[アニメ感想] 2018年春アニメ完走分感想文 かくりよの宿飯
亡くなった祖父譲りのあやかしを見る力があった葵は、いつものように野良あやかしに餌付けをしながら大学へと向かっていた。
だが途中の鳥居の前で見たことのないあやかしと出会い、かくりよの老舗宿”天神屋”へと連れ攫われてしまう。そこで葵は、祖父の借金のカタに鬼神の大旦那の嫁になる約束が交わされていたことを告げられるのであった……。
(あらすじは公式HPより)
北九州市が協力
最近増えつつある飯テロアニメ。北九州市が協力という形で制作に関わっているせいか、かくりよの地図が九州を鏡写しにした形になっているのが面白い。
基本、異世界グルメ系の作品だが、亡き爺さんが残した借金のかたに、異世界かくりよにかどわかされた女子大生・津場木葵の奮闘を描く人情物語と言っていいかもしれない。葵の祖父・津場木史郎のクズっぷりは、なんとなく北九州の修羅要素があるけど、それだけではない多面性もちゃんと描かれている。
ファンタジー色がありつつ、現世と行き来できたり、食べ物が現世とそんなに変わらなかったりするのだが、祖父から教わった料理の技術と、血筋のなせる業であろうバイタリティを発揮して、かくりよで小料理屋を開いていく葵のたくましさは、なかなか近年の作品ではお目にかかれない。
最初は、人間でありおまけに問題児である津場木史朗の孫娘ということで、妖たちから忌み嫌われる葵だが、その料理の腕前と、史朗譲りのバイタリティで、だんだん天神屋の内外で理解者を増やしていく。なかでも天狗の八葉がひとり、松葉に気に入られて、本来閑職であるはずの小料理屋「ゆうがお」を軌道に乗せていくあたりは、じいさん譲りの逞しさを感じさせる。
だが、天神屋での生活が軌道に乗り始めた頃に、天神屋のライバルである折尾屋にさらわれた葵が敵地で奮闘し、ついには「儀式」と呼ばれる重要任務を任されるに至る。
描写が丁寧なのが特徴
後半では、葵をさらって、借金のかたに嫁にしようとする天神屋の大旦那は、後半では影になり日向になりして、葵のサポートに尽力するあたりも、丁寧に描かれている。単なるグルメアニメだけではなく、またファンタジーでもない。妖たちもキャラクターとして生き生きしている。このあたりの描写が丁寧なのも特徴的。
そして儀式に関わる因縁や、当事者である海坊主の本当の気持ちに、料理で寄り添っていく葵が最終的には…
という感じで最後も非常に綺麗にまとまっていた。和風テイストの世界に洋食要素が多めな気がしないでもないのだが、それはそれとして最後まできちんと向き合って見てみたいと思わせただけでも、素晴らしいと思った。
萌え要素もなければ、エロもない。異能力バトルも魔法もない、一見すると非常に地味ではあるのだが、こうした作品が一つくらいあると、私のような視聴者は安心する。
大風呂敷を広げ回す冒険譚はあまたあれど、「かくりよの宿飯」のような丁寧な描写が売りの作品というのは、ありそうでなかなかない。
地味だけど貴重な作品
だからこそ、地味だなと思いながらも最後まで視聴継続してしまった。飽きがきていたら、多分13話くらいで見るのをやめていたし、実際半年続いた作品でも途中で視聴を諦めた作品も、わたしにはたくさんある。しかし、「かくりよの宿飯」は最後まで見ることができた。それはなぜだろうか?
基本ワンクールでシリーズ完結を狙うならば、ネタは飛び付きやすいキャッチーなものがよいに決まっている。実際、たくさんあるアニメの中から視聴継続するには、そうした掴みが重要なんだけど、「かくりよの宿飯」は、敢えて全26話でじっくり描ききる方向性を選んだ。
北九州市がどこまで製作に関与していたのかはわからないが、市がバックアップする中で、他の異世界モノと異なるアプローチで作られた「かくりよの宿飯」は、地味だけど貴重な作品だったと思う。
全てを見終えた今となっては、最後まできちんと見られて良かったと思っている。実力派のスタッフに支えられて半年を完走したしあわせな作品だったのではないか、と私は思っている。