題アクションではブルース・リー先生を越えられないことを知っていたとされるジミー先生が、ブルース・リー映画にない要素として「片腕」によるアクションを確立したともいわれている(著作権的に「片腕必殺剣」を作っていたショウ・ブラザースともめた、といういきさつもあったみたいだが)。

だが実際は片腕を体の後ろに巻くような形で固定してアクションを行ったため、通常よりずっと手間もかかったらしい。苦肉の策とはいえ、ハンディを背負った主人公が、人間離れした能力で悪を懲らしめる一連のシリーズは香港、台湾、アメリカ、日本とヒットを連発し、ブルース・リーが火をつけたカンフーブームの一翼をになっていたのは間違いない事実。

だが、「天皇巨星」映画の見どころはそんなえらいレジェンドなのにB級色を拒まず、作中に取り込んでいることにある。これが時を経てなお、映画ファンを魅了してやまない一因になっている。

悪のチャオ一味が世界の格闘家を助っ人として呼ぶスタイルはのちの「片腕カンフー対空とぶギロチン」にも受け継がれたが、その破天荒さは本作でも十分堪能できる。主人公の片腕を素手で切断してしまう沖縄空手の使い手、いかにも強そうなのに誰も黒帯がいない柔道家軍団、なぜか攻めるときには逆立ちになり、相手の周りをぐるぐる周り、相手のスキをついて目つぶしをするだけのヨガの達人、そして体中を凶器にかえられるラマ密教の坊さん・・・・

主人公は一度、これらの「万国びっくり人間軍団」に敗北を喫し、片腕を失って道端で倒れていたのだが、「たまたまとおりかかった」親切な親子に命を救われる(この間半年あまりを写真数枚で終わらせているので、ダイジェスト感がはなはだしい)。この親父がまた「たまたま」東洋医学を極めていて、片腕を鋼鉄拳にかえる術を伝授するのだが、いわく「薬の力を使ったほうが早い」とまずドーピングをすすめてくるあたりが、ぶっとんでいる。さらに「鉄のこぶしを会得するには今ある(こぶしの)神経をすべて切断しろ」ととんでもないことをいいはじめ、それに従ったジミー先生は焼け火鉢の中にこぶしを突っ込み、神経をきったあと、変な根っこをつけた酒の中にこぶしをひたす。これで鋼鉄のこぶしの完成である・・・・って修行とかそういうのは???

しかし「薬の力」でパワーアップしたジミー先生は片腕で世話になった親子の家の小屋を一撃で破壊。いきなり超人化したジミー先生はまず因縁の料理店で乱闘。さらには柔道家の道場にのりこんでいくのだが、ここで驚くのはゾンビもかくやという衝撃の「おきあがりこぼし」を披露するシーン。あっという間に柔道家も全滅。さらにはヨガの逆立ちには「必殺の一本指逆立ち」でこれに対抗。しまいには体を風船のようにふくらませたラマ僧2人もあっという間に粉砕。チャオ一味は最終手段として手りゅう弾で爆殺をはかるものの、これを素手でキャッチしたジミー先生はなんとこれを投げ返し、チャオはあわれ逆爆殺。そして最終ステージのつり橋で沖縄空手との一騎打ちに挑む・・・・

両腕があったころと片腕になってからの能力が違いすぎるんで、鋼鉄の拳効果半端ねえ!というか、仇討ちのためなら薬を使うのもいとわない潔いゲスさ加減も「片腕シリーズ」の主人公に共通している。その原点がこの作品だったというわけだ。いや、おそれいりました。

いろいろ調べていたら近年の「キル・ビル」のヒットが原因か?ジミー先生の日本未公開作もDVD化されているらしくこれは予算と相談してぜひ入手したいと思う。いやあ、後味の最悪さも含めて天皇巨星の魅力をこれでもかとあじわえる逸品。ジミー・ウォングの入門編としてはかなりおすすめの映画である。

ちなみにコレクターズボックスには、日本公開当時のパンフの縮小版や、ポスター、日本語版アフレコ台本や、解説書もついてきたので、こっちを買ってよかったと思う。おかげでネットだけでは知りえない情報も得られたし、お買い得でした。なおおまけ映像のオリジナル版予告編をみていたら、この映画が実は3分少々にまとめられる内容だったことを知って、軽くめまいがしたのはここだけの話ということにしておこう。

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