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[映画鑑賞記] 空の青さを知る人よ

2019/11/02

2019年10月31日鑑賞。

埼玉県・秩父を舞台に描いた「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」の監督・長井龍雪、脚本家・岡田麿里、キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀が再結集し、前2作同様に秩父を舞台にオリジナルストーリーで描いた長編アニメ映画。秩父の町に暮らす高校生の相生あおいは、進路を決める大事な時期なのに受験勉強もせず、東京へ出てバンドをやることを目指して大好きなベースを弾いて毎日を過ごしていた。あおいには唯一の家族である姉のあかねがいるが、2人は13年前に事故で両親を亡くしており、当時高校3年生だったあかねは恋人・金室慎之介との上京を断念して地元で就職し、妹の親代わりを務めてきた。あおいは自分を育てるために多くのことを諦めた姉に対し、負い目を感じていた。そんなある日、町の音楽祭に大物歌手の新渡戸団吉が出演することになり、そのバックミュージシャンとして、あかねと別れたきり音信不通になっていた慎之介が町へ帰ってくる。時を同じくして、まだあかねと別れる前の慎之介が、13年前の過去から時を超えてあおいの前に現れる。吉沢亮が慎之介、吉岡里帆があかね、松平健が新渡戸団吉の声を演じるなど豪華俳優陣が声の出演。

一大イベントになりうる距離感

「あの花」「ここさけ」に続く超平和バスターズの劇場版3作目。封切り前後がバタバタしていて、かつ今後も予定が変わりそうだったため、ほぼねじ込む感じで観に行った。

まず、個人的になんとなくだが、昭和の時代に大林宣彦監督が世に出した「尾道三部作」に近い感じがした。

超平和バスターズの作品が、今後とも同じ場所で作り続けられるかどうかは定かではないが、青春時代特有のみずみずしさを描いたというざっくりしたくくりでいうと、私の中では「近い作品」になる。

ただ、大林作品のように「土地」を想起させるには、「この花」や「ここさけ」は、別に秩父でなくてもできた作品だったのに対して、「空の青さを知る人よ」はおそらく秩父という土地なしでは成立しえない作品ではないか、と思う。

上京というのは田舎もんにとっては、人生の一大イベントになるものだけど、秩父という土地は、例えば九州や山口からすると、関東という括りにすると、東京とさして変わらない感じがする。

だが、秩父という「東京には行こうと思えば行ける距離にありながら、田舎並みに上京が一大イベントになりうる」距離感なくして、この物語は生み出されなかったであろう。

非常に気持ちの良い作品

また、「空の青さを知る人よ」に関しては、前2作と比較してグッと青臭い感じがする。それは恋愛と夢が臆面もなく語られているから、かもしれない。

特に夢の部分に関しては、一大イベントを成し遂げられながら、片方で秩父に未練を残したしんの(慎之助)の描写がとてもユニーク。

設定的なとこを突き詰めていくと、18歳のしんのと、31歳の慎之助が同じ時間軸にいる点で、色々なアクシデントが出てきそうなんだけど、そこは最小限に留めて、アニメでしかできない爽快感を優先的に描いたことで、非常に気持ちの良い作品になったと思う。

いうなれば「あの花」と「ここさけ」のいいとこ取りをして、スカッと終わらせた感じがする。

超平和バスターズの一員である岡田麿里さんの脚本は時に後味の悪い結末になりがちなのだが、「アタリ」の時は実に爽快な終わらせ方をする時がある。

2019年夏アニメだった「荒ぶる季節の乙女どもよ」もそうだったが、「空の青さを知る人よ」も私にとっては「アタリ」だった。

歌詞と物語が絶妙にリンク

そうそう、「空の青さを知る人よ」は、音楽も重要な要素の一つになっている。超平和バスターズは全員1970年台後半生まれで、作中で度々流れてくる「ガンダーラ」がエンディングに使用されていた「西遊記」(1978年)はリアルタイム世代ではない。

にも関わらず、「ガンダーラ」の歌詞と物語が絶妙にリンクしている点も見ていて楽しかった部分である。

もう少し具体的にいうと、東京と秩父の「精神的距離」が、三蔵法師一行の長旅に喩えられた使い方をされていた事で、原曲を知る世代にとっては、より深く「刺さった」と言えるかもしれない。

あいみょんの「空の青さを知る人よ」と「葵」は、映画のために書き下ろされた楽曲だが、「ガンダーラ」の歌詞に込められた意味合いを、効果的に流用している点で、リアルタイム世代の私は「一本とられたな」という気持ちにさせられた。

ちなみに、主要声優陣はオーディションだったそうだが、全員「これしかない!」というくらいのハマり役になっていた。ベテランの松平健さんは言うに及ばず、しんのと慎之助の二役を演じ切った吉沢亮さんの演技には引き込まれてしまうものがあった。

実は事前にレビューを読んでしまったのだが、ほぼ高得点で評価されるのも頷ける出来だった。観に行けて本当に良かったと思える作品だった。

 

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