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[プロレス映画鑑賞記] ババはわるものチャンピオン

2019/02/10

18年9月27日鑑賞。

板橋雅弘、吉田尚令による人気絵本「パパのしごとはわるものです」「パパはわるものチャンピオン」を、プロレスラー棚橋弘至の映画初主演作として実写映画化。かつては人気レスラーとして活躍していた大村孝志は、ケガや世代交代の影響で現在は悪役覆面レスラー・ゴキブリマスクとしてリングで懸命に戦っていた。

孝志と妻の詩織は息子の祥太に大きくなったら父親の仕事を教えてあげると約束していたが、ひょんなことからゴキブリマスクの正体が孝志であることを祥太が知ってしまう。祥太は恥ずかしさとショックからクラスメイトにはパパは人気レスラーだと嘘をついてしまうが、リングで必死にバトルを繰り広げるゴキブリマスクの姿がだんだんとかっこよく思えてきて……。

孝志役を棚橋、詩織役を木村佳乃、祥太役を寺田心が演じるほか、仲里依紗、大泉洋、大谷亮平、寺脇康文が脇を固め、オカダ・カズチカ、内藤哲也ら新日本プロレスの選手も多数出演する。(解説は映画com.より)

大村が棚橋にオーバーラップ

正直、日本で撮られているプロレス題材の作品ってそうたくさんあるわけでもなく、またその中から名作と呼ばれるものは数が限られている。ルチャ・リブレ(メキシコ流プロレス)の本場、メキシコではルチャ映画が当たり前のように存在するけど、ここでは「別物」として扱いたい(あれはあれで実に味わい深いけど)。

私個人がプロレス映画を劇場で見たのは、ミッキー・ローク主演の「レスラー」以来ということになる。プロレス映画というのは、東西問わずほかのスポーツと決定的に異なり、エンターテインメントの部分での光と陰が描かれやすい。「レスラー」もその系統の一作品になるが、物凄く乱暴なカテゴリー分けをすると、「パパはわるものチャンピオン」もこの系譜に属すると私は思う。

しかし、「レスラー」が徹底して主人公ランディの挫折という「陰」に焦点を当て続けたのに対して、「パパはわるものチャンピオン」は、ゴキブリマスクことかつてのエース・大村孝志の、陰にも日向にもそれぞれスポットライトを当てている。さらにこれは故意か偶然かはわからないが、ミッキー・ロークがランディに、大村孝志が棚橋弘至にオーバーラップしているという点では、両作品に奇妙な共通点がある。

旬が過ぎた元エースという点では「レスラー」の主人公ランディも、「パパはわるものチャンピオン」のゴキブリマスクこと大村孝志も、それほど変わらない。しかし、過去の栄光にしがみつこうとするランディに比べ、大村は「現在の自分」で勝負する道を選ぶ点が大きく違う。

そして何より大村役の棚橋弘至が纏う陽のオーラを包み隠さず映画の中で表現していることで、最初は違和感しかなかったゴキブリマスクが最後は格好良くみえてくるのだ。役に寄せるのが俳優の仕事ならば、棚橋は役者ではないから、ゴキブリマスクという架空の選手にはなりきれていないといえるかもしれない。

カッコ悪いはずなのに

しかし、ゴキブリマスクに棚橋のリアルが被さった事で、ゴキブリマスクというどう考えてもカッコ悪いヒールレスラーのはずなのに、生き生きとスクリーンで暴れまわっていたのだ。これは正直予想していなかった点で、棚橋弘至という俳優としては素人の人間を起用した映画スタッフの作戦勝ちといえるだろう。

ちなみに、原作者の板橋雅弘さんはプロレスファンとしても有名で、昔は高田延彦シンパとして知られていた存在。マンガファン的には少年マガジンに連載されていた恋愛マンガ「BOYS BE…」の原作者としても有名なライターさんである。

原作の「パパはわるものチャンピオン」がどの選手をイメージしたのかはわからない。しかし映画を観る限りでは、まるで棚橋ありきで作られたかのような印象さえ受ける。仮に20年くらい前の高田が演じていたとしても、今の棚橋には勝てなかっただろう。それくらい映画の大村孝志と棚橋弘至はシンクロしまくっていたのだ。これは驚異的ですらある。映画スタッフの見る目も確かだったといえるかもしれない。

新日本の創始者であるアントニオ猪木さんは現役時代、リングの中では群を抜いた表現者だった。しかし、ことリングを離れた「役者」というフィールドでは棒読み演技しかできなかった。

プレッシャーと向き合った棚橋

それを考えると、棚橋だけでなく、出演した選手の順応力は驚異的である。特に田口監督の演技が想像以上にうまかったのは芯から驚いた。私は監督のやることだから、「演技の評判がいい」というのも含めて「ネタ」だと思っていたからだ。

現実のリングでは棚橋がヘビーで田口がジュニアという事もあり、そんなに絡みがたくさんあるわけではないのだが、ゴキブリマスクとギンバエマスクが、まるで実際に長年タッグを組んでいたかのような錯覚さえ覚えてしまうくらい、阿吽の呼吸ができていた。さすがは同期だけのことはある。

冗談抜きで助演男優賞をあげたいくらい田口の演技はよかったし、「監督」に引っ張られるように棚橋も味のある演技をしていた。基本ネガティブなことは口にしない棚橋が、ことこの映画のことに関しては「プレッシャーでつぶれそう」という弱音ももらしていたのだが、これは「プロレスラーだから演技が下手でもいい」という「逃げ」に走らず、真摯に大村孝志=ゴキブリマスクと向き合った結果故だろう。ここにも棚橋弘至らしさが垣間見える。

「ババはわるものチャンピオン」という作品は、仮にプロレスを抜きにしても普通に面白い映画だったし、こういう映画がヒットしてWWEのように、プロレスラーのセカンドキャリアが俳優という流れになってもいいかもしれない。

今のところそれをやろうと思ったらアメリカにいくしかないのだけど、日本でそういう流れができたらこれはもうWWEだって安穏とはしていられまい。この映画がゆくゆくは日本で「プロレス映画」というジャンルを築き上げる第一歩になってくれたらこれほどうれしいことはない。

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